blue sky archive   作:subnautica

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第二章、開幕です。


2章 真夏のアビドス/勇者で王女で魔王な少女編
25 プロローグ:灼熱のアビドス、魔境のミレニアム


 

「あっつい……暑くて干からびそう……。」

「今年はいつにもまして暑いですね~……。」

「ん……今年はヤバい。」

「エアコンも効きがいまいちだしね……」

「エアコンの買い替え位は検討してもいいんじゃないでしょうか……。」

 

部室の机に突っ伏すホシノたちが死にそうな声でうめいている。

それもそのはず。今やアビドスは夏真っ盛りであり、もとより高い気温がさらに上昇。

日中の気温は40度後半をキープしており、いかに強靭なキヴォトス人といえども音を上げたくなるような環境だった。

エアコンの設定温度を下げればいいと言えばそうなのだが、長年の借金生活ですっかり貧乏性となってしまったアビドスは頑なに設定温度を28度から下げようとはしなかった。

アビドス校舎のエアコンは軒並み旧式の物ばかりということに加えて砂漠環境での使用が続いて不具合も多く、さすがに買い替え位はしていいんじゃないかとも考え始めてはいたが。

 

「あ、そういえばあれが使えるかも。」

「どうしたんですか、ホシノ先輩?」

 

ホシノは何か思いついたようで廊下へと出て行った。

数分後、ホシノは先日コーストにもらったエクソスーツを着用して部室に戻ってきた。

 

「え、それはコーストさんの……なぜホシノ先輩が?」

「いや~快適だね。もうずっとこれでもいいかも。」

 

エクソスーツを身に着けたホシノはそのままソファに横になる。

もとよりエクソスーツは過酷な惑星環境を耐え抜けるように設計された装備であり、砂漠の熱程度であれば完全に遮断することができた。

とはいえ、一人だけ快適な思いをすることをほかの面々が許すはずもなく……

 

「ずるいですよ、ホシノ先輩!一人だけ快適になろうだなんて!」

「ん、私たちにも使わせるべき。」

「覚悟しなさい、ホシノ先輩!」

「これは、ちょっと私も許せないですね……。」

「ちょ、みんな、顔が怖いよ~……。」

 

さすがのホシノもこれはまずかったか、と考えていたところ、

 

「またホシノを囲んでるのか。何をしているんだ?」

 

家庭菜園の手入れをしていたコーストが外から戻ってきた。

 

「あ、コーストさん!ずるいじゃないですか、ホシノ先輩だけこの暑さから逃れられるなんて!」

「ん、私たちもこれほしい。」

「そうよ!私たちだってこの暑さをどうにかしたい!」

「コーストさん、どうにかなりませんか?」

 

ホシノを除くアビドス組が必死の形相で懇願する。

 

「そ、そんなにか?……ああ、これは確かに熱いな。」

 

コーストが試しに一瞬ヘルメットを外してみると一気に流れ込んできた熱気に顔をしかめる。

外はもっと熱いと考えると彼女たちの反応も納得だった。

 

「う~ん……ああ、そうだ。それなら日中は俺の家の居間にでもいればいいんじゃないか?基地モジュールの内部なら環境防御が温度を一定に保ってくれるし、ここよりはましだろう。」

「え、コーストさんそれ初耳なんだけど。」

 

コーストのその言葉に三年間この暑さに耐えてきたホシノが反応する。

そんな便利なものがあるならどうして今まで何も言わなかったのかと言わんばかりだ。

 

「いや、すまん、そこまで辛いものだとは思わなくてな……。じゃあ、とりあえず移動するか?」

 

一行はとりあえずコースト宅一階の居間へと移動した。

 

「うへ~快適だねぇ。」

「こ、こんな近くに理想の場所があったなんて……。」

「ん、涼しい。」

「エアコンも使わずにこの温度なら絶対こっちのほうがいいじゃない……。」

「これ、部室のほうも適用させることはできないんですか?」

「環境防御は基地モジュールで空間を閉じないと機能しないからな。部室でやろうと思ったら学校を一部解体するか、校舎全てを壁と屋根で覆うかのどちらかになるだろう。」

「さすがにそれはちょっとあれですね……。」

 

そこまで行くと本格的に要塞になってしまう。

アヤネもさすがに母校の形が完全に消えてしまうのは嫌だった。

 

「それで、結局部室では何をするつもりだったんだ?」

「あ、忘れてました。もともとはアビドスの今後の身の振り方を考えるつもりだったんですよ。」

 

アヤネが言うには今までアビドスは借金の返済を第一目的として動いてきたものの、それがなくなってしまった今何を目標とするかを話し合うつもりだったそうだ。

最も、話し合いを始める前に皆暑さでダウンして議題がエアコンをどうするかにシフトしたようだが。

 

「暑さ問題はとりあえずいいとして、今後はどうしていきましょうか……。」

「まあ、今まで通りでもいいんじゃない?そんなかつかつにバイトを入れる必要もないけど、お金はあって困るもんじゃないしね~。」

「そうですね。私も今の状態から無理に変える必要はないと思います。強いて言うなら、これからも来るであろう後輩ちゃんたちのために現状をもう少し改善してあげたいっていうのはありますけどね~。」

「改善って言うとどの様なことを?」

「まずは、やっぱり生徒数じゃないかな?」

 

その言葉にホシノたちも納得する。

借金は片付いたとはいえ、そもそもからしてこの学校はいつ消えてしまってもおかしくない問題山積みの学校なのだ。

その問題の根っこに近い問題――生徒数の問題。

解決できなければ、アビドスの未来は暗いだろう。

 

「とはいえ、この砂漠のど真ん中に来てくれる奴を探すのも大変だぞ?ここに来てもいいっていう魅力が何かないとな。」

「ん、もしくはバスジャックを……」

「いつの話をしてるんだ。というかそんなことしたらここの信用が減って逆効果だろうが。」

「でも、やっぱりここに人を呼び込むにはそれだけの"何か"がないと大変ですよね……。」

「ちょっといいかな?」

 

そこで、何やら考え込んでいたホシノが手を上げた。

 

「ん?何か案があるのか?」

「それなんだけどね?まず、アビドスに足を運ぶ人間が少なすぎるっていうのも問題だと思うんだ。ここに来る人自体が増えれば、それもいくらか解消するのかなって。」

「それはそうだが……砂漠にわざわざ足を運ぶ奴ってのも珍しいだろうし……何か考えがあるのか?」

「一応ね……。」

 

ホシノがそう言って掲げたのは補修痕の残るポスター。そこには『アビドス砂祭り』と書いてある。

 

「アビドス砂祭りねえ……確かに何かイベントがあれば足を運ぶ人間はいるだろうな。しかし、このポスターは何でこんなにボロボロなんだ?」

「あ~それは気にしないで。大した話じゃないから。」

 

実際、ユメと話し合って普通に仲直りした彼女にとってはそんなに大きな問題ではなかった。

 

「アビドス砂祭り……話には聞いたことがあります。確か、アビドス砂漠のオアシスを囲んで行っていたかなり大規模なお祭りだったとか。」

「そうだよ。今はそのオアシス自体が枯れてしまって、どうにもならない感じなんだけどね。でも、最近は砂嵐もいくらか落ち着いてるし、普通にお祭りを開くくらいはできるんじゃないかなと思って。」

「いいですね!夏らしいです☆」

「そうですね!とても楽しそうです!」

「でも、お祭りだって人手が必要でしょ。私たちだけでやれるものなの?」

 

その言葉に、盛り上がっていたノノミたちの興奮が一気に鎮静化された。

 

「そこなんだよね~……。」

「結局、生徒不足に落ち着くというわけか……。」

「ん、やっぱりバスジャックを……。」

「ちょっと黙っててくれシロコ。」

 

ん……。とシロコは残念そうに項垂れた。

 

「今すぐにどうこうってのは難しいかもしれないが何かしら考えておく必要はあるな……。」

 

 

〈受信したメッセージ//登録名:先生の周波数〉

 

 

コーストがそうつぶやいた時、先生からメッセージが届いた。

 

「ん?先生から?……こちらコーストだ。何かあったのか、先生?」

『あ、コースト。実は頼みたいこと、というか聞きたいことがあって……人間そっくりのアンドロイドって、心当たりあったりしない?』

「人間そっくり?いや、前にも言ったと思うが俺はこの星に来るまで俺と同じ種族は一度も見かけなかったからな。無論、同じ見た目のアンドロイドも見かけたことはないが……。」

『そうか……なら宇宙はあまり関係ないのかな?』

「そういう言い方をするってことは見つけたのか?」

『うん。それもキヴォトスの技術基準を大きく上回っているようでね。もしかしたらコーストさんが何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど……。』

「それなら、分析バイザーで一度確認してみるのもありかもしれないな。気になるなら俺もそっちに行こうか?」

『ほんと!助かるよ!』

「かまわないさ。先生には、世話になったからな。ところで、先生は今どこにいるんだ?」

『ミレニアムだよ。』

 

先生の言葉にコーストが一瞬固まる。

 

『コーストさん?何かあった?』

「い、いや、何でもないさ。それより、そのアンドロイドの子はミレニアムの外には出れないのか?」

『別にそんなことはないだろうけど、今は彼女を一緒に見つけたゲーム開発部のこと仲良くしてるからしばらくは動かないかな。何より、今彼女……アリスって名前なんだけど、身分を証明できるものを持っていないからあまり人目にさらしたくないんだよね。』

「そうか……分かった。後で向かおう……。」

 

コーストは通話を切る。その顔はブルードをかみつぶしたような表情をしている。ヘルメットで見えないが。

 

「先生からの通信?先生はなんて?」

「ちょっと協力してほしいことがあると言っていてな……手伝いに行くことになったんだ……。」

「へえ、どこに?」

「ミレニアムだ。」

「……大丈夫なの?」

「大丈夫、だといいんだが……。」

 

コーストの脳裏によぎるはニュースの取材で見かけた新たなテクノロジーに触れて危ない表情になっていたミレニアムの生徒たち。

調べてみたところ、ミレニアムの生徒はかなりの人数があんな感じらしい。

何で、行き先を確認もしないうちに安請け合いしてしまったのか……。

 

「サッと行って、サッと帰って来よう……。行ってくる。」

「い、行ってらっしゃい。」

 

ミレニアムへと向かうコーストの背中はどことなく煤けたように見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの連中に変に目を付けられないようにするにはどうしたらいいのか。

目立つことをしなければいい。

ということで、コーストはミレニアム近辺に近づいた後は徒歩で移動することにした。

彼がいるらしいゲーム開発部の場所はすでに聞いている。

入校の許可も先生がとってくれたようだ。これなら、特にもめることもないだろう。

 

 

「ちょ、ちょっとそこの人!少しだけ少しだけでいいからそのスーツを弄らせてくれないか!少しでいいから!」

「そのスーツ、素材は何なんだい!私の知らない技術体系のものだ!」

「何なんだお前たちは!」

 

想定が甘かった。

何故徒歩なら問題ないと思ってしまったのか。

コーストは常日頃身に着けているがゆえにエクソスーツ自体がミレニアムの好奇心の対象となることを完全に忘れていた。

コーストは速攻で変人に目を付けられミレニアムを追い回されていた。

並外れた身体能力を持つキヴォトス人を相手に逃げ回るのは体は一般人のコーストではかなり厳しく、ジェットパックを利用して逃げ回るのが関の山だった。

 

「(先生に提示された部屋の場所は近い……ここからならギリギリ間に合うか?いや、もうここでやらないと確実に追いつかれる!)」

 

焦りとともにコーストはクローキング装置を起動。

しかし、クローキング装置は展開していられる時間がそう長くないうえ、ジェットパックを使用したり、走ったりすれば忽ち解けてしまう。

それでも、一時的にミレニアムの技術集団の追跡でも撒ける虎の子である。

 

「(クローキングが解けない程度に全速力で動く!)」

 

ゲーム開発部は目前。クローキングのバッテリーが切れる直前で部室に潜り込むことに成功する。

 

「わあぁ!!あなた誰!?」

「な、何事ですか!」

「わあ!新キャラの登場です!」

「あ、コースト。早かったね。なんか焦ってるみたいだけど、どうしたの?」

「訳は後で話す!少しの間だけかくまってくれ!」

 

コーストは焦りのままに部室奥のロッカーを開けて身を隠そうとする。

先客がいた。

 

「ひううぅ……。し、閉めてください……。」

「え?なんでここに人が?」

 

"コンコン"

 

「!!(やばい……クローキング装置はまだ動かせない!)……済まないちょっと詰めてくれ!」

「ふえええ!?」

 

コーストがロッカーに無理やり入り込みドアを閉めた。

 

バンッ!!

 

「すまない!この辺で赤い宇宙服のような物を着た人を見なかったかい!」

「うぇ!?……み、見てないヨ?」

「そうか……見かけたらぜひ教えてもらえると助かる!」

 

バタンッ!!

 

乱入者は嵐のように入ってきて、嵐のように出て行った。

 

「……コースト。なにがあったのか知らないけど、もう出てきて大丈夫だよ。」

「そうか。助かった……。」

 

その言葉とともにロッカーが開く。

そこにはげんなりした様子のコーストと、かわいそうなくらい小刻みに震えるユズの姿があった。

 

 




subnauticaです。

第二章始まりました!
ミレニアムに迷い込んだコーストは、無事にこの魔境から外に出ることができるのか……。

次回はアリスに関してですかね。
ここまで新しい生徒を大して出してなかったのでこれでだいぶ幅が増えますかね。

これからも応援よろしくお願いします。
では、また次回お会いしましょう。

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