「さてみんな、私たちが知る転移魔法の正式名称は知ってるかな? 空間転移魔法……遠く離れた場所にすぐさま行ける便利な魔法だよね。
だから私たちは勘違いした。ここにいるリリィさんもどこか遠くから来ただけの人物だって。
でも大昔、それこそ勇者の伝説があった時代。リナトーという国に大型時空間転移門が存在した。時空間を超越してしまい、入れば戻ってこれないことから、通称『大穴』と呼ばれていたそれは、現代でもまだ再現できていないロストテクノロジーさ。
なにせ空間だけでなく時間まで超越するからね。時間に関係する魔法にはまだまだ謎が多いし、とても高度な技術が必要になる。
まあともかく、そこから魔王軍が湧き出してきたことで、国は一度滅んだ。
そしてその同盟国であり隣国だった勇者一行の出身地を魔族たちが次の標的としたことで、みんなの知る勇者の伝説は始まったわけだけど……最終的に勇者一行の力で大型時空間転移門は破壊された。
じゃあなぜその滅んでしまったリナトー皇国は、一度入れば戻って来られないような危険な転移門を、そのままにしておいたのか……わかるかな?
まず間違いなく、研究し再現するためだったはずさ。
現代の転移魔法ですら、物体や情報、生物を自由自在に運べる便利な魔法。もちろん勇者が活躍した大昔にこの魔法はまだ再現できていなかった。
もし出来ていたなら、勇者の名前だけじゃなくて、その研究者の名前も歴史に刻まれたはずさ。
そして現代に存在する空間転移魔法が、当時再現できていたなら……その国はあらゆる情報や物体の流れを支配することになる。
その利益は途轍もないものになるだろうね。だからこそ、大型時空間転移門の調査と研究は、その国にとって最重要事項だった。
当然、皇族もそれを支援していただろうし、国を主体とする研究だったことは想像に難くない。
けれどそういった調査研究の際に、ただの一度も事故が起きないだなんてことは……まずあり得ない。
つまり彼女は……大昔、リナトー皇国に存在した大型時空間転移門に入ってしまった……古代の人物だ」
なんだかすごいスケールの話をしている気がする。
とりあえずぼくは、過去の時代からきた人物っていう認識らしい。
「ゼレーナ……それは仮説だとして、どれくらいの信憑性があるの?」
「彼女を見た時に出た『異邦人』と、単一種族である人族が、この話と矛盾しない内容になるから……まあまあってとこ?」
ただ……これは好機かもしれない。
少なくとも「全く違う世界からきた謎の人物です。性別も変わってしまいました」と言うより「不慮の事故でこの時代に来てしまった過去の人物です」という方が、はるかに理解を得やすいはず。
この世界の技術に疎いことも、時代の大きな変化によるものとして説明できそうだし……とにかく、ぼくにとって彼女たちの勘違いは渡りに船だ。
そしてさらに幸いなことに、役に立たないと判断された嘘発見器くんは、もう使っていないみたい。
(乗るしかない、このビッグウェーブに……)
「なるほど……まだ種族ごとで国や集落が分かれていた時代だから、単一の人族……」
「時空間転移をしたから異邦人……確かに矛盾はしなさそうだな」
周囲の反応が、『未確認生命体』から『事故に巻き込まれた被害者』を見る目に変わってゆく。
警戒心が薄まって、ぼくに注がれる視線に同情が混ざり始めた。
警戒と同情は相反する感情だ。彼らのぼくに対する印象が変わったこのタイミング、逃すことなどできない。
攻めるなら今!
「あ、あの……! 私はどうなるんでしょうか……?」
とりあえず一人称を変えておこう。この女性の見た目と声で「ぼく」って言うのは違和感がすごい。
「その……さっきからみなさんの言っていることの意味があんまり……」
できる限り弱々しい声で、オドオドした感じを演出しておこうかな。演劇部に熱烈なラブコールをされた実力を見せる時だ。
「……ゼレーナ、ちょっと色々不安にさせるようなこと言い過ぎなんじゃない?」
「私のせいかな? でも彼女が元いた場所がわからない状態なのが気になるね……もしかすると時空間移動の際に記憶になんらかの障害がある可能性も捨てきれないかも」
ゼレーナさんは興味深いという表情を隠さずに思考を続けているけど、ミム大隊長はどこかやりすぎた感を覚えているみたいな表情だ。これはイケる。
「これから私は……ど、どんな目に……」
言いながらぼくは周囲にいる男性のみを順に見てから、視線をミム大隊長に戻す。
これで彼女たちがどんなふうに受け取ってくれるかは……すぐに答えが出た。
「ゼレーナ、これって……」
「うん、彼女のいた時代に女性が捕虜となってどんな目に遭うかは……きっとミムの想像通りのはずだよ……」
そう……ぼくの現状は、そういう行為に怯える女性の姿にしか見えないだろう。
そしてそれを自覚してもらうことで罪悪感を引き出すのが、ぼくの目的だ。
時空間転移門に巻き込まれた、不慮の事故の被害者への同情。加えて捕虜となった女性が乱暴に怯えることへの罪悪感。
このダブルパンチで、一気に場の雰囲気をぼくの方に持ってくる。
これが狙いだった。
何よりこの場で発言回数が多いミムさんとゼレーナさんは、共に女性。その効果はさらに増大するはず。
「……男性戦闘員は、一度退室しなさい」
(計画通り)
ぼくは勝ちを確信した。
空気中に充満していた警戒心がゼロになった瞬間だった。