3 入居と建築、そして常識の相違
フォトンキャノンでぼろ雑巾にした不良たちを適当に処理したのち、コーストたちはアビドスの生徒会室に集合していた。
「じゃあ、改めて!私たちのアビドス高校へようこそ!」
「まあ……本当に私たち二人しかいませんがね。」
……そこそこ大きい建築物に見えたが、本当に二人で管理できるようなものなのか?
と思ったがこの建築物さえもたびたび来る砂嵐によってかなりの部屋が砂で埋まっており、普段使う範囲だけを掃除して使っているらしい。
気づけば復活している地形を毎回削っている身からすると少し親近感がわくものだった。*1
「そういえば気になっていたんだが、さっきから口にしている高校とはどういったものなんだ?」
「そこからですか……しばらく滞在するのであれば一度あなたのいた世界とキヴォトスでの常識のすり合わせをしたほうがよさそうですね。」
とりあえずそこからの話し合いでこの世界は倫理と法規にだいぶ厳しいということが分かった。
宇宙に進出していないがゆえに惑星上でどんどん人口が増えて世界中の大半の土地は誰かのものになっているのだとか。
そして今いるここはキヴォトスという都市のアビドス自治区と呼ばれる場所らしい。高校と呼ばれる教育機関が一つの都市の権限を握っており、キヴォトスはそうした学校が集まった学園都市と呼ばれるものらしい。
今の銀河社会だと三種族ごとの星系の支配圏のような構図なのだろうか。
「この星、というかこの土地がどういった場所化は大体わかった。ところで、部屋があるといっていたが俺が住める部屋は一体どこになるんだ?」
「あ~……それなんだけどね。」
ユメに連れられ着いたのはましな方とはいえ砂埃を被った部屋。
コーストはヘルメット越しにジト目を送る。
「あはは……明日から頑張って掃除するから少しだけ待っててもらえないかな。何なら、掃除が終わるまで私の部屋に来ても――」
「いや、その必要はない。ユメ、ここの庭に建物を建てるのは大丈夫か?」
「え?うん、大丈夫だけど……。」
最後ユメがまた余計なことを口走ったが気合で止めた。ホシノの顔がまた修羅の如くなっている。
何はともあれ言質は取れた。バックパックからマルチツール〈ヘビーパルス インジェクター〉を取り出し、ビルダー機能を呼び出した。
「ん?なんですかそれは?武器ですか?」
ホシノが怪訝そうな目でこちらに聞いてくる。この状況で取り出したのが不可解に映ったのだろう。
「ん?ああ、これはマルチツールだ。武器というのも間違いではないがものを引き寄せたり、釣り竿になったり、あとはこうやって建築にも使える」
そう言ってコーストは外に木の床を設置した
アビドス組2人からすればいきなり地面に木材の床板が現れたようなものなので自分の目がおかしくなったのかと思った。
「あれ……?今あの木の板どこから出てきたの?」
「虚空からいきなり出現しましたけど……どういうことなんですかコーストさん」
どうやらこの星ではまだ元素を直に使った建築は不可能だそうだ。
炭素を使って木の床を置いたことを説明したが、あまり理解してくれた感じではなかった。
「あなたが常識はずれなのはわかりましたけど、アビドスの外ではあまりやらないでくださいね……ミレニアムとかでやったら質問攻めにあって、身に着けてるもの全部分解させられて帰ってこれなくなりますよ。」
「そんな学校もあるのか……。」
また恐ろしいことを聞きながら数十分ほどかけて木製の家をくみ上げた。
「よし、完成したぞ!……ああ、もう夜だからな。」
夜遅かったこともあり、二人はすでに夢の世界に行ってしまっていた。
とりあえず教室の一角を軽く掃除してベッドを制作し二人を運んだ。
「我が家の出来は明日二人に見てもらうとしよう。」
そう言ってコーストも今しがた作った家の寝室で眠りについた。
・
・
・
「んぅ……あれ、なんで私学校で寝て……」
先に目を覚ましたのはユメだ。
「そういえば……コーストさんを学校に連れてきて、部屋が汚いから掃除を……あれ、でも必要ないって、そもそもなんで教室にベッドがあるの?」
寝る前の情報が多すぎて、一度寝てもうまく頭の整理ができなかったらしい。
「あれ、窓の外に何か……えええ!ホシノちゃん!おきておきて!!」
「何ですかユメ先輩……というかなんで私はここで寝て……て、え?」
寝ぼけた二人の目に映ったのは校庭に立つ確実に昨日までなかったはずの立派な一軒家だった。
窓からのぞくリビングは広々とした作りでキッチン、ソファ、テーブルと必要そうなものは一式そろっており、二階にはベランダもついている。
「おお、起きたか二人とも。どうだ、俺の新しい家は?」
コーストは急造一軒家の玄関先で自慢げに腕を組むジェスチャーをした。
「こんなお家が一晩でできちゃうなんて……。」
「立派は立派ですけど……、この家を一晩で組んだんですか?」
「いや、そこまで大きくもないし、とりあえず装飾も最小限に抑えたから建築は数十分で終わった。」
割としっかりした一軒家を一から作って数十分……少なくとも今のキヴォトスでは難しいだろう。
「ほんとに……外ではおとなしくしててくださいね。」
ホシノは疲れたような顔でそう答えるのだった。
ビルダーの衝撃から二人が覚めたのち、いい感じの時間になったので朝食をとることにした
「ホシノちゃん、校舎に何か食べられるものおいてあったっけ?」
「備蓄食料があった気がしますし、とりあえず今日はそれ食べるしかないですかね。」
どうやら二人とも予想外の外泊でちゃんとした朝食を用意してなかったようだった。
「二人とも、せっかくだし俺が持ってる食べ物やろうか?」
そう声をかけると二人は
「「え……」」
と、少しいやそうな顔をしてうなった。
「……おい。親切心で言ったのに何でそんな顔をされなきゃならん。」
「だって、あなたが持ってる食糧ですよ?どんなゲテモノやいかれた料理が出てくるか、わかったものじゃないじゃないですか。」
「失礼なことを言うな。これでもクロノス*2には味はまあ悪くないといわれてるんだぞ。」
「誰ですかクロノスさん。」
「まあまあホシノちゃん。とりあえず見た目だけ確認しておこうよ。それから考えよう!」
人を疑うことのないユメもこの時ばかりは少し及び腰になっていた。
「別にそんな変わった見た目でもないと思うぞ……ほらこれだ。」
そういってバックパックから取り出したのはフィッシュ・アンド・ライス。魚とケルプ米から作られる料理である。
「毎度思うんですが、それどこからどうやって取り出してるんですか?背中のその機械の中には絶対に入りきりませんよね?」
「どこって、エクソスーツのバックパックに圧縮して収納したものを転送で出しているだけだぞ?」
「……もう、なんかいいです。たぶん私が理解できるものでもないのでしょう。」
エクソスーツのシステムはアトラス謹製のものなので常人が理解できるようなものではないというのは確かである。
「それで、その料理は何からできているんですか?見たところ魚の中に米とレモンが入っているようで普通においしそうですが……」
「これは確かナガアゴダイとケルプ米から作ったやつだな。」
「ナガアゴダイはなんか行けそうですけどケルプ米?……え、昆布ですか?」
ケルプ米はキャンドルケルプという名の昆布からとれるケルプサックを使って作られた米のような何かである。
「ほえ~、ねえコーストさん、一口もらっていい?」
「いいぞ。というよりお前らにあげる為に出したんだから一皿ちゃんと食べてくれよ。」
「じゃあ、いただきま~す!」
「……いただきます。」
二人が皿に盛られたフィッシュ・アンド・ライスを口にする。
すると
「おお~これすごくおいしいよ、ホシノちゃん!」
「そうですね。出汁のきいた感じで結構おいしいです。」
二人とも初めての地球外ライスは気に入ってくれたようだった。
ちなみにほかにインベントリに入っていた料理が”怪しい肉煮込み”と”うごめくドーナツ”だったので、その二つを出していれば食に関しては二人との間に永遠の亀裂が生じていただろう。
談笑しながら食事を終え、今後の方針について話し合う運びになった。
「さて、俺も一応アビドスの仮ではあるが住人となったことだし、無理のない範囲で二人を手伝おうと思う。まず聞きたいんだが、二人がこの場所にいる理由はなんだ?
正直なところ、ここは嵐も来るし、襲撃も多い。とても快適に暮らしていける場所とは言えないと思うのだが。」
その言葉を聞き、二人は一瞬強張った。
だが、居場所を守ると決めている二人の意志は固かった。
「この場所は、私にとっても、ホシノちゃんにとっても大切な学校で、大切な居場所なの。だから、絶対にこの場所は守りたい!」
「そうです!この場所は、確かに安心して生きていける場所とは言えないかもしれませんが……、それでも、ここが私の居場所なんです。」
二人は覚悟を決めた顔で、そう言い切った。
「そうか。二人がすべてを受け止め、覚悟を決めてここにいることを決めているなら、俺から何か言うことはないな。」
彼自身は数年前見知らぬ惑星に放り出されて以前の記憶が存在していないため、明確に故郷や居場所と呼べるような場所が存在しない。
だから、胸を張って言える自分の居場所を持つ彼女たちが少しだけうらやましく感じられた。
「よし、じゃあまずこのアビドスが目下直面している問題についていろいろ教えてくれないか?」
そう言うと2人は困ったように顔を突き合わせ始めた。
「どうするホシノちゃん。”あの件”コーストさんにも話しちゃって大丈夫かな?」
「高校に住まわせてしまってるわけですし、今更じゃないですか?宇宙人である以上、少なくともキヴォトスの”悪い大人”ではないんです。もうここは素直に話して助けてもらったほうがいいでしょう。」
しばらく二人で話して考えがまとまったのか顔をこちらに向け、真剣な表情で話し始めた。
「実は……」
「九億の借金……この星の貨幣単位がどういったものかは知らないが、途方もない金額というのは確かだろうな。」
「はい……襲撃してくるヘルメット団も確かに脅威ではあるのですが、今一番問題なのはこっちのほうです。利息の返済が精いっぱいで一向に借金が減らず、
偶にユメ先輩が変な詐欺に引っかかるせいで何ならこの学校のお金は減りつつあります。」
「ひぃん……ホシノちゃん、急に刺してこないでよぉ~」
やはりホシノは苦労人のようだ……。
それにしてもユメ、お人よしが過ぎるとは思っていたがしっかり実害が出ているとはな……
「まあ、安心しろ。俺はこの星の金こそ持っていないが、銀河では貨物船団のオーナーもやっているそこそこの資産家なんだ。換金できるような品もいくらか持っているぞ。そいつを借金返済のあてにすればいい。」
オーナーとはいっても金で船を買い取って半分放任しているようなものではあるが。
「そんな……だめですよコーストさん。たしかに、返済のためのお金を稼ぐのを手伝ってほしいとかは考えてましたけど、そんな貴重なものを譲ってもらうなんてことはできません!」
「いや別に……貴重なのは確かだがそれなりに量産も効くし全然問題ないぞ?」
「そうなんですか?いや……でも、ん?ちょっと待ってください、あなたの言う”換金できる品”っていうのは一体どのようなものなんですか?」
ホシノは考え直した。ここまでかなりぶっ飛んだ技術を見せてくれたコーストだ。
そんな彼の見せてくれたような技術が普遍的に存在する世界でなお価値があるもの。
果たしてどのようなものなのだろうか?
「う~ん。そうだな……これなんかどうだ、ステイシスデバイス。適切なメンテナンスを行えば装着者に半永久的な延命を施す――」
「はいストップ。もういいです。そんなものこの星に流さないでください!」
いきなり出てきたのが不死を実現するような道具。実際にはそこまで使い勝手の良い装置ではないのだが、それでもこの星にとってはオーバーテクノロジーの極みのような存在である。
「……ちなみに他にはどんなものがあるんです?」
「ほかに、大量に生産できて、価値がありそうなものというと、融合点火装置、量子プロセッサ、携帯原子炉とか……」
「もう全部だめです。そんなものが市場に一つでも出まわったらどうなるかわかったもんじゃありません。特に携帯原子炉とか、何かあればキヴォトスが滅びますよ!」
ダメなのか……
財力でなら力になれそうだと思ったものだが、なかなかうまくいかないようだ。
「そんなにがっかりした顔しないでくださいよ……コーストさんの強さなら賞金首を捕まえたりとかもできますし、なにより、出会って間もない私たちをそうまでして助けようとしてくれたこと自体、とてもうれしいですから。」
そう言うとホシノはにへらと笑う。
「おお、コーストさん!ホシノちゃんの貴重な笑顔ですよ!これはしっかり覚えておかないと……。」
「……余計なこと言わないでください先輩。」
頭を撫でられながらそんなことを言われたホシノは照れているようだ。
「ハハハ……まあ、とりあえず稼いでいくには地道にやっていくしかないわけだな。旅のはじめを思い出すよ……よし、三人で気合入れて頑張っていこうじゃないか!」
「お~!」
「お、おー!」
三人で景気づけに叫び、そして俺は二度目の賞金稼ぎデビューを果たすこととなった。
subnauticaです
過去編情報が少ないから早く原作開始まで進みたい……
いまはトラベラーができることの紹介をしてるみたいな感じなのでそこが済めば話も進んでいくと思います。