機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第16話 歪められた宙域

 アルビオンは宇宙に戻ってきた。

 目の前には月が淡い輝きを放ち、子供たちに不思議な感動をもたらしていた。

「これがこの時代の月なんですね……」

「まだ、お城もなんにもないのね」

「なんにもないわけじゃないさ。いくつか街ができて、人だって住んでいる」

 解説するマークの言う通り、月面都市フォン・ブラウンの姿が近づいてきた。マークたちが見知っている月の世界よりもはるかに稚拙な……しかし、未来への希望に溢れた世界。

「今日の任務は、このフォン・ブラウン市の防衛だ。負けるわけにはいかない。文字通り、我々の未来を守る戦いなんだからな……」

「当然ですよ。ティターンズなんかに月を渡すものですか」

 ユリウスも語気を強めた。こんな調子になると眉をひそめるエリスも、この日だけは違っていた。彼らの時代に到達するまで、人類はまだ千年以上の時を経なければならない。しかしどれだけの過去にさかのぼろうと、彼らにとってそこは故郷なのだから。

 

 モビルスーツデッキでは、また別の意味で気合を入れる人々がいた。

 並んでいる機体は軒並み進化していた。先日の強敵サイコガンダムも今は頼もしい重鎮である。

 Zガンダム、百式改、ガンダムMk-Ⅲらも強力なモビルスーツであるが、一番嬉しがっているのはカチュアだった。今までなぜかモビルスーツはシスに比べて不遇だったが、ボリノーク・サマーンがジ・オになったのだ。サイコミュ兵器こそ搭載されていないものの、れっきとしたニュータイプ用の機体である。すでにこの時点で、グリプス戦争前期のモビルスーツの進化の頂点に達したことになる。この先に進めば、もはやオーバーテクノロジーの機体なのだ。

 そして華々しい新型機の陰に隠れて気づく者は少なかったが、シェイドの乗って来たサイサリスもその本当の力を手にしていた。

『敵艦は六隻。こちらは我が艦と、アーガマとラーディッシュの三隻だ』

「性能が違う、性能が」

 Zガンダムのクレアは笑い飛ばした。

「クワトロ大尉もいればカミーユもいるよ。大丈夫だって」

『油断はするなよ。ドゴス・ギアにはシロッコがいるんだぞ』

「モビルスーツに乗ってるわけじゃないでしょ。それにこっちにはサザビーとかサイコガンダムがあるんだよ。楽勝だって」

 クレアは軽く考えているし、レイチェルやシェイドも異を挟むことはなかった。だが、ショウはその名前を聞いた瞬間に悪寒のようなものを感じ取った。

「誰……なんですか、その人は……?」

「パプティマス・シロッコ。シャアやカミーユと同じくらいのニュータイプだよ」

「そんな……?」

「大丈夫だって。いざとなったら戦艦だけつぶせばいいんだからさ」

 詳しい事を教えてもらう前に、マリアの声が艦内に響いた。

『ティターンズ艦隊、動き出しました!』

『早いぞ!まだ街で補給もしていないと言うのに……!

 ネリィ、全速前進!防衛線構築に遅れるな!モビルスーツ隊発進準備急げ!』

 急いでモビルスーツに乗り込むパイロットたちの間に作戦が伝えられる。

「ミンミはメガバズーカランチャーを撃ちやすい位置を確保、射程内に三機以上の敵を捕捉したら発射してください。

 僕が後方支援するのでカチュアちゃんが斬り込んで下さい。弾を撃ち尽くしたら後退しますから、敵の攻勢にはシスが防衛に当たってください。僕たちの援護よりも、防衛のためのエネルギー保全を優先して」

「だ、そうだからみんな適当にやっちゃってね~♪」

「クレア中尉……いつも疑問に思うんですが、なぜあなたはそう言う態度でいつも生きて帰って来られるんですか?」

「ん?ニュータイプだから」

 クレアはそのことに自信満々だったが、ショウたちは違っていた。以前から感じていた不安が少しずつ大きくなっていくのを肌で感じていた。

「ね……なんか、ヘンだよね」

「カチュアちゃんもそうなの?」

「私も……地球に降りる前に感じたのと同じ……」

「イヤな感じぃ……」

「そうだよ……きっと、あれを倒さなくちゃいけないんだよ……!」

 トルネードガンダムの操縦桿を握る手に力が込められる。

「ショウ・ルスカ、行きます!」

 宇宙に飛び出して行ったショウは、目指すものに近づくほどプレッシャーが強烈になっていくのを感じ取った。

「ショウ!」

 追おうとしたカチュアをユリウスが止めた。

「行っちゃ駄目ですよ、カチュアちゃん!」

「もう、どうしてよ!」

「援護ならクレア中尉たちがやってくれます!陣形を乱さないで!」

「……んーもう!」

 カチュアはぐずったが、一応言う事は聞いてくれた。

「しかし……シロッコを相手にするのは一人では危険ですよ。みんなで行かないと……」

 それをするためには、まず敵モビルスーツ隊を駆逐しなければならない。目の前に迫った敵勢を待ちうけつつ、エゥーゴのモビルスーツは横一列の陣形を組んだ。その眼前に、ティターンズの艦艇からモビルスーツ隊が姿を現していく。

「せめて私の手で、その業を払わせてもらう!」

 クワトロの百式、ミンミの百式改が並んでメガバズーカランチャーを発射する。直線状に並んだ敵モビルスーツを一気に叩き、そこにMk-Ⅲの援護を受けながらジ・オが斬りかかる。

 たちまち四機、五機と宇宙の閃光と化していったが、敵の数はいまだ大勢を占めていた。

 

「……そこ、後から……来るよっ!」

 トルネードガンダムが戦線から離れ、一人宇宙を駆けていく。

「あいつ、どこ行く気だ!?」

「シロッコのとこじゃないの?」

 シェイドとクレアはそれを見ていたが、目の前に敵が多すぎた。

「レイチェル、カバー行けそう?」

「無理よ。目の前のを叩いたら補給にも行かないと……」

「あちゃあ……。ショウ、帰ってきなさい!一人で行ってもダメよ!」

「でも!あいつをやらなくちゃいけないんです!」

「それは分かるけど……」

「ならっ!」

 ショウはバーニアを噴かせて、手の届かないところまで行ってしまった。

「……あとでカミーユがやるって言ってもあいつは聞かないだろうなぁ……」

「達観してどうするの!誰か止めないと!」

「うーん……まだ敵が目の前にいるし。さっさとやっつけて、アルビオンごと助けに行く?」

「そうするしかないみたいだな!」

 サイサリスのビームサーベルがマラサイを捉え、そこにファンネルのビームの嵐が降り注ぐ。敵機は四方八方から蜂の巣にされたがシェイドの機体には傷ひとつ付けられることはなかった。

「ったく……生きてろよ、おい……」

 そのつぶやきが届かないところで、ショウはプレッシャーの根源である巨大な戦艦を見つけていた。

「これ……なんだ、この感じ……?」

 悪意や憎悪と言った、自分に向けられるイメージではない。ただ彼がそこにいるだけで不快にさせられる。パプティマス・シロッコと言う男にショウが抱いた感想はそういうものだった。

「護衛のモビルスーツはいないの?なら……今やらなくちゃ!」

 ショウはドゴス・ギアの進路をふさぐように、正面に回りこんだ。そしてドゴス・ギアのブリッジでシロッコは笑っていた。

「敵は一機か?無茶をするな」

「はい、一機だけです!」

「Zではない。マーク・ギルダーかラナロウ・シェイド……いや、違うな。あの二人でないなら、誰だ?」

 ブリッジに向けてビームライフルの光が走る。だが、それは目標のすぐ脇を通り抜けただけだった。

「ふっ……当たらんよ!」

「なっ、なんで外れたの?」

 シロッコは余裕の表情を崩さなかった。対照的に、ショウはビームが自分から外れていったような違和感に包まれた。モビルスーツより遥かに大きな的が、機敏に動くわけでも無いのに、なぜか普段のように当たってくれない。

「どうします!」

「弾幕を張りながらそのまま通れ」

「はっ?」

「無視してかまわないと言っているのだ。フォン・ブラウンを制圧してしまえばあのような小虫に何ができる」

「は……はっ!」

 シロッコはショウの動揺が手に取るように分かっていた。

「ど……どうなってるのっ!?」

 ショウは二度、三度とビームライフルを発射する。だが、やはり前と同じくドゴス・ギアの横を通り、宇宙の闇に吸い込まれていく。まるでドゴス・ギアの周りがシロッコの力で捻じ曲げられているかのようだった。

「なんで……なんでっ……?」

 手の内の全てを見透かされたような感覚。体から力が抜けていくと同時に、例えようのない恐怖が心を押し包んでいく。

 動きを止めたトルネードガンダムに、ドゴス・ギアの対空砲火が叩きこまれた。

「うっ、うわぁぁぁっ!」

 激しい衝撃がコックピットを襲い、ショウの意識はそこで途絶えた。

「ふん……あっけない。むっ?」

 シロッコが回避命令を出すよりも早く、ドゴス・ギアにハイパーメガランチャーが撃ち込まれる。さらにファンネルのビームが様々な方向から襲い掛かり、ドゴス・ギアは混乱した。

「もう、さっそくやられちゃって!」

 ウェーブライダーが変形して、半壊したトルネードガンダムを回収する。

「ショウ!返事して、ショウ!」

 返事が返って来ないのを確認すると、クレアは即断した。ドゴス・ギアはすでに指揮を回復しつつある。

「妙な気配をさせている……。だが、あの程度ではドゴス・ギアの相手にはならんな。

 ……メガ粒子砲発射だ!」

 シロッコの号令と共に、巨大なビームが宇宙を引き裂いていく。Zガンダムはそれを避けると、トルネードガンダムを持ったままウェーブライダーに変形した。

「レイチェル、逃げるよ!」

「了解よ!」

 もともと二人は射程距離の限界であった。ドゴス・ギアの限界射程も同じ程度であり、すぐに二人は敵の射界から離れる事ができた。

「逃げたか……まあ、よかろう。このままフォン・ブラウンを制圧しろ!」

 阻むものがなくなったドゴス・ギアは、速度を上げて侵攻を再開した。

 

「ショウが……危ないわ……」

「ねえ!早く助けに行こうよ!」

 カチュアとシスから入る通信を聞きながら、ユリウスも頭を痛めていた。

「まったくあの馬鹿は……だから言ったでしょうに……」

 今まで迷惑だから別の部隊にして欲しいと思っていたが、その考えを改める事にした。どうせニュータイプたちは感じ取ってしまうのだから、自分の手元において監視した方がマシではないだろうか?

「とりあえず艦に戻って補給しましょう。ドゴス・ギアを止めるならみんなで行くべきです」

「それなら、私が……」

「えっ?」

「サイコガンダムのエネルギーはまだ残っているわ。この質量をぶつければ止められるはず……」

「止めなさいシス!ショウの二の舞ですよ!」

「私は死なないわ……」

 サイコガンダムは機動力に優れたモビルアーマー形態になり、周囲の敵を拡散メガ粒子砲で排除しながらドゴス・ギアに突き進んだ。だが、そこで見たものは破壊されたトルネードガンダムと、それを曳航して引き上げるクレアとレイチェルだったのである。

「遅かったの……?」

「まだ分からないよ。とりあえず艦に戻ろう。ショウを助けるのが先だよ」

「了解……」

 モビルスーツ隊は次々にアルビオンに着艦していった。誰もが疲労がにじみ出た、沈痛な面持ちだった。

 

「……んっ……。……あ……?」

 目覚めたときはベッドの中だった。マリア・オーエンスの顔に微笑みが戻るのが分かった。

「僕は……」

「気がついたのね。落とされて、今まで眠っていたのよ」

 ショウはあたりの確認をした。艦内の医務室で、周りにはマリアがいるだけだ。

「今、どうなっているんですか?」

「戦闘中よ。私はエリスと交代してるの」

 窓の外には、モビルスーツの舞う閃光が宇宙を照らしている。

「町はどうなったんですか?」

「いろいろあったけど、大丈夫よ。それで、ティターンズがコロニーを落とそうとしてるのよ」

「コロニーを!?それじゃ、僕も行かなくちゃ……痛っ!」

 起きあがろうとした時に、頭に割れるような痛みが走る。

 ただ一つ救いなのは、もうシロッコの影はどこにも感じられないことだった。

「駄目よ、まだ寝てなくちゃ」

 マリアが布団を直す時に、パジャマに着替えさせられていたのに気がついた。

「あ……服、変えてくれたんですか……」

「ええ……その、汚れてたから……」

 その意味を察して、ショウは顔を赤くして布団に顔を隠した。

「ご、ごめんなさい、その……」

「あの……マリアさんが、着替えさせてくれたんですか?」

「え、ええ……」

 ショウは布団の奥にもぐりこんでしまった。

 何もかも情けなくなって、今日の事はすぐに忘れてしまおうと考えた。

「まあ、そういう日だってあるさ。これから頑張れよ」

 布団の外から、シェイドの声が聞こえた。

「シェイドさん?」

「えっ?シェイドは帰るところよ。ガチャベースがあるから、向こうに合流するって」

 布団をどけてみると、確かにマリアしかいない。しかし、窓の外の戦闘宙域では、目映い閃光が放たれようとしていた。

「こいつが置き土産だ!……後はしっかりやれよ、レイチェル!ショウ!」

 落下しつつあるコロニーにアトミックバズーカの爆音が響き、直後の一斉放火でさしもの巨大なコロニーも崩壊していった。

 アルビオンにではなくガチャベースに直接降り立っていくサイサリスを見送りながら、ショウは少しだけ元気を取り戻していた。

 

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