機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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[機動戦士ガンダム編]
第1話 もうひとつのホワイトベース


「ジオン軍の襲撃です!住民の皆さんは、至急港に非難してください!」

 サイレンの音と軍の放送が、惨劇の恐怖を煽っていた。

 ジオン軍。スペースノイドの種の優越を訴えて地球連邦に反旗を翻し、コロニー落としによって人類史上最大の虐殺を行った者達。この戦争で、すでに人類は総人口の半数以上を死に至らしめていた。未来を知っている者の目から見ればこの戦争にははるかに重大な意味が込められていたのだが、ここサイド7の住民はそれ以上の情報を知ることもなかった。

 だから、小学校から逃げ出してきた少年たちの中に、怯えて足がすくむ者がいるのも故無きことではなかった。

「お母さん……。お母さん……」

 少年と一緒に走っていた子供たちは、すすり泣く彼を置いて行ってしまった。いつも少年を弱虫、臆病者と言ってからかっていたから、一番後ろについていた少年が一人いなくなっても気にも止めなかったのだろう。

 爆発音がこだまする中、少年は泣きながら足を進めていた。その視線のはるか先に、連邦軍の巡洋艦があった。家族はもうそこにいるはずだ。無事ならば、だが。

 その船のすぐ側に、緑色の巨人が二体いた。

 モビルスーツ。ジオン軍の切り札であり、ミノフスキー粒子と共にこれまでの戦争の形態を一変させた驚異の兵器。

「お母さん!」

 少年は最悪の不安に駆られて走り出した。その時、赤く輝く一つ目が少年を睨んだ。

 正確にはその方向を向いただけであったが、十一歳の内気な心には死神の抱擁にすら感じられた。少年はその場にへたりこんだ。足の間に生温かいものが流れる。恐怖感、無力感、やるせなさ……それらの感情が一気にこみあげて、少年は大声で泣き出していた。弱虫、臆病者。いつもの罵声が耳の中で繰り返される。

 それでも……巨人の目が逸れると、少年は震えて涙が止まらない体を起こし、連邦の白い船に向かって歩いていった。

 

「レイチェル!エリス!また会えたねー!」

 クレア・ヒースローは、久しぶりに再会した親友たちに抱きついた。体に伝わる心地以上に、心をときめかせる刺激が電流のように思惟を貫いていく。

「これで全員揃ったな」

 マークの声に、クレアはきょろきょろとブリッジ内を見渡した。

 オペレーター席にはマリア・オーエンス、艦の運航を務める操舵手の席はネリィ・オルソンが変わらぬ姿を見せている。

 だが他に大勢いたパイロットの仲間たちや、艦を指揮したゼノン・ティーゲルの姿が見当たらない。

「隊長?艦長は?」

「今度は俺が艦長をやることになったんだ」

 クレアに隊長とかつての立場で呼ばれた青年、マーク・ギルダー大佐は艦長席に腰を下ろしている。マークはかつてゼノン少将の指揮する艦のモビルスーツ隊のエースパイロットだった。クレアたちはその一員として、長い戦争を戦い抜いたのである。

「いろいろ考えたんだが……。クレア、君にモビルスーツ隊の指揮を任せようと思う」

「わ……私ぃ!?エリスはぁ?」

 エリス・クロードは、かつてはマークと並ぶ最強のパイロットとして知られたものだ。クレアも自信はあるが、エリスにはとてもかなわない。

「ごめんなさい……私、もうモビルスーツには……」

「……というわけで、ゲスト要員に配属した」

 小さく舌打ちはするものの、エリスの言葉にはクレアも納得した。エリスが抱えている事情は理解している。

 そして戦力にはならなくとも、エリスが一緒にいてくれるだけで、心の支えになってくれる。ゲスト要員という役割ならば、エリス以上の人間はいない。

「それに、もうこの艦にいるメンバーでモビルスーツ戦ができるのは二人だけだからな」

「は? ち……ちょっと待ってよ!? シェイドは?ジュナスは?ニキ姉は?エルンストのおっちゃんは?みんな、どこぉ!?」

 クレアは声を荒げて、ここにいない仲間たちの名を連呼する。これではもはや、数でも質でも、かつての数分の一の戦力しか無い。

「彼らはゼノン少将の指揮下で待機中だ」

「じゃあ、戦艦二隻で行くの?」

「そうだ。今回、我々はアムロとシャアの戦いを順次追っていくことになる。そしてこちらで入手したモビルスーツのプランを使って、少将の艦はモルモット隊や08小隊の援軍に回ることになっている」

 クレアはかくん、とあごを落とした。

「それじゃ……援軍どころか、こっちから戦力を引き抜いていくわけ?」

「そう言うことだ。責任重大だな」

 さらりと人事のように言われて、クレアは反論する元気も無くなった。

「大丈夫だ。地球に降りれば補充兵が来る予定だからな」

「はぁ~い……」

「艦長!ザクとガンダム、戦闘に入りました!」

 マリアの声が、たるんでいた雰囲気を引き戻した。モニターにはアムロ・レイの操るガンダムが二機のザクを撃破していく様子が映されている。

「……よし!この後、ブライトの指揮するホワイトベースはサイド7から脱出する。それを援護するのが今回の指令だ。総員第一戦闘配備!ホワイトベース発進!」

「ホワイトベース、発進します!」

 ネリィが命令を復唱し、艦を操るレバーのスイッチを入れる。ホワイトベースのエンジンに火が入り、ミノフスキークラフトが艦の巨体をゆっくりと宙に浮かせていく。

 ここに、特務部隊“ブラック・ジェネレーションズ”の三度目の旅が始まった。

 

「おおっ!!」

 モビルスーツデッキに足を運んだクレアの前に、見たこともない新型機が三機並んでいた。鋭角的なデザイン、青を基調とした色彩、そしてなにより「ガンダム」の顔。

「ケイー、これ何ー?」

 整備にあたっていたケイ・ニムロッドは、クレアの呼びかけで振り返った。

「支給された新型だよ。名前はトルネードガンダム」

「前はザニーだったっけ?なかなか分かってるじゃないの、うんうん」

「武装はビームサーベルとガトリングガン、ビームライフルに拡散ビーム砲。空が飛べて、単独で大気圏突入ができるよ」

「わおーっ!じゃあ、F91と同じくらいってわけ?」

 クレアは大喜びで、新型機に向かってダッシュした。

「……その他の部分は、だいたいゲルググと同じくらいかな」

 ずしゃあああああっ!!

 走ってきた勢いをそのまま、豪快なスライディングでクレアはケイのところへ到着した。ケイはそれを眺めて楽しそうに、あーやっぱクレアだねえ、と笑みを浮かべる。

「げ……ゲルググぅ?」

 こけた痛みなのか、期待を打ち砕いた新型の性能のためか、クレアは目に涙をいっぱいにためてケイにすがりついた。

「大丈夫だってば。相手はまだザクしか持ってないんだからさ」

「だああああっ!!にゅーがんだむはぁっ!!ないちんげーるはぁ!!どこぉぉーっ!!」

「また頑張って作ろうね」

「どこかに隠してるんでしょぉぉっ!!前はさいころがんだむだって作ったんだからぁぁー!!」

「あ、あの……」

 騒いでいる二人の前に、見知らぬ少年がおずおずと進み出た。

「僕の……お母さん、知りませんか……」

「えっ?」

「軍の放送で……。港の艦に乗れって……。ここ、ホワイトベースなんでしょ……」

 少年の言葉に、二人は面食らった。確かにこの艦はホワイトベースなのだが、難民を収容していくのはアムロたちがいる方のはずだ。

「君……間違えたんじゃない?」

「ええっ!?」

「艦長!艦長ーっ!」

 近くの通信機に向かって、大声を張り上げる。

 同型艦が二つ並んでいれば間違えても無理はない。同じ連邦軍なら行き先は同じだろうと考えるのが普通だ。だが、この二つ目のホワイトベースは、些細な違いで済まされるものでは無かった。

『なんだ!もう出航するぞ!』

「難民の子が紛れ込んじゃってるよ!どーするの!?」

『なんだと……?向こうの艦はもう出てしまったぞ!』

 その言葉は少年の耳にも入ってしまった。

「え……?それって、どういう……?」

『……とにかく、その子供を連れてくるんだ!』

 

 少年がブリッジに到着した時には、すでに周囲の風景は宇宙空間になっていた。故郷であるサイド7は、生まれ育った町並みではなく金属製の円筒に姿を変えていた。

「お母さん……」

 少年の目に、再び涙がたまっていく。

「私はエリス・クロード。エリスって呼んでね。君は?」

 エリスは少年の頭を優しく撫でて、返事を待った。

「ショウ……ルスカ……」

「ショウ、ね?」

「うん……」

 落ち着くのを待って、マークがゆっくりと話し掛けた。

「ショウ君。君の家族は、おそらく別の艦に避難している。我々はそれを援護し、ジオン軍との戦闘に入る」

「戦闘……」

「そうだ。その後……」

 マークはしばらく考えて、この先の航路を語り出す。

「ルナツーか……最悪でも地球に下りた後には合流できるはずだ。しかしそれまでには時間がかかるだろう」

「…………」

「その間、我々は少し辛い運命を体験することになる……。君は勇気を持てるか?」

「勇気を……」

 マークはうなずいて、そこでショウとの会話を止めた。クレアとレイチェルが出撃する場面がモニターに映る。そして、その先にはジオンの巡洋艦ムサイからザクが出撃してきていた。こうなれば、もはや迷い込んできた難民の少年との会話に時間を取られるわけにはいかない。

「エリス、ショウ君の面倒を見てやってくれ」

「はい」

 ショウはエリスに連れられて、ブリッジの外に出た。

「じゃあ、ショウ君……お風呂に入らなくちゃね」

 その言葉で、ショウは自分のズボンが濡れているのを思い出して真っ赤になった。

 

 ザクのマシンガンがトルネードガンダムをかすめた。

「……わわッ!ちょっとマズイかも!」

 クレアとレイチェルのトルネードガンダムは、ザク七機と二隻のムサイの攻撃を必死でかわし続けていた。

『ガンダムがエースになるまでだ!死ぬ気で耐えろ!』

「死ぬ!ほんっとーに死ぬっ!」

 この戦いでは、まず第一にアムロ・レイの乗るガンダムが成長しきらなければならない。そのために目前のムサイを落とさせる必要があり、アムロが到着するまでは攻撃することも許されないのだ。いかに優秀なニュータイプとは言え、これでは動く的にすぎない。

「艦長!あと何ターンで着くの!?」

『2ターンだ!それだけ持たせろ!』

 しゃべっている間に、トルネードガンダムに衝撃が走った。ザクのバズーカが命中したのだ。もう、トルネードガンダムの装甲はほとんど残っていない。

「……あわわわッ!マ……マズイどころじゃないわよ!これって!!」

 

「……誰かが呼んでる?」

 ショウの頭の中に、女性の悲鳴が聞こえたような気がした。それが、先ほど紛れ込んでいたモビルスーツ格納庫で出会った少女のものだと、なぜかはっきりと分かった。

「す……すみません!」

 エリスを置いて、ショウは駆け出していた。どこに行けばいいのか、何をすればいいのか、何一つ分からないまま。衝動的に。本能的に。何かに導かれるようでもあり、自分の中に秘められた何かがそうさせているようでもあった。

 どこに何があるのかも知らない初めて訪れた戦艦の中を走り、通路の脇にある閉じた扉のスイッチに手を伸ばす。何の抵抗も無く扉が開くと、モビルスーツが立ち並ぶデッキの光景が視界に入る。そこに戻って来たのだ。

 デッキにはパイロット不在のトルネードガンダムが一機残っていた。

 トルネードガンダムは謎の多い機体である。製造された時代も、製造者も、いかなる戦いに投入する目的で作られたのかも分かっていない。ただ、放置された基地から三機が発見されたというだけだ。三機目がモビルスーツデッキに残されていたのは、予備機として、あるいは万一マークやエリスが乗ることになるかも知れない可能性を鑑みて、置かれていただけなのである。

 

【挿絵表示】

 

 ショウはそれを見上げて、足下に向かって駆け出した。モビルスーツというものを見るのはこれが二度目だ。一度目は、巨大な怪物に見えてへたり込んでしまった。しかし、今は。

「ちょっと、どうするの!?」

 ケイは仰天した。この部隊に少年パイロットは多いが、さすがに小学生は初めてだ。

 ショウの前にコックピットに乗り込むためのエレベータが降りてくる。それで上がってコックピットのカバーに触れると、何の妨げも無く開いていく。

 それをケイは呆然と見ていた。なぜ操作もしていないのに機械が動いている?謎の機体とはいえ軍用機がセキュリティを解除するパスワードも入力せずに人を受け入れる?多すぎる疑問を言葉にできない間に、少年の姿はトルネードガンダムの中に消えた。

「僕が行きます!」

「モビルスーツ、動かせるの!?」

 さすがにケイは叫ぶ。やってみます、という返事が来た。

 コックピットに座るのも、操縦桿を握るのも、ショウは初めてどころか想像したことすら無い。子供用の調整などされていないので、フットペダルにはぎりぎり足が届くかどうかだ。

 なのに、ショウの意思に応じるように、トルネードガンダムは動き出す。動作の具体的な指示では無く、おぼろげな感情だけで、何をすればいいのか分かってくれるように。

「なにこれ、サイコミュ……?じゃあ、あの子……」

 ケイは自分の知識の中にあるもので解釈しようとした。考えるだけで、いや、考えるよりも速く、パイロットの意思で動き出すモビルスーツ。

 だったとしても、それを動かすには常人の持たない力が必要なのだ。今日、宇宙世紀のこの日から、果てしない時代を激動に導く大いなる力が。

「あの子、ニュータイプ!?」

 ケイが驚く横で、ショウはトルネードガンダムをカタパルトに乗せる。

「僕はもう弱虫じゃない!」

 その声に応えるように、謎の機体は宇宙に向けて飛び出していった。

 

「あと1ターンだ、モビルスーツ隊を後退させろ!収容完了したらホワイトベースも微速後退する!」

 射程範囲から逃れてしまえば、敵艦もザクを帰還させて追撃してくるはず。そして追いついてから再度ザクを展開するころには、すでにアムロがたどり着いている。マークは戦況をそう読んでいた。

「レイチェル少尉、帰還完了しました。エネルギー補給には2ターン、修復には3ターン必要です」

「かなりやられたな。クレアは?」

「……大変です!クレア中尉帰還できません!」

「なんだと!?」

「艦から離れすぎです!トルネードガンダムの移動力ではぎりぎり届きません!」

「あいつ……!まだナイチンゲールに乗っているつもりだったのかッ!!」

 かつてクレアが乗っていた機体なら、まだまだ余裕のある距離だった。それ以前にザクに苦戦などするはずはなかったのだ。さらに、マークは悪態をついたが、距離感を誤ったクレアにも言い分がないわけではなかった。トルネードガンダムはその名に反して、ガンダムとしては極度に移動能力に欠ける機体だったのだ。通常「ガンダムタイプ」と呼ばれる機体の水準の三分の二、現在アムロが乗っているただのガンダムにさえ劣る。

『艦長~!たすけてぇ~!!』

 武器のエネルギーも装甲も推進力も尽きたトルネードガンダムから半泣きの悲鳴が入る。

『私ノーマルスーツ着てないのよ~!まだ死にたくないぃ~!!』

 言っている最中に、背後からザクのマシンガンが浴びせられる。ブリッジの誰もが息を飲んだが、かろうじて中枢部は爆発を起こさずにすんだ。

『こ……これしきの傷などDG細胞でェェェ!』

 恐怖で混乱したクレアは変なことを口走っている。その間も、マークは必死に思考を続けていた。モビルスーツ隊の隊長であった時なら、有無を言わさず飛び出していけばよかった。自分が出て行けない時でも、艦長のゼノンが的確な指示を出してくれた。それを今度は自分がしなければならない。

 後退して時間を稼ぐ手は使えなくなった。ミノフスキー粒子を散布してしのぐか?いや、今の位置関係では敵の攻撃は全てクレアに集中してしまう。射撃ならまだ全て避ける可能性もあるが、ヒートホークで斬りかかられたら……。ホワイトベースをクレアより前に出して援護するしかないのか……。

「艦長!モビルスーツデッキ、トルネードガンダム三号機稼動しています!」

「エリスか?」

「いえ……ショウ君のようです!」

『僕が行きます!』

「ショウ君?やれるのか?」

『僕はもう弱虫じゃない!』

 バーニアに火を吹かせて、トルネードガンダムは宇宙に飛び出して行った。

「ショウ!クレアの前に出て敵を引き付けろ!回避に専念するだけでいい!ネリィ、ミノフスキー粒子散布急げ!」

 マークは叫ぶ。モビルスーツを動かせるのかも分からない子供に、死ぬかも知れないことをやらせているという意識は無かった。ジュナス・リアム、ラナロウ・シェイド、あるいはかつてのマーク・ギルダー……最強のパイロットたちの一人が今ここに戻ってきてくれた、そんな予感さえ浮かんでいた。

「ショウ……ルスカ……?あの子は……」

 マークは感じていた。ショウは昔の自分と同じ力を持っている、ニュータイプなのだと。

 

「こ……このクレア・ヒースローが手も足も出せんだと!こんなことがあってたまるかぁっ!?」

 弾が無いのだから仕方がない。などと自分に突っ込みを入れつつ、クレアは残りのザクマシンガンとバズーカを二発回避していた。ミノフスキー粒子の濃度が急激に上昇したおかげでかなり回避しやすくなったのが救いだった。しかし、それも格闘戦では恩恵を及ぼすことはない。ヒートホークを振りかぶったザクが襲ってくるのを見ながら、クレアは辞世の句を思い浮かんだうちの何にするか絞り込めない自分を呪っていた。

 ガキィィン……!

「あれ……?」

 迫りくるヒートホークは、横から突き出されたビームサーベルによって止められていた。

「おまえらなんかの好きにさせるか!」

 聞こえてきた声は、あの迷い込んできた少年のものだった。ビームサーベルを押してザクを弾き飛ばし、拡散ビーム砲を斉射する。ザクはビーム兵器の嵐を避けきることができず、宇宙に散華していった。

 ジオン軍は行動力をなくしたクレアを無視して、新手に攻撃を集中した。マシンガンやバズーカがさまざまな角度から降り注ぎ、その中のひとつはトルネードガンダムの装甲を削り取っていく。

「くうっ……やったなぁ!」

 ショウが反撃に出ようとした、その時。

「そこ!やらせるか!」

 白い機体が踊りこみ、鮮やかな手並みでザクを撃墜していく。同じカラーリングの戦闘機のミサイルと戦艦からの援護射撃を活かして、二隻のムサイをもあっという間に轟沈させていった。

 ショウはそれを目撃した時、頭に閃光のような何かが走り抜けるのを感じた。

 この瞬間を見るために、あのガンダムを見るために、自分もモビルスーツに導かれてきた。何故か分からないが、そんな気がしていた。まだ、アムロ・レイという名を、この時ショウは知らない。

 それが過ぎると、宇宙空間に沈黙が戻った。

「これで終わったのか……。光だけが……広がっていく……」

 極度の緊張から開放されたクレアは、失禁の感想をそう表現した。

『ショウ、クレアを連れて帰還しろ。すぐに新手が来る、今のうちに補給しておくんだ』

「はいっ!」

「ぁぁぁ……漏れちゃったぁ……。あれ?艦長!もう来るよっ!」

『早いな。流石だ……!』

『レーダーによれば、あと1ターン後です。レイチェル機もまだ回復しきっていません!』

『かまわん。アムロが相手をするさ。彼の後続部隊は?』

『ずいぶん遅れています』

『なまじ、通常の三倍のスピードを持っているからそうなる。突出しすぎだ。これで修理の時間が取れるな』

 ショウ以外の誰もが、これから来る敵のことを、そしてこれから起こる出来事を知っているかのようだった。

「マークさん!何が……誰が来るんですか?」

「シャア・アズナブルだ……!赤い彗星だ!逃げろー!!」

 そう言うクレアですら、どこか楽しげだった。

 

 艦内に帰還すると、すぐに補給と整備が始まる。コックピットから降りることはできなかったが、それでも少しは息をつくことができた。

『どうだショウ?実戦と言うものは?』

 通信で、マークが呼びかけてきた。

「いえ……ただ必死で……」

『そうか。よく見ておくといい、これから起こることを……』

『艦長!接敵します!』

『よし、記録開始!』

 トルネードガンダムのコックピットのモニターにも、それが映し出された。それはまさに伝説の一部分であり、今、目の前で行われていることとは思えなかった。はるかな歴史の中で、この時にそれが起こることも、その結果がどうなるのかも、すべてが定められているような思いさえ抱かせた。

『見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!』

 真紅のザクが白いモビルスーツを翻弄していく。しかしその攻撃も厚い装甲に阻まれ、まるでダメージを与えることはできない。しかし赤いザクは巧みな動きでビームライフルをかわして懐にもぐりこみ、キックで敵を弾き飛ばした。

「凄い……」

 ショウは呆然と、ジオンのパイロットの技量に見惚れていた。そして、今度は白いモビルスーツの反撃が始まった。先ほどと同じく、戦艦や戦闘機と連携をとった攻撃で、ついにザクに命中打を与えた。

『ええい……化け物か!?』

 赤いザクは不利を悟ったか、撤退していった。

『ガンダム、今の戦闘でエースになりました!』

『よし、攻勢に出るぞ!今度はこちらの番だ!』

 補給が終わったレイチェルとクレアが順次出撃していく。

「イッてぇ!お願いっ!!」

「ほらほら、私はこっちだって!」

 先ほどとは打って変わった動きで、ザクを次々と落としていく。

「命を奪うだけの戦いなら、もっと早く終わっている!」

 その言葉のとおり、あっけなくジオン軍は壊滅した。ショウはそれを見ているだけだった。

『敵機全滅しました!』

『そうか……』

 マリアの声に、マークが大きく息を吐くのが聞こえてきた。彼もまた必死の戦いだったのだ。

 

 シャワーを浴び、汚れた服から連邦軍の制服に着替えたショウは、あらためてクルーに紹介された。

「間違えてこの艦に……」

「じゃあ、志願兵扱いになるの?」

「僕が……ですか?」

「ショウ君……」

 マークは真剣な表情で言った。

「どうする?難民として、いつかご家族が解放された時点でこの艦を降りるのか。それとも……我々と共に、あのアムロやシャアたちの戦いを最後まで見届けるのか。誰にも強制はできない。君自身が選んでくれ」

「僕は……」

 ショウは口ごもったが、小さな声で言った。

「お母さんのところに帰りたいです……」

「そうか……。しかし、それにはもう少し時間がかかる。それまでの辛抱だ」

「はい……」

「大丈夫よ。ショウ君もお母さんも、きっと無事に会えるから」

 マリアが優しくショウの肩を抱いた。

「それでは次の目的地に向かう。全速前進!」

「了解!」

 アムロたちの乗るホワイトベースを尾行するように、一行の乗る艦もサイド7を後にしていった。

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