14 戦利品の使い道
マーケットガードの包囲網を脱したコーストたち一行はブラックマーケット郊外を走っていた。
「ふ~、そろそろこれ外していいかしら。覆面って結構息苦しいわね。」
「そうだねえー、ここまで来たら覆面を外して徒歩に切り替えたほうがいいかもね。正直この車目立つし……。」
メカニカルレッグをガシャガシャ言わしながら進むコロッサスはキヴォトスのどこに行っても目立つだろう。
「ああ、目立つのがあれというなら、安心しろ。」
そう言うとコーストはその場にコロッサス・ジオベイ――コロッサスの改造ステーション――を呼び出し、その場でコロッサスを見た目普通の多輪トラックに変更した。
「え、乗り物の見た目と構造が一瞬で……。」
「まあ、ヒフミちゃん。あまり気にしてると頭が痛くなってくるから。ささ、早く乗り込んで。」
「ところでシロコ、もう覆面は外していいぞ?」
「シロコちゃん、天職みたいなものを感じちゃって、外したくないんじゃない?」
「シロコ先輩はアビドスに来て正解だったと思うわ……。よその学校だったらもっととんでもない事しでかしてたかも……。」
「そ、そうかな。」
覆面を外しつつ、シロコは照れ臭そうに言う。
セリカはとんでもない事というが、今回やったこともだいぶ極まった”とんでもない事”である。
「///」
ちなみに部室でずっと覆面をつけていたアヤネも顔を赤くして覆面を外していた。
「皆さん。ブラックマーケットを抜けましたよ!」
そのままコロッサスを走らせること数分、完全にブラックマーケットを脱し、初めての銀行強盗は完全勝利という形となった。
「やったー!大成功!」
「まさか本当に成功するなんて……。」
「シロコちゃん、集金記録はちゃんと持ってるよね?」
「う、うん。バッグの中に……。」
若干挙動不審なシロコの姿に疑問を持ちつつバッグを覗くと、札束に埋もれた集金記録書類が目に入った。
「へ……なんじゃこりゃ!シロコちゃん、お金も取ってきちゃったの!?」
「シロコ先輩!?」
「ち、違う、これは窓口の人が勝手に……。」
シロコが必死に否定する。
今回はシロコは悪くないのだが、普段の行いから少し疑うような目を向けられている。
「うへ~、この札束の数を見るに、本当に五分で一億稼いじゃったね。」
「やったー!何してんのみんな!早く持ち帰るわよ!」
「……。」
セリカが嬉しそうにそう言う。
正直コーストのテンションも似たようなものだったが、周りの空気を見ていったん黙っておくことにした。
「セリカ、このお金を使うのは先生、ちょっと同意しかねるかな。」
「え、何で先生!これを使えば借金返済がかなり進むのよ!」
『せ、セリカちゃん!そんなことしたら本当に犯罪になっちゃいますよ!』
「だ、だから何よ!そもそもこれは私たちが必死になって稼いだお金で、それがあの闇銀行に流れていたんだよ!私たちが使って何が悪いのよ!」
先生の言葉に、セリカが反発する。途方もない借金を大幅に切り崩せる大金が目の前にあるというのに使わないというのは、彼女にとっては受け入れられないのだろう。
「んー、おじさんは反対かな~。」
「な、何でよ!」
「今回は悪人の犯罪資金だからいいとして、この次はどうするの?こういうお金を使うと、それに慣れちゃって次からも平気で同じことをするようになっちゃうんだよ。コーストさんもそう思うでしょ?」
「別に俺は賊から奪った金をどうしようと勝手「コーストさん?」……だめじゃないかセリカ。まっとうじゃない金を使うと、いつか身を滅ぼすことになるぞ。」
聞かれたので自らの意見を述べたコーストだったが、ホシノに一瞬で握りつぶされた。
「コーストさんホシノ先輩に弱すぎるわよ!」
「……とにかく、こんな方法に慣れたら、仕方ないなんて言いながら、本当にいけないことに手を出しちゃうことになるよ。おじさんとしては、カワイイ後輩がそんなことになっちゃうのは嫌だなー。今私たちが必要なのはあくまで書類だけ、そうでしょ、セリカちゃん?」
「うぐ……。」
ホシノがセリカに諭すように言う。
「うわああ!何なのよ!こんな大金を置いていく!?変なところで真面目なんだから!」
「セリカ、ここはホシノ先輩の言うことが正しい。人から奪ったお金でアビドスを立て直しても、多分みんなは納得できない。そうでしょ?」
「うう……わかったわよ。」
セリカは納得しきれない表情でバッグを手放した。
「では、このバッグは私が処分しておきますね☆」
「うへー、頼んだよノノミちゃん。」
そんな会話をしていると、アヤネから通信が入った。
『皆さん、何者かがそちらに接近しています!』
「……!追手のマーケットガード?」
「いや、敵意があるのであればこっちの索敵にも反応があるはずだ。何者だ?」
『少し調べますね……ってあれは、便利屋のアルさん!?』
その言葉に再び覆面を被り直ししばし待っていると、全力疾走したのか息が切れ気味のアルが走ってきた。
こちらを見て何故か目を輝かせている。
「(……あいつら、わざわざこんなところまで何の用だ?)」
「(……さあ、わからないけど、とりあえず向こうの話を聞いてみようよ。)」
「はあ、ふう……ま、待って!!」
「……!!」
アルの姿をとらえたシロコは警戒心を滲ませる。
「ま、待って頂戴!私たちは敵じゃないわ!あ、あのー大したことじゃないんだけど……」
アルが何やら語り始めた。
「(あの、お知り合いの方ですか?)」
「(まあ、一応ね~。)」
ヒフミの疑問にホシノが答える。
コーストたちがどう対応したものかと顔を見合わせていると、アルの語りが終わった。
「……本当の意味での自由の魂!私もそんなアウトローになりたいから!……そ、その、だから、名前を教えてくれないかしら!」
全員が頭の上に?マークを浮かべていると覆面グリーン――ノノミが楽しげに前に出てきた。
「おっしゃることは良ーく分かりました!ならば、教えてあげましょう!私たちは人呼んで……覆面水着海賊団!!」
「覆面水着海賊団!?ヤバい!超クール!カッコいいわ!!」
キラキラしているアルを見てセリカはマジかこいつ……といったような表情を浮かべる。
「普段は水着に覆面が清掃なんだけど、今回は緊急だったから覆面だけなんだ~。」
「そうです!普段はアイドルとして活動していて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗になるんです☆そして私は、クリスティーナだお♧」
「キャ、キャラも立ってる……!素晴らしいわ!」
「(何が夜になると正義の怪盗になる、よ!今もまだ昼じゃないの!)」
「(クリスティーナの設定はいつまで引っ張るつもりなんだ?)」
ホシノとノノミが色々つけ足した設定にセリカとコーストは心の中で所感を述べた。
「うへ、目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を往く。――これが私らのモットーだよ!」
「わあああああ!」
アルはヒーローもののショーで決め台詞を目にした子供のように目を輝かせている。
ホシノとノノミ以外はその世界についていけず、遠巻きにそれを眺めていた。
「……何してるの、あの子たち。」
「アルちゃん、なんかドはまりしちゃってるね~。特撮物のイベントに来た子供みたいじゃん!」
カヨコとムツキも遠巻きにその姿を眺めていた。その姿はさながらイベントに盛り上がる子供を見守る親のようである。
「……あまり長居するのもよくない。そろそろここを離れるぞ。」
「あ、そうですね!それではこの辺で。アディオス~☆」
「行こう!夕日に向かって!」
そう言って、まだ高く上る日に向かって全員を乗せたコロッサスは走り出した。
「……我が道の如く魔境を往く。その言葉、しかとこの心に刻んだわ!私も頑張る!」
コーストたちが立ち去った道路で一人そうつぶやくアルは、満足げな笑みを浮かべていた。
「あ、あの、さっきの人たちが置いていったこのバッグどうしましょう?」
「まさか、あの方たちが私のために?」
「いや、ただの忘れ物だと思うけど……ってこれは!」
「ひょええ~!」
驚きの声で叫ぶ便利屋の足元には推定一億円の札束が入ったバッグが放置されていた。
「あ、現金が入ったバッグ、おいてきちゃいました。」
「おい、ノノミ!?集金記録はちゃんと回収したんだろうな!」
「ん、それは大丈夫。私が持ってる。」
「まあ、いいんじゃない?どちらにせよ処分する予定のものだったんだし、誰かが拾ってくれるでしょ。気にしない気にしない。」
アビドスに戻るコロッサスの中で、そんな会話が繰り広げられていたという。
便利屋68オフィス――
「えええ!覆面水着海賊団がアビドスの人たちですってー!?」
「あはははー!!アルちゃんすごいショックウケてる!超受ける!」
「じゃ、じゃああのカッコいい青い覆面と黒いヘルメットの人も……」
「……そうだよ。というか、ヘルメットの人に関してはあのコーストって人じゃないの。アビドスと行動を共にしていてあんなアーマー着てるのはあの人しかいないでしょう。」
「そ、そんなー!!」
便利屋は通常営業だった。
銀行強盗を終えたコーストたちは集金記録とトリニティの生徒一名を戦利品としてアビドスに持ち帰ることに成功した。
もしかしたらこのままヒフミを人質にしたらあのバッグの中身より大金が手に入るのかもしれない。
それはさておき、部室に戻ったコーストたちは集金記録から得られた情報の話し合いを始めた。
「さて、集金記録に関してだが、とりあえずカイザーが黒ってのは確定だな。」
コーストが部室の机に広げた集金記録書には、アビドスから返済金を徴収した後、ヘルメット団に回収した返済金の一部を横流しした旨の記載がされている。
「信じたくはありませんでしたが、便利屋の方々の証言は本当だったわけですね……。」
「目を背けていただけとも言えるがな……。だがしかし、こちらに大金を貸しておきながら、アビドスを潰そうとする理由がわからない……あいつらに何のメリットがあるというんだ?」
「いくら闇銀行といってもこれは、一介の銀行がやることじゃない。たぶん、本社のカイザーコーポレーションの息がかかってる。」
「……私としても、そう見るのが妥当だと思います。」
ヒフミを交え議論を交わしたが、状況が最悪に近いという結論以外は特に出てくることはなかった。
「……皆さん今日はいろいろとありがとうございました。」
「気にするな。どちらかというとこっちのほうが世話になったしな。」
「うんうん、そうだよー。あ、また今度、キミのところにも遊びに行きたいから、その時はよろしく~。」
「はいっ、もちろんです!……まだ詳しいことはわかりませんが、この件はカイザーコーポレーションが裏社会と何らかのつながりがあるという証拠になります。私は帰ったらこの件をティーパーティーに報告しようと思います!それに、アビドスの方々の現状についても……。」
ヒフミは心配げな様子でそう言ってくれた。
合って間もないアビドスのためにここまで心を砕いてくれるこの子はとてもいい子なのだろう。
「まー、ティーパーティーは大体知ってると思うけどねー。」
「えっ?」
「あれだけの規模の学園だよ?情報網もしっかりしてるだろうさ。みんな遊んでばっかりでもないだろうしね。」
「では、この状況を知っているのに、こんな……。」
「ヒフミちゃんは純真でいいこだね~。まあ、向こうからすれば吹いて消えそうな無関係の多学区の話だし。世の中そんな上手くいかないよ。それに、トリニティみたいなマンモス校がうちに介入してきたら、アビドスみたいな零細校じゃ、その力をコントロールできないんだよ。ヒフミちゃんならこの意味、分かるよね?」
「”援助”の名目で悪さをしてきても、防ぎようがないってことですよね……。」
全校生五人のアビドスに対し、トリニティは数ある学園の中でもトップクラスのマンモス校。
力量差で言えばそれこそ蟻とマンモスぐらいの開きはある。
ゆえにアビドスが自治を貫くために必要なのはよそに援助を求めることではなく、目を付けられないようなるべく目立たないようにすることなのである。
とはいえ、それもコーストが暴れまわっていることで崩れつつあるのだが……。
「ホシノ先輩、悲観的に考えすぎでは……本当に助けてくれるかもしれないじゃないですか。」
「私は他人の好意を素直に受けられない汚れた心のおじさんになっちゃってね~。……それに、”万が一”ってのをスルーしてきた結果が、今のアビドスだからね。」
アビドス最年長であるホシノのその言葉に、だれも何も言えなくなる。
死んだような空気の中、場を和ませるようにヒフミが口を開いた。
「……い、一日でいろんなことがありましたね!」
「ん、とても楽しかった。」
「楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」
「まあ、アビドスに入ってきたときからずっと銀行強盗銀行強盗連呼してたからな……。」
「シロコ、最初からそんな感じだったんだね……。」
「あはは……私も楽しかったですよ。トリニティじゃないような刺激的なことばかりでしたし。」
「ファウストちゃんには本当にお世話になったねー。」
「その呼び名はやめてください!」
完全に強盗団のリーダーにされてしまっているヒフミは首と手を振って必死に否定した。だが、実際強盗団の一員として銀行に乗り込んだ事実は消えない。
「とにかく、これからも大変だとは思いますが、頑張ってくださいね。応援しています!」
ヒフミはそう言って手を振りながらアビドスを去っていった。
「皆さん、お疲れさまでした。今日はもうゆっくり休んで、明日また集まりましょう。」
アヤネの提案で、今日は解散することになった。
今までにないほど濃い一日だったが、得られたものも大きかった一日であった。
subnauticaです
先生の出番が少なすぎるな。
もうちょい喋らせんと存在を忘れそうになる……。
ちなみにアビドスの倫理観がコースト並だった場合、キヴォトスから闇銀行が消えるまで銀行強盗を続けます。賊の金は俺の金だからね。
次回は風紀委員と接触ぐらいまで行けるといいかなと思っています。
では、また次回お会いしましょう。