機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第18話 届かない叫び

 大気圏の摩擦熱が機体を焼いていく。戻るように通信が何度も入るが、もう地球の引力から逃れる事はできなかった。

「届けっ!届けよっ!」

 ショウはZZをさらに飛ばしていく。悲鳴に近いエリスの声や、作戦予定外だと言うマークの指示ははっきり聞こえていた。

 カラバと共同でキリマンジャロ基地を攻撃する今回の作戦では、宇宙の敵を叩くのが任務のはずだった。しかし、その戦闘中にクワトロの百式が被弾。重力に引かれて落下しつつあったのである。助けに動けたのはカミーユのZと、ショウのZZだった。

 万一に備えてバリュートシステムを装着しての出撃だったが、とっさに動いた時にそれが計算に入っていたわけではなかった。エリスが悲鳴をあげるのも無理はない。

 機体の制御が上手くいかないうちに、百式はウェーブライダーが拾いあげていた。とは言っても宇宙に戻ることができるわけではない。そのまま姿勢を整えて大気圏に突入し、キリマンジャロ基地への攻撃に加わろうとしていた。

「しょうがないっ……これじゃ……」

 バリュートを展開して熱を防ぎ、そのまま降下体勢に移る。

「ショウ~、クワトロ大尉の言うことをちゃんと聞いて、いい子にしてるんだよ~」

 クレアはのんきに通信を送ると、引き続き豪勢に撃墜数を稼いでいった。あとでエリスとレイチェルにこってりしぼられる事は間違いないが、こういう時のクレアに何を言っても通用しない。

 灼熱の大気に焼かれるショウの視界を地球が埋め尽くしていく。あまりに大きく、そしてその重力は強い。重力に魂を縛られた人々という表現が使われる事があるが、そんな人たちがいるのも無理のないことだと感じていた。

 

 キリマンジャロ基地では、すでに激戦が始まっていた。ネモ隊の中には青いモビルスーツ、ディジェを操るアムロ・レイの姿も見える。

「カミーユ。しばらくここで様子を見る」

 クワトロは戦闘には加わらず、近くの泉に降下させた。

「大尉!何で止まるんですか、こんなところで!?カラバの攻撃に加わらなくては……」

「ここの水は凍っていない。……という事はキリマンジャロの基地の水源だ。奥に給水路があるかもしれんな……。

 行くぞ、カミーユ。君は……」

「ショウ・ルスカです」

「ショウ君、か……。君は待機していてくれ。出来る限り交戦は控えるように」

「はい!」

 クワトロとカミーユは水脈をさかのぼって行った。敵地への潜入にまだ小学生のショウを連れて行くわけにはいかない。

 ショウは二人の帰りをじっと待っていたが、やがて頭の中に妙なイメージが流れ込んできた。

 サイコガンダムの牢獄の中にいるフォウが悲鳴をあげている。カミーユを呼ぶ。

 だが……それもやがて止まる。フォウはサイコガンダムの中に溶けていき、光に包まれて消えていく。

「な……なんだ、今の……。カミーユさんは……カミーユさんはどうしてるの……?」

 それが幻覚でないとすぐに思い知らされる事になった。カラバが攻撃する防衛線にサイコガンダムの巨体が現れたのである。

 戻ってきたクワトロとカミーユ、そしてアムロの率いるモビルスーツ隊に包囲される形だったが、サイコガンダムの視線はZにしか注がれていないようだった。

「止まれ!フォウ!分かるか!?僕だ!」

「やっぱりおまえか!?おまえのせいで私が苦しむんじゃないかッ!」

 サイコガンダムは狂ったように拡散メガ粒子砲を斉射する。ウェーブライダーが避け続ける間にアムロのモビルスーツ隊が横から取り付き、白兵戦を挑んでいく。

「クワトロ大尉!フォウはどうなってるんですか!」

「サイコガンダムに操られている!あのままでは危険だ!」

「……助けなきゃ!」

「……倒さなければ!」

 二人の意思は別の方向を向いていたが、行動は同じことをしていた。ビームライフルの光がサイコガンダムに集まり、そしてIフィールドに遮られる。

「ダメだ、これじゃ……!」

 ショウは変形してサイコガンダムに近づこうかと考えたが、すでにその時には味方機が取り付いていた。邪魔になってしまうか、それとも退いてもらうように頼むか……迷っている間に、事態は動いてしまっていた。フォウの動きはカミーユ以外には緩慢で、簡単に落とせるはずのモビルスーツからの攻撃を何度も受けていたのである。

「あ……頭が……!」

 サイコガンダムの中でフォウは悶え、頭痛に耐えながら退いて行く。

「フォウ!フォ───ウ!!」

 カミーユは張り裂けんばかりに叫びをあげる。だが、それがフォウに届くことはなかった。

「これ以上の深追いは危険だ!全機一時撤退する!」

 アムロの指令で、モビルスーツ隊は迅速に戦線から離脱していく。その中でZとZZだけが、最後までサイコガンダムの姿を凝視し続けていた。

 

 カラバのキャンプでの作戦会議は深夜にまで及んだ。すでに夜明けも近いが、ショウは眠気を感じるどころではなかった。

 シャア・アズナブル、アムロ・レイ、そしてカミーユ・ビダンの三人が目の前にいる。モビルスーツの向こうにその存在を感じた事は何度もあったが、この三人が勢揃いしたところに同席するなど夢にも思わなかった。自分が時代の異物であると言うこと以上に、やはり彼らは雲の上の存在なのである。

「麓の突撃部隊も出撃命令を待っている!マーク・ギルダーも翌朝到着すると言ってきた!

 何をためらっているのです、クワトロ大尉!」

 アムロは声を荒げるが、クワトロはまだ考えがまとまらないようだった。

「そうです!どうしてすぐに出撃しないのです!」

 カミーユにもそう言われると、クワトロはテントを出て一人になった。カミーユが後を追っていく。

「艦長……マークさんが来るのは明日なんですか……」

「ああ……。ところで、君……?」

「ショウです」

「ショウ君か……。そんな歳でパイロットをしているのか?」

 なぜか、アムロに心を見透かされるのが怖い気がしてショウは口を濁した。

「……いい機体のおかげです」

「機体か……。ニュータイプなのだろう?」

「は、はい……。たぶん……」

「君には歳の離れた兄さんがいないか?」

「え……。い、いないです」

「そうか……」

 アムロは黙って考え込んだ。最も思い出したくない、だが消えることのない忌まわしい記憶……ララァ・スンの死の瞬間、この子がすぐ側にいたような気がしていたのだ。年齢を考えればそれはありえないが……。

 

「キリマンジャロへの攻撃が始まったというのにカミーユはどこへ潜り込んだんだ!」

 アムロは苛立った声をあげた。夜明けと同時に激しい戦闘が繰り広げられているのに、カミーユは敵基地に潜入したまま戻ってこず、期待していた宇宙からの援軍も到着していない。

「マーク・ギルダーと合流してから攻撃した方が良かったのではないか?」

「カラバの戦力だけでもここは落とせる!」

 さすがにアムロとクワトロが率いるモビルスーツ隊である。防衛線をひとつひとつ崩し、敵基地の中核へと侵攻して行く。そしてその視界に重大な目標が映った。

「あれはHLV?宇宙に逃げる……ジャミトフか!」

 HLVに向けて猛攻をかけるクワトロだが、その前にサイコガンダムの巨体が立ちはだかる。

 クワトロは必死で追撃したが、時すでに遅すぎた。宇宙へと逃れるHLVを見上げ、クワトロは舌打ちした。

「ええい!みすみす逃すとは!」

「チャンスはまだある!突撃部隊が内部の破壊に成功した!

 しかし誘爆が顕著につき、地上も間もなく爆発する!6ターンが限界だ!」

「了解っ!」

 ショウは答えたが、彼らだけでは苦しい戦力だった。マークたちが来なければ敵機の全滅は不可能に近い。

「みんな……どうしてるの……?」

 

 作戦開始時刻に遅れたアルビオンはHLVと入れ違いに現れた。HLV撃墜のための対空砲火もそこそこに全速で降下して来たが、それでも状況の立ち遅れは明らかだった。

「ちょっと、戦闘始まってない?」

「まずいな……!」

「アムロ大尉から通信です!6ターン後には地上に爆発が来ると!」

「チッ……こんな時に!」

 ブリッジでのんびりした表情なのは、昨日大暴れして機体をエースにし終えて休憩しているクレアだけだった。すでに敵モビルスーツはアルビオンを包囲しつつある。

「マーク、これじゃ無理よ。一度退避して、モビルスーツを発進させてからでないと……」

「そんな時間はない!対空砲火急げ!モビルスーツが出る隙間を作れっ!モビルスーツ隊は突破口が見えたら順次発進!」

 完全に包囲されたアルビオンは対空レーザー砲やミサイルで弾幕を張った。何度か艦に激震が走り、損傷の報告が入る。だが強行突破は功を奏し、モビルスーツ隊が出撃する隙を作りだす事に成功した。サイコガンダムMk-Ⅱが戦場を制圧し、他のモビルスーツも後に続いて行く。

 戦場の様子を普段と違った視点で眺めていたクレアは難しい顔で腕を組んだ。

「エリスぅ、ひょっとして私たちいつもこんな感じ?」

「そうなのよ……」

「よく生きてるよね。艦長、私本当にやることないかなぁ?」

 答えたのはエリスだった。

「……ショウ君を連れてきて」

「え?終わったら自分で帰って来るでしょ」

 だがエリスには、これから起こる事が手に取るように分かっていた。それはニュータイプの能力というよりも、経験と洞察である。

「ショックが大きいわ、きっと……。だから……」

「……あ、そうか!艦長、行ってくるよ!」

 クレアはマークの返事を待たずに駆け出していった。

「止める余裕はない……!ショウ、できるなら奇跡を起こしてくれよ……!」

 

 キリマンジャロ基地に潜入していたカミーユもクワトロと合流し、Zガンダムで戦線に出た。

「敵を殲滅しろって……、僕にフォウを撃てって言うんですか!」

「これは戦争だぞ!カミーユ!」

「だけど僕は人間です!」

「こんなところで子供の理屈を振り回すな!

 戦いの中で人を救う方法もあるはずだ!それを探せ!」

「クワトロ大尉の言う事の方がよっぽど理想論だ!俺はフォウを説得してみせる!!」

 カミーユは希望を捨てようとはしなかった。飛び立つウェーブライダーの横にGフォートレスが並ぶ。

「行こうよ!フォウを助けなきゃ!」

「ショウか!?……ならっ!」

 ZとZZはサイコガンダムの弾幕をかいくぐり、モビルスーツに変形した。

「これで……終われよっ!」

 ハイパービームサーベルが巨大なシールドを斬り裂き、ハイパーメガランチャーがIフィールドを破って胸に突き刺さる。サイコガンダムは膝をついてくずおれ、キリマンジャロの大地に轟音が響き渡った。

「フォウ!目を覚ませ!フォウ!フォウッ!!」

「カミーユ……?カミーユ、あなたなの……?」

 サイコガンダムを包んでいた呪いのような空気は霧散した。もう、フォウに戦意は見られなかった。カミーユはZを近づけ、フォウに歩み寄る。その時、運命は急転した。

「ここまでだな!カミーユ!」

「何ッ!ジェリドッ!!」

 バイアランのビームサーベルが横合いから飛び込んだ。フォウに心を預けていたカミーユにはそれに対応することはできなかった。

「もらったッ!カミーユッ!!」

「来るなぁ───っ!!」

 サイコガンダムが起き上がり、カミーユとジェリドの間に飛び出した。それを止められる者はいなかった。そしてその直後に起きた惨劇を止められた者も。

 サイコガンダムの頭部にビームサーベルが吸い込まれていく。ララァ・スンの最期の瞬間と同じように。

 周囲が光に包まれ、彼らは宇宙にその身を委ねていた。かつて見た奇跡と同一の……しかし、悲しみはあまりにも深い情景である。

「フォウ……フォウ……!」

「カミーユ……悲しまないで……。

 これで私はいつでもあなたに会えるわ……。本当にあなたの中に入ることができるんだから……」

 二人の魂は混ざり合い、本当の意味でひとつになっていく。だが一瞬の幻想が終わると、そこにあるのはフォウ・ムラサメの死という動かすことのできない現実だった。

「フォウ……!嘘だろ……こんなの嘘だろ……!フォォォォ──────ウ!!」

 カミーユはもはや物体になりつつあるフォウの体を抱きしめて絶叫した。

「おまえがっ……!おまえが邪魔しなきゃ……っ!!」

 ショウは狂ったように、バイアランに向けてZZのビームライフルを乱射した。このとき額のハイメガキャノンの存在を思い出していたら、ジェリドはその瞬間に消滅していただろう。

「俺は……俺は……何やってんだ!ちきしょう……!!」

 ジェリドもまた苦悩を抱えて飛び去っていった。悲劇を積み重ねるつもりではなかったが、現実は彼にもカミーユにも重く覆い被さっていた。

 

「結局、止められなかったかぁ……」

 ZⅡのクレアは、到着する前に全てが終わってしまっていた事である意味ほっとしていた。明らかに手遅れなら諦めもつくからだ。

「ショウ、帰るよ!」

 クレアはZZの手を強引に引っ張り、バーニアを全開にしてその場を離脱した。ショウの返事も操縦も期待してはいなかった。自分がそうしている間に、ショウが泣く事ができるからだ。

 艦内に戻り、爆発していくキリマンジャロから離脱した後もショウはコクピットの中で泣いていた。

 エリスは予想を避けられなかった事に心を痛めながら、ショウを迎えに行った。

「どうして……。どうして、こんなことになるの……」

 エリスは何も言えずに、小さな弟を慰めるように抱きしめた。

 それは結果論でしかなく、認めない者も多いだろうが……シャア・アズナブルが信じた、ニュータイプによる人類の革新という希望が潰えてしまったのは、今日、この瞬間だったのかも知れない。

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