「ティーパーティーの一人……聖園ミカさん……」
ハナコが信じられないといった様子でつぶやく。
何せ目の前に立つ今回のクーデターの主犯と思しき存在はトリニティの最高権力者の一角だ。
まさかトリニティを裏切っているなど考えようはずもない。
「さて、簡単に自己紹介もしたところで……コーストさん、何であなたがここにいるのかな?正義実現委員会と一緒に待機しておいてほしいって言っておいたはずなんだけど?」
ミカがコーストに不思議そうな表情で聞く。
『……何か勘違いしているようだから言っておくが、エデン条約の警備の契約はあくまで当日にのみ適用される。今は事前の打ち合わせのために何度か顔を出しているが、今お前は別に俺の雇い主でも上司でもないということだ。お前の指示に従う必要性はどこにもない』
「あれ?そうだっけ。そう言えば契約書はナギちゃんが持ってたからあまりはあんまり目を通してなかったんだよね~、失敗、失敗☆……でも、どちらにせよここで全員制圧してしまえば問題ないかな?ねえ、あなた達、一度だけ聞いてあげる……ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる?私も時間がなくってさ」
ミカはアリウスの兵の目の前で飄々とした様子でそう言った。
「ミカ……どうしてこんなことを……」
先生は悲痛な顔を見せる。
「なんで……簡単なことだよ、先生。私はね、心の底からゲヘナが嫌いなんだ」
「だから、エデン条約を取り消すためにナギサさんを害そうとしたのですか……!」
ハナコが厳しい声でミカを問い詰める。
「えっと、誰だっけ?私、人の顔覚えるのあまり得意じゃなくて……ああ、思い出した。浦和ハナコじゃん。礼拝堂の授業に水着で参加して追い出された……あははっ、なつかしいねぇ」
「……」
「まあ、一応答えるとその通りかな。だって、エデン条約なんて……そんなの上手くいくわけないじゃん。あんな角の生えた奴らとの平和条約なんて……絶対後ろから刺しに来るって。そんなこと、させるわけにはいかない。」
ミカの顔にはゲヘナに対する蔑みの表情が浮かんでいる。
トリニティとゲヘナの確執は思っていた以上にずっと根深いようだ。
「まあ、そう言うわけだから大人しくナギちゃんを渡してくれないかな?別に、渡さないならそれはそれであなたたちを蹴散らしてからゆっくり探してもいいんだけど……」
『……随分と自分の力に自信を持っているようだな?』
「あはは!当たり前じゃん!それとも何?もしかして貴方、後ろの四人とそのロボットで勝てるつもりでいるの?……いや、待って。そのロボット、何かおかしい……」
ミカの目には確かにロボットが映っている。しかし、その機体からはなぜかヘイローの気配を感じた。
「ただの機械にヘイロー……どういうこと?」
ミカの声に先生がミノタウロスの頭上を見上げると、そこには確かにヘイローが見えた。
四つの三角形が組み合わさったアトラスの
「でも、テラモンはコーストのバックパックのほうにいたはず……どうして?」
『何言ってるんだ先生、テラモンはAIだ。相応の演算領域があればその情報を移動できる……keyだってそうだったろう?』
G.Bibleに偽装していたkeyもゲームのカセットからアリスに存在を移転させた。
テラモンがやったのはそれと似たようなものである。
「良く分からないけど、それがあなたの切り札ってやつ?」
『そうたいしたものじゃない。できることが増えるだけだ……こんな風にな』
〈Mysteryをリチャージしました//神秘混合火炎放射器、起動〉
テラモンのアナウンスにいやな予感を感じたミカはとっさにその場を退避した。
しかし、動けなかったアリウス兵はその攻撃をもろに受けてしまう。
ゴアアアアアアアア!!
「うあ、アアアア!!」
「熱い、熱い……!!」
ミノタウロスの右腕から吹き出す炎は眼前の敵を容赦なく焼いていく。
神秘の入り混じった炎を受けたアリウス兵はただ燃やされただけとは思えないような反応を見せた。
「あ、あなたいったい何をしたの!」
アリウス兵たちのヘイローに守られているとは思えない尋常ではない反応に、ミカが初めて恐怖の色を見せる。
『神秘を火炎放射に混ぜただけだ。最近分かったことだが、他人の神秘同士は反発しあう。銃弾に神秘を乗せるとダメージが増えるのも似たような理由だな。安心しろ、しばらく痛みは引かないだろうが、死ぬことはない』
「……あなたは、急いで潰さないとだめみたいだね!」
ミカが地面を踏み込み、凄まじい速度でミノタウロスに肉薄する。
コーストはミノタウロスの腕に神秘を集中させてその拳を受け止めるも、その威力は想像以上であった。
『ぐっ……素手でこの威力か、ホシノと並ぶか、それ以上の強さか……?先生、補習授業部、お前たちはアリウスの奴らを頼む!俺はこいつを止める!』
「分かったよ、コースト!……皆、行くよ!」
「はい!」
「ええ♡」
「了解した」
「ええ、行くわよ!」
先生たちがアリウスとの戦闘に入っていくのを脇目に、コーストもミノタウロスで猛攻を仕掛ける。
生半可な攻撃が通じる相手ではないのは先の攻撃で理解した、手を抜ける相手ではない。
『テラモン、マインレーザーも使え。ダメージが通るかは分からないが、牽制にはなるだろう』
〈了解しました〉
ミノタウロスが肩についたマインレーザーを起動する。
ホシノにマルチツールのマインビームを使ったときは痒いとしか言われなかったが、気を散らす要因にはなるだろう。
「うわ!何その光……鬱陶しいんだけど!」
ミカはそう言って己の銃を乱射する。
素手の殴打の威力も凄まじいものだったが、銃撃の威力もかなりのものだ。
長時間受けていられるものではない。
コーストは肉薄するためにミノタウロスのジェットパックに神秘を集中させ、一時的な超加速を得る。
そしてそのまま右肩でミカに向かって思いっきりタックルをかました。
『質量攻撃だ!』
「カハッ……!?」
ジェットパックで加速を受けた金属の塊の衝突はさすがに堪えたようで、吹き飛ばされたミカはうめき声を上げる。
コーストは畳みかけるように上から拳を叩きつけようとしたが、ミカもやられっぱなしではなく、とっさに反転して着地したミノタウロスに銃のストックを打ち付けてきた。
〈装甲の損傷を確認//外殻の強度74%〉
『チッ!化け物じみた身体能力だ……』
コーストは距離を取って火炎放射器とミノタウロスキャノンで牽制を測るも、ミカは体育館の床を強く蹴り上げて天井近くまで飛び上がり、屋根を踏み台に加速した拳をぶつけてきた。
ドゴオオン!!
少女の拳と金属の装甲がぶつかったとは思えない凄まじい音と共にミノタウロスが後部に吹き飛ばされる。
戦闘継続には問題ないものの、ミノタウロスの前腕には大きな凹みができていた。
ミカは再び拳を固めてこちらに駆け寄ってくる。
コーストも前腕を神秘で強化し、その拳をつかんで受け止め、さながら鍔迫り合いの様相となった。
「あはは!認めるよ……コーストさん、あなたは確かに強い。でもね、私にも切り札があるの。特別に見せてあげる……」
拳を振り払って距離を取った彼女は祈りをささげるような動作を取る。
「貴方たちのために……祈るね☆」
ミカの言葉にコーストはとてつもなく嫌な予感を感じ取った。
そして、テラモンの警告でそれは現実のものとなる。
〈警告:小惑星が接近中//衝突まで10.5秒〉
『はあっ!?小惑星!?』
コーストが上を見上げれば、先ほどミカが足場にしたことで崩れた体育館の屋根の穴から光がのぞいている。
そして、その光は見る見るうちに近づいてきているようだ。
『おいテラモン!あれは一体どういうことだ!?』
〈私にもわかりません、あの少女が原因なのでしょうが……いうなれば"奇跡"というものでしょうか?〉
『曖昧が過ぎる説明だな……』
ちなみにこの会話は先生たちの方にも聞こえており……
「あはは……隕石はさすがにアロナでも耐えられないかな?」
『何のんきなこと言ってるんですか先生!は、早く逃げないと……』
「い、隕石!?今、隕石って言いました!?」
「あら、これは……もしかするとかなり危ないかもしれませんね♡」
「やはり、すべては虚しいものだったか……」
「ちょ、アズサ!何諦めてるのよ!」
またアリウスも、
「お、おい聖園ミカ、まさか我々まで巻き込むつもりか!?」
「ばにたす……ばにたす……」
両者だいぶ絶望の深い表情となっていた。
しかしそんな中、コーストは逆に冷静になっていた。
地上にいるから深刻に捉えていたが、よくよく考えれば小惑星そのものは別に大した障害ではない。
『テラモン、コルベットを呼んでフェーズビームで撃墜しろ』
〈了解しました〉
コーストの言葉と共に夜空にコルベットが出現する。
そのまま船首を隕石のほうへと向けてフェーズビームを照射し、粉砕して素材として回収した。
『……一瞬焦ったが、なんてことはなかったな』
「……わーお、まさか落ちる前に破壊しちゃうなんて、これは予想外。なら、やっぱりここは物理で……」
バンッ!
ミカが言い終わる前にどこからかミカの体にエネルギー弾が飛ぶ……マルチツールのアタッチメントの一つ、麻痺迫撃砲である。
体がマヒしたミカはそのまま倒れこみ、そのままミノタウロスに拘束される。
さすがにミノタウロスの体重を押さえつけられた状態から跳ねのけるほどの力はなく、ミカはそのまま動きを封じられた。
「あぐっ!?い、いきなり体が……いったいなんで……」
「それは俺の武装のせいだな」
物陰から現れたのは……ミノタウロスに搭乗しているはずのコーストであった。
「え……コーストさんが、二人……?」
「そんなわけがないだろう。ミノタウロスは遠隔操縦……というよりテラモンの自動操作だ。俺は搭乗してない」
コーストはミノタウロスの前部ハッチを開く。そこには誰もいない空の操縦席があった。
「お前が気を抜いたタイミングで別行動をしていた俺がお前を麻痺させて拘束したってわけだ。古典的な手ではあるが……割と上手くはまったな」
横目で聞いていた先生の頭には某鋼鉄男のシルエットが浮かんでいた。
「……へえ、まんまとしてやられちゃったわけだ。でも、どうするの?私を拘束してる間、そのロボットは使えないでしょ?アリウスの増援はまだまだいる、貴方たちだけじゃ、いずれにしても、時間の問題だよ?」
「ふん、それこそさっきのコルベットで一掃してやってもいいんだが……その必要もない、もう、奴らが来る頃だろうからな」
「奴ら?……いったい誰の事――」
ドガアアアアアン!!
その時、体育館の扉が爆発によってこじ開けられた。
「けほっ、今日も平和と安寧が、皆さんとともにありますように……けほっ」
「すみません、お邪魔します……」
平和と安寧とは程遠い場所に現れたのはシスターフッド所属のマリーとヒナタ、そして――
「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます。っと、この状況は……」
シスターフッドを取りまとめる者、歌住サクラコである。
また、その後ろには多くのシスターも続いている。
シスター衣装が若干煤けているところを見るにここに来るまでの間に戦闘を……アリウスの増援を排除してきたということだろう。
ただ、シスターフッドの前にコーストが介入したことで場の状況はサクラコの予想とは違ったものとなっており、困惑の表情を見せていた。
「……まさか、シスターフッドが出張ってくるなんてね。……浦和ハナコ、一体何を支払って彼女たちを動かしたのかな?まあ、もうそんなことを考えても仕方ないか……」
「……」
「……思っていた状況とは違いますが……ティーパーティーの聖園ミカさん。ほかのティーパーティーメンバーへの傷害教唆、及び障碍未遂で、あなたの身柄を拘束します。コーストさん、身柄を渡してくださいますか?」
「ああ、構わない……暴れたりするなよ?」
「そんなことしないよ……はあ、ホント、どこで見誤っちゃったんだろうね。浦和ハナコ?白洲アズサ?先生?コーストさん?」
「さあな。契約書にちゃんと目を通してれば違った結果だったかもしれんぞ?」
「あはは、そうかもね」
ミカはミノタウロスの下から出されてシスターフッドに拘束された。
「……ミカさん、最後に一つ聞かせてください。」
ハナコが連行されるミカに話しかける。
「なーに?せっかくだし、答えてあげるよ」
「……セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示なんですか?」
その質問に、ミカの張り付けたような笑みが少しはがれた。
「……あはっ、貴方もそんな目をするんだ。……うん、私の指示だよ。セイアちゃんってば、いつも楽園とか変なこと言って、難しい事ばっかり。……でもね、ヘイローを破壊しろだなんて言ってない。私は人殺しじゃない。詳しいことは当事者に聞いた方がいいんじゃないかな……そうでしょ?白洲アズサ?」
「っ……」
皆の顔がアズサに向いた。
アズサは悲痛な表情を浮かべている。
「……なんてね。指示をした時点で、私が殺したような物。たぶん事故だったんだよ、セイアちゃん元々体が弱かったし……」
「……セイアちゃんは無事です」
瞳の端に涙を浮かべてそう語るミカに、ハナコはそう言った。
「……どういう、こと?」
「襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためにトリニティの外でずっと身を隠して、その死を偽装していたんです」
「セイアちゃんが……無事……?」
ミカは掠れるような声でそうつぶやく。
セイアが死亡したという知らせを受けてからというもの、ミカは表面上は気丈に振舞いながらも、ずっと心に消えることのない痛みを負っていた。
そんな彼女にとって、その知らせはどれほど喜ばしい事だろうか。
「ええ、まだ目は覚めていませんが……救護騎士団の団長が、今もそばで守ってくれています。そして、その時彼女を守ったのは……いえ、これはご本人の口からがいいでしょうね」
「そっか。セイアちゃん、生きてたんだ……」
「……良かったぁ」
……………………
………………
…………
コーストはミカが拘束されてから何があったのかは知らない。
ここから先は先生の領分だと感じたからだ。
一先ず、トリニティの裏切り者騒ぎは片付いた。
補習授業部の面々にも平和な日々が訪れるのではないだろうか?
しかし、そんな期待はすぐに裏切られることとなる。
――???
どこかの廃墟、そこで何かを話し合う四つの影があった。
「……準備しろ、皆」
「あ、あぁっ……つ、ついに始まるんですね……!でも、苦しいんですよね、辛いんですよね……」
「うん、でも大丈夫、苦しいのは生きてる証拠」
「……」
ガスマスクをつけた少女が、何やら手を動かしている。
どうやら手話で何かを伝えようとしているようだ。
「ひ、姫ちゃんが手話でなにか言ってますけど……」
「……あの子はどうなったの、って?気になるの?」
「その辺にしておけ」
リーダーと思しき少女が一喝する。
「……」
「……アズサ、どれだけ足掻こうと、お前は抜け出すことができない。お前の体は覚えている。すぐに思い出すはずだ、真実を……曰く」
subnauticaです。
この世界のミカはお祈りすると隕石を落とせるミカです。やばい。
というわけでエデン条約、不可能な証明編はとりあえずここまでで、次からは調印式のほうに入っていきます。
ここまで読んで面白いと思ってくださったら是非お気に入り登録、感想、高評価をよろしくお願いします!
どれか一つでも、筆者のモチベーションが上がりますので、何卒……
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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