食堂でぼんやりしていたショウの隣にユリウスが腰掛けた。
「まだ調子は出ないですか?」
「ん……。おはよう、ユリウス……」
ユリウスは話が届いていないことを悟ると、おはようございます、と気の抜けた返事をしておいた。
「ニュータイプと言うのも難儀なものですね……」
話をやめて朝食を取ろうとした時に、やっと返事がきた。
「……ユリウスはどうなの?あんな風に人が死んで、悲しんで……」
「僕は、ですか?」
そうなる前から知っていた。フォウがあの場所で死んでいくのは動かすことのできない歴史的事実であり、たとえそれを変えたとしても自分たちが通り過ぎた後に“正しい”歴史に修正されるのだ。
だがそうなら、自分たちにとっての“現在”を変えようとしているレイチェルとシェイドは何なのだろう。彼らの試みは、最初から完全に無駄なのだろうか。今ここで隣に座っているショウが、旅が終わって宇宙世紀0079年に戻って行ったら、もう一度歴史をさかのぼって再会したとしてもこの旅の事を全て忘れ去っているのだろうか。
いろいろな事が頭に浮かんでいくが、それに結論が出せるわけではなかった。答えられないまま黙々と食事を続けると、声をかけにくい雰囲気になってしまう。
「どうしたんですの?男の子が黙っていらして」
二人が声の方を見ると、マリア・オーエンスとネリィ・オルソンがテーブルの反対側にいた。
「また……死んでいくのを見ているしかできなかったんです……。助けられなかった……」
「でも、こうして帰って来てくれたじゃない」
マリアの声はあくまで優しかった。
「私なんかいつも見てるだけよ。帰ってきてくれるのを待ってるだけ……。
心配してるんだから、あんまり危ない事はしないでね」
ショウは無茶な大気圏突入の件を思い出して頭を下げた。
「ごめんなさい……。僕が……」
「そんなに困らなくてもいいのよ。自信があったんでしょう?」
「自信なんて……。ただ、夢中で……」
それを聞いたマリアは溜息をついた。
「クレアもいいかげんね……」
「だから言ったでしょ?あの方の言う事は鵜呑みにしてはいけませんわ」
「クレアさんがどうしたんですか?」
「ショウ君が地球に降りちゃったときね、みんな止めたのにクレアだけ放ってたのよ。絶対大丈夫だからって」
クレアは前にもそんな事をしていた。ショウが水中に沈んでいくミンミを助けようとしたとき、平然と敵機を攻撃していたのだ。あの時、誰かが敵を食い止めていなければどうなっていたのかは、誰にも分からない。
「分かったんですよ。クレアさんはニュータイプだから。たぶん……」
確たる自信はないので言葉を濁したが、ショウはクレアの力を信じてはいた。
「分かりあえる……のね、ニュータイプ同士だと」
マリアは羨ましそうに言った。この艦にいる人間の半数以上はニュータイプか強化人間である。心での会話を当たり前のようにされると、オールドタイプは一抹の淋しさを感じてしまうのだ。
「その割には、エリスさんやレイチェルさんにはお灸を据えられていましたけれど?」
ネリィの一言で、そこに居合わせていた人たちは思い切り吹き出した。ショウもなんとなくその場面を想像して、笑いを押さえるのに懸命になった。
そこに、勢いよくドアが開く音が飛び込んだ。
「こらっ!私の悪口を言ってるでしょ!」
「どうして分かったんです!?」
「なんとなく」
反応してしまったユリウスの頭を脇に抱えて拳でぐりぐり痛めつけつつ、クレアはのんきに言った。
「それ、ニュータイプの勘?」
「ううん、ただの当てずっぽうだよ」
まだユリウスを捕まえたまま、クレアは呑気にマリアに答えた。ユリウスはテーブルをばんばん叩いてギブアップしている。
良く分からないわね、とマリアは苦笑した。
そんなやりとりをショウは横目で見ながら軽く溜息をついた。
ブリッジには、ダカール市街に近づいていることを示す地図がスクリーンに映し出されていた。
「戦意旺盛とは言い難いだろうな……」
「あんな事があった後ですもの……。しかたないわよ」
マークはすでに今日の戦いをどう乗り切るかに思考を切り替えていた。それには、子供たちが決して彼と同じではないことも織り込まなければならなかった。
「ショウは落ち込んでいる……だろうな」
「ええ……。間近で見て……助けられたかもしれないと思ってるわ」
クレアとミンミは何が起ころうと元気を失わないだろう。
レイチェルは慣れている。嫌な話だが、彼女がフォウの死を見るのはこれで三度目なのだから。
「……ショウには戦うよりも、クワトロ大尉の話を聞いていてもらおう。ニュータイプには必要なことだ……」
「なら、カチュアちゃんにも聞かせてあげられないかしら?」
「習ったはずだろう?」
「記録映像と本物じゃ全然違うわよ。それに、あの子が真面目に聞いてたと思う?」
「……なるほど」
マークは納得して、首を縦に振った。
ショウとカチュアが抜けたモビルスーツ隊はいつものようにモビルスーツデッキで作戦を決めていた。
「ZZかぁ……。ま、リ・ガズィよりは強いし見栄えもいいんだけどねぇ」
「なんとなくクレアには合いそうじゃない。Z系の方が好き?」
「ナイチンゲール貸してよ」
「ないわよ、もう」
レイチェルの返事にクレアはのけぞり、あわてて格納庫を見渡した。見慣れた真紅の怪物は再びサザビーに戻っている。
「ちょっと、なんで戻すかなぁっ!?ナイチンゲールの方が強いでしょっ!」
「ヤクト・ドーガの方に回していくのよ。サザビー経由の方が手っ取り早いでしょ」
「そりゃそうだけどさぁ」
クレアはまだぶつぶつ言っていたが、愚痴を言っても仕方がない。
「今日は、ちょっといつもとは勝手が違うよ。せっかく放送されるんだからテレビ映りのいい戦い方をしないとね」
「……違うでしょ」
レイチェルが冷ややかな視線を送るが、クレアは動じた様子もなく続けた。
「放送するんだからミノフスキー粒子散布は期待できないし、町の中で敵機を爆発させたらエゥーゴの作戦全体がだめになっちゃうから気を付けてね。あくまで住民の味方って思われる戦い方にしなくちゃ。
あんまりビームライフルは使えないよ。フライングアーマーに乗ってビームサーベルで戦うか、ファンネルで的確に撃っていって」
皆は一様にうなずいた。一応クレアもちゃんと考えているらしい。
「で、配役なんだけど、サザビーは悪役っぽいから下でファンネル。テレビにはZZとMk-Ⅳと百式で映るよ。どう見ても正義の味方だ、うん」
本気だったのか、とユリウスは毎度の事ながら頭を抱えた。
「…………」
シスが無言のまま、ちらっと自分の機体を振り返る。サイコガンダムMk-Ⅱを正義のロボットと言い張るのは不可能だ。
「えーっとぉ……。とりあえず箱型の方がマシかなぁ?攻撃はビットでいけばなんとかなるかも……」
「…………」
しかし、考えてもさすがにこれはどうにもなるものではない。一同はあきらめてモビルスーツに乗り込み、出撃の時を待った。
ダカールの街が見えてきたとき、ショウは休憩室にいた。
「本当にいいのかな、戦わないでも……」
「いいんじゃないのぉ?戦いたい人にやらせとけば」
同じソファに座ったカチュアが嬉しそうにじゃれついてくる。
「クレアお姉ちゃんなんか、いっつも戦艦とか大きいの持ってっちゃうんだよ。ひどいよねー」
「カチュアちゃんはどうなの?……戦争、したいの?」
深刻な問いかけのはずだったが、カチュアは笑顔で答えてきた。
「だって、悪い奴がいるんだもん」
単純だが、それは真理でもあった。たとえ戦争が嫌でもジオン軍やティターンズを放っておいていいはずがない。そこからの逃避は平和志向ではなく厭戦主義にすぎない。それくらいの事は子供にも分かった。
だが、ショウはそれだけで戦争をするわけではない。
「僕たちは……どうなんだろう?」
「えっ?」
「誰も助けられないで……。やってきたのは、誰かが死んでいくところを見てるだけで……」
優しい手が落ち込んだ肩を抱いてくれた。
「そんな事はないわ……」
エリスがジュースのパックをテーブルに並べる。そのうちのひとつを手に取るが、すぐに飲む気にはなれなかった。
「ショウ君はいつでも、みんなの助けになっているじゃない」
「そんなこと……」
「シスちゃんが言ってたわ。同じサイコガンダムに乗っていてもフォウみたいにならないのは、いつもショウ君が隣にいてくれるからだって……」
ショウは少しだけジュースを飲み込んだ。液体が舌に溶ける感覚が広がっていく。
「もしカミーユとフォウが同じ艦に乗っていたら、あんな事にはならなかったでしょうね。それと同じ事をショウ君は知らないうちにしているのよ。
それにね……」
エリスはテレビのスイッチを入れた。ただのニュース番組にも戦時下の緊張感が漂っている。
「よく見ておくのよ。ニュータイプが戦わなくてはならない理由……。
今からクワトロ大尉が教えてくれるわ……」
そう言いながらも、エリスは淋しげな視線をどこか遠くに向けていた。
中継の画像が突然切り替わり、混乱した議事堂が映し出される。そこから聞こえてきた声は信じられない内容だった。
『議会の方と、このテレビを見ている連邦国国民の方には、突然の無礼を許していただきたい。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であります。
……話の前に、もうひとつ知っておいてもらいたいことがあります。私はかつて、シャア・アズナブルと呼ばれたこともある男だ!
私はこの場を借りて、ジオンの意思を継ぐ者として語りたい。もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである』
「えっ……!?」
ショウは弾かれるように画面に向き直った。連邦軍を説得するのに、クワトロは自分がジオンのシャアだと宣言したのである。いずれ学校でも教えられるはずの人物だが、もうひとつの名前は知らなかった。
「ジオン……って……?」
「大尉のお父さんよ。コロニーに住んでいる人のことを誰よりも考えて……ザビ家に殺されてしまった人……」
ショウは口の中にたまっていた唾を飲み込んだ。カチュアも黙ったまま画面を凝視している。
『ジオン・ダイクンの意思は、ザビ家のように欲望に根ざしたものではない。ジオン・ダイクンがジオン公国を作ったのではない。
彼は人類の新しいあり方を説いた。それは決して間違いではなかったと信ずる。だが、それを利用して人々を支配しようとしたザビ家は、許されざる存在であった。
にもかかわらず、現在、ティターンズが地球連邦軍を我が物にしている事実は、ザビ家のやり方より悪質であることに気付く。
かつての不幸な時代の二の舞は許されぬ!しかるに今の地球はどうか、ティターンズは、ザビ家以上の横暴を行っている!』
ZZの中のクレアは、両手を頭の後ろで組んで目を閉じていた。出撃の時は迫っているが、眠っているように動かなかった。
「どうしたのよクレア?」
「ん……レイチェル?」
「寝てたの?」
「瞑想……かな……」
テレビ放送のチャンネルに合わせたスピーカーから、クワトロの声が響いていた。
『人が宇宙に出たのは、地球が人間の重みで沈むのを避ける為だった。
そして、宇宙に出た人類は、その生活圏を拡大したことによって、人類そのものが力をつけたと誤解をして、ザビ家のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。
それは不幸だ。もうその歴史を繰り返してはならない!』
もう出撃しますよ、とユリウスの声が割り込んでくる。
珍しく人の話を聞く気になっていたクレアは気だるそうに答えた。
「聞いてちゃダメ?」
「当たり前でしょう!」
生で聞くのは初めてなんだけどな、と愚痴を言ってみる。今度いつ聞けるか分からないのに。
だが考えてみると、次に聞く機会があるなんてことの方がおかしいのだ。クレアは吹き出すと、ZZの操縦桿を握り締めた。
「よし、みんな行くよっ!」
サイコガンダムMk-Ⅱの巨体がゆっくりと動きだす。真紅と黄金の煌びやかな機体が後に続く。ガンダムカラーの二体は最後に飛び出し、クレアいわくの見栄えのしそうな陣形を取りつつ戦場に向かった。意味合いはそれぞれ異なるが……今日は晴れ舞台と言ってもいい戦いなのだ。
『宇宙に出ることによって、人間はその能力を拡大できるのだ!それを、なぜ信じることができないのか!
我々は地球を人の手で汚すなと言っている。ティターンズは地球に魂を引かれた人々の集まりで、地球を食いつぶそうとしているのだ!』
いろいろな話が同時に伝えられる。それをおぼろげながら、ショウとカチュアは理解しつつあった。
旧世紀から悪化の一途をたどる地球の環境が限界に達しつつあるのは小学生でも知っていることだった。さらにジオンはコロニーを落とし、ティターンズは核の使用をためらうことがない。これ以上地球を傷つけるのは人類そのものの自殺行為である。だからこそスペースコロニーを作り、宇宙という新しい生活の場を求めなければならなかったのだ。
しかし、それが分かっていてもなお、人は地球に住んでいる。
『人は長い間、この地球というゆりかごの上で戯れてきた。しかし時は既に、人類を地球から巣立たせる時が来たのだ。
その期に到ってなぜ人類同士が戦い、地球を汚染しなくてはならないのだ!
地球を自然のゆりかごの中に戻し、人類は宇宙で自立しなくては、地球は水の惑星ではなくなるのだ!このダカールさえ砂漠に飲み込まれようとしている。それほどに地球は疲れきっている!』
カチュアが両手を固く握る。
「ねぇ、今……。地球って、どれくらい人がすんでるの?」
「よく知らないけど……だんだん、少なくなってるよ。住めないところが増えてるんだって……」
「みんな月に住んじゃえばいいのに……。宇宙と地球と、別れて暮らすからヘンなことになっちゃうんだよ……」
人類全てが宇宙に上がる。そうすればみんながニュータイプになれる。人が互いに分かりあえるようになり、その間に地球の自然が元通りになれば……。
ショウはクワトロの語る世界を思い浮かべ、それが人類の未来になるのだと信じた。それはまさに――今、この時点では――ニュータイプの理想世界と言えるものだった。
ZZガンダムは非武装に近い状態だった。ダブルビームライフルを持たずに出撃し、右手のハイパービームサーベルはまだ刀身を発動させてさえいない。
だが、怯えているのはアッシマー隊の方だ。
現実に僚機は次々と落とされている。第一、なぜ戦場をこんな状態で飛び回って撃墜されないのだ?
その答えが目前に迫り、アッシマーのパイロットは必死にビームライフルを発射する。フライングアーマーから華麗にジャンプし、空中で三回転するZZを見たティターンズ兵は、理解を超えた光景に恐怖した。
ZZの瞳が妖しく輝く。額のハイメガキャノンがうなりをあげる場面を想像し、ティターンズ兵の意識は遠ざかっていく。
だが、降り注いだのはバルカンの弾丸だった。正確にビームライフルだけを撃ち抜くと、恐怖の機体は次の獲物をめがけて飛び去って行く。
直後、予測もしなかった方向からビームが浴びせられる。エンジンが火を噴き、機体の姿勢が大きく揺らぐ。
「こんな方にはモビルスーツはいなかったぞ!?」
もはや神に祈るしかなかった。不時着に成功する事を祈願しながら操縦桿を必死に引きしぼる。着地の衝撃と轟音が過ぎ去り、助かった事を知ってようやく息を吐く。全身にまとわりつく汗が体温を吸い取っていく。
そうして初めて、彼は周囲に落着している味方が皆爆発を免れている事を知った。
「楽じゃないわね、こういうのも」
「ちょうどいいハンデだって、このくらい」
ファンネルでアッシマーを落としたレイチェルはクレアの元気さに呆れていた。
「シスちゃん大丈夫?」
「そろそろ戻った方がいいと思う。フォローできる?」
「サザビーだってもう限界よ。敵が多すぎるわ……」
戦場の中心にいるサイコガンダムMk-Ⅱは、ほぼリフレクタービットだけで戦っていた。全身に装備されたメガ粒子砲を放てば、敵もろともダカールの街は壊滅してしまう。
ビットに反射されたビームは正確にアッシマーを射抜くか、そうでなければ反射を繰り返した末にサイコガンダムに直撃する。だが、それだけで落ちるような装甲ではない。強力すぎる機体ゆえの無茶な戦法だった。
だが機体そのものが堅牢であっても、中にいるシスは確実に消耗していた。サイコミュの連続使用による負担は徐々に思考力を奪っていく。
その直援にあたるフルアーマー百式改にビームが直撃し、大きくバランスを崩す。
「わぁぁっ!?」
「おおっとぉ!」
転げ落ちる百式改の真下に、空のフライングアーマーが待機していた。助けられたミンミの上空で、さっきまで百式改が乗っていたフライングアーマーに着地するZZ。
「……曲芸のようであります……」
呆然とするミンミに指令が届く。
「弾が切れた機体はみんな帰って!シスちゃんは休憩していいよ!」
戦場に一人残ったZZは、再び妖しい眼光を灯した。
『今、誰もがこの美しい地球を残したいと考えている。ならば自分の欲求を満たすためだけに、地球に寄生虫のようにへばりついていてよいわけがない!
現にティターンズはこのような時に戦闘を仕掛けてくる。見るがいい、この横暴な行為を!』
クワトロの演説を流しながら、画像はダカール市街の様子に切り替わる。
ティターンズの軍勢に包囲される一機のガンダム。それはスペースノイドの抵抗の象徴である。演説の内容と相まって、一見すると強大なティターンズに単身絶望的な戦いを挑む勇者にも見えた。
だが、ショウとカチュアは揃ってジュースを吹いた。そのガンダムに乗っているのが誰か知っていれば、その後の行動は大方予測がついてしまうのである。
「クレアさんがっ!?」
「一人でぇ~?」
「あ、あれをやる気なのね……」
エリスは目立ちたがりの親友がこの日の主役を奪おうとしていることを察して、いっそテレビを消してしまいたいという衝動に駆られた。
そして、クレアはエリスが考えたとおりの行動を取っていた。ニュータイプの直感と言うより、親友の慣れである。
「さぁ、バッチリ映しててよっ!」
カメラを回すベルトーチカに思念を送り、ビームライフルを三回転ひねりでかわしながら、ひとつの方向に敵機を集めていく。
エリスの声が頭に響くが、心配ないと返しておく。
そして議事堂の中のクワトロに調子を合わせ、ZZの額に驚異のエネルギーを集約させる。
『彼らはかつての地球連邦軍から膨れ上がり、逆らう者は全て悪と称しているが、それこそ悪であり、人類を衰退させていると言い切れる!テレビを御覧の方々はお分かりになるはずだ。これがティターンズのやり方なのです!』
「その通りぃぃ───っ!!」
轟音は放送される事はなかったが、ダカールにいる全ての人の耳をつんざいた。閃光は画面を満たし、魅入られる全ての瞳に焼き付いた。この時代のいかなるモビルスーツも……サイコガンダムすら装備していない最強のビームがダカールの空を駆け抜けたのである。
かつてギレン・ザビはソーラ・レイを評して言った、この輝きこそ我らの正義の証であると。それを忘れるクレアではなかった。
戦場の時間すら止めた衝撃が去ると、あたりにはアッシマー隊が呆然自失していた。ハイメガキャノンは威力を見せつけるだけで十分だった。敵機を撃墜する必要はなかったのである。
それを見た者に戦意など残っているはずがない。その光景はティターンズの無力さと、圧倒的なガンダムの威力を視聴者に印象付けた。そこに、補給を終えたガンダムMk-Ⅳや百式改、サザビーが踊りこんでいく。まるで用意された舞台のように、ティターンズはなすすべもなく倒れていく。
そこまでを映すと、再びクワトロが画面に現れた。
『我々が議会を武力で制圧したのも正しいとはいえないでしょう。しかしティターンズは、この議会に自分たちの味方である議員がいるにもかかわらず、破壊しようとしている!これが正義をうたう者のすることでしょうか!
私の話はここで終えるが、人類は終わることなく歩み続けねばならない!』
脱出を図るエゥーゴのスタッフの姿を最後に放映は終わった。番組を見たほとんどの者が、やっと息を吐き出したところだろう。
ティターンズの悪。ガンダムの勇姿。ニュータイプの理想……多くのものを残して作戦は終わった。
「疲れたわ……」
エリスはソファーに腰を降ろした。力が抜け切ってしまった様子で、何度も大きく息を吐く。
「でも、面白かったよ~★」
カチュアは明るく返す。
「それに……すごいじゃないですか。みんながニュータイプになれるなら……」
「そうよね……」
感動に震えるショウを眺めて、エリスは少し悲しくなった。この演説の行く末はショウが夢見ているものではないことを知っている。
しかし、この旅に参加している誰もがそれを変えようとしているのだ。自分たちの時代をより良いものにするために。
そして今度の旅では、まだ見ぬ新しい世界がある。そこには新しい希望があるはずだ。
「もしかしたら、ショウ君が全てを変えてくれるのかもね……」
エリスのつぶやきは誰にも聞こえることなく消えた。だが、ニュータイプの希望の火はまだ消えてはいない。この日の演説は後世に残り、多くの人たちを動かしていく。良きにしろ悪しきにしろ、人類は終わることなく歩み続けねばならないのだから。