機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第9話 初めての「さよなら」

 ソロモン攻略戦は連邦の艦隊にも少なからぬ打撃を与えていた。次なる進撃のために再編成の必要に迫られたレビル将軍は占領した要塞で部隊を休息させつつ、後方からの補給や援軍を糾合していった。その中に、ゼノン少将率いる“ブラック・ジェネレーションズ”第一部隊も含まれていた。貸していたアプサラスⅢも戻ってきた。だが、そのコックピットから現れたパイロットの姿に、迎えたクレアは面食らった。

「おう!役に立ってくれたぞ、感謝する!」

「馬鹿アキラ……あんたがモビルアーマー動かしてたの?」

「しょうがないだろ、シャイニングガンダムがないんだからな。他の連中は他の機体を使ってたし。

 ……ところで、俺のシャイニングはどこだ?もうエースにはなったよな?」

「い……いやあ、実は……あれ……」

 クレアの指差す方向には、ビグ・ザムの爪を胸に食らって倒れたままのシャイニングガンダムが転がっていた。

「…………!!」

 思いもよらなかったものを見せられ、アキラ・ホンゴウは愕然と肩を震わせた。

「ち、ちょっと調子が悪くって、シャイニングフィンガーが意外と減らなくってさぁ……。あ、あはははは……」

「なんということをしてくれるーっ!!」

「ごっ、ごめーん!」

「待てーい!きちんと説明しろクレアーっ!!」

 追いかけっこの様子を横目に見ながら、ケイは満足そうに強力になっていく機体を眺めていた。

 Ez8は前回の重装備型から高機動型に換装され、サイコミュ試験用ザクも脚部をバーニアに取り替えた高機動型になっている。

 ザクレロはビグロに、GファイターはGディフェンサーになった。ささやかながら、とうとう一年戦争の時代を超えた機体が登場したことは整備兵として無上の喜びである。

「おいっ」

「ん?」

 感慨に浸っていると、クレアに逃げ切られたアキラが迫ってきた。

「なんでシャイニングが放置されてるんだ!?直してくれたっていいだろう!」

「どうせモビルトレースシステムの調整で一からやり直すんだから、そっちに渡してからやったほうがいいと思ったんだけど」

「ぐぬうっ……」

 不承不承、Gディフェンサーにシャイニングガンダムをつないでアキラは帰って行った。

 Gディフェンサーが帰艦してくると、ミンミは疲れた顔をしてコックピットから現れた。

「向こうでなんかあったの?」

「いえ、このところ少々寝不足でありまして……。妙な夢を見るのであります」

「変な夢?」

「はい、何か耳鳴りのようなものが一晩中……それも目を覚ましてもまだ聞こえるのであります」

 それに苦しめられていたのは、実はミンミ一人ではなかった。そしてそれが夢ではなく現実なのだと連邦軍が悟らされるのも、さして時間はかからなかった。

 

(ラ…ラァ…… ラ…ラァ……)

「誰?誰なの?あのときの人……?」

 ベッドの中で、ショウは頭痛に耐え続けていた。音のようなものが聞こえてくるが、それは耳からではなく頭の中に直接響き渡る亡霊の歌声のように感じられた。

(ラ…ラァ…… ラ…ラァ……)

「違うよ……何か、ヘンだよ……」

 以前その声を聞いた時には、母親の胸に抱かれているような温かいぬくもりがあった。しかし、今のそれは頭を突き刺すような痛みや、一瞬目の前が見えなくなるような眩暈をともなう幻像でしかなかった。

「こんなの……違うよ……。この前のと……」

(ラ…ラァ…… ラ…ラァ……)

「ねぇ……どうしちゃったの?」

 ショウの問いかけに返事は来なかった。しかし確実に分かるのは、次第に歌声が遠ざかっていくことだった。

「どこ……どこに行くの?」

 意識朦朧としたまま、ショウは声の主を求めて扉を開けた。

「ショウ?……起きてるの?」

 眠れなかったのか、パジャマ姿のカチュアが通路を歩いていた。

「カチュアちゃんも?」

「うん……ヘンな音が聞こえるの」

「僕にも、聞こえる……」

「こっちだよね」

 二人は遠ざかる声に向かって歩いていった。そして、艦内で一番その声に……ジオン軍に近い、ブリッジルームにたどりついた。

 いつも任務についているマリアとネリィは寝ている時間だ。その代わりにクレアがオペレーターをやっていた。しかし、マークだけは就寝時間を取らずに、冷静に被害報告を受けていた。

「ショウ、カチュア?寝なくて大丈夫なのか?」

「寝られないんです、変な声が聞こえて……」

「今日のところは帰ったようだな。被害は大きいが、ここまでは来るまい。そのために後退しておいたからな……」

 マークは旧友を見送るような目で、宇宙空間の向こうを見つめていた。

「知っているんですか?」

「ジオン軍のニュータイプだ。

 同じ方法で攻撃してきた相手は彼女を含めて三人いた。そのうち二人には勝てたが……最後の一人には手も足も出なかった。無制限の善意とでも言おうか……」

「艦長、その話は止めようよ。今はララァでしょ」

 クレアはマークの昔話を打ち切った。

「ララァって言うんですか?その人……」

「そうだ。すぐに戦う事になるが……できれば、彼女とは戦わない方がいい。緑色のモビルアーマーに乗っているから、それを見たら回りに気を付けるんだ。どこからビームが飛んでくるか分からんぞ」

「そんなにすごいんですか?」

「ああ。ついさっきまで、連邦は大きな被害を受けていたところだ。俺たちは戦っても勝てそうにないから攻撃が来ないところで休憩しているのさ」

「勝てない……ですか?」

 ショウはつばを飲み込んだ。これまでの戦いを見ても、クレアやシスの戦闘能力は通常の兵士を大幅に超えている。加えて機体の性能は連邦やジオンのどの機体よりも段違いに上だ。それに、マークもクレアも、あっさりと自分の負けを認める性格ではない。

「ララァ・スンに勝てるニュータイプは黒歴史のどこにもいない。アムロ・レイやシャア・アズナブルでさえもな……」

「シャア……。シャアも来ているんですか?」

「いつもの通り、赤いゲルググに乗っているよ。だが彼の側にはララァがいる。近づかない方がいいぞ」

 ショウとカチュアは顔を見合わせた。

 マークがあまりに泰然自若としているので、勝てないという実感が湧かなかったし、アムロやシャアよりも強いという意味がよく理解できなかった。

「……まあ、明日は戦闘になる。今日はもう寝ておくんだ」

 その言葉に従ってブリッジルームを出たが、釈然としない気持ちは残っていた。

「ジュナスから通信だよ。すごいよ、シャイニング直ったって」

「信じられないな。ケイは最初からあきらめたってのに。さすがはおやっさんだな」

 二人の楽しそうな声が背中から聞こえてきた。敗北を悟っているようには思えなかった。

「カチュアちゃん……どう思う?」

「さぁ……。心配ないんじゃないの?一番強いのはアムロとシャアだって習ったんだけどな……」

「そうだね。結局シャアも来るんだから、とりあえずそっちに注意しないとね」

 こう言って、ショウはカチュアと分かれて眠りについた。

 

『みんな、よく眠れたか?』

 モビルスーツデッキへの最初の一言はそれだった。体調が万全でないようでは、これからの戦いは過酷すぎるのである。

 機体を半壊させられたクレアは今回は休みで、昨晩勤務して今は眠っている。双方の艦隊がぶつかる激戦の中で、ソロモンの亡霊を子守唄にしてぐっすり熟睡できる神経の持ち主はクレアくらいのものである。

 ショウ、カチュア、ユリウス、ミンミは前回の機体と同じ割り振りで、強化できたものも多い。

 レイチェルは戻ってきたアプサラスⅢに乗って、サイコミュ高機動試験用ザクにはシスが搭乗した。

『ギュンター大佐、今日の指揮はあなたが執っていただきたい』

「僕が?レイチェル少尉ではないんですか?」

『あなたがニュータイプではないからです。いつもとは逆の理由で、今日はニュータイプに任せられないのです』

 それは暗に、マーク自身の指揮も乱される可能性があると言っているのに等しかった。

『今日は防衛戦です。友軍も多いですから、危険だと思えば早めに艦に戻ってください。ミノフスキー粒子を常に出し続けますから、一番粒子が濃いところがこの艦です。

 レイチェル、最悪の場合は君が守ってくれ。アプサラスⅢが一番耐久力がある』

 作戦が決まると、彼らは沈黙と緊張の中でジオン軍を待ちうけた。彼らはガチャベースを囲むように布陣した連邦軍の一角を担っている。

「寝ていないんでしょう?」

 エリスが心配そうな顔を向けた。

「代わりに君が艦の指揮を執ってくれるかい?」

 マークは冗談めかして答えたが、ふとそれも悪くないと考えもした。それをマリアの声が打ち消した。

「敵艦隊接近中です!」

「味方艦と連携して陣形を組め!艦隊戦は陣形さえ崩さなければそうそう攻められるものではない!」

 わざと守備の一方を空け、そこに突入して来た敵を各個撃破する。戦術の基本である。

 キシリア・ザビの旗艦を待ちうける役はゼノン少将の艦であり、マークたちは堅く守っていれば良かった。頭の中に、再びソロモンの亡霊の歌声が聞こえてくるまでは。

「エルメス、シャア専用ゲルググ、突出してきます!」

「ミノフスキー粒子散布!モビルスーツ隊を発進させろ!」

 マークは祈るような気持ちで、三度目の旋律に耳を傾けた。

 

「いいですか、敵のモビルアーマーはアムロ・レイたちに任せて、僕たちはその突入を支援します。くれぐれも直接戦ってはいけないですよ。無傷で送り届けることができれば作戦は成功です」

 ユリウスは作戦を確認すると、高機動型に換装されたEz8を宇宙に躍らせた。高機動型とはいうものの特別に早いわけでもなく、むしろ重装型に比べて武装の弱体化が目立つ。中途半端な機体で、これでは突出しようという方が無理だった。

「一応、任務には適しているというわけですか……」

 ゆっくり構えようと思っていたユリウスの横を、突然ビグロとトルネードガンダムが駆け抜けて行った。

「ショウ、カチュアちゃん、待って!先に行きすぎです!」

「シャアを倒せばいいんだよ!」

「それはアムロ・レイに任せるんです!」

 ユリウスの制止は彼らを止める事はできなかった。メガブースターを装備したトルネードガンダムの機動力は通常の二倍にまで高まっている。Ez8で追いつくのは不可能だった。

「大佐、自分が援護に回りましょうか?」

 ミンミのGディフェンサーならば追いすがる事はできる。しかし、ユリウスはそれでは犠牲を増やすだけだと判断した。

「君とシスは射程ぎりぎりから援護射撃。それ以上は近づかないで。

 レイチェル少尉、すみませんが盾になってください!」

「了解よ!」

 戦況を後ろから見守り、的確な後方支援をするはずだったレイチェルは即答しながらため息をついた。

「盾になれなんて……言葉を飾ろうとは思わないのね」

 普通は死地に飛び込む者に対して、少しは気持ちをやわらげる表現を使うだろう。たとえ事の本質をニュータイプが察知する事を知っていても。だが、ユリウスの言葉は戦場をチェスボードと同じ目で見ているようだった。

「嫌なところばかりニキさんに似るんだから……」

 アプサラスⅢのバーニアを噴かせて、ショウとカチュアの後を追う。しかし、彼らはすでに勝てない相手と出会った後だった。

「見た事のないガンダム……。マーク・ギルダーか?」

 真紅のゲルググを操るシャアはビームナギナタを自在に操り、トルネードガンダムを押し返した。

「艦長を知ってる!?」

「子供だと?……そうか、あの時のガンダムのパイロットか!」

 大気圏突入の際に二人は一度戦っている。機体の性能で勝っていても、あの時シャアにはまるで手が出なかった。

「マーク・ギルダーが艦長だと?君のような子供にパイロットをやらせて、後ろで黙っている男ではあるまい!」

「もうモビルスーツには乗れないって言ってたんだよ!」

「戦場の魔王が……天使にでも撃たれたというのか?」

 言葉を交わしながらも、シャアは余裕を持ってショウの攻撃を打ち返していた。ビームライフルの撃ち合いではほとんど倍の速度で連射していく。

 カチュアのビグロもエルメスに接近することができず、いたずらにビットの攻撃で消耗させられていった。

 そこに、アプサラスⅢの大型メガ粒子砲が割り込んだ。

「だから出ちゃいけないって言ったでしょう!」

 苦戦していた二人はあわててアプサラスⅢの後方に下がる。さすがにシャアとララァも大事を取って、この巨大なモビルアーマーに闇雲に突撃しようとはしなかった。

 そして、そこにアムロ・レイたちが到着したのである。

「これ以上やらせはしない、シャア!」

 シャアに向かうガンダムの白い背中を見た瞬間、ショウの心の中に言い知れぬ不安が走った。

「ダメだ!そっちに行っちゃいけないよ!」

 どうして無理矢理にシャアと戦おうとしたのか、その理由にやっと気づいた。そして、それをもう止めようがないことも。

 

「俺のこの手が光って唸る!!おまえを倒せと輝き叫ぶ!!

 努力とッ!!勇気とォッ!!友情のォォォォッ!!

 シャァァァァイニングゥ!!フィンガァァァァァソォォォォォ─────ドォォォッッ!!!」

 黄金に輝く魂の剣が、戦艦を文字通り一刀両断する。

 その一撃でシャイニングガンダムのエネルギーも、アキラの精魂も尽き果てた。

「エネルギーがなくなった、帰艦するぞ!」

 アキラは疲れ切った顔で安全な場所に戻ると、モビルトレースシステムの中でがっくりとひざを地につけた。

『アキラ、お疲れ様』

 ジュナスの優しい声が入る。それに対して、アキラの返事は呼吸を整えながらのものだった。

「クレアが負けた訳が分かったぞ……」

『えっ?』

「機体のエネルギーが減るのはともかく、必殺技の破壊力が間違いなく落ちている……!疲労も前の倍はある。これでは、とても、必殺技ばかりでは戦えん……!

 何故だッ!!修行を欠かしていたわけではないのに……!」

 いらだった拳が床を打つ。それを慰めるジュナスの声はあくまで柔らかだった。

『前の調子が良すぎたのさ。回復し切るまでゆっくりしていなよ』

「すまん、そうさせてもらう……!」

 アキラは糸が切れた操り人形のように床に倒れこみ、心身の回復を待った。

「それでも……俺たちは一心同体なんだ、シャイニングガンダム……!!」

 

「みんなの心が疲れているよ……。ララァ・スンはどうしているのかな?」

 戦場に鳴り響く歌声が止まらない。ソロモンの亡霊はまだ健在である証拠だ。それが止まれば戦場の空気が変わるはずである。

「先ほど、アムロたちが接敵したはずだ。もうすぐ終わる。

 ……辛いのか?」

 ゼノン少将は、まだ立ち直ったとは言えないジュナスを気遣った。

「僕は大丈夫です。けど……あの子たちは……」

 これから幼い心に焼き付けられるであろう悲劇を想起して、ジュナスは悲しげに目を伏せた。

 

 ガンダムのビームサーベルがエルメスに吸い込まれていく。辺りが光に包まれ、転がるようにエルメスは遠くに行ってしまう……

 その光景が、ショウにははっきりと見えた。それはまだ起こってはいない白昼夢に過ぎなかったが、これから確実に起こる事なのだとはっきりと感じられた。

 そのガンダムはシャアの乗るゲルググを圧倒していた。ビームナギナタを持つ腕を切り落とし、とどめの一撃を打とうとする。

 その次の出来事が、過去に起こった事のようにショウの脳裏を駆け巡った。

「駄目だよ!そっちに行っちゃ駄目だ!」

(不思議な子ね……まるで何もかも見えるみたいに……

 まだ、本当はあなたと出会ってもいないような気さえするのに……)

「分からないよ、僕は……」

(大佐の言う、ニュータイプという人がもし私たちのようなら……)

 夢の中の会話をしている間に、まるで夢の続きを見ているかのように同じことが起こった。巻き戻したビデオをスローをかけて見るように、エルメスにビームサーベルが突き刺さる。

 そして銀河の流れる幻想の空間に、ニュータイプたちは浮かんでいた。人の思惟が極大まで達した世界には、もはや連邦もジオンもなくなっていた。ただ、この奇跡を共有できる幸福感を噛み締める者たちだけがそこにあった。

(人は変わっていくわ、私たちと同じように……)

「そうだな……ララァの言う通りだよ」

(アムロは本当に信じて?)

「信じるさ、君ともこうして分かりあえたんだ。人はいつか、時間だって支配できるさ」

(ああ……アムロ、刻が見える……)

 一瞬の至福が過ぎ去った後には、エルメスの爆発が宇宙に広がり、戦士たちは全ては失われた後だったと気づかされていた。

 むなしく宇宙に叫ぶアムロ。

 悔恨を胸に撤退するシャア。

 そしてショウは、自分の身に起こった奇跡が現実なのだという確信を、溢れる涙の中で繰り返していた。

「僕は……刻を、見たんだ……?」

 傷ついた幼い心を、ブリッジでマークは感じ取っていた。戦いはまだ終わっていなかったが、一番大切な事はやり終えたという実感があった。

「モビルスーツ隊を撤退させろ。戦力を立て直してから残存部隊の掃討にかかる。

 もう敵にニュータイプはいない、着実に行けば勝てる!」

 指揮を執るマークを後に、エリスはモビルスーツデッキへと足を運んでいた。トルネードガンダムから降りたショウが、虚ろな表情で近づいてくる。

「ショウ君……」

 エリスはショウを抱きしめて、心の痛みを分かち合った。堰を切ったように大声で泣き出したショウを固く抱きしめて、エリスはブリッジルームへと帰っていった。

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