ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第6話 尋問の終わり

 これだけ情報が限られた中で、ぼくはたぶん最善の結果を手に入れた。

(ふふ……自分の才能が怖い……)

 

 演技とはいえ、ぼくに友好的だったルード隊員のことまで怖がった甲斐があったというものだ。……まあ彼には後で少しフォローするとして。

 

「その……リリィさん? 少なくともこちら側に、あなたに危害を加えるつもりはないわ。怯えさせてしまって、ごめんなさい」

「ミム、結果的に怯えさせてしまったとはいえ……私たちの対応に何か落ち度があったとは思わないよ? むしろこれは必要なプロセスだったと」

 

「ゼレーナ、黙りなさい」

「……了解、大隊長どの」

 

 ミム大隊長はゼレーナさんとのやり取りを終えると、ぼくの方を見つめてくる。

 

「リリィさん……今は状況を飲み込めないと思うけど、とりあえずはここで生きていくことになるわ。アタシたちで最低限のフォローはするつもりだけど……」

「はい……」

 

 どうやら完全に尋問のフェーズは終了したみたいだ。

 今度は敵意なしと判断したあとの話。ぼくが過去に帰れないためどうしようか……みたいな雰囲気を感じる。

 

 さっきの話に出てきた空間転移と時間転移。この世界ではおそらく『どこでもドア』的なものがすでにあるらしいけど、『タイムマシン』はまだ開発されていないらしい。ロストテクノロジーって言ってたし。

 

 だから実際は違うけど、ぼくを過去の人物だと勘違いしている彼女たちにとっては、たぶん打つ手がないんだろう。

 

 過去に帰る手段はない……ぼくだったらどんな反応をするかな。

 いや、たぶんぼくも同じ境遇だ。おそらくだけど、ぼくはもう日本には帰ることができないだろう。

 

 というか、帰る手段が見つかったとして……帰りたいと思うだろうか。

 ぼくは保育士という仕事が好きだし、同僚も良い人だ。決して自分の状況に不満があったわけでもない。

 

 でもぼくの持つ『好き』は、いつも代替可能な消耗品だ。

 いつ捨ててもいい、いつ無くなってもいい。ぼくはおよそ「強烈な執着」というものを抱いたことがない。だから正直、どうでもいい。

 

 好きなゲームがなくなった時も、「まあしょうがないか」で済ませてしまう。好きな料理屋さんが潰れた時も「そういうこともあるか」で終わり。

 

 ぼくの執着のなさは、悪い部分だと理解してるけど……どうにも治りそうにない。

 なにせこんな状況でも「生まれ育った日本に帰りたい」なんて思わないんだから。

 

(そもそも自分の状態もよくわかんないけど……インフルが悪化して死んだからここにいるのか。それとも生きたままここにきて、肉体が再構築されたからインフルが治ったのかも、わかんないし)

 

 とりあえず警戒されていた状況は改善した。周囲の女性はぼくに対して同情と罪悪感を向けている。

 少なくともすぐさま危険人物と判断されて殺されるようなことはない……と思う。

 

「まずは役場に行こうか。私の予想通りなら戸籍もないはずだし、私が連れていくよ」

 ゼレーナさんの言葉に、ミム大隊長が頷いた。

 

 その後、ぼくはゼレーナさんの後ろを歩きつつ、施設内から出ることになった。

 

 一応ルード隊員に話をしようと思ったけど、どうやら小隊ごとに集まって、さっきの戦いの振り返りをしているらしい。

 それを小隊長がミム大隊長に報告して、ようやく戦闘終了になる……んだとか。

 

「リリィさんを連れてきたのもルード隊員だったね……まあ、後でいくらでも話はできるはずさ」

 ゼレーナさんはそう言うと、ぼくを町の方へと連れていった。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 町の様相は、現代日本より進んだ文明を感じさせた。

 走る車は道路の上とはいえ、宙に浮かんでるし。建物は見たことのある形から「これ何屋さん?」と思うような物まで多種多様。

 

(というか車? 転移魔法が普及してるならそんな物いらないはずじゃ……)

 疑問に思って聞いてみると、転移魔法は特定の基準を超えたものにしか使えないらしい。

 

 悪用しようと思えば、人を遥か上空に転移させて落下死させることも簡単だから、使用に関するプロセスは複雑なんだとか。

 そして転移魔法の免許を取得した業者を介することでしか使えない。免許あるんだ、いやそりゃそうだよね。

 

 人々にとって最もポピュラーな転移魔法の使い道は、お引越しや観光の時らしい。家具などはとある魔法のおかげでほぼ手ぶらで引越しできるけど、移動距離が長い場合は転移魔法の許可が降りやすいんだとか。

 あとは各国の要人の移動はもっぱら転移魔法を使う。確かに移動中が一番危険だからね。

 

「ああそうだ。町中で攻撃魔法は使えないから、私から離れないでね?」

 

 話すついでにゼレーナさんが忠告してきた。

 町を覆う結界が市民の安全を守るために二十四時間働いているらしい。攻撃をするための魔力反応を検知して、魔法の術式破棄、術者の捕縛を同時に行う。

 

 人が大勢いる場で、いきなりテロが起こされないようにするための手段なんだろう。

 でもたぶんそれなら、単純に物理的な攻撃はできるはず。

 

「あの……ゼレーナさん……?」

「ん? なんだい?」

 

 そしてぼくはある程度安全だと理解したから、彼女の行動に一つの質問を投げかけた。

「私がもし、ゼレーナさんのことを……その、倒そうとしたらどうするんですか?」

 

 そこがぼくにとって一番気になる部分だった。

 ぼくはついさっき戦場に現れた謎の人物。さっきの問答である程度彼女たちの同情を勝ち取って、無害であるという判断をされた身だ。

 

 とはいえぼくは、彼女たちの立場から見て身元不明な過去の人物。パニックを起こしてゼレーナさんに危害が加わることを、誰も考慮しないのだろうか。

 

 こんなことをさっきの状況で聞けば危険思想かと判断される可能性があったから、ゼレーナさんと二人きりになったタイミングで勢いに任せて聞いてみようと思い至ったわけだ。

 

「君が私を倒す……なんのために?」

「理由はないですけど……私がその立場なら、警戒するに越したことはないと思って。せめて複数人で移動するのかと」

 

 ぼくにとって、この二人きりという状況がわからない。あの場には複数の戦闘員がいたし、ぼくが捕虜としての扱いに怯えていたとしても……これほどまでに警戒度を引き下げる理由こそないはずだ。

 

 ある程度警戒レベルを下げるけど、複数の軍人との行動を余儀なくされると思っていたんだけど……肩透かしを食らった気分だ。

 もちろんぼくとしては警戒されなくて済むなら、気が楽になるし好都合だけど……それにしても自由すぎるというか。

 

「あ〜そっか……私がエルフだから、町の結界に入ることで魔法というアドバンテージを失うとを明かして大丈夫なのか。ってことかな? 君は優しいねぇ」

 

 ゼレーナさんの言葉に裏はないように思えた。というかきっと彼女は歯に絹着せるタイプではない。

 

 あの様子だと、ぼくの危惧はしっかり伝わっているはずだ。

 要するに、「今から魔法の使えない結界に入る。この場にいるのはぼくと彼女の二人だけ。もしぼくがパニックを起こして暴れたら、ゼレーナさん一人でなんとかできるのか」という問いかけだ。

 

 ぼくが二人きりの状況に疑問を抱いていることは伝わったらしい。

「はい」

 

「そうだね。君視点だとその疑問は正しい。ただそれは、私が肉体的な脆弱性を持つエルフだったら……の話さ。ちょっと小難しい話になるけど、いいかな?」

 

 ゼレーナさんは語尾とは裏腹に話したい様子を隠さなかった。ぼくも気になるし、すぐさま頷く。

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