「さて……改めて話を聞こうか。まず、この襲撃の目的はなんだ?何がお前たちをここまでさせた?」
コルベットの中、耳鳴りから回復したコーストがヒヨリに問う。
「へへ……リーダーも言ってたじゃないですか……私たちを苦痛に追いやったゲヘナとトリニティに対して復讐するんですよ。……それだけです」
「復讐ねえ……何があったのかは知らないが妥当と言えば妥当な理由ではあるな。」
旅をする中、復讐の絡んだトラブルなど山ほど見てきた。
具体的に何があったかは知らないがこれだけの騒ぎを起こすには足る理由ではあるだろう。
ちなみにコーストは復讐容認派である。自分がされる立場になればもちろん反撃するが。
「まあ、事ここに至っては動機はもはや重要ではない……この騒ぎの中核にいるだろうさっきのお前たちのメンバー、この作戦の首謀者、そしてあのセンチネルの特徴を備えた人形どもについて……全部話してもらおうか?」
コーストが額にマルチツールを突き付けながら質問する。
「へ、へへ、そんな脅しでは、私は喋りませんよ――」
「コーストさん、それについてなら私がそれなりに答えられる」
「何?」
「あ、アズサちゃん!?」
アズサの言葉に二人は驚いた顔を見せた。
まあそれもそのはず、アズサは割と最近までアリウススクワッドの一員だったのだ。
今回の作戦については知らされていなくてもアリウスの内部事情についてはそれなりに詳しい。
「まずあの時一緒にいたのがアリウススクワッドというチームで、キャップをかぶっていたのが錠前サオリ。近接戦を得意とするアリウススクワッドのリーダーだ。そして黒いマスクを着けていたのが戒野ミサキ。ロケットランチャーを使う後衛だ。そしてずっと喋らず後ろにいたガスマスクを着けていたのが秤アツコ。彼女は"姫"と呼ばれていて戦闘に参加することは基本ない。そしてそこに転がってるのが槌永ヒヨリ。抜けてる狙撃手だ。」
「私だけ説明が雑じゃないですか!?」
アズサはその声を無視してアリウススクワッドのメンバーについてそのほかにも事細かに説明してくれた。
「わ、私抜きでどんどん話が進んでいきます……」
「こいつに聞かずともだいぶ有用な情報が手に入ったな……この情報をもとに指名手配でも出せば捕獲の可能性も上がりそうだな。ちなみに、首謀者に関しては心当たりがあるか?」
「ああ。今回の件も前回のナギサ襲撃の件もアリウスの生徒会長"マダム"の命令だ」
アズサは本当に何でも答えてくれた。
「マダムか……覚えておこう。次に……あの機械交じりの人形には心当たりはあるか?」
「いや……あれは私も知らない」
「そうか……お前はどうだ?」
コーストが銃口を再びヒヨリに突きつける。
センチネルの技術が流用されているあれはコーストが今一番情報を欲しているものだ。
「あれはお前たちが制御できるような物じゃない。速やかに殲滅しなければ破滅的な結果を招くぞ……言え。あの技術は一体どこで手に入れた?」
「ひぃっ!だ、だから私は何も話しませんよ!……ああ、情報を吐かせるために辛い拷問が始まるんですね。やっぱり人生は苦しいです……」
「ほう?拷問なんて誰が言った?……そのまま殺されるとは、考えなかったのか?」
ヒヨリはその言葉に少し目を見開く。
「……そ、そうですか。ついに私は終わりなんですね……」
「ああ。お前ひとりにかまけている余裕もないからな。正直な話、あいつら……アリウススクワッドを呼び寄せるだけならお前が生きている必要はない。」
コーストはサオリたちが撤退の際にためらいを見せた時点でいずれ取り返しに来るだろうと踏んでいた。
此方から何か向こうに要求をするわけではない以上、死の情報が洩れなければヒヨリが生きている必要はない。
「は、はは……」
「キヴォトス人だから簡単には死なないと思っているか?だがな、人を殺すというのは割と簡単なものだ」
コーストはそう言うとヒヨリの拘束を足の部分だけ外した。
いきなりのことにヒヨリは困惑の表情を見せる。
「……どういうことですか?なぜ拘束を……」
「取り敢えずついてくると良い。抵抗したいなら別に構わないが……おすすめはしないな」
ヒヨリの後ろからアズサが銃を押し付けている。
ヒヨリの役割は狙撃兵であり、万全な状態でもアズサに勝つことは出来ない。ヒヨリは大人しくついていくことにした。
三人はコルベットの中を歩き、ハッチの前にたどり着く。
コーストは横のデバイスに触れてハッチを開いた。
「こ、これって……!」
目の前に広がるのはひたすらに暗い星の海、そして地球の表面であった。
ディフレクターシールドに守られているため空気が漏れ出すことはないが、ハッチから一歩踏み出せばそこから先は人間の生きる領域ではなくなる。
そう。コルベットは今、宇宙空間にいた。
ヒヨリは恐怖から後ずさったがその体をコーストが掴みハッチの淵に立たせる。
隣に立つアズサは何も言わない。
「この光景はさすがに予想外だったか?話によれば人間は意外と生身で宇宙空間に出ても即死するということはないらしい。まあ、それでももって一分行かないくらいだがな……その後はこの誰もいない宙を永遠にさまよい続けることになる」
ヒヨリの息が浅くなる。
少し視線を下に向ければそこには何も映らない。一歩先には文字通り"死"が待っている。
「い、いいんですか?人を殺したとなれば、貴方も大罪人ですよ?」
「お前がそれを言うのか?……別にそれも大した問題じゃない。俺がやるのはここからお前を突き落とすことだけだ。ここは宇宙だぞ?証拠も何も残りやしない。それに、テロリストが一人消えた程度、誰も気にしないだろうからな」
「……」
「これが最後だ。仲間に殉ずるか、死後も故郷に戻ることなく永遠に宇宙を漂うことにするか……選べ」
「わ、私は……」
コーストがヒヨリの後ろに立ち、背中に手を当てた。
「さあ、言え!」
「う、うぅ……私は、私は何も話しません!」
既に涙目になっていたヒヨリだったが、覚悟を決めた顔でそう言い切った。
「……そうか。それがお前の決断か」
背中が押される。
「…………!」
投げ出されたのは空気の存在しない音のない世界。
悲鳴はもう誰にも届かなかった。
「(もう駄目なんだ…………やっぱり人生は辛い事ばかり……でも、もう苦しまずに済むんですかね?)」
押し出された刹那ヒヨリはそんなことを考える。
既に耳からは一切の音が消え去り、自分の心臓の音だけが響く。
「(…………でも、やっぱりみんなにはもう一度、顔を見せたかったな……)」
諦めて目を閉じようとしたその時――
体が何かの力によって思いっきり引っ張られた。
「あ、あれ、私…………」
「……まさかここまでやって何もしゃべらないとはな」
「……分かっていたとはいえ、流石にひやひやしたぞコーストさん」
コーストの片手にはマルチツール……が変形したグラビティーノコイルが握られている。
ヒヨリを数秒宇宙に投げ出した後、グラビティーノコイルですぐに引き戻したのだ。
ほんの数秒であれば人体にそこまで影響が出ることもない。
ちなみにコーストは早い段階でヒヨリが口を割るかと思っていたが、想像以上の仲間意識の強さに驚いていた。
「……うわあぁぁぁぁん!!!怖かったですぅぅ!!」
グラビティーノコイルで吊り下げられたヒヨリはハッチの横で泣き叫び始める。
棺桶に半身浴ぐらいまでは言っていたのだ。この反応も当然と言えよう。
アズサも最初にコーストから流れを聞いていたとはいえ、内心かなり焦っていた。
「……これでもやるからもう少し静かに泣いてくれないか?」
コーストは大音量で泣き続けるヒヨリの口にインベントリにあったステラレータ型ドーナツを突っ込む。
甘いものを認識したヒヨリは満足げな表情でもぐもぐし始めた。何とも食い意地が張っている。
「……これからどうするんだ、コーストさん?」
「そうだな。ヒヨリはまあ、アリウススクワッドに対する生餌という扱いになるだろう。何もしゃべらないだろうしな。向こうが自分からやってくるのを待つしかないか……」
〈……
「ん?なんだテラモン?」
〈私であれば彼女たちの通信回線を追跡して現在地を特定することが可能です〉
「……そう言うことはもう少し早く言ってくれないか?」
テラモンの一言で問題が解決してしまった。
「となると、こいつの存在価値は……」
見つめられたヒヨリはプルプルと震える。
「うわあぁぁぁぁん!!やっぱり私はおしまいなんですね……役立たずの私は殺されてしまうんですね!!」
ドーナツのかすを口の周りにつけたヒヨリの叫び声がコルベットに響いた。
叫ぶヒヨリを再び医療ポッドに封印した後、二人はコルベットのコックピットで話し合っていた。
「……コーストさん」
「ん、なんだアズサ?」
「……もし、この場に私がいなかったら、コーストさんはヒヨリを宇宙に置き去りにしていたか?」
「……何を言う。お前がいたからためらったとでも思っているのか?……キヴォトスでは殺人は重罪だぞ?そんなことするわけないじゃないか」
コーストはそう返すもアズサは納得したような顔は見せない。
「コーストさん自身が言っていたじゃないか。あのやり方ならだれもヒヨリの死に気づかない。それに……直感だが、コーストさんはそのラインを踏み越えられる人だろう?」
「…………」
「アリウスは人を殺せるようにと教育を受けて生きてきたが、私たちはそう教えられただけで実際に手を下したことはない。でも、コーストさんは何か違う……」
「……ああ、その直感は間違ってない。俺は実際に人を殺したことがある。それも山ほどな」
コーストの言葉にアズサは息をのんだ。
「そ、そうか……」
「ああ、俺が生きていた世界とお前がいる世界では命の重みが全く違う。この宇宙では誰かを殺す覚悟もなくして生き残ることは出来ないんだよ。……ただな、例えお前がいなくとも、ヒヨリは殺さなかったと思うぞ」
「……それは、どうして?」
アズサが不思議そうな顔で聞く。
「あいつは先生の生徒だからな。友人である俺が、あいつの理想に泥を塗るようなことはあまりしたくないんだよ。知ってるか?利権と暴力にまみれたこの宇宙では、友人を見つけることすら一苦労だ。それに、俺には苦楽を共にしたアビドスの奴らもいる。生徒を殺したとなれば、あいつらに合わせる顔がなくなってしまう」
「そうか……先生は、本当にいろんな人に影響を与えてるんだな」
「ああ……だからこそ先生や俺を信じてくれている奴のためにもアリウスの奴らは止めなければならない。協力してくれるな?」
コーストは横を向いてアズサに手を伸ばす。
「ああ。私も、私を信じてくれた補習授業部の皆や先生のために、この学園を守って見せる!」
二人はコルベットのコックピットで固く握手を交わした。
トリニティ某所の廃墟――
コツコツ、コツコツ……
「……」
「リーダー、落ち着いて……」
「分かってる……」
落ち着かないように部屋の中を歩き回るサオリを見かねてミサキがそう言うが、平静は取り戻せていなさそうだ。
「ヒヨリのことが心配なのはわかる。けど、そんなんじゃ次の作戦にも支障が出るよ」
「……ああ、そうだな。ヒヨリは必ず取り戻す。だが、作戦は遂行しなくては。」
サオリが自分に言い聞かせるようにそうつぶやく。
「はあ……。あ、そう言えばさっき確認してきた"戦術兵器"だけど……あれって結局なんなの?」
「……(ス……スス、スッ、スー……)」
「"太古の教義"と"天外の規律"を強引に組み合わせて作られた失敗作……?なに、あの人形、失敗したって事?」
ミサキは不満げな声で聞き返す。
「……(ふるふる……スッ、スス……)」
「……詳しくはよく知らないけど……失敗作ではありつつも"戦術兵器"であることには変わりない?……まあ、ちゃんと使えるなら私は何でもいいんだけど。……というか、そろそろばれる頃合いなんじゃないの?"ユスティナ・センチネル"にせよ、件の"戦術兵器"にせよ、私たちの次の目的にせよ……」
「ふん……どのみち、もう手遅れだ。待機中の部隊に連絡を。これより、トリニティへの進撃を開始する。……ヒヨリ、お前は必ず助け出す。だから、待っていてくれ――」
サオリがそうつぶやいたその時、
ドゴオオオオオオン!!
三人がいたビルが木っ端みじんに吹き飛ばされた。
そしてそのそばに最高速度でコルベットが突っ込んでいく。
「ビルを解体した程度ではセンチネルがやってこないのは実証済み。そしてこの周辺にはあのセンチネルもどきは存在しない……先手必勝で叩かせてもらおう」
「サオリ……今度こそ私が止めて見せる」
魚雷の爆炎を狼煙に、アリウススクワッドとの第二戦が始まった。
subnauticaです
アリウススクワッドはこんな感じの書き方でいいんだろうか……時々心配になる。
私はまだブルアカ歴がそんなに長くないので違和感を感じたら遠慮なく感想で教えていただけると幸いです。
次回は対アリウススクワッド二回戦
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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4546B