ぼくはヒロインになった   作:タンクトップ桶狭間

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第8話 希望

「その……希望(ホープ)持ちって、どういう意味ですか?」

 なんのことだかさっぱりわからないぼくは、鸚鵡(おうむ)返しに単語の意味を聞く。

 

「そうかそうだね、失念していたよ。仮説とはいえ君は勇者の伝説より前に生まれた人物だ。当時はまだ異能って呼び方だったかな。魔王軍を討ち倒す勇者一行の姿を称賛するための呼び方が希望(ホープ)だからね」

 

 自分の発言に少しの反省を見せつつ、ゼレーナさんは説明を始める。

 

 曰く、この世界に実在した勇者一行。彼ら四人が持っていた異能が、途轍もない力を持っていた。

 凡人では敵わなかった魔族の幹部を次々と倒してゆく姿を見て、人々は異能を希望(ホープ)と呼ぶようになったんだとか。

 

 希望(ホープ)にもさまざまな種類がある。治癒魔法を強化するものや、自身の姿を変えて身体能力を底上げするもの。魔力を物質化するものに、視界に入ったものを任意で凍らせてしまうものまで。

 

 魔力を消費して使うそれらは、魔法技術を優に上回る性能ばかりなんだとか。

 

「そして君も、勇者一行と同じく希望(ホープ)持ちなんだ。私の目に虚偽の情報は映ったことがないからね。だから気になる。君の希望(ホープ)はどんな名称なのかな?」

 

 ワクワクしながら前のめりになるゼレーナさんは、年に似合わず新しい玩具に興奮する子どものように見えた。

 

(ぼくにそんな秘めたる力が……なんか格好いいかも)

 とはいえ、ぼくにそんな心当たりはない。希望(ホープ)という名の異能を、日本で使えていたはずがないし、肉体が変わったことで使えるようになったのかな?

 

 でも希望(ホープ)の名前……全然わからないな。

「すみません……私がそんな力を持っているなんて、心当たりがなくて」

 

「……そうかい? 無理を言ってしまったかな。君には時空間転移による記憶障害があるようだから、きっと思い出せないだけで、すぐに出てくるはずさ。希望(ホープ)持ちは物心ついた時にそれを扱えるらしいからね」

 

 

 

 ぼくの秘めたる力は解放されないまま、役場でのあれこれを済ませた。

 戸籍の登録だ。最初に「魔力形を認証します」とかいって謎の板に手を乗せたとき、受付の人がびっくりしていたのが印象的だった。

 

 あれは個人を特定する技術らしく、いわゆる指紋認証のようなものっぽい。

 でもぼくはこの世界の人じゃない……ゼレーナさんの視点ではこの時代の人じゃないから、データベースに該当者がいなくて、びっくりしたようだった。

 

 そしてその認証結果が、ゼレーナさんが言っていた仮説を裏付けることになった。

 なにせこの魔力形は、生まれた直後に登録される個人情報。それに該当者なしと出たなら、少なくとも記憶喪失の迷子という線は消える。

 

 この世界の進んだテクノロジーが、ぼくが古代人であることへの後押しをした形になった。

 

 そこからちょっと役職持ちっぽい人にバトンタッチしてから、ぼくの戸籍登録はすぐに完了した。結局は名前と魔力形を登録するだけだそうだから、結構あっという間に終わったのが印象に残っている。

 

 

「じゃあ次は、双体(そうたい)検査だね。病院に行こうか」

(双体検査? 身体検査じゃなくて?)

 

 聞いてみると、ゼレーナさんは顎に手を当てて考える様子を見せた。

 

「ふむ……じゃあまた問題。魔力はどこに存在するでしょうか?」

「……心臓、ですか?」

 

 ぼくの答えに、ゼレーナさんは謎に納得した表情をして、

「不正解。だけどこれもまだ君の時代には知られていなかっただけかな」

 と話し、嬉しそうに説明を開始した。

 

(ゼレーナさんがおしゃべり好きで助かった……もし嫌いだったら、すごく迷惑かけてたんだろうな)

 

 人は皆、二つの体を持って生まれてくる。

 

 一つは肉体。血液が巡っていて生命活動を維持するための体。もう一つは精神体。魔力が巡っていて、人の意思や魂を維持するための体。

 

 物質的な肉体と、非物質的な精神体。この二つは常に同じ座標に存在し続けて、肉体の死によってのみ乖離するんだそう。

 

「なんとなくわかりました」

 要するに精神体は霊体みたいな感じってことだ。幽体離脱の幽体というか。たぶん認識はこれで合ってるはず。

 

「今からその二つの体に異常がないか検査してくるわけだけど……ま、そんなに時間もかからないよ」

 

 そうしてぼくは、ゼレーナさんの後ろをついて歩き、今度は病院に向かうことになった。

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