アリスとユウカと連れ立ってミレニアムの校内を歩く。
なんとなく周囲から視線を感じる物の、さすがにセミナーの客人に絡むと予算のほうが危ないと感じているようでひとまずは平和な状態が保たれていた。
「そういえばですけど、コーストさんが追われているのってその目立つスーツが原因ですよね?脱いだりってできないんですか?」
ユウカが不思議そうに言った。
「アホ抜かせ。俺はお前たちみたいに生身で銃弾を受けられるほど頑丈じゃないんだよ。このスーツはこの世界で俺の生命を保証してくれる最後の壁だ。こんなところで脱げるか。」
コーストが遠くで鳴り響く爆発音を耳にしながらそう答えた。
「あ……それもそうですね。」
「つまり、スーツを脱いだら、コーストさんも先生と同じマスコットなわけですね!」
「マスコット……。」
コーストがアリスの歯に衣着せぬ物言いに少し落ち込む。
「そういえば、先生はお前を"それなりの立ち位置にいる娘"と称していたが、実際何をしているんだ?」
本当にあのミレニアムの技術狂いを抑えることに成功している隣の存在にコーストは素朴な疑問を問う。
「ああ、私はこの学校のセミナーで会計をしているんです。部活の予算管理も私が統括しているので、あの子たちもむやみには手を出してこないでしょう。」
「セミナー……要は生徒会って事か。世話になっている身でなんだが、これだけの規模の学校だと生徒会の業務も多いだろう、俺に構ってても大丈夫なのか?まあ、うちの生徒会長はいつ見ても昼寝してるが……。」
「大丈夫です。仕事の量はちゃんと計算済みですから。……それに、先生のお願いですし。」
「ん?なんて?」
「いえ!何でもありません!」
「ユウカ?何を照れているんですか?」
「て、照れてないから!」
何やら顔を赤くしたユウカが顔をぶんぶん振っている。
急に奇行を披露し始めたユウカに大丈夫かとコーストが考えなおし始めたところ、三人の前に数人の生徒が姿を現す。
目の前の全員が目をぎらつかせており、その手に良く分からない機械を手にしている。怖い。
とりあえずユウカが前に出る。
「あなたたち、私たちに何か用かしら?この方はセミナーの客人で、何か手を出そうものなら容赦しないわよ。」
「……科学の成長に、犠牲はつきものです!」
そう言って目の前のミレニアム生徒は何かを投げつける。
嫌な予感がしたコーストはマルチツールの武装をスキャターブラスターに切りかえ、飛来したものを撃ち落とす。
中からはやたら粘着性の強そうな接着剤のような物があふれていた。
「ちょっと、何するのよ!」
「そこまで強硬手段に出るのか……!」
「そこの方はヘイローはないようなので傷つけるようなことはしません。ただ、そのスーツを見せてほしいだけです!」
そう言って背後から大量の粘着弾を取り出し、投擲の準備をする。
コーストがマルチツールをユウカが愛銃ロジック&リーズンを取り出し交戦を始めようとしたとき、アリスが前に出る。
「ふっふっふ……アリスの出番ですね!」
不敵な笑みとともに前に出てきたアリスは、肩に下げたバカでかい何かを腰だめにチャージを始める。
「おい、なんだそれは?」
「アリスちゃん!ここで撃つのは……」
「光よ!!」
ゴアアアアアア!!!
アリスの放つレールガンがミレニアム生を吹き飛ばす。
ついでに射線上にあったものの大半がどこかに消えていった。
「アリスやりました!」
敵を倒してご満悦の勇者はニコニコと笑みを浮かべている。
「なあ、あれは大丈夫なのか?」
「大丈夫なわけないじゃないですか……。」
壁が半分吹き飛び風通しの良くなった廊下を背に、ユウカは天を仰いだ。
ボロボロの廊下のことは一回忘れて、ユウカの案内の下ようやく特異現象捜査部の下へとたどり着いた。
なぜ学校の一教室を訪れるためにこんなに苦労しなければならないのか。
「ここが特異現象捜査部の部室です。」
「パンパカパーン!アリスは護衛クエストをクリアしました!」
「ああ、うん……。」
コーストが扉を開ける。
「あ、コースト来てくれたんだね。ユウカもありがとう。」
「ふふ、これぐらい問題ないですよ、先生。」
「アリスも頑張りました!」
「あれ、アリスも来てたの?アリスもありがとね。」
「はい!」
「では、私はそろそろ戻りますね。そういえば、アリスちゃんはモモイからお使いを受けていたんじゃないかしら。大丈夫なの?」
「あ。」
――ゲーム開発部部室
「アリスまだかな……。」
アリスにお昼ご飯のパンを買ってきてほしいとお願いしてから早数十分。
モモイは部室で腹を空かせて作業を続けていた。
アリスがレールガンを打つときに放り投げたパンを探して回収して戻ってくるのはさらに数十分後の話である。
場所は戻って特異現象捜査部、コーストは車いすに座った生徒と、なぜかやたらと露出面積の多い生徒と対峙していた。
「初めまして、コーストさん。私の名前はヒマリ。このミレニアムサイエンススクールにおける天才ハッカーです。」
「私の名前はエイミ。よろしくね。」
「ああ、うん……あまりこういうこと言うのもあれだが、天才って自称するものなのか?」
「事実ですから。」
「そうか……。」
なかなか個性的な生徒のようだ。
「まあ、いいや。とりあえず、今回俺が呼び出された理由についてだけ軽く教えてもらえるか?」
「ええ。そうですね。あなたもわかっていると思いますが、今回あなたを呼び出したのはあの巨大な人工知能ビナー、ひいてはデカグラマトンについて話すためです。」
「ああ。ビナー自身についてのことも気になるが、デカグラマトンとは何なんだ?」
「それについては今から説明いたしましょう。」
曰く、『神を研究し、その存在を証明できれば……その構造を分析し、再現できるだろう。すなわちこれは、新たな神を創り出す方法である……』
といった仮説をもとに創り出された対・絶対者自律分析システム、神性を探し出す人工知能。それこそがデカグラマトンという存在らしい。
「ようは、どうにかして神の存在を証明するための人工知能って認識でいいのか?」
「私たちも知らないことが多すぎるので何とも言えませんが、認識としてはそのような感じでよいでしょう。なにせ、私たちもその存在を知ったのはつい最近のことなのですから。」
「つい最近知った……つまり、お前たちにもデカグラマトンによる何らかの接触があったということか?」
「ええ……つい先日、ミレニアムの通信ユニットAIである
「その攻撃主が例のデカグラマトンということか。」
「ええ……ハブがハッキングされ、そのAIがミレニアムを去った後、ミレニアムのネットワークにこのようなテキストが残されたんです。」
『竟に、摂理へと至る
嗚呼、我が
我が異名は『輝きに証明されし栄光』……
我が名は
聖なる十文字の神を証明し、奇跡を預言する八番目の預言者なり。』
「聖なる十文字……これがデカグラマトンのことでしょう。」
「八番目か……ビナーの奴は三番目と言っていたな。となるとやっぱり、あいつレベルの奴が十体存在するんだな……。」
「え、ちょっと待ってください。私は先生からあなたがビナーと接触したという程度の話しか伺っていないのですが、あなた、ビナーと会話をしたのですか!?」
「会話をしたというか、ビナーは今俺のコンパニオン……要はペットのような扱いだ。」
「!?」
ヒマリはいきなり浴びせられた情報の奔流に声も出なくなっている。
「コースト?それは私も初耳なんだけど?」
「あれ、通信口で話してなかったか?それは済まなかったな。」
「そ、それでコーストさん、ビナーは、三番目の預言者はほかに何か言っていたのでしょうか?」
「いや、コンパニオン化したときはだいぶ混乱していたようでな。その時はあまり深く突っ込んでは聞かなかったんだ。聞きたいことがあるなら今度話し合いの機会でも作ろうか?」
「ええ、お願いします……。」
ヒマリが今までと打って変わってコーストを恐ろしいものを見るような目で見つめる。
ヒマリの中でコーストの評価はヤベ―奴で固定された。
「ふう……とりあえず、コーストさんの証言で確信が持てました。このデカグラマトンはたのAIを洗脳……あるいは感化させることで部下を作っている、そしてデカグラマトンは部下にしたAI達を完全に統制しているわけではなく、あくまで自分の目的に突き合わせる独立個体として扱っています。」
「そうだな……ハッキングの犯人は間違いなくデカグラマトンなんだろうが、アイツはデカグラマトンそのものではなく、デカグラマトンから役割を与えられたと話していた。あくまで別物なのだろうな。」
「はい。ただ、ハッキングするのであれば完全に自分と同化させて自らの手足としてしまってょうが効率的なはずです。そうしないのは単純にそれが不可能なのか、それとも何かやるべきでない理由があるのか……私たちはそれも含め調べるために動いています。先生、コーストさん。デカグラマトンの脅威に対抗するために、私たちに力を貸してくれませんか?」
「もちろん。協力するよ。」
「あんな奴がまた暴れだしたりしたらこちらとしても困るからな。協力させてくれ。」
先生とコーストはヒマリからのその申し出に快く頷いた。
特にコーストはデカグラマトンの預言者たちの脅威を目の当たりにしたものとして少しでも情報を欲していたため、キヴォトス三大校が一角と協力して調査ができるとなれば渡りに船であった。
ミレニアムに来るたびにトラブルに見舞われるのがネックだが。
「ありがとうございます。まずは少しでもデカグラマトンのデータが欲しいところですが、ビナーと会って話ができるというのであればこれ以上はありません。できるだけ早くセッティングしていただけないでしょうか?」
「ああ、構わない。ただ、あの巨体だ。砂漠まで来てもらうことになるが構わないか?」
「さ、砂漠……ねえ部長、私、当日裸で行ってもいい?」
「いいわけがないでしょう……はあ、当日は冷房付きの車を手配しますから、その中にいてください……では、コーストさん私からも今まで得られたデカグラマトンに関する詳細情報の共有を……あら?」
突如として特異現象捜査部の部室にアラートが鳴り響く。
「部長、サーバーに誰か侵入してる。」
「ミレニアムの特殊回線しか通っていないこの閉鎖空間に入りこめた……?」
「おい、まずいんじゃないのか?」
「っ!まずいなんて話じゃないです!これは、ファイヤウォールがすべて……!」
瞬間、部室内のモニターがすべてハックされ、"DECAGRAMMATON"の字がでかでかと表示される。
「……到達されましたか。」
「電源は落としたのに……待って、何か聞こえる。スピーカー?」
『ようやく出会えたな、先生。そして私の預言者を下したものよ。』
「誰……?」
「……だめです!応答してはいけません!」
『私、私はただ存在するもの。始まりであり終わり。汝が思うまさにそのもの……。私は私。これ以上に私を説明する術はない。……私の存在証明には何もいらない。私は私の許可の下、こうして存在している。私は
デカグラマトンがそう言い終えた後、部室内に何かをスキャンするような音が響き渡る。
「何かを、スキャンしている?」
「先生、コーストさん、危ないからじっとしてて」
得体のしれない相手にヒマリたちも警戒を強めている。
『先生、それにコーストといったか。持っているな。私の知らないものを、私が解析できぬものを。……福音を聞かせてやろう。そして、この福音を延べ伝えよ!』
「(こいつ、もしかしてアトラスシステムに入り込むつもりか!)」
「(シッテムの箱に!?)」
そして、デカグラマトンは手を出してしまった。
決して触れるべきでない秘密に。それも同時に。
『おおおお……!!』
『む……むにゃ……くひっ……くすぐるのはダメですよぉ……くしゅんっ!!』
〈警告:不正なアクセスを検知//カウンターハックを開始〉
『ぐぅ……なぜ、なぜだ……ぐあああ!!』
何かに吹き飛ばされたようなリアクションでデカグラマトンは特異現象捜査部のサーバーから消え去っていった。
「……何だったんだ?」
「侵入ログを確認……消滅してます。先生とコーストさんは大丈夫ですか?」
「うん……私は何とも……。」
「俺もこれといった被害はないな。スーツのAIに攻撃をかけたようだが、ファイヤウォールがはじき返したみたいだしな。」
「……ここのサーバーより上等なファイヤウォールを積んでいるのですね。」
ヒマリが嫉妬のこもった眼をコーストに向ける。
「そんな目で見られても、これ以上何か言うつもりはないぞ。」
「はあ……分かってますよ。先生からも深く詮索しないようにとは言われてますし……それにしても予想外のファーストコンタクトでした。まさかこんなにも早く探知されるとは。」
「それに関しては俺の責任もあるだろう。すまなかったな。」
「いえ、協力を要請したのはそもそもこちらですし、仕方のないことです。ですが、次こそはこうはいきません。必ず目にもの見せて見せます。」
天才としての矜持をいくらか傷つけられたヒマリは、闘志をその目に宿し、デカグラマトンへの復讐を誓うのだった。
「何なのだ、あのタブレットは……それにあのスーツのAI……ぐっ……。」
アロナのくしゃみとアトラス謹製のファイヤウォールにはじき返されたデカグラマトンはそのデータにいくらかの損傷を負っていた。
//16・16・16・16//
「何なのだ、あれは、あの紅いインターフェースのヴィジョンは……ぐ、ぐああ!!」
知るべきでない秘密を知ったデカグラマトンが復活するにはそれなりの時間が必要となるだろう。
subnauticaです
なんかお気に入りの人が増えてると思ったら……日間ランキングに乗ってる!?
これも一重に読者の皆さんのおかげです!ありがとう!
これからも応援してくれたら幸いです。
次回はデカグラマトンからミレニアム編のほうに舵を戻します。
では、また次回お会いしましょう。
ノーマンズスカイをやったことが
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ある
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ない