機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第22話 アクシズの妖精エルピー・プル

(ねえ、私と遊ぼうよ!胸がキュンキュンするっ!)

 ショウは誰かに呼ばれたような気がして、まわりをきょろきょろと見回した。

「えっ?」

 しかし、戦艦の通路には誰も見当たらない。

 それに声で呼ばれたというよりも、ニュータイプの感覚が引き付け合うもののように感じる。

「誰だろ?カチュアちゃんかな……」

 ブリッジのドアを開けると、ユリウスたちがモビルスーツの配置を話し合っているところだった。

「リ・ガズィ、誰か使ってもらえませんか?僕には合わないんですよ」

「じゃあ、アタシが使わせてもらおうかしら」

「格納庫に何があったかな……ジャムル・フィンをしばらく使ってないですね……」

 もっとも、メールシュトローム作戦の戦果は機体の開発にはぎりぎり足りない状態で、ショウのZZガンダムを含めてほとんどは据え置きである。例外は一人気分良く暴れたクレアぐらいだ。

 ミンミは変わっていないようで変わっている。フルアーマーになった百式改の次に、また百式改に乗って量産型百式改に。そして三度目の百式改を陸戦仕様にする予定でいる。同じ機体であってもその都度武装が変わっていくので、結局ビームサーベルで戦うことが多かった。

「ねえ、カチュアちゃんは?」

「そうですね、レイチェル少尉が使っていたサザビーのコックピットを改修して使ってもらいましょうか……」

「あ、そうじゃなくて」

 ショウはカチュアの姿を探してみたが、まだ来ていないようだった。

「気のせいだったのかなぁ……」

「何ですか?」

「えっと……呼ばれてるような気がして……」

 ユリウスはクレア中尉じゃないでしょうか、と生返事をした。

「そうかもしれないね。どうしてるのかなぁ?」

 そう言ったとたん、艦内に警報が鳴り響いた。

「ラビアンローズから急報です!アクシズの戦艦エンドラが奇襲を仕掛けてきたようです!」

「敵の数は!」

「敵艦は一隻だけですが、ラビアンローズに肉薄して制圧を狙っているようです」

「相変わらず無茶なことをするな……」

 マークは苦笑した。何度この時代にやってきても、肩の力を抜いた時間を味わえてしまう。

 だが放っておいていい状況ではない。

「総員第一戦闘配備、全速前進!マリア、付近に敵影は?」

「前方に敵艦が一隻、1ターン後に交戦距離に入ります」

「よし、そのまま前進だ!」

 ユリウスは部隊の編成を指示しながら機体に乗り込んだ。カチュアのサザビーはまだシートの換装ができていない。

「ショウとミンミは接近戦を挑んでください。僕とラビニアさんが後方から援護します。シスは……」

『前方に敵艦が迫っています!本艦はラビアンローズ救出を優先して強行突破します。

 モビルスーツ隊は追撃に備えて下さい!』

「シスは残って追撃を押さえてください。敵撃破後は艦に戻って待機してください」

「了解……」

 サイコガンダムMk-Ⅲがゆっくりと出撃する。

 アルビオンが駆け抜けた後に、宇宙に閃光がひとつ、ふたつと煌いていく。それを頼もしげに見送りつつ、彼らはラビアンローズへと向かっていった。

 

 ラビアンローズは敵艦エンドラに肉薄され、すでにモビルスーツ隊に包囲されていた。

 それに対して、護衛はわずかにジムⅢが二機しかいない。クレアのHiνガンダムの姿は見えなかった。

「クレア中尉、なにをしてるんですか!?」

『今補給中だよ~。五機落としたよ、褒めて褒めて~』

「全くもう……!後どれくらいかかるんです!?」

『当分無理っぽいよ。ケイもハゲジジイもいないからね。も~補給が遅い遅い』

「……~!分かりましたよ、まったく……!」

『がんばってね~、応援してるよ~♪』

 にこやかに手を振るクレアの映像を、拳を叩きつけるように消去する。

 敵の数と機種を素早く確認すると、ユリウスは気を取り直す。確かにラビアンローズに近接した敵機はなく、敵機の半数はクレアが撃墜していた。

 R・ジャジャとガ・ゾウム、そしてガザDが残り三機。

「赤いのにはショウ、黒いのにはミンミが行ってください!後方から支援します!」

「うん!」

「了解であります!」

 ZZと百式改が敵陣に突入していく。誰から先に援護するか見極めようとした矢先に、彼らの後を追ってリ・ガズィが突進するところが見えた。

「ち、ちょっと、何するんですか!?あなたは後方から支援を……!」

 ユリウスは慌てて止めたが、リ・ガズィのラビニアは笑い返した。

「いいのよ!久しぶりにモビルスーツに乗れるんだから…… うふっ、うふふふ……♡」

 良からぬ気配を感じて、ユリウスは本能的に説得を中止した。

 でも、あの人は補給物資の監察官で、モビルスーツは趣味で乗っているんじゃ……?

 ユリウスは不安なまなざしを送ったが、果たして期待は裏切り予想は裏切らない。ビームサーベルで斬り結んだガザDは出力の差に押されて後退し、続く一撃で真っ二つに断ち割られる。

「うふふふふっ、そうよ…… それでいいのよ……♡」

 思考力が徐々に奪われていくのを感じて、ユリウスはがくっとシートにもたれかけた。

「もう嫌だ……なんでこういうのばかり……?ニキ先生……僕はどうしたらいいんですか……?」

 

 ユリウスと同様に、ショウもやっぱりその手の人間に苦しめられていた。

 ジオン軍の流れを汲む、赤い機体のモビルスーツ隊長。これでシャア・アズナブルを想起しない者のほうが少ないだろう。なによりショウはシャア本人と戦ってきたのだ。

 だが、今目の前にいる相手は、たぶんシャアが見たら泣くだろうと思われるようなパイロットだった。

「ああ~、熱いぃ!体が熱い~!ねぇ、分かるだろう、この鼓動が!」

 キャラ・スーンは狂った野獣のようにショウを追い掛け回した。

 無茶苦茶に振り回すビームサーベルの動きも、ビームライフルの乱射も、まったく動きが読めない。

 ニュータイプの感覚が発情した女性の鼓動を伝えてくる。だが小学生のショウには、それを突きつけられてもただただ混乱するばかりであった。

「ああああ~!感じる、感じるぅ!おまえも感じるだろ、ZZぁ~!!」

「だ、ZZだけどぉ、たぶん人違いだよ~!!」

「人違いじゃないっ!おまえが、おまえが感じるんだよぉ~!」

 突然ビームライフルを捨てて飛び掛ってきたR・ジャジャに、ショウはがしっと機体を捕まえられてしまった。

 相手は両手を使ってしまっているので撃墜される心配はないのだが、ショウは何かそれ以上の不安をひしひしと感じていた。

「あ~ん!誰か助けてぇ~!」

「このままでいいっ!このまま、おまえもアタシと一緒に感じるんだよ~!!」

「やだぁ~!!」

 ミンミはまだガ・ゾウムと戦っている途中で、ラビニアはショウの方を向いていてくれない。ユリウスはげんなりした表情で見つめていた。そして、誰かの笑い声が聞こえてくる。

(ふふっ…… あはははははっ!)

「誰ぇ~?わ、笑わなくったっていいじゃないかぁ~!」

(だってぇ、おっかしいんだもん!)

 クレアさんなのかな、とかすかに感じていたが、その意思は別の方向から飛び掛かってきた。エネルギーの補給を途中で切り上げ、Hiνガンダムが駆けつけたのだ。

「クレア・ヒースロー義によって助太刀いたす!」

 げしっとR・ジャジャの顔面に蹴りを入れ、ZZガンダムから引き剥がす。

「あ…… ク、クレアさぁん……」

「も~、休んでようと思ったのにぃ!」

「ご、ごめんなさい……!」

 クレアの意思はショウを笑うことにではなくキャラとの戦いに向いている。

(あはは、怒られたぁ~)

 明るい声は他のところから聞こえてきた。

「だ、誰なのぉ?カチュアちゃん?」

(誰、カチュアって?)

 ショウが混乱している間に、キャラとクレアの熱い戦いは始まっていた。

「次はおまえかぁ~!ああーん、もう、熱いんだよぉ~!」

「よぉっしぃ!私も燃えてきたぞー!!」

 やたらめったら振り回しているようにしか見えないビームサーベルの軌道が不思議と一致して、鮮やかな剣舞であるかのように見える。見当違いの方向に乱射されるビームライフルの光が、フィン・ファンネルから放たれるオールレンジ攻撃をことごとく相殺する。

 それをユリウスは肘をついて、やる気なさそうに観戦していた。

「波長が合うんでしょうね、たぶん……」

 クレアも顔を真っ赤にして、呼吸を荒げていた。キャラの鼓動を感じて、同じリズムで体を跳ねさせる。コックピットを女の匂いで充満させた二人は、情動をぶつけ合うように突進した。

「アタシのカラダが真っ赤に燃えるぅぅ~~!!」

「勝利を掴めと轟き叫ぶぅぅ~~!!」

 完全に間違った気合と共に、ビームサーベルが激しく叩き付け合う。

 ……だがその時、戦いはぴたりと止まった。

 ごん。

 鈍い音が響き、紙屑でも飛ばしたかのようにエンドラがはるか遠くに吹き飛んでいく。

「……あ」

「……あれ?」

 サイコガンダムMk-Ⅲが、パンチを叩き込んだポーズで無表情にたたずんでいた。

 ぽん、とR・ジャジャに白旗が掲げられる。戻るべき母艦がなくなってしまえば、いくらモビルスーツ戦に勝ったところで生還はできないのだ。

 

(すっご~い!)

 声は楽しそうにショウに笑いかけた。ショウはそれどころではなく、がっくりと肩の力を抜いて疲労感に浸るばかりだった。変な波動を浴びていたからか、とにかく今はトイレに行きたい。

「やっと終わったよ~。き、君は誰なの?」

「私は、エルピー・プル!」

 ZZのすぐ隣にあった隕石が風船のように弾けて、中から黒いキュベレイが姿をあらわした。ショウはぎょっとしてそちらを向く。

 

【挿絵表示】

 

「ねえ、ZZぁ!私と遊ぼうよ!」

「えっ?えっ!?」

 すぐ側から話しかけられていたというのに、全く気づかなかった。危険な相手や、心が通じ合える相手なら、ニュータイプの感覚でそこにいると分かるはずなのに。まるで、側にプルがいて笑いかけてくれることがあまりにも自然すぎて、特別に意識すべきことではないのだと心が感じていたようだ。

 だが、それとは別に、緊張を解いたところで意表を突かれてショウは大慌てになった。プルはそんな事はお構いなしにはしゃぎ回る。

「ち、ちょっとぉ……!?君は敵なんじゃ……?」

「いいじゃないの、そんなこと。それより、私と遊ぼう!」

「あ、遊ぶって言ったって……!?」

 プルはZZを抱いたまま、いきなりバーニアを吹かせて飛んでいく。その背後にファンネルのビームが何発も通り過ぎていった。

「もう、誰よぉ!?あぶないじゃない!」

「ショウを放してっ!ショウは私のなんだからぁ!」

 体のサイズに合わないサザビーのコックピットの中で、カチュアが怒っていた。

「イ~だぁ!ZZは、私と遊ぶの!」

「なによ、そんなこと勝手に決めてぇ!

 ……もう許さないよ、いなくなれぇー!!」

 カチュアは再びファンネルを飛ばす。ショウはあわててZZをキュベレイから離し、女の子たちから退避する。

「み、見てないで、止めてよぉ~!」

「……いい御身分ですねぇ、ショウ……」

 ユリウスの暗い返事が返ってくる。カチュアの発言で、ショウへの敵対心が久しぶりにアップしていた。

「ク、クレアさんっ!?」

「プル、意外に強いなぁ。キュベレイでサザビーと互角に戦っちゃうなんて……」

「感心してないでぇ~!」

「大丈夫だってば…… あれ、危ないよっ!」

 クレアの警告も間に合わず、ZZの背中をファンネルのビームがかすめていく。

「嫌いだよ!私が遊ぼうって言ってるのに!!」

 最初カチュアに向いていたプルの敵意が、なぜか今度はショウに照準を合わせていた。

 必死でビームサーベルを受け止め、ショウはなんとか反論する。

「遊ぼうって……モビルスーツで武器を振り回して!

 君は知らないかもしれないけど、相手が死んじゃうんだぞ!」

 ショウの勢いには、多少の怒りと苛立ちも含まれていた。戦闘には人の死が伴うという重大なことに対して、この時代の人たちはあまりに無頓着すぎる。ララァやフォウの悲劇的な最期に直面したショウにとっては、やはり黙ってはいられない事であった。

 しかし、それを正面からぶつけても、プルにはそれを受け止める準備はなかった。知識としても経験としても、まだ人が死んでいくという事の実感など、十歳の少女にあるはずがない。プルはそれを畏怖して、混乱した。

「ショウ……なんで?なんで……プルのことイジメるのぉーッ!?」

 キュベレイを反転させて、黒い妖精は飛び去っていく。その目には、少しだけ涙が浮かんでいた。

 

 艦に戻って激情が醒めたショウは、ちょっと言いすぎちゃったかなぁ、と気を落とした。

 しかし、まだカチュアの怒りは収まらないらしい。

「いいのよ、あんな奴なんか!」

「カチュアちゃんだって危ないよ、いきなり攻撃なんかして……」

「ふんだ!機体がちゃんとしてたら、あいつなんかすぐに落としちゃうんだから!」

「ダ、ダメだってば、仲良くしようよ……」

「なんでよぉ。あいつ敵じゃない!」

「そ、そうだけど……」

 カチュアの言う敵というのは、エゥーゴとアクシズの対立ではなくショウの取り合いという意味の方が強かった。だから譲り合うつもりなど全くないのだが、そのことに気づいて苦々しく思ったのはショウではなくユリウスである。

「鞍替えするならさっさとしてください。面倒が少なくてすみますから」

 ユリウスは強烈な嫌味を残して足早に去っていく。

「ユリウスまで怒ってるぅ……。

 ふぅ……。エルピー・プル、かぁ……」

 確かに、今突然あの子がこの場に現れてしまったら喧嘩の種になるのは間違いないのだが……それでも、なぜかすぐに新しい友達になれるような気がしていた。

 そして、今度という今度こそ、それを悲劇で終わらせてはならないという決意も、少年の胸に刻み込まれていた。

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