――ティーパーティー セーフハウス
コーストと先生との話し合いの後、ナギサは自室にこもって一人考え込んでいた。
「ふう……一応話の通じそうな方で助かりました。」
実のところナギサは今回の会談にだいぶ気を揉んでいた。
というのもナギサ自身がかなり神経質な性格で、エデン条約で精神を張り詰めているところに現れたコーストという規格外の戦力を持った変数が現れたことで表情には出さなかったもののだいぶ精神的に参っていた。
簡単に言えば、ナギサはコーストの持つ艦隊の力に恐怖を覚えていたのである。
「(……彼はアビドスの方なのでエデン条約に直接絡んでくる可能性は低いでしょうが、それでもあの先生にかなり近い位置にいる存在……先生を補習授業部につけると決めた時点で無視できない存在でしょう。であれば、最初からある程度コントロールできる立ち位置につけるのが良いはず……先の一件での貸しも考えると断られる確率もそう高くないでしょう……)」
ティーカップを手に取りながらナギサは考えを巡らす。
「(ヒフミさんと、共に行かせた皆さんの報告が正しいのであれば単純な戦力で考えればアビドスは巨大校にも劣らないものを持っていることになります……私たちは航空戦力には乏しいですからね)」
キヴォトスは地上戦が主流であり、ヘリなどはあるものの戦闘機などの航空戦力は少ない傾向にある。
それは言い換えれば対空防御が脆弱とも言える状態。
多くの学園にとって宇宙船の相手は相性が悪いのである。
まあ、例えキヴォトスに航空戦の文化が根付いていたとしても天外の技術の前では相手にもならないだろうが。
「アビドスとは良き隣人として関係を気づいていけるようにしなくては……幸い、その糸はヒフミさんが繋いでくれました。後は、私がその糸をより太くしていくとしましょう」
ティーカップから紅茶を一口飲み、ナギサはそう一人呟いた。
――アビドス高校
「……というわけなんだが、この提案どう思う?」
トリニティから戻ってきたコーストはナギサから受けた提案を対策委員会の皆に話していた。
話を聞いた皆はどことなく難しい顔をしている。
「あのトリニティが……コーストさんに警備依頼?コーストさんが強いのは分かるけど……自分たちでどうにかできるもんじゃないの?」
「そうですね……しかもエデン条約はゲヘナとトリニティが関わるかなりデリケートな条約のはずです。まさか外部の人間を入れるなんて……」
「ん、なんか怪しくない?」
「そうですね。何か狙いがあるのでしょうか?」
やはり怪しい提案に感じるというのは全員一緒の様だ。
「ナギサ……ティーパーティーのホストのアイツは不測の事態に備えるためと言っていたが……まあ、怪しいのはそうだな。ホシノはどうだ?」
コーストは横にいるホシノに意見を求める。
「ん~……おじさんはコーストさんにもあまり危ないことはしてほしくないんだけどね~……でも、わざわざおじさんに話を持ってきたってことは、コーストさん自身は受けてもいいって考えてるんじゃないかな?」
「ん?そうなの?」
シロコがコーストに顔を向ける。
「……確かに個人的には受けてもいいと思ってるが、なぜわかったんだ?」
「うへ~、だってほんとにただ怪しいだけの依頼ならその場で断ってるだろうしね。たぶんそう言う契約ごとの経験はコーストさんのほうが圧倒的に上だろうし、何か私たちにも害が及ぶ可能性のあることだったらおじさんたちに言う前に提案された時点で断ると思ったからさ。」
「……まあ、その通りだな。何か別の意図があるように感じるのは確かだが、仮に向こうが俺を襲ってきたとしても対処は容易だし、何よりこの程度の依頼でアイツらから受けた借りをいくらか返せると思ったら安いものだ。これからこの学校を復興させていくとしたら、ああいった大きな学校とのかかわりも大事になってくるだろうしな。」
「なるほどね……」
ホシノはそう言って少し考えむ。
「コーストさんが大丈夫って判断したなら、これ以上はおじさんからは何も言わないよ。でも、あんまり危ないことはしないでね」
「警備という仕事をやる以上絶対とは言えないが……善処しよう。すまないな、心配をかけて」
コーストは皆に対して申し訳なさそうな顔を向ける。
「何言ってるのよ、コーストさんが私たちのために頑張ってくれてるのは良く分かってるし……むしろ私たちのほうが何も返せてなくて申し訳ないっていうか……」
「ははは、そういう風に思ってもらえるだけでうれしいよ。……とりあえず、やると決めたからにはいくらか準備をしておこう。ゲヘナとの話し合いも必要になるだろうからな。俺は家のほうに戻ってる。何かあれば連絡してくれ」
コーストはそう言って部室から出て行った。
「……なんというか、私たちずっとコーストさんに頼り切りな感じがするわね」
「そうですね……そして、貰ったものを何も返せていません」
「ん、それは私も思う。」
「あ、そうだ!コーストさんに、日ごろの感謝を込めて何かプレゼントを贈るというのはどうですか?」
「うへ、プレゼント?」
ノノミが元気よくそんな提案をする。
「ええ、今度のそのトリニティでのお仕事が終わった時にコーストさんに渡すんです!どうでしょうか?」
「いいじゃない!」
「ん、私も賛成」
「コーストさんには日ごろとてもお世話になってるので、とてもいいと思います!」
ノノミたちが盛り上がる中、ホシノが手を上げる。
「ちょっといいかな、ノノミちゃんたち?」
「どうしました、ホシノ先輩?」
「プレゼントっていうアイデア自体は良いと思うんだけど、コーストさんが欲しがってるものって誰か知ってるの?」
その声に、対策委員会の動きが止まる。
「よくよく考えたら、私たちがいろいろ貰うばかりでコーストさんが何か物を欲しがってるのって見たことない気がする……」
「というより、多分ほしいと思うものを既にほとんど持っているんですよね……」
「……ん、この前"浮島のある惑星はロマンがあっていい"みたいなことを言ってた」
「さすがに惑星のプレゼントは無理がありますね……」
「ん~……何がいいんだろうねぇ」
対策委員会は小一時間頭をひねって考え続けたが、あまりいい案は出てこなかった。
数日後、正義実現委員会及びゲヘナ風紀委員会との話し合いの場にて……
二つの学校の武装勢力が対面するその部屋の空気はまさに地獄といった様相だった。
説明のためにナギサも来ているのだが、だいぶ顔を青くしている。
「えー……こちらがこの度エデン条約会場の保護の外部委託をしようと考えているコーストさんなのですが……」
「……あなた、確かアビドスにいたはずよね。こんな所で何してるの?」
ナギサの話を遮りヒナがコーストに質問を投げかける。
心なしか目も吊り上がってるようにも見えた。
「……一応さっきも言っていた通りエデン条約の締結会場の警備として雇われることになった。公平性を期すために両学園による契約を行うっていうのが今日の趣旨になるな」
「そう……トリニティ、なぜ二校の条約締結の場に他校の勢力を入れるのかしら?」
ヒナの質問にナギサが答える。
「今回、私たちは彼をアビドスの人間ではなく傭兵として契約するつもりでいます。不測の事態を最大限避けるため、何が起きても事態を鎮圧できるだけの力を持つ彼に依頼をしました。実力に関しては委員長自身もご存じでしょう?」
「……ええ、そうね。実力が信頼できるものであること、それに彼の人間性に関しても保証はできるわ。でも、両校の勢力の他に第三者を入れるほうが危険ではないの?」
ヒナが最もな意見を吐くが、そこに余計な口を挟んだものがいた。
「キキキッ、良いではないか。私はその者を警備に入れても構わん!」
ヒナについてきた万魔殿議長の羽沼マコトである。
ちなみに今日はほかの議員はついてきてないので彼女を止める役がいない。
「……そう簡単にものを決めないでほしいのだけど」
「偶には寛容さを見せるというのも大事なものだぞ、ヒナ委員長?なにせ、我々は偉大なるゲヘナなのだからな!」
キキキキッ!!と高笑いするマコト。
ヒナはもう口を出す気も失せた。
「……あ~、要するにゲヘナ側も賛成ということでいいか?」
「……ええ、どちらにせよ最終的な決定権を持つのは向こうだもの。それに、どこの誰とも知れない傭兵ならともかく、貴方ならまだ信頼が置けるわ。……信頼、していいのよね?」
ヒナの圧倒的なオーラを纏った目がコーストに突き刺さる。
「ああ、そこは安心してもらっていい。トリニティにしろ、ゲヘナにしろ、恨みを買うのはごめんだからな。」
そんな二人の会話を尻目に、ナギサとマコトが契約書にサインを行う。
そしてコーストも差し出された紙に自らの名前を署名した。
「はいありが……あのすみませんコーストさん、これは一体なんて書いてあるのでしょうか……?」
「うん?何って自分の名前を……ああ、すまない。間違えて象形文字で書いてしまったようだ……これで問題ないか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
象形文字の下にキヴォトスの文字で修正を加え、コーストとゲヘナ・トリニティ両校の間で警備契約が成立した。
この決定が吉と出るか凶と出るかは……この時点ではまだわからない。
――アリウス自治区 某所
「……ええ、そうですか。計画は滞りなく進んでいると。良いでしょう。そのまま続けなさい」
ガスマスクをかぶった生徒から報告を受けた彼女はそう指示を出す。
その何者かは赤い体に白いドレスのような物を纏い、その頭には大量の目のような物がついていた。
「ふふ、計画の完遂は目前。あの神秘が私の物になる日も近いです。黒服たちはあの天外の存在を過剰に恐れているようですが、それも"これ"の力があれば問題ありません」
彼女はそう言って目の前に置かれたものをそっと手に取る。
「あなた方は惑星を守るために作られたようですが……これからは私を守るために働きなさい、
その手に握られた残骸から、鈍いガラスの光が漏れた。
subnauticaです
これはこれからの話のクッションみたいな話になるんですかね
割と難産になりそうな予感がするのでこれからの更新はちょっと遅れるかもしれません
次回は先生視点の話を少し挟むか、アビドス側の話を書くかのどっちかになりますかね。
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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