ミカによるクーデター未遂から数日……
トリニティはかなり忙しくしていたようだ。
何せこれだけ大きな条約の調印式前にトリニティの生徒会長が命を狙われるなどという事件があったのだから。しかもその犯人は同じくティーパーティーの一員である。
しかしその問題も先生とコーストの力で瀬戸際で止めることに成功した。今ではナギサも無事に業務へと戻っている。
そして月日は流れ……ついにその日、エデン条約の調印式が訪れる。
『今この動画をご覧の皆さん、こんにちは!クロノススクール報道部のアイドルリポーター、川流シノンです!本日はついに締結される、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の"エデン条約"の調印式。その現場に来ております!私は今、"通功の古聖堂"の前にいるのですが……』
「お~、ついに始まるみたいだねぇ」
「あ、あの戦艦がコーストさんの船かな?」
アビドスではホシノたちがスマホでその様子を眺めている。
そしてセリカがつぶやいた通り、その動画の上空にはコーストのコルベットが巡回していた。
『おお~、あれがトリニティとゲヘナが共同で雇ったという傭兵の乗る船なのでしょうか!どういう原理であんなにデカい戦艦が宙に浮いているのか、私には全く想像できませんが、凄まじい威圧感です!』
「まあ、初めて見たらそう感じるわよね」
「宇宙の技術の産物だなんて、誰も思わないでしょうね~」
『そして、その船の下、聖堂の前では熱のこもった空気が流れ、互いに譲るまいと非常に張り詰めております!』
トリニティとゲヘナの顔が写される。
トリニティの生徒からは目元が全く笑ってない笑顔が、ゲヘナの生徒からは敵粛心をもはや隠しもしない獰猛な笑みが映し出される。
『誰かが一歩間違えば、この場が大惨事になりそうなほどの雰囲気です!感じられますでしょうかこの空気感!私たちのよく知るゲヘナとトリニティの様相です!……はい?余計なことを言うな?……仕方ないですね、画面外からの言葉が拳に代わる前にちゃっちゃと話を進めてしまいましょう!……』
「……ここの報道機関は何というか……熱意はあるがいろいろ適当な感じがするな」
コーストもコルベットの操縦席で動画を開いていた。
調印式が始まるまでの暇つぶしで開いていたが、時間も近づいてきたので動画を閉じる。
「さて……頼まれたからには、仕事を全うするか」
一応仕事モードに入るが、正直コーストのする仕事はたいして多くはない。
ただ定期的にスキャンをして不審物があれば正義実現委員会か風紀委員会に伝えるだけだ。
もしくは直接的な邪魔が入ればコルベットで直接排除するだけである。
と、その時ゲヘナ側から連絡があった。
「もしもし、こちらコーストだ」
『コーストさん、ちょっとよろしいかしら?』
連絡してきたのはヒナだった。
「ヒナか。何の用だ?」
『……その、万魔殿の連中が急に飛行船でそっちに向かうとか言い出したからあなたに伝えておこうと思って』
「なあ、そう言うのはもっと早く、せめて前日までにはいっておくものじゃないか?」
コーストから呆れの声が出た。
『……ごめんなさい。私もちょうどいま伝えられて、向こうに話したのかって聞いたら何も話していない感じだったから……』
「……そうか。」
以前の打ち合わせで顔を合わせたあの生徒会長……確かにだいぶフリーダムな印象を受けた。
普段から振り回されているのだろうな、とコーストはヒナに憐みの感情を向けた。
「……とりあえず、用はそれだけか?」
『ええ、こんな直前で申し訳ないわ……』
「お前が悪いわけじゃないだろう……まあ、何というか、頑張れ」
コーストはそう言って通話を切る。
「はあ……あまり仕事が増えないといいが……」
――古聖堂近郊 廃墟
「準備は?」
「……問題なし」
「は、はい!終わりました、チェックもできた増すし、そのほかも……」
廃墟の中で何者かが準備を進めている。
「あの人形との接触は?」
「……」
「そうか。なら問題なさそうだな」
「こ、これからみんな苦しむんですね。辛い思いをするんですね……ですが、仕方ありません……」
「そう、それが世界の真実」
「……」
彼女たちは行動を始める。
「巡航ミサイルは?」
「既に発射済み。これから5分後に、ターゲット地点に着弾する」
「第二作戦部隊のほうはどうだ?」
「展開は完了しており、いつでも攻め込めるとのことです……」
「そうか……なら、事前に通達した通り、各自のチームに合流して計画を完遂しろ。では、散開」
アリウスの作戦部隊……アリウススクワッドは、地獄を生み出す最初の作戦を開始した。
〈警告:航空魚雷を複数検知//着弾まで10s〉
「何っ!?」
突如としてコルベット内部に鳴り響く警告。
その音はコーストの意識を単なる警備から戦場へと切り替えさせる。
「正義実現委員会、風紀委員会に告ぐ!会場に向かって複数の航空魚雷が接近中!これより迎撃を行う!」
『な、航空魚雷って……コースト!?』
先生から返答が来るが反応している暇はない。
バイザーが示すミサイルの方向へと船首を向けるとすでにミサイルは目に見える位置まで迫っていた。
「テラモン!ロックオンだ!!」
〈了解しました〉
テラモンの補助によって向かってくる巡航ミサイルに標準を定め、フェーズビームで撃墜を行う。
ミサイルの外殻はそこまで硬いものではなく、短時間の照射であっけなく破壊された。
「……まさか、白昼堂々ミサイルを撃ち込んでくるとは……聞こえるか?ミサイルを撃ち込んだ主犯が別のアクションを起こすかもしれん、総員警戒を――」
コーストがそこまで喋ったその時、
ドゴオオオオオオン
通功の古聖堂、そしてその周囲一帯が、内側から吹き飛んだ。
「…………は?」
コーストは何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
――同時刻、アビドスにて
「さーて、コーストさんも仕事頑張ってるみたいだし、私たちも働くか~。シロコちゃん、今日の依頼は何だっけ?」
ホシノが動画を止め、部室に置かれたソファから立ち上がって伸びをしながらシロコに聞く。
「ん、たしかたむろしてる不良の排除とかだった気がする」
「そか、じゃ、さっさと済ませちゃおう」
そう言って銃を片手に外に出ようとしたその時、水を飲みに外に出ていたアヤネが部室に飛び込んできた。
「ほ、ホシノ先輩、大変です!」
「ん?どうしたのアヤネちゃん?そんなに焦っちゃって?」
いつになく焦っているアヤネにホシノは首をかしげる。
セリカが新しい詐欺に引っかかったとかであればここまで取り乱さないはずだ。
「アビドスに重装備の戦闘部隊が襲撃中です!それも、数百人規模で!」
「……なんだって?」
『だ、誰か!誰か応答してください!』
通信機から響いた声に、コーストは我に返る。
「こちらコーストだ。何があった?ミサイルはすべて撃墜したはずだが……」
『は、はい。こちら正義実現委員会のマシロです。それはこちらからも確認しましたが……おそらく、建物の地下に最初から爆弾が設置されていました。』
「……そうか。いや、原因追及は後だ。被害状況はどうなっている?」
『……けが人が多数、かなり重症の人も多いです。それに、……な、何者ですか、貴方たちは!』ブツッ
「おい、どうした?おい!……クソが、もしかして接敵したか?」
地表付近に降りて状況を確認しようとしたその時、続けて通信が入る。送り主はアビドスだ。
「……すまないが、今は緊急事態だ。急ぎの用事でないなら後に――」
『コーストさん!アビドスが襲撃されてる!アビドスを覆う壁のおかげで今は耐えられてるけど……このままじゃ、長くはもたない!』
「……何だと!?誰に!敵の数は!」
『相手は分からない。数は……分からないけど、数百人はいそう。武装もかなり充実してるし、組織化されてる。ただのヘルメット団とかではないのは確かだよ』
「ぐうっ……どうしてこんなタイミングで……」
現在の古聖堂の状況は最悪だ。既に大量のけが人が出ているうえに、誰かの襲撃も受けている。
しかし、アビドスの状況も深刻である。
空き教室のほうにまだジャブジャブヘルメット団たちがいるとはいえそれでも十数人程度。
数百人規模の兵を相手にするには全く足りない。
個人的にはかえってアビドスのために戦いたい気持ちもある。しかし、先生もいるであろうこの戦場を放っていくこともコーストにはできなかった。
「テラモン、宇宙船を召喚してアビドスのほうへ助けに行ってくれ。俺はこっちに残って戦う。」
〈了解です。……ですが、私が離れている間はAIとしてのサポートは出来ても、神秘によるサポートは行うことができません。危険な行動は控えるようにお願いします〉
「……問題ない。前と同じに戻るだけだ」
コーストの返答を聞いたテラモンはコーストの所有する船からセンチネルインターセプターを呼び出し、アビドスへの助けへと向かった。
コーストのバックパックからヘイローが消える。
「さあ、何者か知らないが、この愚かな行いの付けは払ってもらうぞ」
『……い、……せい』
倒れ伏す先生のもとに声が響く。
ゆっくりと目を開けると、そこには青い海の広がる教室が見えた。
『先生!大丈夫ですか!気をしっかり!』
アロナがこちらを見て目を潤ませている。
心配をかけてしまったようだ。
「い、一体何があったんだい?」
先生は状況が呑み込めず困惑する。一つ確かなのはいきなり何かに吹き飛ばされて、激痛と共に気を失ったという記憶だけだ。
『古聖堂が爆発させられて……私は何とか先生を守ろうとしたのですが…………う……もう、これ以上は……力が……』
アロナの声が掠れていく。
そして、そのまま視界がブラックアウトした。
次に目を覚ますと、そこには炎と灰にまみれた古聖堂の残骸が転がっていた。
自分の体は残骸に挟まっていて身動きが取れない。
そんな中、目だけを前に動かすと頭が二つに分かれた木製の人形のような物が横切っていくのが見えた。
「(今のは……!)」
その姿に既視感を感じていると、近くから自分を呼ぶ声が響いた。
「……先生!」
駆け寄ってくるのはヒナタだ。シスター服が灰と血に染まってしまっている。
「ゴホッ、ゴホッ……ご無事ですか、先生……!体が瓦礫に……待っててください、すぐに私が……!」
そう言うとヒナタはその怪力を生かし先生の上にある瓦礫を押し上げた。
「……今だけはこの力に感謝します。先生、ご無事ですか?」
「うん。ありがとうヒナタ、助かったよ」
「……ご無事でしたか、先生!」
立ち上がりながら答えていると、ハスミとツルギが駆け寄ってきた。
ヒナタに負けず劣らずのボロボロ具合だ。
「だ、大丈夫なの、皆……」
「この程度の傷は大したことはありません。しかし、先ほどの爆破で正義実現委員会はほとんどが戦闘不能となってしまいました。その上、行方が分からなくなっているものも多く……ゲヘナ側もほとんど見当たりませんね。これは一体……」
そんなことを話していると、近くから足音が聞こえてきた。
「作戦地域に到達、正義実現委員会の残党……いや、ハスミにツルギ……正義実現委員会の真髄だ。兵力をこっちに回して。これより交戦に入る」
近づいてきたものはアリウス分校の物と思われる制服を身に纏っていた。
そしてその後ろに続くのは……ハイレグのキツいだいぶ独特なシスター服を身に纏った青白い人型、その体の半分ほどは
人型のそれは、手元の銃を構え、一斉に攻撃を始めた。
〈警告:kt*$#cが戦闘部隊を配備しました//抑制レベル2:重大〉
「……まて、何だって?」
アリウスが人型の何かの運用を始めた段階でコーストの元には再び警報が鳴り響いていた。
しかし、その内容はセンチネルの警報と似通っているものの、どこか文章が違った。
〈……不明です。スキャンによりキャッチした信号はセンチネルのものと酷似していましたが、何か別のものが混じっているようにも感じられました。〉
「……センチネルに似たもの?」
疑問を抱えつつコルベットで地上付近を巡回していると、航路上にトリニティでもゲヘナでもない制服を見つけた。
コーストはその制服に見覚えがあった……アリウスの制服だ。そしてその傍らには先生も見つけたオレンジの装甲を纏ったシスターを見つけた。
「……アリウス、この調印式に参加しているはずがない。つまり…………敵か!」
ガガガガガガガッ!!!
コーストは推定今回の元凶に向かって怒りと共にインフラナイフ・アクセルを叩きこんだ。
「ふふふ……どうやら試験運用はうまくいっているようですね」
体をギシギシと言わせながら人形は戦場を歩く。
その視線の先には例のシスター服の何かがいる。
「戒律の守護者と、惑星の守護者……似たテクストなら一括りに扱うこともできるのではと思いましたが、こうも上手くいくとは……」
二つの頭を持つ木人形……マエストロは両手を上げて天を仰ぎ、叫んだ。
「さあ、その輝きを私に見せてください……"守護者 ユスティナ・センチネル"」
subnauticaです。
調印式編が始まりました。
アビドス編のセンチネルはここでリサイクルされています。
それにしてもユスティナの服って……誰が考えたんですかね?
次回は同じく襲われてるアビドスの方も書いていきたいと思います。
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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