機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第14話 レイチェル脱走

 事件は戦闘空域から離れ、マークもエリスも寝ている時に起こった。

 この場合先任士官は大佐であるユリウスなのだが、彼はまだ子供である。

 となると、艦の指揮をとるのはクレア・ヒースロー中尉ということになってしまうのである。

 それだけでも大変な事態なのだが、根本的な原因はそれではなかった。

「どういうことなのよ、それは!」

「で、ですから……今度の作戦が始まったときから決まっていたんですよ。いまさら変えられないんです」

「私を騙したのね!」

「そんなつもりで言ったわけでは……」

「私が何のためにここに来てるのか分かって言ってるの!」

 ユリウスはレイチェルの剣幕におびえるばかりだった。彼女にとって重要な事だとは分かっていたつもりだが、それを目の前にするのは子供には無理がある。

「いいわ!一人でも行くから!ハッチ開けて!」

 止める間もなく、レイチェルは開発できたばかりのゲーマルクに乗り込んだ。フライングアーマーを素早く占領すると、ハッチに厳しい視線を向ける。開けなければ吹き飛ばす、そう視線が語っている。

 ブリッジからの直接操作で、ゆっくりとレイチェルの前に道が開かれた。

「ちょっと、誰が開けたんですか!?」

『私、クレア・ヒースローが開けると言っているのだ!邪魔はさせんぞ!』

「クレア中尉ーっ!」

 悲鳴をあげるユリウスを無視して、クレアはレイチェルに話し掛けた。

『レイチェル、本当に援護はできないよ』

「分かってるわ!」

『……拾いにもいけないんだよ』

「だったらアウドムラに乗せてもらうわよ!」

『そっか……。じゃ、こっちから話はしておくよ。

 ……頑張ってね!』

「クレア……ありがとう!レイチェル、ゲーマルク出るわよっ!」

 フライングアーマーが全速で飛び出し、その姿はすぐに空の彼方の一点の光に変わる。

 吹き飛ばされないように辺りにしがみついていたユリウスは、閉じていくハッチを呆然と見ながらあきれた様に言った。

「どうするんですかクレア中尉!勝手な事をして!」

『レイチェルにしてみれば勝手なのはこっちだよ。まさか知らずに来てるなんて私も思ってなかったし』

 ユリウスは溜息をついて、これ以上自説の主張をするのをあきらめた。

 結局、クレアはレイチェルの味方なのだ。マークかエリスが起きていたとしても、彼らもまたレイチェルの意思を尊重してしまうだろう。これだからニュータイプは、といつもの愚痴がつぶやかれる。

 別の戦線に向かっている第一部隊のゼノン少将、ニキ中佐、エルンスト少佐の誰か一人でもいればこの事態を避けられたかもしれない。しかし彼らは特務部隊“ブラック・ジェネレーションズ”の総指揮官、参謀、そしてニュータイプを除けば最高のパイロットでありモビルスーツ隊の隊長である。向こうにとっても外すわけにいかない戦力だった。

 そして、事態はさらに悪化した。アウドムラに通信を入れようとしたクレアに、逆に通信が届いたのである。

『こちら本部です!緊急事態発生!応答してください!』

「こちらアルビオン、どうぞ」

『クレア中尉?マーク大佐かエリス大尉は?』

「寝てるよ」

『どうしてこんなときに……』

「どうしたの?こっちも取り込んでるんだけど」

『ラナロウ・シェイド中尉が脱走しました。今、そちらに向かっていると思われます』

「……はぁ?」

 クレアは一瞬呆けたが、なんとなく心当たりはあった。

『ガーダーを突破して本拠地を制圧、そちらの時代に転送されてフライングアーマーで大気圏突入したところまで確認されています』

「どんな行動力してるんだ、あいつは。

 こっちもレイチェルが出てっちゃったよ」

『示し合わせての行動でしょうか?』

「気づいたのがついさっきだったから違うと思うよ。で、どうするの?」

『こちらからは何もできません。そちらにお願いしようと思っていたのですが……』

「1、援護する。2、健闘を祈る。どっちがいい?」

『連れ戻すって選択はないんですか?』

「もう出て行っちゃったあとだから、同じフライングアーマーに乗って行ったんじゃ、結局追いつくのは戦場だよ。

 ん……あ、ある。ショウ!聞いてたらトルネードガンダムで出て!」

 艦中に響き渡った声に、食堂から返事があった。

『なにがあったんですか!?』

「レイチェルを追って!一秒でも早く!」

 通信機の向こうから安堵の声が漏れた。

『これで大丈夫ですね……』

「うん、ショウなら援護は大丈夫だよ」

『ち、ちょっと待ってください!連れ……』

 悲鳴に近い叫びを無視して通信を切ったクレアは、すぐにアウドムラへの通信に取りかかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 フライングアーマーを走らせている途中で、空の上が光るのを感じた。センサーが何か捉える前にレイチェルはそれを悟っていた。

「来た……?」

 大気圏を突破してきたそれはレイチェルに接近し、併走する体勢に入ろうとしていた。

「シェイド?」

「レイチェルか!」

 ゲーマルクと同じくフライングアーマーに支えられた機体はGP02サイサリスであった。機体の象徴とも言えるアトミックバズーカは装備されておらず、ビームサーベル以外に武装はほとんどない。

「よくここにいるって分かったわね……。強化処理、受けたの?」

「まだだ。けどな……はっきり覚えてるぜ」

「忘れられないわよ……!」

「そうだな。それにしてもゲーマルクはありがたいな。こいつ一機でどうしようか考えてたところだったからな……」

「敵は私がなんとかするわ。その間に……」

「ああ。……飛ばすぞ!」

 二人は打ち出された弾丸のように空を駆け抜けた。その視界に、目指すアウドムラが入ってきた。同じガルダ級スードリから出撃したハイザックと、可変モビルスーツ・アッシマーに襲撃を受けている。

 だが、二人の目的はそれではなかった。戦場を一気に突きぬけ、スードリと逆の方向からモビルスーツ隊が挟撃をかけようとするところに突入した。その先頭に、黒い戦闘機のようなシルエットがあった。

「ロザミィッ!聞こえるか、ロザミィーッ!」

「シェイド……ラナロウ・シェイドなの?どうしてガンダムなんかに?」

「おまえを連れに来たんだっ!ティターンズにいたらいけないんだよ、おまえは!」

「だから研究所を裏切るって言うの?」

「それがおまえのためなんだ!こっちに来るんだ、ロザミィ!」

 サイサリスはギャプランだけを追い続け、無防備に戦場に背を向けている。もともと武装らしい武装さえない。

 そこを狙った敵兵はゲーマルクのファンネルで一掃される事になった。サイコガンダムを研究・洗練し、通常サイズにまとめたような機体である。量産型数機がかなう相手ではなかった。

「ロザミィ、話を聞いて!ティターンズはよくないことをしようとしているのよ!」

「レイチェル……レイチェルなの?」

 話したい事はいくらでもあった。信じてはもらえないだろうが、これから起きる出来事全てを伝えたかった。

 だが、彼らの会話はそこで終わった。アッシマーにアムロ・レイの操る輸送機が飛び込んだのである。

「全機撤退だ!」

 部下は全て討たれ、戦況は思わしくない。ギャプランは二人に背を向けて飛び去っていく。

「待てっ!待ってくれ、ロザミィーっ!」

「帰ってきて!もう二度と会えなくなるかも知れないのよ!」

 二人の叫びは届く事はなく、フライングアーマーの速度ではギャプランには追いつけない。レイチェルは痛みを感じるほどに歯を噛み合わせ、シェイドはコンソールパネルを両手で力任せに殴りつけた。

「くそっ……!また……!」

「まだ……まだよ、もう一度あるわ……!」

 レイチェルは何度も口の中で繰り返した。それは自分に言い聞かせるためでもあった。

「そこの二人、着艦しろ!戦闘は終わった!」

 アウドムラから通信が入る。未練を残したまま従うしかなかった。そこに、ようやくトルネードガンダムが近づいてきた。

「レイチェルさん!何があったんですか!」

「終わった…… 終わっちまったぜ……!畜生っ……!」

「まだよ……今日が終わっただけ……!だから……!」

 ただならぬ気配を二人に感じながら、ショウもアウドムラに身を寄せた。

 

「そうか……。まあ、あとは私たちがやるからさ。ひさしぶりにシェイドと話してなよ」

 レイチェルからの返答を待たずに、クレアは通信を終えた。

「……駄目だったって」

 後ろにいるマークとエリスに報告をする。マークたちも、レイチェルの暴走をとがめる気にはならなかった。

「仕方がないな……。最後の最後まであいつらはあきらめないさ。

 それより、次の作戦だ」

 モビルスーツデッキには、前にまして優秀な機体が揃ってきていた。

 ガンダムMk-Ⅱとリック・ディアスから、プロトZガンダムができていた。クレアはマンダラガンダムを惜しがったが、今後を考えれば仕方がない。同じくガンダムMk-Ⅱとメガライダーから百式が。ミンミは珍しく高性能な機体を与えられて喜んでいる。

 カチュアのバイアランからは偵察機能を持つボリノーク・サマーンが設計されていた。将来はニュータイプ用の強力な機体になるはずである。

「クワトロ大尉の乗るHLVが発射されるまで、敵の攻撃から守りきれば任務は成功だ。

 我々は敵部隊の横っ腹から一気に突っ込んでいく。敵が行動する前に倒せ!」

「了解!」

 霧の中である。当然、視界は悪い。

 こんなときにボリノーク・サマーンの偵察機能は役に立つ。それを部隊全体に伝え、緊密な連携で孤立した敵を叩く。ユリウスはそうした戦いが好きだった。

 シスは間違いなく命令を実行する。カチュアは暴走気味だが、ミンミは空いた所をフォローするのが得意だ。そうしてチームワークのとれた部隊になっていた。ここで戦闘力だけを見てミンミとショウが入れ替わっていたら大変な事になっていただろう。

 逆に、クレアとレイチェル、そしてかつてのエリスは通じ合う心と友情、相性で連携をとっていた。事前に大まかなことを決めておくだけで、あとは個々の即断が自然に周りに合わせたものになっていた。

 クレアから見ればユリウスはいちいち細かい事を言ってくる面倒な相手であり、ユリウスは良いと感じたら平気で指揮を逸脱するニュータイプの存在は作戦の邪魔ですらあった。

 これはマークとユリウスの、作ろうとする部隊の志向の違いである。その二つの部隊が同居する事で、彼らはバランスの取れた大きなひとつのチームになっていたのだった。そしてその意味では、ショウはマークの理想のパイロットなのである。

 そしてショウとレイチェルがいない今、ユリウスのチームの負担は大きくなっていた。しかし当人は、いつもより障害が少ないとさえ思っていた。

「シス、適宜有線制御式ビーム砲で援護してください。拡散メガ粒子砲は同士討ちの危険があります。

 カチュアちゃんは敵の中央へ。僕が援護射撃を誘導します。ミンミは僕の周囲の敵を排除してください」

 戦いとはこうしてやるものですよ、とここにはいないショウにつぶやいた。彼の事だから、どこかで聞いているかもしれないと思えるのも嫌な性癖だった。

 敵の反撃は思いのほか軽微だった。最大の敵戦力であるアッシマーがクレアに翻弄されていたからだ。

「ちょっとー、体当たりなんてするか普通!?聞いてないわよっ!」

 敵味方に丸聞こえで軽口を叩く。余裕があるとか撹乱目的とかではなく、これがクレアにとっての真剣勝負なのである。だからユリウスは苛立つのだ。

 

「みんながいる……戦ってるよ……!」

「ほっとけ。どうせ勝つさ」

 シェイドはアウドムラの窓から見える戦闘の光景を、何か遠くのことのように感じていた。

「ガンダムMk-Ⅳはもうできたか?」

 ぶっきらぼうなシェイドの態度に、ショウは少しだけ畏怖を感じていた。この時代に来てから、すぐに他人に怯えるようになってしまっていた。

「いえ……まだ、Mk-Ⅱです」

「そうか……。俺とレイチェルはMk-Ⅳのテストパイロットだった。それを奪ってオーガスタ研から逃げてきたんだ。

 そこにあいつもいた……」

「…………」

 レイチェルから、ロザミア・バダムという少女の事は教えてもらった。彼女を助け出すためにここに参加したのだということも。

「なあ……。おまえ、ニュータイプなんだろう?」

「う、うん……」

「なら分かるな?嫌な空気だぜ……」

「そうですね……」

 その中の一人にふさわしい圧迫感をシェイドは持っていた。だが、カミーユのように闇雲に周囲を憎悪するのではない、複雑な感情をショウは感じていた。

「これが終わったあとな……。クレアみたいな奴がうじゃうじゃいる時代が来るって言ったら信じるか?」

「えっ!?」

 ショウは思わず吹き出してしまい、怒られるかと体を硬くした。

「バカみたいだろ。でも本当に来るんだ。もっとずっと後に、アキラの野郎が来たとかいう狂った世界まであるって話だ。まったく訳がわからんぜ。だからな……」

 シェイドは窓から視線を離して、ショウに向き直った。

「この時代で終わるわけじゃない。時が続く限り未来が来るんだ。信じられないような未来がな……」

 その強い意思は、ショウの心に消えかけた炎を宿した。勇気だ。

 悪夢の時代に生きるシェイドとレイチェル。二人はまだ、未来を失ったわけではないのだ。

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