15 逆鱗
ブラックマーケット関連のごたごたが片付いた翌日、先生が対策委員会の部室を訪れるとコースト、ホシノ、ノノミが集まっていた。
「先生、おはようございます!今日は早いですね?」
「うへ~先生おはよー。」
「お、もう来たのか。先生もこれ食べるか?」
そう言ってコーストが差し出してきたのは何やら白いソースのかかったドーナツ。
ノノミはソファの上で、ホシノはノノミの膝の上で寝ころびながら食べている。
「おお~ドーナツ。どこで買ってきたんだい?」
「ん?ああいやこれは買って来たんじゃなく自分で作ったものだ。」
「へー、もしかしてお菓子作りの趣味があったり?」
「別に趣味って程でもないが、友人へのプレゼント用に作ることはそれなりにあるな。」
先生から見たコーストは戦闘狂といった印象が強いので、そんな彼がドーナツを作ったというのは少し意外に映ったのだろう。
「ところでこれは何味なの?ホワイトチョコとか?」
「いや、これはアノマラスドーナツといってな、ヘクサベリーという名のベリーから作ったソースをかけたものだな。」
「へえ、そんな果物聞いたことないけどな~。」
「ま、まあ珍しい果物だからな。うん……。」
別の星で取ってきたものだということを話そうかと思ったが、よくよく考えたらまだ先生に自分が宇宙から来た存在であることを話していないことを思い出した。
さすがにここまで世話になってるんだから、近いうちに話してもいいだろう。
「あむ……おお、不思議な味だけど、すごくおいしい!」
「そうですよね☆この優しい感じの上品な甘さというか……今まで食べてきたドーナツの中でもトップクラスに美味しいですよ!」
「お嬢様のノノミちゃんが言うなら間違いないよね~。」
ちなみに彼女たちは知らないが、このアノマラスドーナツは銀河市場において非常に高級品であり、十個もあればランクの低い宇宙船なら買えるぐらいの価値がある。
美味しいのも当たり前といえば当たり前だ。
「そういえば、ほかのみんなはどうしたの?」
「こうやってのんびりできるのも久しぶりですし、みんなゆっくりしてるんじゃないですかね~。シロコちゃんなんかはトレーニングかサイクリングでしょうし、アヤネちゃんとセリカちゃんは図書館でしたかね。」
「三人は何してたの?」
「俺は朝からこのドーナツを作ってたが。」
「私は部屋の整理整頓とかですかね。」
「私はダラーとしてたよ~。」
「ホシノ先輩も何か始めてみてはいかがですか?シロコちゃんみたくトレーニングとか。」
「うへ~おじさんももう年だからね。新しく何かを始める気にはなれないんだよ。」
「ホシノ、あまりそういうことを本当のおじさんの前で言わないでくれないかい。傷つくから。」
「……なんかごめんね、先生。」
先生が不意打ちを食らって項垂れていると、ホシノが立ち上がった。
「ん~それじゃ今日はおじさんオフだから。その辺で適当にさぼってるから、何かあったら連絡ちょーだい。ノノミちゃん、コーストさん、先生。ばいばい~。」
それだけ言ってホシノは部室から出て行った。
「ホシノ先輩、またお昼寝ですかね~。」
「まあ、そんなところだろう。」
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「これはこれは、よくお越しくださいました暁のホル……いえ、失礼。ホシノさん。」
「今更何の用、黒服の人。」
ホシノは警戒心を滲ませてその人物――黒服を睨む。
「ふふ……この度再度、キヴォトス最高の神秘を持つホシノさんに提案をしたいと思いましてね。」
「それこそ今更だよ。アビドスの状況は以前と比べてかなり良くなった。借金だってあなたの手なんか借りなくても返す手立てができた。もう、私からあなたに用なんてないよ。」
「クックック……提案の前から振られてしまうとは、悲しいですねホシノさん。……とはいえ、確かに今のあなたを見る限り、何を言っても私との取引に応じる気はなさそうですね。」
「当り前だ!」
「まあ、落ち着いてください。今日は顔合わせのようなものです。私はいつでも、取引に応じる用意があるというね。それに、近いうちにあのコーストさんという方にも顔を合わせようと――」
バン!
ホシノのショットガンが黒服のすぐ横を貫いた。
「……コーストさんに手を出すのは、私が許さないよ。」
「クックック……それは残念。まあ、気が変わればいつでも連絡してくださいね、ホシノさん。ククッ、クックック……。」
黒服はそれだけ言って応接室を去っていった。
場所は変わり柴関ラーメン――
「ひ、一人につきラーメン一杯、こんな贅沢をしてもいいのでしょうか……。」
「おう!アビドスんとこのお友達だろ?替え玉が欲しけりゃ言いな。」
便利屋は再び柴関ラーメンを訪れていた。
偶然拾った一億円現金バッグで余裕ができたためである。
「こんなにいい店なのに客が全然いない……」
「場所が悪いんじゃない?ま、空いてて入りやすいからいいけど、じゃあいただきま――」
「大将やってるか?」
便利屋がいざラーメンを食べようとしたその時、コーストと先生が店に入ってきた。
「こ、コーストさんと先生!?」
「ん?便利屋か。なんでまたアビドスに……。また何かやらかそうってんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことないわよ!今日はただラーメンを食べに来ただけ!」
「ならいいが……。」
ゲヘナ所属のはずの彼女たちがまたアビドスに来ていることに不信感を覚えるが、さすがにまたアビドスを襲うことはないだろうと思い、とりあえずラーメンを注文する。
「もしかして便利屋のみんなもここのお店、気に入ってくれたのかな?」
「そうだねー。安くておいしいし、誉め言葉としてはちょっとあれだけど人が少なくて入りやすいからね。」
「う~ん、大将のラーメンは本当においしいんですけど、やっぱりアクセスが悪いんですかねえ。」
柴関ラーメンの人入りについて話していると厨房でメンマを切っていたユメが出てきた。
「ユメ、ここの仕事はどうだ、ちゃんと楽しめてるか?」
「もちろんですよお!常連さんの方と話をするのも楽しいですし、何より自分の作ったラーメンで笑ってくれる人がいるっていうのはいい事ですね!」
「ははは!そこまで言ってくれるなんてな!こりゃ、俺にはもったいないぐらいの従業員だな!」
「そんなことないですよ~。」
ユメはとても楽しそうにしている。事務仕事が壊滅的だった彼女にとってはこういった仕事は天職なのだろう。
ユメのぽわぽわした雰囲気にあてられていると、急にアルが机をたたいて立ち上がった。
「わかったわ!原因はこのお店よ!!」
「わあ!急にどうしたのアルちゃん!」
「私が目指しているのはクールでハードボイルドな便利屋なの!なのにこのお店ときたら、お腹いっぱい食べられるし、店員さんもあったかくて親切で、和気あいあいしてて、ほんわかしてて、ここにいるとみんなと仲良くなっちゃう感じがするのよ。」
「……それの何が悪いの、社長?」
「悪いわよ!私が一人前の悪党になるためにはこんな店は必要ないわ!」
アルが何やら変なことを言い出した。
ブラックマーケットの時もそうだが彼女はアウトローという存在に対しどこかずれた憧れを持っているようである。
「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですか?アル様……。」
「いや別にそこまでは……っては、ハルカ!?」
「へへ……これでやっと私もアル様の役に立てる!」
「待ってハルカ!!」
ハルカがどこからか取り出したスイッチを押そうとしたとき、
パン!
コーストのマルチツールがスイッチをハルカの手から弾き飛ばした。
「おい便利屋……問題を起こさないはずじゃなかったか?」
「ご、ごめんなさい!ほ、ほらハルカも謝って!」
「あう……す、すみません……。」
このとき、コーストはふいに訪れた危機を脱したことで完全に油断してしまっていた。
〈飛翔物体が接近中//着弾まで2.5秒〉
「なに、飛翔物体?いったい何が――」
その瞬間、轟音とともに柴関ラーメンの家屋が吹き飛んだ。
シールドダウン//システムが重大な危機に陥っています
アビドス高校――
「前方、半径10㎞以内にて爆発を検知。近いです!それも爆心地は……し、柴関ラーメン!?」
「はあ!なんであの店が爆破されなきゃならないのよ!」
「それに、柴関ラーメンといえば、さっき先生とコーストさんが食べに行くって言ってた。もしかしたら危ない状況かもしれない!」
「急いで向かいますよ皆さん!」
柴関ラーメンにいたであろう全員の無事を願って、対策委員会は走り出した。
同時刻市街地――
「着弾確認!」
「よし、歩兵、第二小隊まで突入。」
「イオリ、民間人の店まで巻き込んでしまっているようですが、大丈夫ですか?」
「規則違反者捕縛のためだ。構わん。」
アビドスに招かれざる客が迫っていた。
「けほけほ……い、一体何があったの?」
「ああ~店が吹き飛んじゃってるよ。」
「……!そうだ、先生たちは!あの人たちはヘイローがないからもしかしたら危ないかもしれない!」
「わ、私は大丈夫だよ……。」
瓦礫を退けて出てきたのは先生。シッテムの箱の自動防御によってダメージは最小限に抑えられていた。
「先生!よく無事だったわね。」
「私のことはいいから、コーストさんと大将とユメちゃんを――」
「……俺は大丈夫だ。」
先生の後ろから少し傷を負ったコーストが出てきた。背中にはケガをした大将とユメを背負っている。
「……大将とユメは見たところ命に係わる傷ではない。ユメは大丈夫だと思っていたが、もう生徒ではないからか肉体の強度が大幅に下がっているようだ。」
「そうか、ひとまず無事でよかった。コーストは大丈夫かい?」
「シールドは切れたが、この程度はかすり傷だ。……そんなことより問題は誰が攻撃をしたかだ。爆発の直前、エクソスーツが何かしらの飛翔物体を捉えた。何者かによる攻撃ということは間違いない。」
「そんなこと、一体だれが……。」
コーストがバイザーを起動して周囲の生体反応を探ると、複数人がこちらに向かって歩いてきているのを捉えた。
他に怪しい人影は見当たらない。攻撃者なのは間違いないとみていいだろう。
「あいつらがこの店を……ハハハハハ……殺す!」
「反応があったのはこの辺りでしたが……。」
「この店を攻撃したのはお前たちだな?」
便利屋を捕縛しに現れた集団――ゲヘナ風紀委員は、突如現れた人影に戦闘態勢をとった。
「確かに攻撃したのは私たちだ。それで、お前は何者だ。」
「俺は今しがたお前たちに爆撃された一般人さ。どういうわけで攻撃してきたのかを説明してもらいたいと思ってな?」
コーストは殺意を隠しつつそう問う。
「そうか、巻き込んだことに関しては申し訳なく思う。ただ、これは公務の一環だ。少しどいておいてもらえるか。」
「ほう、その公務とやらは俺の友人が血を流さなければ達成できない公務だったのか?」
「何?」
「貴様の言うご立派な公務とやらのために、俺の友人は血を流し、居場所を破壊されたのかと聞いているんだよ。……あそこはユメの居場所だった。アビドスをずっと守ってきた彼女がようやく腰を落ち着けられる場所だった。笑顔でこの仕事が好きだと言っていたんだ。だというのに!」
その言葉に、風紀委員の顔が少し曇る。
彼女たちも腐っても風紀委員。一般人を傷つけるのは本意ではないからである。
「……貴方の怒る気持ちはわかった。後で私たちからも補償を――「ああ、そんなものは必要ない。」なんだって?」
「別に俺はお前たちのしたことを否定したいわけじゃないんだ。正義とは力あるものの特権だからな。お前たちもそれを行使したということだろう?」
「わ、私たちはそんなつもりじゃ……」
「否定しなくてもいい。俺も今からその権利を行使するんだからな。」
そう言いつつコーストが呼び出したのは宇宙船――センチネル・インターセプタ―
惑星資源を守護するセンチネルが敵対者をこの世から物理的に排除するために用いる戦闘艦である。
コーストが呼び出したものは不時着したインターセプターを修理したうえでハッキングして支配下に置いたものである。
「こ、これは一体……。」
「なに、すぐに理解できる。頭ではなく”痛み”でな。」
コーストはインターセプターに乗り込みつつそう答えた。
「つまり、お前は私たちに敵対するということだな。確かに非があるのは私たちかもしれんが、ケンカを売るというのなら容赦はしないぞ。」
「容赦しない?……ははは!」
「何がおかしい!」
「呆れているんだよ……容赦ができると思っているその頭にな!」
コーストは抑えていた殺気を滾らせ、目の前の風紀委員に告げる。
「容赦せずにかかってくるといい!!お前たちのそのお高く留まったプライドごと、纏めて
ガガガガガガガ!!!
大量のマズルフラッシュとともに、風紀委員会との一戦が始まった。
subnauticaです
コーストが今までにないほどキレ散らかしてますね。
地味に描くのを楽しみにしていた場面です。
次回、コーストvs風紀委員会
では、また次回お会いしましょう。