コーストが先生たちの救出に入る数時間前、コーストとアビドス一行はミレニアムでエイミを拾った後、エイミのナビに従ってエリドゥを目指していた。
ホシノは初めてエイミの姿を目にした時、自分の知らないところでこんな痴女と会っていたのかとどこか不満げであったが、今は非常時ということでとりあえず抑えてくれている。
「見える?あれがエリドゥだよ。」
運転席の隣のエイミが指さす先には確かにそれらしき都市の影が見えてきた。
「居住区域からえらい遠方まで来たが……まさかこんなところに秘密裏に都市を形成するなんて、ずいぶんなことをするものだな。そのリオってやつは。」
「私も初めて知った時は驚いた。事前に部長がいろいろ教えてくれなかったら気づけなかったと思う。」
ヒマリはリオとの話し合いに向かう際いくつかの情報をエイミへと託していた。
今回はそれが功を奏したということだ。
「でも、どうやって入り込むの?あの会長のことだし、セキュリティはだいぶ厳しいと思うけど……。」
「……そこなんだよな。」
急いで出てきたこともあってコーストは侵入方法を詳しく考えていなかったことに出発してから気付いた。
今まで扉を吹き飛ばして敵は全員潰せばどうにかなっていたことの弊害である。
エイミもヒマリの下で動いているだけあって技術関係にはそれなりに強いが、それでもリオのセキュリティをごまかせるほどの力は持ち合わせていない。
コーストが全部壊してから考えようかなどと物騒なことを考えていると、不意にエクソスーツのAIから声がかかった。
〈提案:識別名エリドゥに対し防関システムのハッキングが可能です。実行しますか?Y/N〉
「(……提案?このスーツにそんな機能付いてたか……?)まあいい、可能なら実行だ。」
突然の提案に少し戸惑いは感じたが、それ自体は今の状況に願ったりの物だったので、コーストはその提案を了承した。
〈ハッキングを完了:識別名エリドゥの一部警報システムを一時的にシャットダウンしました。〉
どんな手を使ったのかはわからないがスーツのAIは仕事をちゃんとこなしたようだ。
「エリドゥの警報システムは一時的に無力化した。このままいくぞ。」
「え……?いったいどうやって?」
エイミは不思議そうな顔で聞く。当然と言えば当然の反応である。
「まあそれは企業秘密ってやつだ。それでヒマリの場所だが……あのタワーの地下か……少し骨が折れそうだな。」
コーストはこれベットの広域スキャンでヒマリの生体反応を探り、塔の深部に閉じ込められていることを突き止めた。
とりあえずタワーにほど近く、目立たないよう建物に囲われた地点でコルベットを着陸させ、全員でエリドゥへと降り立った。
「それでどうするの?地下まで潜り込むのはかなり大変な気がするけど……。」
「それなら心配いらない。」
そう言ってコーストが取り出したのは毎度おなじみマルチツール。
コーストは地形操作機の機能を呼び出し、適当な地面に向かって起動する。
しかし、地形操作機は床の表面をなぞるだけで何も起こさなかった。
「何も起こらないけど?」
「あれ、何で……あ。」
コーストは忘れていた。地形操作機が操作できるのはあくまで地形……人工物を弄ることはできないのである。
明らかに何かを忘れていたという反応を見せるコーストに皆から白い目が向けられる。
いたたまれないコーストはマルチツールの機能をジオロジーキャノンへと換装し、タワー地下につながる床の鋼材を吹き飛ばした。
「こ、これで問題ないだろう?」
最終的に力技を提案してきたコーストには何とも言えない目が向けられた。
「暇ですねぇ……。」
エリドゥの地下に設けられた牢屋の中、必要最低限の物はそろっているものの当然電子機器などは置いてあるはずもなく、ヒマリはただただ時間を持て余していた。
「とうとうアリスちゃんを誘拐してきてしまったようですが、大丈夫なんですかね?おそらく先生やゲーム開発部の方々が動くと思いますが……。」
ヒマリは少し前のリオとの通信内容を思い出す。
リオのやり方は確実にあの先生とは相容れない。
先生はどのような策でリオを打ち破ろうとするのか、そんなことを考えていたところ、ヒマリの耳が遠くに爆発音を拾った。
「ん?なんでしょうか……。」
ヒマリが音のしたほうに近づき耳をそばだてると、より大きな爆発音と話し声が聞こえた。
「反応があるのはこの辺だが……。」
「……その、部長の反応は正確なんだよね?間違って部長ごと吹き飛ばしたりしたらシャレにならないよ?」
「……まあ、多少は誤差が出るな。でも、アイツもキヴォトス人だし何とかなるだろ。」
不穏な会話が聞こえた。嫌な予感がしたヒマリは急いで壁から離れようとしたが、その判断は少し遅かったようだ。
ドゴオオン!!
轟音とともに牢屋の壁が土煙を出してはじけ飛ぶ。
「ヒマリ、無事か!」
「部長、平気!?……何してるの?」
「何してるも何もあなたたちのせいでしょう!?」
ヒマリはジオロジーキャノンの爆風で車いすごとひっくり返っており、床でじたばたしながら文句を言っていた。
「あ~……そりゃすまんな。とはいえ今は時間がない。ここの警報システムもいつまでも抑えておけないからな。」
コーストが車椅子を元に戻しながら答える。
「ここの警報システムを抑えたんですね……まあ、それについては何も言いません。デバイスがあればこの超天才清楚系病弱美少女にもできたことですからね。」
「にしても、ヒマリはどう連れ出すか……車いすで出るには道がガタガタしすぎているからな……。」
爆風で地上から無理やり道をこじ開けているため車いすで通れるような道はほぼない。
そんな中コーストたちが脱出の方策として考えたのが……。
「ちょ、ちょっと!ほかにやり方は、うひゃ!?」
「は~い。口は閉じておいてくださいね~、舌嚙んじゃいますよ☆」
この場で最も腕力があるであろうノノミに運んでもらうことだった。
力の強いキヴォトス人の中でも筋トレをたしなんでいるノノミはだいぶ力が強い。
運動不足で軽い人間一人と車椅子を担ぎ上げる程度は容易であった。
最も担ぎ上げている以上、衝撃は全く抑えられていないようだが。
「うひゃあああ!!」
ヒマリの悲鳴をBGMに見事コーストたちはヒマリをプリズンブレイクさせることに成功するのだった。
「――っていうのがここまでのなんとなくの経緯だ。」
「……なるほど。そっちも大変だったんだね。」
コーストは先生たちをコルベットで回収してタワーに向かうまでの間にここまでの経緯をかいつまんで話した。
先生からもここまでの経緯を聞いたが、だいぶ大変だったようだ。
「……ところで先生、ちゃんとアイツらに変なところを触らないように言ってくれたんだよな?」
「……うん。その辺はさすがにわかっていると思うんだけど……。」
先生の視線の先には本来の目的など忘れてしまったかのように目を輝かせているエンジニア部の姿。
宇宙戦艦への搭乗でテンションが振り切れてしまっている。
「到着までに何かやらかさないといいんだが……。」
「あはは……。」
先生もいまいち断言ができず、あいまいな笑みを浮かべることしかできなかった。
ウタハたちの知的好奇心が爆発するギリギリのところでタワー前に到着し、コルベットを着陸させてタワー前へと降りた。
「ここが、"要塞都市エリドゥ"の中央タワー……。」
「こ、ここにアリスちゃんが……。」
「……行こう!」
「……うん!」
モモイたちが覚悟を新たにそう叫んだとき、背後に新たな気配を感じた。
モモイが振り向くと、そこには別行動をしていたC&Cのメンバーたちがいた。
「あ、ご主人様とみんな!やっほ……って、なにこれ!」
「これはまた……船、でしょうか……?」
アスナたちは挨拶をかわそうとするが、目の前のコルベットに目をむいていた。
因みにネルはどこか琴線に刺さるものがあったのか目を輝かせていた。
「あ、先輩たちも来たんだね!」
「しかし、ネルたちがここにいるとなると……トキは?」
先生がそう聞くと、ネルはその身に怒気を纏わせる。
直前でトキを逃してしまったことが相当応えているようだ。
「クソッ!あとちょっとだったってのに!」
「あはは……逃げられてしまったんですよね。」
アカネからトキとの戦いの一部始終を聞いた。
「そうか……そっちも大変だったみたいだね。」
「そうですね……ところで、その……そちらの方々は?」
アカネがコーストとアビドスの面々のほうを見て言う。
「ああ、そう言えば紹介してなかったね。この人がコースト。突入前に私が協力を頼んだ、私の友人だよ。そしてこっちの皆はアビドス高校の皆だね。コーストもアビドス高校にいる人で、一緒に助けに来てくれたんだ。」
「コーストだ。先生の要請で協力している。よろしくな。」
「よろしくね~。」
「そうでしたか。こちらこそよろしくお願いします。」
コーストとホシノが軽く会釈を返した。
アカネも先生が直々に呼んだ応援ということで納得したようだ。
「チヒロ、アリスはこのタワーにいるんだね?」
『……会長はアリスのヘイローを破壊するって言ってたんだよね?だとすると、それ相応の設備が必要になるんじゃないかな?そして、構造を見る限りだと、此処エリドゥはすべての電力がこの中央タワーに集中するような造りになってる……これだけの規模の施設が会長によって作られた理由、それに会長の動機……答えは明白だろうね。』
チヒロは通信機越しにそう答えた。
「じゃあ、本当にここにアリスが……。」
「つまり、あとはこのバカでかいタワーを上って、あのチビを回収してくれば、万事解決って事だろ?」
『簡潔に言えばそうね。まあ、残念だけど――』
中央タワーの門が開き、中から一つの人影が出てくる。
『あの会長が、門番を用意しないわけないよね。』
「――お待ちしておりました。先輩方、先生。」
予想は出来てはいたが、中央タワーの門番として配置されたのはトキであった。
「やっぱり、門番になるのはトキなんだね……。」
「んだよ、さっきはしっぽ撒いて逃げ出したくせに、どの面下げてあたしたちの前に出てきたんだ?」
『作戦を変更したのが、貴方たちだけだと思って?』
ネルのつぶやきに、リオが答えた。
「……リオ。」
『……あなたたちがやってくることを見越して、いくつも準備をしてきたけど……さすがにこの結果は予想外だわ。まさか警備システムをすべて破壊してくるなんて。しかも、ヒマリの牢はあそこまで破壊されていたのに警報が全く作動しなかったし、ログすらも残ってなかった。まさか、ヒマリに並ぶハッカーがそちらにもいたとは、驚きね。』
リオはコーストのほうに目を向けてそう言う。
下手人が誰であるかはばれてしまっているようだ。
『貴方も私の計算を狂わせた大きな要因……けれど、常に変数として働き、私の計算を破綻させたのは……先生、あなたの存在かしら。』
「あなたの見通しが甘かっただけでは?」
ヒマリが茶々を挟む。
『……コホン、いいのよ先生あなたが規格外の力を見せるのであれば、こちらも相応の切り札を切るだけ。』
ヒマリのことはとりあえず無視することにしたようだ。
「……リオ!」
『トキ、現時刻をもって"
トキがその言葉にわずかに目を見開いた。
「リオ様……それは、」
『ええ、本来は"名もなき神々の王女"との戦闘用だけど……仕方ないわ。ここでこの子たちを阻止できなければ、文字通り全て無に帰してしまうもの。』
「……イエス、マム。パワードスーツシステム"アビ・エシュフ"へ移行します。」
トキがそう宣言すると空から何かが飛来する音が聞こえる。
「呼び出し番号確認。」
〈警告:飛翔物体が接近中//着弾まで5.5秒〉
「っ!上から何か来るぞ!警戒しろ!」
コーストがそう叫んだ数秒後、コーストたちの目の前に巨大な金属性の箱のような物が落ちる。
真ん中にはちょうど人一人が入れそうな空間があった。
トキは手慣れたようにその中に入り込み、何かをその身にまとっていく。
トキの身に纏った機械は戦闘用のスーツのような物へと変貌し、機械的な音声を放つ。
そして中央タワーからはリオが放った大量のAMASが現れた。
「みんな、来るよ!」
先生はシッテムの箱を構え、生徒たちは各々の銃を構える。
そしてここに、調月リオの傑作、アビ・エシュフを纏うトキと、ミレニアム・アビドス連合軍との戦いが始まった。
subnauticaです
お盆も終わりですか……早いですね。
最近時間がたつのがあっという間に感じます。
さて、ついにアビ・エシュフ戦まで来ましたね。
ミレニアム編も最終盤といったところでしょうか。
この辺書くのが正直一番楽しいです。
次回は引き続きアビ・エシュフ戦です。
では、また次回お会いしましょう。
ブルーアーカイブをやったことが
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