取り敢えず壁際で伸びていたティーパーティーの生徒を端に積み上げて状況の整理を始めた。
「えっと、とりあえず大丈夫、ミカ?」
「あ、うん。大丈夫だよ先生。なんて言うか、久しぶり……だね?それにコーストさんも……」
「……そうだな」
「久しぶりだね、ミカ」
ミカは突然の乱入者にまだ困惑を隠せない様子だった。
「そう言えば、コーストとアズサは今までどこで何をしていたの?二人ともあれからしばらく連絡がなくて心配してたんだよ?」
「そうよ!ヒフミとハナコも心配してたんだからね!」
先生が二人に質問する。
コーストは先生を逃がすために殿を務めてから、アズサはミサイルの音を聞いて飛び出して以降音信不通になっていたのだから心配されて当然である。
「ああ、すまない。今回の主犯格……アリウススクワッドを捕らえるために動いててな」
「私もコーストさんと一緒に活動していた」
コーストが今までの流れについて軽く説明する。
「そう言う危ないことをするなら先に行ってほしいんだけどね……」
先生が頭の痛そうな顔でつぶやく。
「何言ってるんだ。先生が首を突っ込む方が危ないだろうが。今回殺されかけたことをもう忘れたのか?」
「ウッ……否定できない……」
「人を心配するのもいいが、自分の心配もしてくれ。先生はこのキヴォトスで一番貧弱な存在なんだからな」
「ハイ……」
いつの間にか攻守が逆転して先生が詰められる図となっていた。
「こほん……それで、その作戦は上手くいったのかい?」
「そうだな……一部成功、といったところか」
コーストがコンパニオンの操作画面を開き操作する。
すると、虚空からドーナツを両手に持ったヒヨリが召喚された。
「えへへ……このドーナツもいいですね…………!!!うわあぁぁぁぁ!?せ、先生に、聖園ミカさん!?というか、ここはどこなんですか!?」
いきなり切り替わった景色にヒヨリが悲鳴を上げる。ドーナツだけは手放さないのが彼女らしい。
「……この子がアリウススクワッドなの?」
「あの、コースト?今どこから彼女を呼び出したの?」
「……いやあ、こいつに渡したお菓子のうち一つにクリーチャーペレットを仕込んでおいたんだが、まさか何の疑いもなく食べるとは思わなくてな。こいつは本当に特殊部隊なのか?」
その言葉の通り、コーストはヒヨリが貪っていたお菓子のうち一つにクリーチャーペレットを混ぜ、脱走を不可能にするためにコンパニオンとしたのだ。ヒヨリがいきなり呼び出されたのもコンパニオンのテレポート機能である。
「コースト……クリーチャーペレットって動物を強制的にペットにするためのエサじゃなかったっけ?」
先生の言葉に、その場の生徒からコーストにしらーっとした目が向けられる。
「何だその目は…………分かったよ、この件がひと段落したら解除するさ。俺としてもバイザーの端のチャット欄に延々とお菓子の感想が流れるのは鬱陶しく思ってたからな」
ヒヨリはいまだにコンパニオンとなった自覚がないらしく、表面的な思考がずっとコーストにチャットとして送り届けられていた。
「とまあ、とりあえずこいつが捕らえたアリウススクワッドの一人、槌永ヒヨリだな」
「うわあぁぁぁぁん!!やっぱり私は終わりなんですね!大勢の前で公開処刑されてしまうんですね!!」
「……こんな感じで騒がしい奴だ」
コーストが鬱陶しそうに説明を続ける。
「最初はこいつから情報を聞き出そうとしたんだが、何も聞き出せなくてな。別のアリウススクワッドを探し出すのにもこいつは使わなかったし、現状、ただここにいるだけの存在だ」
「要するに役立たずだな」
「アズサちゃん!?」
酷いですぅ~と泣き叫ぶヒヨリを無視してアズサが先生の前に立つ。
「先生……私はサオリを止めなきゃいけない。……最初は一人で、サオリと刺し違えてでも止めようと思っていた」
「アズサ……」
アズサの告白に先生が悲しげな顔を浮かべる。
「でも、今は違う。補習授業部の皆や先生……私を信じてくれる人に誇れるような自分でいたいと思ったんだ。だから先生……サオリたちを止めるのを手伝ってほしい」
アズサが先生に頭を下げる。
その言葉に先生は最初少し驚いたような表情を向けたが、すぐに笑顔を向ける。
「もちろん、私は先生だからね。……みんなが傷つくところはもう私も見たくない。ぜひ協力させてほしいな」
「……うん!」
先生からの返事を受けた後、アズサはミカにも頭を下げた。
「聖園ミカ……私はあなたにも謝らないといけない」
「……ううん、いいよ。むしろ謝らないといけないのは私。セイアちゃんを攻撃するように命令したのは、他でもない私なんだから」
ミカの目に涙が浮かぶ。
頭の中ではこれまでの出来事が、自分のしてしまったことが逡巡しているようだ。
「……バカだよね、私。あんなことしたのに、またセイアちゃんとナギちゃんに会いたいって思っちゃうんだ。……こんなことして、許されるはずないのに……」
「……大丈夫だよ、ミカ」
泣きはらすミカの頭を先生が軽く撫でる。
「ここから先は私に……いや、私たちに任せて」
そう言って先生は出口の方へ歩み寄る。
「コースト……彼女たちを止めるよ」
「ああ、俺は元よりそのつもりだ。任せておけ」
二人とコハルは来る戦いに向けての準備を始めるために牢を後にした。
「え……あの、私は……?」
地下牢にはミカと完全に存在を忘れられたヒヨリが残されていた。
「そう……そう言えばあなたもいたよね」
「えへへ……み、ミカさん、顔が怖いですよ……?」
ヒヨリが縛られた足を起用に使って後ずさる。
しかし、ミカからは逃げられない。
「ちょっと、お話ししよ☆」
「うわあぁぁぁん!!」
かつての古聖堂、その跡地にて先生、コースト、補習授業部の面々とアリウススクワッド、アリウス兵、ユスティナ・センチネルの軍勢が向かい合っていた。
「……随分と人を連れてきたな、アズサ。まだお友達ごっこを続けるつもりか?」
「……お友達ごっこなんかじゃない。ヒフミたちは正真正銘私の友達で、私の居場所だ!」
「まだわからないのか!私たち人殺しに居場所なんてない!思い出せ、すべては――」
「私は、人殺しにはならない!」
アズサが力強く宣言する。
「サオリ、殺意が人を人殺しにするといっていたな。なら、今の私は違う。私はもうサオリを殺そうだなんて考えていない」
アズサの言葉にサオリがさらに怒りをあらわにした。
「腑抜けたか、それとも舐めているのか、アズサ……殺す覚悟もなく、お前が私に勝てるとでも?」
「腑抜けた……それは違うな。私はコーストさんから教わったんだ。"とりあえず殺しさえしなければいい"と」
「アズサ?」
若干雲行きが怪しくなり始めたアズサの弁に先生が心配げな声を上げる。
「腹がえぐれても、四肢が吹き飛んでも、医療ポッドがあればそのうち回復できるとコーストさんは言っていた。だからサオリ……今からお前を、半殺しにする!」
「コースト!いったい何を吹き込んだのさ!」
余計なことを吹き込んだらしいコーストに先生が怒りの声を上げる。コーストは目をそらして誤魔化した。
殺さなければいいという免罪符を得たことでアズサのアウトローぶりに磨きがかかってしまっていた。
「それに、こちらには荒事の専門家もいる。そうだろう、ヒフミ……いや、ファウスト!」
「は、はい!……って、ええええ!!まだ言ってないのに何で知ってるんですか!?」
突然の指名にヒフミが悲鳴を上げた。
ファウストはヒフミの中で半ば黒歴史のような物である。誰にも話していないはずなのに、それも同じ部活の人間にばれていたら叫びたくもなるだろう。
「作戦中にコーストさんに教えてもらった。驚いたよ、まさかヒフミが覆面水着団の親玉だったなんて!」
「コーストさ~ん!?」
コルベットで地球に戻る途中、コーストはアズサを元気づけるためにあれやこれや雑談をしていたのだ。
その中で普通の少女であるヒフミを戦いに巻き込みたくないと言われたので、コーストはヒフミの正体をアズサに教えてあげたのである。
ヒフミは羞恥心で赤くなりながらコーストを睨みつける。
コーストは目をそらす。先生と目が合った。コーストは上を向いた。
「……ばれたのなら仕方ありません。良いでしょう。来てください、皆さん!」
ヒフミがたい焼きの紙袋をかぶって瓦礫の上に立つと、その後ろからカラフルな覆面を被った少女たちが現れる。
「リーダーの命令なら、仕方ないね~」
「ん、ファウストの命令で暴れに来た」
「ええ、普段はアイドルの怪盗団、参上です♧」
「ちょ、何よその設定!?」
『覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!』
そう、覆面水着団のメンバーであるアビドス一行だ。
「ほ、ホシノたち……来てたのか?」
「やだな~、今の私たちは覆面水着団だよ?……あと、あれから一切連絡をよこさなかったことについては、後でまた詳しく話を聞かせてもらうね」
「あ、はい」
一瞬凄まじい威圧感を出したホシノの声にコーストは素直に返事を返すことしかできなかった。
「あいつらは……?」
「……分からない。詳細なデー……いや待て、あの服装、まさか……」
ミサキが覆面水着団の違和感に気づく。
「さて……君たちが、アリウススクワッドかな?おじさんたちにケンカ売った挙句、うちのリーダーたちまで傷つけようだなんて……もう、殺るしかないよね?」
「ん、捻り潰す」
「ええ、捕まえたアリウスの方々から裏は取ってあります。指揮官はあなた方ですね☆」
「よくもやってくれたわね……私たちにケンカ売ったこと、後悔させてやるわ!」
覆面水着団はそう言って覆面を脱ぎ捨てる。
覆面が隠していたその顔は、そのすべてが怒りに染まっていた。
思ったのと違う反応にヒフミが困惑の表情を見せる。
「え、えっと、皆さんいったい……」
「おじさんたち、ちょ~っとあの子たちと因縁があるんだ~。……だから、一発ぶん殴ってやりたいと思ってたんだよね。」
そう言ってホシノが無言で銃を構えるのと同時にシロコたちも無言で戦闘準備を進める。
「……対策委員会、ヒフミちゃんたちに全面的に協力するよ」
ホシノがそう言ったのと同じタイミングで、正義実現委員会、シスターフッド、ゲヘナ風紀委員会もアリウススクワッドの包囲をするために所定の位置につく。
ちなみに本来ヒナヒナになっているはずのシナだが、今回は先生を守り切れているため、先生が病室で撫で繰り回しただけでメンタルは回復している。
つまり包囲体制は完璧であるということだ。
「……完全に包囲されている。さすがにこれは厳しいんじゃない、リーダー?」
「知ったことか。無限に増殖するユスティナ・センチネル、それに例の"戦術兵器"もある。…………この殺意と憎しみに満ちたこの世界で、あらゆる努力は無駄なのだということを……いくら足掻こうとも、何の意味もないということを思い知らせてやる!」
その声と共に武器を構えたアリウススクワッドに対し、ヒフミは前に出た。
「何なんですかあなたたちは……殺意ですとか、憎しみですとか、この世界の真実ですとか、それを押し付けて、すべては虚しいのだと言い続けていましたが……それでも、私はっ……!」
ヒフミは皆の前でこぶしを握り締め、叫ぶ。
「アズサちゃんが人殺しになるなんて嫌です!……いや、半殺しでしたっけ、それならまあ、いいと思いますが……そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!……私には、好きなものがあります。平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」
「平凡……?」
「アズサ、今は黙ってろ」
「友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛い事は慰めて、お友達と慰め合って……!苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような!そんなハッピーエンドが、私は好きなんです!!」
ヒフミの言葉が進むにつれ、キヴォトスの空を厚く包んでいた雨雲が少しづつ晴れ、光が差し込み始める。
「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けて見せます!私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!……終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!私たちの物語……
地面を燦燦と日光が照らす。
雨雲は完全に取り払われ、きれいな
〈気象情報:雨雲が去りました……統計上、ありえない雲の動きでしたが……〉
「この場面でそう言う言葉は野暮ってもんじゃないか、テラモン?……そうだな、これこそ奇跡ってやつか?」
コーストが先生の方を振り向く。
先生はその視線に軽く頷き、口を開く。
「ここに宣言する。私たちが、新しい
「なっ……!?」
サオリが驚いたようにユスティナ・センチネルの方を振り向く。
しかし、ユスティナ・センチネルはすでに統制が崩れ、命令がまともに作用しなくなってしまっていた。
「……先生が二つ目のETOを締結したことでユスティナの戒律が混乱している。もう、ユスティナ・センチネルは今までのようには使えない。どうする、リーダー?」
「っ知ったことか!!ハッピーエンドだと!?ふざけるな!そんな言葉で、世界が変わるとでも!?そんな夢物語が実現するとでも、思っているのか!?」
声を荒げるサオリに、先生が語り掛ける。
「生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だからね」
「……っ黙れ!!」
「生徒たち自身が心から望む夢を叶えられるようにするために、私は止まらないよ」
その言葉を皮切りに互いが武器を構えたその時、
ガガガガガガガ!!
ユスティナ・センチネルが近くにいたアリウス兵、そして周囲にいる風紀委員会や正義実現委員会などを無差別に攻撃し始める。
思いもしない場所からの攻撃に戦場はあっという間に混戦状態に入ろうとしていた。
しかもその攻撃は先ほどまでのような混乱したような様子はなく、明確な意思をもって攻撃をしているように見える。
そしてそのタイミングでコーストのエクソスーツにも警報が鳴り響いた。
コーストは表示された警告に思わず天を仰ぐ。
「ああ……これは、思ったよりもまずい状況になったかもな」
何が起きたのか?簡単なことだ。
二つのエデン条約によってユスティナの戒律は乱された。
であれば、今ユスティナ・センチネルを支配する意思は何か……そうセンチネルの意思だ。
〈警告:センチネルが戦闘部隊を配備しました//抑制レベル4:重大〉
subnauticaです
ブルアカ宣言までやってきました。いや~長かったですね。
このままエデン条約編終結まで突っ走っていきます。
そう言えば前回評価をおねだりしたら思った以上の方に評価をしていただいて、お気に入り登録をしてくださった方もかなり増えました。おかげさまでモチベーションもだいぶ上がりました!これからもBlue Sky Archiveを楽しんで読んでいただけると幸いです。
次回、暴走ユスティナ・センチネル戦
では、また次回お会いしましょう。
先に書いてほしいイベントは
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桜花爛漫
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アビドスリゾート
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