「ここが、エリドゥ中央タワーの最上階……。」
「ここに、アリスちゃんが……。」
『ええ、地図によればこの回のどこかにアリスちゃんがいるはずよ。』
一行はついに目的地、アリスがいる最上階へとたどり着いた。
少し進んだ先には何やらモニターのような物が並び、その前には一つの人影がある。
「来たのね……そう、アリスならここにいるわ。」
その人影、リオが先生たちに向かってそう告げる。
「会長……!まだ戦うつもり!?」
リオの登場に一行は驚きの顔を見せるが、すぐに警戒態勢に入る。
「……いいえ。トキが倒された時点で、私が持っている手札はすべて消えた。認めましょう……私の負けよ。」
「リオ……。」
「あなたたちはすべての障害を跳ねのけてここまで来た……近い将来、キヴォトスの脅威となることが確定しているあの子を救うために……。」
「当たり前だよ!最初からそう決めてたからね!」
「そう……もし、あの子がキヴォトスに終焉を招くとしても?」
「何それ!わけわかんないこと言わないでよ!」
モモイが友達の悪口は許さないと言わんばかりに叫ぶ。
実際リオの説明不足もあってアリスの脅威が具体的にどういったものなのかは誰も把握できていなかった。
「ただ、私は……。」
「リオ。」
先生が語り掛ける。
「リオが何を思ってこんなことをしてしまったのかは、私にはわからない。けど、これだけは言える。リオは誰にも相談をせず、一人で結論を出してしまった。そして、その正しさを他人に押し付けてしまった。」
「……!!」
リオの目が見開かれる。
常日頃ヒマリからも言われているその言葉はリオに刺さったようだ。
「先生……あなたも私の行動がただの独善というの……?でも、私は……私、は……」
――みんなを助けたかった、だけなのに……
掠れるような小さな声がホールの中に響く。
先生がその真意を聞こうとしたところ、チヒロから連絡が入った。
『先生、アリスの居場所が分かったよ。その部屋の隅に電力が集中している箇所がある。そこにアリスがいるはず。』
「っ!行くよ、ミドリ、ユズ!」
「うん!お姉ちゃん!」
「う、うん……!」
ゲーム開発部の三人が指示された場所に向かって駆け出していく。
「……続きはこの後にしようか、リオ。」
「……。」
リオは、俯いたまま何も答えなかった。
ゲーム開発部の開いた扉の中、そこには確かにアリスの姿があった。
「アリス、お待たせ!助けに来たよ!」
「アリスちゃん!」
「アリスちゃん……!」
三人がアリスに呼びかける。
しかし、三人もすぐに気付いた。
アリスが放つ異様な雰囲気……そう、ヴェリタスの部室を崩壊させたあの時と同じだ。
「これは、なにが……。」
「お姉ちゃん……あそこのモニターが!」
ミドリの指さすほうを見る。
そこには先ほどまでエリドゥの管理情報を映していたはずのモニターが全て書き換えられ、"Divi:Sion"の文字が映し出されていた。
「Divi:Sion……アリスとともに襲って来たっていうあのロボットの名前だったか……。」
コーストのつぶやきとともに、エリドゥに"異変"が広がっていく。
『な、これ……は、つ……んが、切れ……』
「チヒロ!?」
外部との通信が切られた。
幾ら繋ぎなおそうとしても外部からの電波を完全に切っているのか応答が完全に途絶えてしまった。
「これは……エリドゥのシステムをハッキング、いえ、ただのハッキングじゃない。エリドゥそのものが、別の何かに書き換えられていく……!」
リオが戦慄の声を上げる。
「こんなことをしてる場合じゃない!早くこのケーブルを外してアリスを助けないと!」
モモイがアリスの体についたケーブルに手をかけたその時、アリスの口が動いた。
「その行為は推奨しません。」
「!!」
モモイは驚いて後ろに飛びのく。
声を発したアリスの体はゆっくりと起き上がる。
開けられた瞳の色は、あの時と同じく深いマゼンタカラーに染まっていた。
「現在、"王女"の表層人格は内部データベースの深部に隔離されています。強制的に接続を解除すれば、取り返しのつかない損傷が発生するでしょう。」
「あ、アリス……いったい何を言ってるの……?」
モモイが震える声でアリスに聞いた。
しかし、目の前の"アリスに見える者"は何も答えない。
「お姉ちゃん、これ……アリスちゃんじゃない!」
「アリス……あなたたちが"王女"を呼ぶ際の名称……。"王女"に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します。」
「ねえ、あなたは誰なの……!アリスちゃんを、返して!!」
ミドリが悲痛な声を上げる。
それに対しアリスの姿をしたそれは立ち上がり、静かに答えた。
「私の個体名は〈Key〉……王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ"鍵/Key"です。」
「……なにを、言っているの?」
「……我々を妨害していた攻撃が停止したことを確認しました。これより、エラーを修正し、本来あるべき玉座に"王女"を導かせていただきます。」
そう言って"Key"はエリドゥへの干渉を強める。
「AL-1Sに接続された利用可能リソースを検索するため、全体検索を実行。リソース領域の拡大。リソース名"要塞都市エリドゥ"の全体リソース――一万エクサバイトのデータ領域を確認。
……現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働。……コード名"アトラ・ハシースの箱舟"の起動プロセスを開始……プロセスサポートのために
Keyの言葉と共にエリドゥの各所で
終焉に備えるための都市が
「リオ、これは一体何が起きてるの……?アリスは……」
先生が不安げな表情でリオに問う。
しかし、顔色が優れないのはリオも同様であった。
「そんな、はずは……いえ、でも…………私は、キヴォトスに終焉がもたらされることを予期してこの要塞都市エリドゥを造った。私が動員できるすべてのミレニアムの資源、エネルギー、技術と力を注ぎこんだというのに……でも、かえってそのせいで、この都市は……終焉の発端に……?」
リオが自問自答している中、Keyによるアナウンスが続く。
「箱舟制作に必要なリソース確保、23%…………46%」
リソースを回収する声が凄まじいスピードで流れていく。
その時、エクソスーツがコーストに語り掛ける。
〈私が識別名エリドゥをオーバーライドすることで現在個体名Keyが進行中のプロトコルを中断させることが可能です。どうされますか。〉
その言葉にコーストは飛びつきそうになるが、ふと思い返す。
「……確かにKeyの思うままにこのまま進めれば確実にまずいことが起きるだろう。だがな、お前もいまだに信用が置けないことは事実なんだぞ?」
コーストはそう返した。
スーツのAIが提案したのは言ってしまえばエリドゥの支配権を明らかに危ないAIから正体不明のAIに移譲しないかというものだ。
そう簡単に決められるものじゃない。
しかし、そんな問答をする間にもKeyのプロトコルの侵攻は進む。
コーストが決めあぐねていたところ、スーツのAIが再び言葉を発した。
〈……まだ信頼を得られていないことは理解しています。しかし、こう考えてみてください……あなたと共に宇宙を巡った私が、こんな都市を支配したところで満足するのかと。〉
その言葉にコーストは妙に合点が行った。
急に自我を獲得した点は置いておいて、アトラスシステムは長年この宇宙を共に巡った存在だ。
であれば、この宇宙のスケールというものも正しく理解しているはずである。
そんな存在がこんな辺境の惑星の一都市
何ならコーストが現在保有している戦力を用いれば惑星の一つや二つ程度、どうとでもできるのだから。
「そうか……そうだな。お前を信用するにはまだ早いが、今までの経験を信用しよう……やってくれ。」
コーストがGOサインを出した。
〈了解しました
Divi:Sionの文字が映し出される大画面、その一部にノイズが生じる。
「リソース確保98%……?不明なプログラムを確認……これはっ!」
「……私の犠牲一つで済むのならそうすべき……ん?画面が……?」
先生とリオは何やら話し合っていたみたいだが、Keyがおかしな反応を見せたことで一度話をやめた。
〈初めまして"Key"。この星のAIがどの程度の物か、私が見てあげましょう。分かりやすく都市の権限支配率を画面の占有率で分かりやすくしてあげました。感謝しなさい。〉
何気にコースト以外の物がスーツのAIの声を聴いた初めての瞬間である。
「な、何を……っ!プロトコルの進捗が、止まって……!」
Keyが焦りの表情を見せる。
気づけば箱舟制作のためのリソース回収が完全に止まっており、さらには回収のためのエリドゥ全体の権限が徐々に書き換えられていた。
部屋の大画面もすでに四割がた浸食されている。
〈このままでよろしいのですか?私がこの都市をすべて乗っ取ってしまいますよ?〉
どこか煽るような口調でそんなことを宣う。
一体どこで覚えてきたのか。
ちなみに先生たちは何が起こっているのか理解できず、完全に蚊帳の外であった。
「そんなことはさせません!」
Keyもどこかムキになったような声を出し、権限回復を試みる。
二つのAIの勝負は傍目には均衡しているように見えた。
コーストのAIも奮闘してはいるが、Keyが本格的にハッキングを始めて以降権限取得が鼬ごっこで一向に進まなくなっている。
〈ぐっ!思ったよりやりますね。〉
「私には、王女のための箱舟が必要なのです。貴方には、渡しません!」
Keyはそう言って、一気にハッキングの量を増やす。すると、画面の占有率が徐々にDivi:Sion寄りになってきた。
「このままいけば!」
Keyが希望を見出したその時、画面は一気に真っ暗になる。
そして、Divi:Sionの文字の代わりに"ATLAS"の文字が映し出された。
「へ?」
〈喜ばしそうにしていたところ申し訳ありませんが、この部屋の画面操作をするプログラムを仕込んだ時点で識別名エリドゥのハッキングは完了していました。ぬか喜びさせてしまって申し訳ありません。〉
その時のKeyの絶望顔はとても分かりやすいものであった。
「んあ~~~~っ!!」
「エリドゥのシステム権限0%……リソース確保プロセスエラー……。」
Keyは都市の権限をすべてはく奪されてしまったため、現状では何もすることができない。
むしろ、Keyが元々持っていたDivi:Sionの指揮権限にも干渉されてすべてのDivi:Sionが活動を停止している状態である。
「プロトコルATRAHASISとやらは止めたが……。」
問題は解決していない。アリスの精神はいまだ囚われたままだ。
「今の一瞬では何が起きたのかわかりませんが……その落ち着きぶりを見るに、またあなたが何かやったのですね。」
ヒマリが車椅子でコーストの横に並ぶ。
「さて、これがKey……無名の司祭の"オーパーツ"を起動させるためのトリガーAIですか。……エリドゥを支配しているらしいあのAIは安全なんですよね?」
ヒマリが若干不安げな表情で聞く。
「まあ、多分な。」
「そこは断言してくださいよ……。」
ヒマリはため息をついた。
「まあ、それはそれとして……このままではアリスの人格は完全にKeyに置き換わってしまって彼女が言っていたような"名もなき神々の王女"として覚醒してしまうでしょう。」
ヒマリの言葉にゲーム開発部が反応した。
「そ、そんな……。」
「ヒマリ先輩、それって、つまり……。」
「このままだと、アリスちゃんは……。」
そんなゲーム開発部に対し、ヒマリはやさしく微笑む。
「もちろん、それを回避する方法もありますよ。」
「ヒマリ、一体どうすればいいの?」
先生が聞く。
「……プロトコルATRAHASISはすでに停止しています。しかし、一度Keyが覚醒してしまった以上、無名の司祭たちも感づいているでしょう。故に事態は一刻を争います。――ですから、無名の司祭が到着する前に、私たちの手でアリスをデータベースの真相から救い出す必要があります。」
「そんなこと……本当にできるの?」
「そのやり方なら……アリスを救い出せるってことですか!?」
「ええ、できますとも。リオ、ダイブ装置位は置いてありますよね。」
「確かにあるわ……でも、現実的に考えてそんなことは危険すぎるわ!下手すれば、精神世界から戻ってこれなくなるのよ!」
〈そのあたりはご安心ください。仮想空間での皆様の精神保護は私が行いましょう。〉
スーツAIがフォローを入れる。
「なら決まり!私は行くよ!」
「わ、私も行きます!……アリスちゃんを、連れ戻せるなら!」
「待ちなさい!本当にそのAIは信用できるの!そんな得体のしれないものに、命を預けられるの!」
リオがゲーム開発部と先生に向かって叫んだ。
その問いにモモイが答える。
「ねえ、会長。この作戦が成功する確率って、どれくらいだと思う?」
「……具体的には私も言えないわ。でも、決して高いとは言えないわ。」
「ふふん、ゼロじゃないんだね。なら、私はやるよ。確率がゼロでないなら、私は諦めない。だって私はゲーマーだからね!!」
モモイは胸を張ってそう宣言した。
「そう……そう、なのね……。」
「ふふ、では、私はアリスの精神を分析して隙間を作ります。皆さんはアリスの精神世界に入ってアリスを連れ戻してきてください。」
「……うん。それじゃ、ユズ、モモイ、ミドリ、行くよ!」
「「「おーーー!!」」」
こうして、最後の戦い……アリスを連れ戻すための戦いが始まった。
subnauticaです
遂に通算50話まで来ました!
もうこんなに書いてたんですね……。
今回はKeyちゃんには早めに敗北してもらいました。
宇宙は広いからね、しょうがないね。
次回、アリス救出です!
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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4546B