8 不憫な少女の一日
「う~~……。」
先生が対策委員会顧問に加わって数日、あれだけ生徒の前で見栄を張っていた先生は部室の机の上で情けなく突っ伏していた。
「おい、ホシノ。あれは何があったんだ。」
「それがね~、先生、セリカちゃんと険悪な感じになっちゃったじゃん?だから、いっぱい話しかけようとしたんだけど、ことごとく無視されて、挙句の果てにストーカーって言われちゃったんだってさ。」
ホシノが笑いをこらえられないように言う。
先生がそうしたい気持ちもわからんでもないが、四六時中くっついてこられるのは俺だって普通にいやである。
「あ、でもストーカーした結果、セリカちゃんのバイト先がわかったんだよ!」
「ストーカーって自分で言うのか……。というか、あいつがバイトしてるのは前々から知ってたぞ。」
その言葉に、ノノミ、シロコ、アヤネが驚いたようにこっちを見る。
「え!」
「ん……何で言ってくれなかったの。」
「そうですよ!」
「そういわれてもなぁ、本人の許可なく言いふらすのもどうかと思ったし、何ならホシノがみんなに教えてるもんだと思ってたんだが……。」
三人がバッとホシノのほうを振り返る
「……ホシノ先輩も知ってたんですか?」
「そりゃぁ、私の先輩がそこで働いてるからねぇ。まあみんなに言わなかったのは、さっきコーストさんが言ったのと同じ理由だよ。」
そう、セリカのバイト先の紫関ラーメンにはアビドスを卒業したユメが勤めている。
卒業後も連絡を取り合っているホシノとコーストはそこにセリカが最近バイトで入ったことも聞き及んでいた。
以前ユメに顔合わせに行ったときバイト中のセリカにばったり会ったのだが、絶対みんなには言わないでくれと念押しされていたのだ。
「まあ、ここで全員にばれたわけだしせっかくだからみんなで冷やかしに行くか。」
「私も、先輩に顔見せしたいしね~。よ~し、みんなで紫関ラーメンにいこう!」
数十分後……
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!何名様ですか……ってえええ!なんでみんなが!」
「あの~☆六名なんですけど~!」
「ハハハ……すまんなセリカ。まあ、あきらめてくれ。」
「あはは……どうも」
対策委員会+先生は柴関ラーメンに到着した。案の定、セリカは顔を真っ赤にしてあたふたしている。
セリカとともにわちゃわちゃしていると、背後から別の声がした。
「おお、アビドスの生徒さん、来てくれたんだな!」
「わ~!皆来てくれたんだね!ささ、セリカちゃん!皆を案内しちゃって~、来てくれたからには、腕によりをかけるよぉ!」
厨房のほうから大将と、手拭いを頭に巻いたユメが顔をちょろっと出した。
ユメは大将の補助として厨房に入っている。
「うぬぬぅ……、で、では、広い席へご案内いたします……こちらのお席へどうぞ……。」
大先輩と大将に逆らえるはずもなく、いろいろあきらめたように席への案内を始めた。
案内されたのは奥のほうにある六人席。片側にホシノとシロコ、もう片方にアヤネ、ノノミが座った。
「先生、コーストさん☆私の隣があいてますよ!」
「ん、私の隣も空いてる。」
「あ、コーストさんはおじさんの隣ね、委員長命令で。」
「「「「……。」」」」
妙に押しの強いホシノの言葉によって先生はノノミの隣、コーストはホシノとシロコの間に挟まることになった。
「そ、それにしてもセリカちゃんのバイト衣装とても似合ってますね☆」
「いやぁーまさかセリカちゃんが制服でバイト先選ぶタイプとはね~。」
「ち、違うから、たまたま行きつけでバイトしやすそうなのがここだ立ってだけで……。」
「そうかい。とはいえ、ユメと仕事先が一緒って気づいた時には驚いたよなあ。」
ユメがここで働いていることは確かセリカも知らなかったはずだ。
セリカがここをバイト先として選んだ理由が何かは知らないが、どこか運命的なものを感じる。
「も、もう私のことはいいでしょう!ご、ご注文はっ!」
「も~セリカちゃんてば、『ご注文はお決まりですか』でしょー?お客様には笑顔で接客しないとー?」
「うう~、ご、ご注文はお決まりですか?」
セリカが恥ずかし気に注文を取り、各々がメニューを見て注文をしていく。
「私は、チャーシュー麵でお願いします!」
「私は塩。」
「えっと、……私は味噌で……。」
「私はねー、特製味噌ラーメン、炙りチャーシュートッピングで!ほら、先生とコーストさんもじゃんじゃん頼んで、このお店本当においしいんだから!アビドス名物紫関ラーメン!」
実際、ユメの職場である以上何度もこの店には足を運んでいるのだが、この店のラーメンという食べ物は本当においしい。
いつか、スペースアノマリーにいるクロノスにも食べさせてやりたいものだ。食に対し、異常な執着を見せるあいつのことだ。頼めば栄養プロセッサ*1にラーメンのレシピも加えてくれるんじゃないだろうか。
「俺は、ホシノと同じものを頼もう。」
「あ、じゃあ私は醤油でお願い。」
全員の注文がそろった。
「ところでみんな、お金は大丈夫なの?もしかしてまたノノミ先輩におごってもらう気?」
「カードの上限まではまだまだありますし、私は別にそれでもいいですけど――」
「いや、ここは俺が払おう――」
「ここは私が払うよ。」
変なところで先生とバッティングした。
「俺はこいつらの保護者みたいなもんだからな。ここは俺がおごるさ。」
「いやいや、私は先生だよ?私がおごるのが筋じゃないかな?」
二人は変な意地を張っていた。ちなみにコーストは自分で稼いでいるので実際おごれる程度の余裕があるが、先生の財布は現状かなり薄い。
無い袖を必死に振って大きく見せている感じである。
「二人ともどこで意地張ってるのさ……。そんなに払いたいなら、二人で払ってくれる?よーし、みんな!大人二人の財布でいっぱい食べるよ~!」
二人の様子を見かねたホシノがとんでもないことを言い出した。
ただの女子高生がラーメン屋で言い放ったのなら、そこまで気にしなかったかもしれないが、そこはキヴォトス人。
異次元の身体能力を誇る彼女たちは食べれるのならいくらでも食べるということを二人は知っている。
「ホ、ホシノ?お前たちに好き勝手食べられるとさすがに俺もきついんだが……。」
「……。(財布の中身を確認し絶望する先生)」
抵抗むなしく、二人の財布の中身は対策委員会の胃の中に飲み込まれた。
ノノミが、自分のカードで払ってくれと打診してきたが、それはさすがに断った。
それをしてしまえば、たぶん財布の中身以上に大事なものを失う気がしたからである。
若干二名を除き、ラーメン屋での食事会は大盛り上がりであった。
「セリカちゃん、そろそろ上がっていいよ。」
閉店後、締め作業をしていたセリカに大将が声をかける。
「分かりました。ではそろそろ上がりますね。」
「いや~まさかあのタイミングでみんなが来てくれるなんてびっくりだよ~。」
セリカが上がろうとすると、厨房で調理器具を洗っていた。ユメも出てきた。
「おお、ユメちゃん。ユメちゃんも今日は上りでいいよ。」
「わかりました~。じゃ、帰ろっか、セリカちゃん。」
お疲れ様でーすと声をかけ、二人は帰路に着いた。
「ねえ、セリカちゃん。今のアビドスの子たちはどうかな?みんな仲良くやってる?」
「ふん!知らないですよみんななんか。人が働いてるのにあんな大人数でやってきて先生先生って……。」
「ハハハ……もしかして、セリカちゃんはあの場にいた先生って人のこと、あまり気に入ってない感じ?」
まさに今セリカの中で一番の問題になっている事柄を言われ、肩がピクリと震える。
「そ、そうですよ!部外者なのに、私たちの事情にずかずか入り込んできて、あんな奴、素直に認められるわけないでしょ!」
「でも、ほかに誰も助けてくれない中、あの人は部外者なのにアビドスを助けてくれたわけでしょ?」
「それは、そうなんですけど……。」
セリカは口ごもる。なんだかんだ学校を助けてくれたことに関しては心の底から感謝しているのだ。ただ、その感情をうまく整理できていないだけである。
「私はねぇ、あの人、普通にいい人だと思うなぁ。」
「先輩、先生にあったの今日が初めてじゃないですか……。」
「それはそうなんだけど、今日、先生がみんなと楽しそうに話してるのをみて、私はそう感じたの。それに、まずは相手のことを信じてみること!これは、大事なことだよ。」
「何ですか、それ……。」
そんなやり取りの後、帰り道が別々になったので、ユメとセリカは別れた。
別れた後も、ユメの言葉が頭に響いていた。
「まずは信じてみる、か……。一度だけ、信じてみてもいいのかな……。」
そうつぶやいた瞬間、目の前に複数の人影が現れる。
「黒見セリカ……だな?」
「ヘルメット団?あんた達、まだこの辺にいたわけ、ちょうどいいわ、憂さ晴らしもかねてボコボコに――」
ズガガガガ!
「(うぐっ!後ろにも敵!?そうか……こいつら、最初から私を……!)」
「いまだ、やれ!」
ドゴオオオオオオン!!
「ケホッケホッ……この音、対空砲……いや、Flack41改?こいつら、ただのヘルメット団じゃ……ぅぐ……」
度重なる高火力の攻撃、そして同時にばらまかれた麻酔効果を持つガスによって、セリカは意識を失った。
「生かして捕らえろとのことだ。とりあえずそいつを拘束して、車でランデブーポイントに向かうぞ。」
激しい襲撃の跡を残して、セリカを乗せたヘルメット団の車は走り去っていった――。
subnauticaです
ギリギリGWを過ぎた投稿
この小説を書いてたらあっという間に休みも終わってしまいました……
次回はセリカ救出がメインになります。
また次回、お会いしましょう。