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某所の警察署にて……
「確かにこいつらは最近強盗を繰り返していた賞金首だ。今回も我々への協力感謝するぞコースト殿。報酬はいつもの口座で構わないか?」
「かまわないが……あんた確かヴァルキューレの中でも局長とかいうお偉いさんじゃなかったが?俺の対応するたびに見てる気がするが大丈夫なのか?」
コーストはいつもの如く拘束した賞金首を換金しに来ていた。
いつからか換金の窓口にはいつも公安局局長……尾刃カンナのもとに通されているのだが、以前に彼女の肩書を聞き、なぜこんな場所にいるのか少し気になっていた。
「まあ、連れてくる賞金首が毎度高額賞金首ってのもありますし、派手に暴れまわってるコースト殿の姿はヴァルキューレでも話題になっているので、みんな萎縮してしまってるんですよ。あんな二つ名もついてますし。」
「二つ名に関してはあまり触れないでほしいんだが……。」
コーストが賞金首をいつも宇宙船の機銃掃射やマルチツールの武装その他でぼろ雑巾にしてから持ってくるので、そのあまりのありさまを見た局員はコーストに対しそこそこの恐怖を抱いているのだ。
二つ名にしても不良たちが言い出したのではなくヴァルキューレ内で広まった評判が外に漏れだしたものだとか。
とんだ風評被害である。
「……まあ、報酬がもらえるなら文句はないがな。今後も頼むぞ。」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。それと、世話になっているついでに……最近アビドスへの大規模な侵攻があるといった話を聞きましてね、それも不良集団ではなく、傭兵たちによる襲撃だそうです。」
「……なんだと?」
「別件の捜査中にたまたま聞いた話ですがね、とある組織が大量に金を出し、傭兵を雇っているとのことです。その名も……便利屋68。ゲヘナの指名手配犯たちです。」
「……そうか、覚えておこう。感謝する。」
便利屋68……聞いたことがあるような無いような名である。便利屋を名乗る以上、そいつも誰かから依頼を受けたのかもしれない。
どちらにせよ、アビドスに手を出すなら容赦しない。ただそれだけだ。
「……それではアビドス対策委員会の定例会議を始めます。今日は先生もいるのでより建設的な会議ができると思うのですが……。」
セリカ半泣き事件から数日、アビドス対策委員会は定期的にやっている定例会議を開催している。
ここ最近はヘルメット団の対処が主だったが、今度こそヘルメット団の大半を吹き飛ばしたこともあって借金返済のほうに議題をシフトできそうである。
「は~い☆」
「もちろん。」
「なによ。いつもは不真面目みたいじゃない……。」
「まさにその通りだと思うが?」
「うへぇ~。先生は初めてだけど、よろしくね~。」
「うん。よろしく。」
それぞれが自分の席に座り、会議が始まる。
「では、さっそく議題に入ります。本日は私たちにとって喫緊の課題、私たちの借金をどう返すかについて具体的な方法を議論します。ご意見のある方は挙手をしてください。」
アヤネが借金返済に向けての意見を募る。最初に手を挙げたのはセリカだ。
「はい!はい!」
「はい。一年の黒見さん。お願いします。」
「あの……この名字で呼ぶのやめない?なんかぎこちないんだけど……。」
「せ、セリカちゃん……。でも、これ会議だし。」
アヤネは形から入るタイプらしく会議の時はいつもこんな感じになる。
「ま、偶にはいいんじゃーん。おカタい感じで、珍しく先生もいるんだしさ。」
「先輩がそう言うならいいけど……コホン。みんなもわかってると思うけど、わが校の借金は少しづつ減っているとはいえまだまだ莫大よ!今のペースだと返済に時間がかかりすぎるわ!ここはひとつ大きい山を当てないと!」
「大きい山……?」
アヤネは不思議そうに聞くが、今までのセリカの負の実績を考えると今から何を言い出そうとしてるのかはなんとなく予想がつく。
そして、悪い予想は見事的中した。
「これよこれ!町でこんなチラシを配ってたの!」
そう言ってセリカが見せたのは怪しさ漂うチラシ。
「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石であなたも一攫千金』……セリカちゃん、また?」
「……。」
「この前町で声をかけられて、説明を受けたんだ!運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってて、これを身に着けてると運気が上がるの。それで、このブレスレットを三人に売ると――」
「もういいセリカ……またやられたんだな。」
説明を聞く限りどう考えてもマルチ商法の一種である。
ユメとは別ベクトルで詐欺に引っかかりやすい人間性のセリカは今までも何度か詐欺られている。
失う金がユメと違ってセリカ個人の金に収まっているのであまり強く言えないのがもどかしい部分である。
「え、どうしたのみんな、そんな顔して……。」
何も疑わず笑顔を浮かべて話していたセリカは周りの何とも言えない顔を見回して声を詰まらせる。
「却下~。」
「え~!なんで!」
「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから。」
「へ?」
渾身の金策を切って捨てられたセリカはホシノに食って掛かるがアヤネのその言葉に青ざめる。
「ん、儲かるわけない。」
「そもそも、ゲルマニウムと運気アップって関係ないような気がするんですが……。」
「そんなー!私、二個も買っちゃったんだけど!せ、せっかくお昼抜いてまでためたのに……。」
「セリカちゃん、また騙されちゃったんですね~かわいいです☆お昼は私がご馳走しますから元気出してください!」
バッグからお昼を抜いてまで買ったらしいその二つのブレスレットを取り出したセリカは、手元を見つめてさめざめと泣いた。
「はは……黒見さんからの意見はこの辺で……では、次の意見は……」
「はい!はい!」
早めに議題を切り替えようとしたアヤネの言葉にホシノが反応する。
「えっと、はい……三年の小鳥遊委員長……。ちょっと嫌な予感がしますが……。」
満面の笑みを浮かべるホシノの顔にいやなものを感じつつアヤネはホシノを指名する。
「うむうむ、えっへん!わが校の問題は生徒がここにいる五人だけってことなんだよね~。生徒の数イコール学校の力。
生徒数を増やせれば毎月のお金もそれなりの額になるはず。それに、生徒数が増えればとりあえず議員の選出もできるし、連邦生徒会での発言権も与えられるからね~。」
「そんなことができれば苦労しないが……あてはあるのか?」
ホシノの言っていることは確かにこの学校を立て直していくうえで大事なことではあるが、そもそも生徒がどんどん抜けていった結果が今の人数なのだ。
そんな簡単にここの生徒数を増やせるとは思えない。
「簡単だよ~他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」
「何を言っているんだお前は…。」
何か策があるのかと思いきやまさかの脳筋的発想。
生徒がいないならよそから持ってくればいいじゃない、ということか。
「借金中なのにそんなことして誰かヴァルキューレに拘束でもされたら、信用がた落ちで利息の返済すら危うくなるぞ。」
「そんなのばれなきゃ大丈夫だって~。」
「ん、私もその計画興味ある。対象はミレニアム?トリニティ?ゲヘナ?」
無法者オオカミが作戦に興味を示してしまい目を輝かせている。
「そんな方法での転学が認められるわけないでしょう……それに、他校の風紀委員が黙ってませんよ。」
「うへ~、やっぱりそうだよね~。」
「やっぱりそうだよね~じゃなくて、もっとまじめに会議に取り組んでいただかないと……。」
「いい考えがある。」
アヤネがホシノをたしなめていると無法者オオカミが何か言いだした。
嫌な予感しかしない。
「はい……二年砂狼シロコさん……。」
「ん、銀行を襲うの。」
「はいっ!?何言ってるんですか!?」
「確実かつ簡単。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」
「さっきから一生懸命見ていたのはそれですか!?」
ホシノよりひどいことを言い出した。
しかもシロコが持つその紙にはびっしりと書かれた綿密な銀行強盗計画書が書かれている。
もしヴァルキューレに見つかれば、その紙だけでもしょっ引かれることだろう。
「五分で一億は稼げる。はい、覆面も用意しておいた。」
「いつの間に……。」
「うわー、これ、シロコちゃんの手作り?」
「準備が良すぎる……。」
「これ見てください☆レスラーみたいです!」
「いやー、いいねぇ。人生、一発で決めないと。ねぇ、セリカちゃん?」
「そんなわけないでしょ!却下よ、却下!」
シロコの悪癖にノノミとホシノも便乗してカオスになってきた。
とはいえ、法なんて辞書に載ってるだけで誰も気にしてない宇宙と違って、キヴォトスはだいぶ怪しいが一応法治社会である。
さすがにこのような手法は受け入れられない。
「う~ん、さすがに先生としてもその提案は受け入れられないかな。みんなに犯罪者にはなってほしくないしね。」
「そうですよシロコ先輩!そんなふくれっ面をしてもダメですからね!……はあ、皆さん、もっとまじめに議論をしてくださらないと……。」
混沌とした議論にアヤネのストレスゲージがたまる。
最後に手を上げるのはノノミだ。
「あのー!はい!次は私が!」
「はい……二年の十六夜ノノミさん……。犯罪と詐欺は抜きでお願いします……。」
「はい!犯罪でもマルチ商法でもない方法がありますよ!アイドルです!スクールアイドル!」
「あ、アイドル?」
「はい!アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たちみんなでアイドルとしてデビューすれば……。」
「却下。」
ホシノが間髪入れずノノミの意見を切った。
「なぜだ、ホシノ?正直今までの意見の中では一番ましだと思うが?」
「うへ~、こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない。」
ホシノならかわいいし全然いけるよ!とか言おうとしてた先生はその言葉を聞いて前のめりになりかけた自分の体をもとに戻した。
「え~決めポーズまで考えてきたんですよ……水着少女団のクリスティーナで~す♧」
「なによ!『水着少女団』って!ダッサい!」
「えー、徹夜で考えたのに~。」
ノノミが変なポーズをとってセリカが突っ込みを入れる。
そんな中、最後までまともな意見が出なかった会議に、アヤネの体が震え始める。
「ん?どうしたの、アヤネ?」
「い……。」
「い?」
「いい加減にしてください!!」
ガシャアン!!
ついに切れたアヤネが対策委員会の机をひっくり返した。
「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返し!」
「きゃあ!アヤネちゃんが起こりました!非常事態です!」
「いつもいつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とか、もう少し真面目に議論できないんですか!私たちの学校の進退がかかってるんですよ!」
ほぼ名指しで批判されたセリカとシロコが項垂れる。
「今日という今日は許しませんよ!」
キレ散らかすアヤネの説教は小一時間続いた。
説教を終えたアヤネの機嫌を取るために対策委員会一行は柴関ラーメンにやってきていた。
「いやあ、悪かったってアヤネちゃん。こうしてラーメンも奢ってあげるから、ね?」
「怒ってないです……。」
「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」
「赤ちゃんじゃありませんからっ」
どうやら怒りはまだ収まっていないようだ。
「アヤネちゃんご機嫌斜めみたいだけど何かあったの?」
「あはは……気にしないでくださいユメ先輩。」
「?」
厨房で麺を湯切りするユメが何かあったのか聞いてきたが、自分が詐欺にあったのが原因の一端とは言えずなんとなくごまかした。
ただ、素直に話してたとしても、被害者の会として親身になって話を聞いてくれたかもしれない。
ガララ……
そんなこんなでアビドス組が盛り上がっているとこの辺りでは見慣れない制服を着た少女――ハルカが入店してきた。
「いらっしゃいませ!何名ですか?」
「あ、あのう……ここで一番安いメニューっていくらですか?」
「一番安いのは……580円の柴関ラーメンですね!うちの看板メニューでもあるので、おいしいですよ!」
「あ、ありがとうございます。」
彼女はそう言うと、外に出て店外で待機していた三人の少女を連れて戻ってきた。
「えへへ、やっと見つけた、600円以下のメニュー!」
「フフフ……ほら、何事にも解決策はあるのよ。想定内だわ。」
「そ、そうでしたか。さすが社長、何でもご存じですね……。」
「はあ……。」
四人は何やら話し込んでいるようだが、コーストはその面々に見覚えがあった。
具体的にはカンナにもらった情報の裏取りをした時のことである。
「(あの顔、間違いない……便利屋68、まさかこんなところで遭遇するとは。)」
コーストの想像通り店内に入ってきたのは便利屋68のメンバー――アル、カヨコ、ムツキ、ハルカである。
「四名様ですか?お席にお連れしますね!」
「んーん。どうせいっぱいしか頼まないから大丈夫!」
席に案内しようとしたセリカの言葉をムツキが遮る。
「い、一杯だけ?でも、今は人も少ないですし、どうせなら席でごゆっくりどうぞ。」
「おー、親切な店員さんだね!じゃ、お言葉に甘えて。あ、わがままついでに箸は四膳でお願い、バイトちゃん。」
「箸を四膳……まさか、一杯を四人で分け合うつもり!?」
自分でもしたことのない貧乏ムーブにセリカが驚きの声を上げる。
そして、そのセリカの声にハルカが頭を抱え込んで自罰的に叫んだ。
「ご、ご、ごめんなさい。貧乏ですみません!お金がなくてすみません!!」
「いや、そんなに謝らなくても……。」
「いいえ、お金がないのは首が無いのも同じ、生きる資格なんてないんです、虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下でごめんなさい……。」
「……声が大きいよハルカ。周りに迷惑。」
いつものことなのか、うずくまって謝罪を続けるハルカをカヨコがたしなめる。
「そんなことないわ!お金がないのは罪じゃないのよ!胸を張って!」
「へ!?」
彼女たちの境遇に親近感を覚えたのかセリカは急にそんなことを叫び始めた。
ちなみに、セリカは定期的に引っかかる詐欺をなくせばもう少しましな生活が送れるはずである。
そこら中に詐欺業者が蔓延ってるキヴォトスも十分問題ではあるのだが。
「お金は天下の廻りものってね、そもそもまだ学生だし、それでも小銭を搔き集めて食べに来てくれたんでしょ!? そういうのが大事なんだよっ!すぐに持ってくるから、ちょっと待ってて!」
「え、えっと……。」
「……なんか変な勘違いをされてるみたいだけど?」
「まあ、いつもは私たちもそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね、主に金遣いの荒いアルちゃんのせいだし。」
「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ?ムツキ室長、肩書はちゃんとつけてよ。」
「ん?だってもう仕事は終わったでしょ?それに、社長を名乗るならラーメンの一杯ぐらい社員におごってよ~。」
「ぅぐ……。」
「今日の襲撃任務に投入する人員雇う為に、ほぼ全財産使っちゃったし……」
痛いところを突かれたというようにひきつった笑みを見せるコートを羽織った少女、アル。
便利屋と聞いた時にはもう少し冷酷な感じを想像していたのだが、意外と愉快な集団なのかもしれない。
「ふふふ、でもこうして実際ラーメンは口にできるでしょう?全部想定内よ。」
「それでもいっぱいでしょ……せめて四杯分は残しといてよ……。」
「ねえ、アルちゃん。ぶっちゃけ夕飯代とっておくの、忘れてたんでしょ?」
「……ふふふ。」
アルはごまかすような笑みを浮かべる。ほかの便利屋は呆れた様子を見せた。
「はぁ……ま、実際リスクは減らせた方が良いし、今回のターゲットはヘルメット団みたいな雑魚の手には負えないって点は同意する、でも全財産を叩いて人を雇わなきゃいけない程、アビドスの連中は危険なの?」
「それは……」
便利屋が今回ここまで極貧生活を送っているのはコーストが事前に調べた通りアビドスの襲撃のために金を使ったからである。
ただ、アル自身アビドスの戦力をよく理解していないのと、コーストのうわさによってアビドス襲撃の傭兵料金が割高になっていたこともあって、加減がわからずほぼ全財産を投入してしまっていた。
「多分、アルちゃんもよくわかっていなかったんだと思うよ。だからビビッていっぱい雇ってるんだよ。」
「誰がビビってるですって!?全部私の想定内!あらゆるリソースを投入して依頼を完遂する。それが、便利屋68のモットーなんだから!特に今回の取引相手はかなりの大口よ。失敗は絶対に許されないわ!」
「……そんなモットー初耳だけど。」
「今思いついたに決まってるよー。」
普段から考えていることがわかりやすいのかアルは二人からチクチクと詰められていた。
「うるさい!じゃあ、今回の依頼を達成して報酬が入ったらみんなですき焼きにするわ!だから気合い入れなさい、みんな!」
「す……すき焼きとは、一体……!」
「大人の食べ物だね、それも高価な……。」
「わ、私なんかが食べていいものなんでしょうか……。食べたらハラきりですか……?」
「ふふふ……うちの社員なら、それ位の贅沢はしないとね。」
そう言ってアルは満面の笑みを浮かべる。
「へ~自信満々だね、アルちゃん。」
「だから『アルちゃん』じゃなくてしゃ・ちょ・う!」
便利屋がわいわい言い合っているとラーメンが届いた。
それも見たことがないような特大サイズである。
「お待たせしました!お熱いので、お気を付けてお召し上がりください!」
「ひぇ、なにこれ、特大サイズじゃん!」
「ざっと十人前はあるね……。」
「これはオーダーミスなのでは……こんなの食べれるお金ありませんよぅ。」
凄まじいサイズの柴関ラーメンを目の前にして、ハルカは食欲をそそられるも金額を考えて体が震えている。
「いえ、間違いありませんよ!ご注文通りの580円の柴関ラーメン並!ですよね!」
そう言ってセリカが厨房に顔を向けると大将とユメがそろってサムズアップをしている。
「ああ、ちょいと手が滑って量が増えちまったんだ。捨てるのももったいないから、良ければ食べてくんないかい?」
「そうなんですよ!まだ働き始めて日が浅いのでトッピングの量を間違えてしまったんです!気にしないで食べちゃってください!」
「この店の二人もそう言ってますから、ささ、遠慮なく食べてください!それでは、ごゆっくりどうぞ~!」
そう言ってセリカはウェイターに戻っていった。
机に残されたメガ盛りラーメンを見てハルカは目を輝かせている。
「う、うわあ……!!」
「よくわかんないけどラッキー!いっただきまーす!」
「……ふふふ、さすがにこれは想定外だったけれど、厚意に応えて、有難く頂かないとね。」
「食べよっ!」
突然の幸運に驚きながらもラーメンを食べ始めた便利屋たちはその味に目を輝かせた。
「お、おいしい……!」
「なかなかイケるじゃん!」
「でしょうでしょう、美味しいでしょう?」
ノノミが横からスッと出てくる。
「あれ、あなたは隣の席の……」
「ここのラーメンは本当においしいんですよ!遠くから食べにくるお客さんもいるくらいなんです!」
「ええ、わかるわ。いろんな場所でいろんなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンにはなかなかお目にかかれないもの。」
「えへへ、私たち、ここの常連なんです。ほかの学校の方にも食べていただけるなんて、なんだかうれしくなっちゃいますね。」
便利屋の席にアビドスが集まり、いつの間にか交流会のようになっていた。
「その制服、ゲヘナ?ずいぶん遠くから来たんだね。」
「私、こういう光景を見た事があります、一杯のラーメン、でしたっけ……」
「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」
「………」
カヨコは話しかけてきた彼女たちの制服を見やる。ついでに先ほどのここの常連という言葉。
ムツキも同じタイミングでその事実に気づいた。
「うふふふっ、良いわ、こんな所で気の合う人達に会えるなんて、これは想定外だけれど、こういう予測できない出来事こそ、人生の醍醐味じゃないかしら!」
微塵も気づかない自らの社長の姿を見て、二人は呆れたような眼をして見つめ合う。
「(どうする?伝えるべき?)」
「(ん~、面白そうだし、放っておこ。)」
「(……)」
これから襲撃を駆ける対象と楽しそうに歓談するアルを見て、カヨコは深いため息をついた。
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「それじゃあ、気を付けてね~!」
「お仕事うまくいきますように!」
「あははっ、了解! あなた達も学校の復興、頑張ってね! 私も応援しているから! それじゃあ!」
ラーメンを食べ終えたアビドス組と便利屋はその後も歓談を続け、店の前で別れた。
「先生、少し用事を思い出した。後で合流するから、先に高校に戻っておいてくれ。」
「わかったよ、じゃあ、学校で待ってるから。」
先生にそれだけ伝え、コーストは便利屋のもとへと向かった。
そして、コーストは気づいていないが、その後ろをもう一人が追跡していた。
「ふう……良い人達だったわね」
「………」
「………」
一人、まだ何も知らないアルは満足げな表情を浮かべていた
「社長。……あの子たちの制服、気づいた?」
「え?制服?なにが?」
「アビドスだよ、あいつら!」
ムツキがからかうように告げたその真実にようやくアルは状況が正確に把握できた。
つまり、今まで自分が楽しげに話した相手は自分たちの襲撃相手であり、学校の復興を支援するとか言っておきながら、まさに自分たちの手で復興の芽を摘もうとしているのだということを。
「なななな、な、何ですってーーーーー!!??」
「あははは、その反応ウケる~。」
「はあ、本当に気付いてなかったのか……。」
「……えっ、そ、それって私達のターゲットって事ですよね? わ、私が始末してきましょうか!?」
「あははは、遅い、遅い、どうせもうちょっとしたら攻撃を仕掛けるんだし、その時暴れよっ、ハルカちゃん。」
アルの反応を楽しむ便利屋メンバーを尻目に、アルは衝撃の事実に打ちひしがれている。
「う、嘘でしょ……あの子たちがアビドスだなんて……う、うぅ、何という運命の悪戯……!?」
「何してんのアルちゃん、仕事するよ?」
「バイトのみんなが、命令が下るのを待ってる。」
「本当に……? 私、今から……あの子達を……?」
「あははは、心優しいアルちゃんに、この状況はちょっとキツいね~」
「『情け無用、お金さえ貰えれば何でもやります』がウチのモットーでしょう? 今更何を悩んでいるの」
「そ、そうだけれど……」
根はやさしいアルがその言葉に心が揺さぶられる。今回の依頼は便利屋が請け負った案件の中でもかなり重要なものであり、そう簡単に降りれるものではない。
しかし、今そこで仲良く話し合った子たちの学校を襲撃するというのは……。
「こ、このままじゃ駄目よ、アル!一企業の長としてこのままでは!」
「いくわよ!バイトを集め――」
「便利屋68だな?」
背後から急に聞こえた声に便利屋メンバーは反射的に離れる。
そこにいたのは今しがた話したアビドスのメンバーの中にいた二人の大人のうちの一人である。
「どうやって近づいてきたのかは置いておくとして、知ってたんだね、私たちのこと。」
「ああ、便利屋68、ゲヘナで指名手配を受けている集団らしいな。まあ、今俺にとって重要な情報はお前らがアビドスに対し襲撃を仕掛けようとしていることだ。」
「……どうするの社長。こちらの行動、筒抜けみたいだけど。」
「ふ、ふん。もし仮にそうだとしたら、あなたはどうするつもりなのかしら?」
襲撃がばれていたことに内心かなり焦りつつもギリギリで表情には出さないようにアルが答える。
「そんなに焦ることはない。この情報を知っているのは俺だけだ。お前らが襲撃を取りやめると言ってくれれば、それで終わりの話だ。」
「だ、だれが焦っているですって!?……こ、今回の依頼は私たちにとっても重要なものなの。そう簡単にやめることなんてできないわ。」
「そうか、なら……物理的に襲撃ができない体にするしかないな。」
そう言ってコーストはマルチツール〈パルス インジェクター〉の銃口を向ける
便利屋も戦闘が避けられないことを察し、各々の武器を構えた。
subnauticaです
便利屋までが思ったより長くて一万字近くいってしまった……。
次回便利屋vsコースト
初のまともな戦闘描写にするつもりです。
うまくいくかは正直未知数ですが、自分なりに頑張ってみます。
では、また次回お会いしましょう。