ミレニアムのセミナー執務室で電気もつけぬままに二人の少女が話し合っている。
「この訪問はデータベースには残らない……つまり、記録上は私たちは会ってすらいないことになる。――そう、それもすべてこれから話す内容の秘密を守るため。」
ヒマリが放った皮肉をセミナーの会長――調月リオは完全に無視してそう返した。
「まったく……あなたは本当に真面目ですね。"あなたは私の姉か何かなの?"とか、もう少しユーモアに富んだ返答はできないのですか?今のだって、この超天才清楚系病弱美少女の軽い冗談なのですから。ふふ。」
ヒマリはこんなことを言うが、今までただの一度もこの堅物会長にユーモアなんてものを期待したことはない。
期待するだけ無駄だということをヒマリは良く知っていた。
「……あなたは私の姉ではないわ。急にそんな非合理的なことを言い出すなんて……いったいどうしたの、ヒマリ?」
「……はあ。ええ、ええ、あなたはそういう人間ですよね。何かにつけて合理的と言いますけど、人間の構成要素は合理性だけではないと、あなたはいつになったら理解できるんでしょうか……。」
ヒマリはため息をつきながらそう吐き捨てる。
「別に好悪の話ではないのだけれど……人間、合理的な判断が大事なのは事実でしょう?」
「だからあなたは下水なんですよ。」
ヒマリは話し合いを始める前からかなりイライラがたまっていた。
リオとは根っから考え方が合わないのである。
「はあ……というより、そんなに人目を気にするのであれば、こんなところではなく別の場所で話し合いをすればよかったのではないのですか?」
「ほかの場所?何を言っているの?」
「あるじゃないですか。最近、誰かさんが横領までしてこっそり作っているあの
ヒマリが棘のある口調で言うと、リオは口をつぐんだ。
本来であれば彼女が知っているはずのない情報だが、ハッキングでもして情報をつかんだのだろう。"全知"である彼女であれば、それも不可能ではないのかもしれない。
そう考えたリオはそれ以上は特に反応を出すこともなく話し合いを再開した。
「……本題に入りましょう。」
「あらあら、話題をそらすつもりですか?ええ、いいでしょう。寛大な私は見逃してあげます。」
ご満悦な表情のヒマリを前にリオは話を続ける。
「まず、お互いの認識のすり合わせを。」
二人が振り返るのは少し前に起きた"鏡"を巡るゲーム開発部とセミナーの小競り合いだ。
「前回起きた"鏡"を巡るミレニアム生の起こした一連の騒動――あれは私たちがともに仕掛けたことだったわね。」
「ええ、私たちが"鏡"という手段を用意し、あなたが"C&C"という敵を作る。珍しく、ええ、本当に珍しく私とあなたの目的が合致して協力した出来事でしたね。――そう、
こんなことはもうそうそうないでしょうが、とヒマリは小声で付け加える。
AL-1S……ミレニアムの廃墟から突如として見つかった謎の多い超高性能アンドロイド。
現状ゲーム開発部とともに人間とまったく同じような生活を送っているが、製造方法もその来歴も何もかも不明な彼女を、ミレニアムはそのまま放っていくわけにはいかなかった。
そこで一芝居を打ち、アリスという存在、その本質を図るために行われたのが今回の一連の事件である。
「あの騒動から何日か経ったけど、何か結論は出たかしら?」
「ええ、もちろんです。」
二人は息を吸い込み、その視線が交差する。
「アリスの正体……それは、無名の司祭が崇拝するオーパーツであり――」
「――遥か昔の記録に存在する、"名もなき神々の王女"」
「……。」
リオの言葉に、ヒマリは同意を示すように目を伏せた。
「……なるほど。私たちは同じ解釈に至ったようね。」
ヒマリが自らと同じ結論に至ったことにリオはどこか安堵を覚えた。
考えを同じくするのであれば、自分がこれから起こす行動にも納得を示してくれるはずだと。
「つまり……あの存在の"本質"は……」
「ええ。アリス、あの子は……」
二人は示し合わせるように自らの答えを口に出した。
「「世界を終焉に導く兵器/"かわいい後輩"ですよね♪」」
「……?」
「……?」
その言葉の後、沈黙が場を支配した。
お互いが信じられないというような目で相手を見つめる。
「……あなたは一体何を言っているの?」
「それはこちらのセリフですよ、リオ。」
「……」
「……」
再び場に沈黙が訪れる。
しかし、今度の沈黙は決別の区切りとなったようだ。
「……そう。じゃあ、私たちの同盟はここで終わりということね。」
リオは突き放すような口調でそう言い放つ。
「……相変わらず結論を急ぎますね。まあ、その意見には私も同意しますが。というより、同盟というか休戦でしたけどね。」
ヒマリのその言葉の後リオが指を鳴らすとどこからともなくロボットの集団が現れ、あっという間に執務室の中を埋め尽くした。
「ああ、これが噂の……あなたが最近作っているというおもちゃですか。あと、その指を鳴らすと出てくる演出、カッコいいとか思ってるんですか?」
「……同盟を解除した以上、貴方をこのまま返すわけにはいかないわ。」
指パッチンの件には耳を背けつつ、リオはヒマリにそう告げた。
「はあ……まあ、そうでしょうね。貴方ならこういう手を使うだろうと、なんとなく分かっていましたよ。」
ヒマリはそう言うとデバイスを取り出し、何やら操作を始める。
すると物の数秒で二人のいる執務室はヒマリの支配下に入ってしまった。
「ッ……!?私のオフィスが、ハッキングされた……!?」
「ふふ、ビッグシスターの部屋は無敵だとでも?デカグラマトンにしてやられてから、私の技術も向上しているんですよ!」
デカグラマトンにセキュリティを軽く破られてそして、自分が構築したものよりもはるかに高性能なファイヤウォールを目の当たりにして以降、ヒマリはその屈辱をばねにハッキング・セキュリティ技術の向上に今まで以上に時間を使うようになった。
「くっ……AMAS!ヒマリを捕えなさい!!」
「ふふ……この清楚系病弱美少女に不可能なんてありません。」
ヒマリが少しデバイスを操作すると、リオ渾身のAMASはその動きを停止させてしまった。
「(AMASの全個体が、その活動を停止した……?まさか、照明システムがダウンしたあの瞬間に……!?あの一瞬でこれだけの規模のハッキングを……!?……いや、驚いている場合じゃない。早くドローンの制御権を復活させないと。)」
リオがシステム復旧にいそしんでいると、急に照明システムが起動した。
「あら?なんで照明システムが……。」
瞬間、照明システムがオーバーロードを起こし、強力な光を放つ。
身構えることのできなかったリオはその光をまともに受けてしまい、少しの間視力を失ってしまった。
しばらくしてリオが視力を取り戻したころにはヒマリの姿は執務室から影も形もなくなってしまっていた。
「ヒマリは……そう、抜け出したのね。さすがはヴェリタスの部長、といったところかしら。できることであれば味方に置いておきたかったのだけど……本当に、残念だわ。」
リオは一人そうつぶやくと、どこかに向けて通信を始めた。
「はあ――できればこんな"非合理的"な手段は、取りたくなかったのだけれど……。」
即席フラッシュバンでリオを撒いたヒマリは改造車椅子でミレニアムの廊下を駆けていた。
「自信と意見が食い違うと気づくや否や、躊躇いなく行動を起こすその姿……はあ、久々に見ましたが、相変わらずですね、リオ。まあ、この超天才清楚系病弱美少女の前では何もかも無意味ですがね♪」
ヒマリが上機嫌で廊下を進んでいると、背後から凄まじい勢いでこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ん……いったい何が――」
デバイスを手にし、急いでその正体を確認しようとするも、相手の速度が速く、接近を許してしまった。
ゴッ!
後頭部に強い一撃を食らい、意識が薄れていくのがヒマリ自身にも感じ取れた。
「くっ……!?あなたは一体……」
薄れゆく意識の中辛うじて上げることができた目には、メイド服の姿の生徒が映る。
「あなたのその姿……まさか、五番目のC&C……!」
ヒマリの意識は、そこで途切れた。
「会長、対象を確保しました。」
『よくやったわ。そのまま所定の場所に送り届けて頂戴。私も後から向かうわ。』
「イエス、マム。」
――翌日、アビドス高校
その日、コーストは昼寝を続けるホシノを膝の上に乗っけてアビドスの皆とトランプで遊んでいた。
宇宙は経済と武力が支配する世界で娯楽がだいぶ少ない世界だったのでキヴォトスに来てからこういった手軽な娯楽についていろいろ知るのはコーストの趣味になっているのだ。
感情がすべて顔に出るセリカが五度目の惨敗を喫したところ、コーストのエクソスーツに通信が入る。
送り主は珍しいことにエイミである。
「こちらコーストだ。デカグラマトン関連で何かあったのか、エイミ?」
『確かにケテルについて進展があったから話そうとも思ったんだけど、今回は別件。部長と朝から連絡が取れないの。だから、そっちにいたりしないかと思って。』
「いや、こっちには何のコンタクトもないが……。」
『そうなの?会議の予定があったんだけど部室にもいないし、緊急用の回線にも出ないなんて今までなかったから少し心配になって……。』
「しかし……俺もあいつがほかに行きそうな場所なんて見当がつかないが……。」
『そう……ごめんなさい。急に連絡したりして。』
「謝ることはない。こちらでも気にかけておくとしよう。」
『ありがとう、コーストさん。』
エイミはそう言って通信を切った。
「コーストさん?誰からですか?」
「ああ、この前うちにも来たミレニアムの奴の一人だな。ずっと冷房車の中にいたからみんな顔は見てないと思うが……。」
「ああ、ずっと車の中から話してた方ですね。それで、なんと?」
「車椅子で来ていたやつもいただろう?あいつと連絡がつかないらしい。音信不通からまだそんなに時間は経ってないが……どこか、不穏な感じがするな。」
「そうですか……それは心配ですね。」
ノノミが不安げな表情になる。
「何か、大事にならなければいいんだが……。」
未だ眠り続けるホシノの頭をなでながらコーストはそう希望的観測を口にした。
subnauticaです。
パヴァーヌ辺のプロローグみたいな感じですかね。
ヒマリは早々に連れ去られました。
次回はゲーム開発部、束の間の日常
では、また次回お会いしましょう。
ノーマンズスカイをやったことが
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ある
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ない