「その……
なんのことだかさっぱりわからないぼくは、
「そうかそうだね、失念していたよ。仮説とはいえ君は勇者の伝説より前に生まれた人物だ。当時はまだ異能って呼び方だったかな。魔王軍を討ち倒す勇者一行の姿を称賛するための呼び方が
自分の発言に少しの反省を見せつつ、ゼレーナさんは説明を始める。
曰く、この世界に実在した勇者一行。彼ら四人が持っていた異能が、途轍もない力を持っていた。
凡人では敵わなかった魔族の幹部を次々と倒してゆく姿を見て、人々は異能を
魔力を消費して使うそれらは、魔法技術を優に上回る性能ばかりなんだとか。
「そして君も、勇者一行と同じく
ワクワクしながら前のめりになるゼレーナさんは、年に似合わず新しい玩具に興奮する子どものように見えた。
(ぼくにそんな秘めたる力が……なんか格好いいかも)
とはいえ、ぼくにそんな心当たりはない。
でも
「すみません……私がそんな力を持っているなんて、心当たりがなくて」
「……そうかい? 無理を言ってしまったかな。君には時空間転移による記憶障害があるようだから、きっと思い出せないだけで、すぐに出てくるはずさ。
ぼくの秘めたる力は解放されないまま、役場でのあれこれを済ませた。
戸籍の登録だ。最初に「魔力形を認証します」とかいって謎の板に手を乗せたとき、受付の人がびっくりしていたのが印象的だった。
あれは個人を特定する技術らしく、いわゆる指紋認証のようなものっぽい。
でもぼくはこの世界の人じゃない……ゼレーナさんの視点ではこの時代の人じゃないから、データベースに該当者がいなくて、びっくりしたようだった。
そしてその認証結果が、ゼレーナさんが言っていた仮説を裏付けることになった。
なにせこの魔力形は、生まれた直後に登録される個人情報。それに該当者なしと出たなら、少なくとも記憶喪失の迷子という線は消える。
この世界の進んだテクノロジーが、ぼくが古代人であることへの後押しをした形になった。
そこからちょっと役職持ちっぽい人にバトンタッチしてから、ぼくの戸籍登録はすぐに完了した。結局は名前と魔力形を登録するだけだそうだから、結構あっという間に終わったのが印象に残っている。
「じゃあ次は、
(双体検査? 身体検査じゃなくて?)
聞いてみると、ゼレーナさんは顎に手を当てて考える様子を見せた。
「ふむ……じゃあまた問題。魔力はどこに存在するでしょうか?」
「……心臓、ですか?」
ぼくの答えに、ゼレーナさんは謎に納得した表情をして、
「不正解。だけどこれもまだ君の時代には知られていなかっただけかな」
と話し、嬉しそうに説明を開始した。
(ゼレーナさんがおしゃべり好きで助かった……もし嫌いだったら、すごく迷惑かけてたんだろうな)
人は皆、二つの体を持って生まれてくる。
一つは肉体。血液が巡っていて生命活動を維持するための体。もう一つは精神体。魔力が巡っていて、人の意思や魂を維持するための体。
物質的な肉体と、非物質的な精神体。この二つは常に同じ座標に存在し続けて、肉体の死によってのみ乖離するんだそう。
「なんとなくわかりました」
要するに精神体は霊体みたいな感じってことだ。幽体離脱の幽体というか。たぶん認識はこれで合ってるはず。
「今からその二つの体に異常がないか検査してくるわけだけど……ま、そんなに時間もかからないよ」
そうしてぼくは、ゼレーナさんの後ろをついて歩き、今度は病院に向かうことになった。