機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第2話 オーバーテクノロジー

 それは、人類の革新ニュータイプの為せる業なのか。それとも戦いを通して築かれた、心のきずな故なのか。マークは、エリスがブリッジに上がってきただけで用件を言い当てた。

「ショウをパイロットにするのは反対なのか?」

「ええ……。私が我儘を言ったからクレアもレイチェルも苦戦して、あんな小さな子まで……」

「それも援軍が来るまでだ。すぐにパイロット要員が六人になる。SFSを入れるスペースがなくて困るくらいだ」

「こんなとき……みんながいてくれたら……」

「おいおい、まだ始まったばかりなんだ。辛いのはこちらの戦力が整っていないだけさ。すぐに黒歴史のオーバーテクノロジーで敵軍を圧倒するようになる。前回はソロモンにガンダムMk-Ⅴを持っていけたじゃないか」

「それなら……いいのだけど……」

「どちらにしても、ショウはパイロットを続ける意思はないんだ。早ければルナツー、遅くとも地球で家族のところへ帰ることになる」

 マークはそう言って話を終わらせたが、エリスは心配そうな表情を浮かべていた。

 

「お母さん……」

 星空の中にかすかに見える、前方を進むホワイトベースを眺めながら、ショウは心細さで涙を流していた。

「ショウ君、ここにいたの?」

 マリアがそっと後ろから肩を抱いた。ショウは慌てて涙をぬぐった。

「さびしかったの?」

「……怖いんです」

「大丈夫よ。モビルスーツだって増えてきたし、こう見えても私たちは強いんだから」

 けど、実際ショウ君にも助けられてるんだけどね。マリアは心の中で付け加えていた。

「この艦じゃないんです。もし……母さんの乗っている艦が攻撃されたらって……」

「ショウ君」

 マリアはショウを向き直らせて、胸に包み込むように抱きしめた。

「優しいのね。こんな時に自分のことより人のことを思えるなんて……」

 ショウはほめられたことへの反応は出来なかった。ふくよかな胸の感触で、また母を思い出してしまっていたのだ。

「やっぱり、あなたは戦ったりしたらいけないわ。優しいままでいてくれなくちゃいけないのよ」

「……それって、僕が弱虫だってことですか?」

 妙な話のつなぎ方をされて、マリアは返答に困った。

 

「きぃどぅ~、せぇんし♪ がぁんだむぅ~がんだむ♪」

 機嫌よく歌いながら、ガンダムにほおずりするクレアの姿があった。

 モビルスーツデッキには、一気に機体の数が増えていた。以前は製作に散々てこずらされたムーンムーンの御神体キャトル、ネオジャパン軍のブッシ、彼らにとっても初めてのモビルドールであるDユニット、さらに戦闘バイクやヘリコプターなど珍しい機体はとりあえず格納庫に収められる。何か設計の役に立つかもしれないからだ。そして、主戦力としても素材としても重要な機体、RX-78ガンダムが二機並んでいた。

 先日はトルネードガンダムの意外な欠点により醜態をさらしてしまったが、今度は勝手知ったる機体である。クレアの頭の中ではすでにガンダムMk-ⅡからMk-Ⅴを経て、サイコガンダム系統にまで成長していた。

『クレア、悪いが今回はザクヘッドで出撃してくれ』

 モビルスーツデッキに響く通信の声でほおずりは止まった。

「ザ……ザクヘッド?なにそれ?Zザク?」

『ちょうどお前の左にある黄色の機体だ』

 マークの指示したほうには、ザクの頭にいくつかのマニピュレータを取り付けたような、作業用メカと思しきものがちょこんと安物のSFSの上に置かれていた。この方向には、他には敵から鹵獲したザクがあるだけで、もちろんこれは緑色だ。

「は?……こ、これ?」

『そうだ』

「ぶ、武器はぁ!?」

 ケイが横から話に入り込んできて、

「スペックはこれを読んでね。武器は……あ、タックルって書いてあるね」

 クレアは白目をむきそうになったが、なんとか根性で生き残った。

「艦長ーっ!!私に死ねとーっ!?」

『大丈夫だ。移動性能はSFSで補うから、戦場に到達できないという恐れはない。タックルの威力も上がるかも知れんぞ』

「そーゆーことでなくてーっ!!」

『いいか。その機体は今は弱いが、ガザBに発展する』

「B……ガザCより弱いんだね……」

『だろうな。そしてガザCに発展するのだろう。これからジオンのモビルスーツが次々に手に入るときにガザ系があれば、一気にいろいろなモビルスーツを手に入れることができる。しかし、ザクヘッドは宇宙専用だ。ここを過ぎればすぐに地球に下りてしまう。タイミングは今しかない』

「そんなこと言ったってぇ~」

『レイチェル、君はザクを担当してくれ。ここで高機動型にしておけば後でジオングを作るのが楽になる』

「は、はい。でも、それとザクだけじゃ……」

『そうだな……。誰かガンダムで援護する必要があるな』

 実際に連携を考えてみて、やはりパイロット要員が二人では足りないとマークは気づいた。自分かエリスが行くべきなのだろう。だが……。ショウにやらせてみたい。最初に考えたのはそれだった。なぜか、彼は最後までこの旅に関わってくる気がするのだ。

『ショウ、やってみるか?』

 後ろでエリスが非難の声をあげる。分かってはいる。戦争は遊びではない。敗北は死だ。

 しかし……アムロ・レイもカミーユ・ビダンもジュドー・アーシタも、最初はみんなこうだったではないか?

『僕……。やらせてください。短い間しかいられないけど……ここで何かができそうな気がするんです』

『そうか。では、ガンダムのコックピットで待機していてくれ。追って指示を出す』

 

 大気圏突入をかけるホワイトベースに、シャアの率いるモビルスーツ隊が奇襲を敢行する。しかしホワイトベースとの間にはアステロイド帯があり、そこで食い止めることができればホワイトベースは危なげなく地球への降下を成功させる事ができそうだった。

「結局、ルナツーでの合流はできなかったか……」

「ワッケイン司令と言い争うところは見てるだけでしたからね」

「まあいい。せっかくガンダムで戦うつもりになっているんだ。地球に降りてからでもいいだろう」

「……そうかしら?」

 マリアとマークの会話に、エリスが異をはさんだ。

「なんだか……ショウ君は、最後の最後まで私たちと一緒にいる気がするの。できることなら、早く家族のところへ返してあげないと……」

 同じ予感をしていたマークは、話を長引かせるのを嫌った。

「その話は戦闘の後にしよう。モビルスーツ隊発進準備!」

 

「ふふふふふ……ふはははははははっ!!」

 ザクヘッドのコックピットの中に哄笑がこだまする。戦闘前からクレアはハイになっていた。自暴自棄とも言うが。

「クレアさん……大丈夫ですか?」

 ショウは不安そうに声をかけたが、返事はこなかった。

『今回の作戦は、アムロたちの乗るホワイトベースを無傷で3ターン守り抜くだけでいい。我々が前線で敵を食い止めることができれば、それだけ彼らの大気圏突入は安全になる』

 お母さんのいる艦が……。ショウは操縦桿を握る手に力をこめた。

『まずクレアが先行して敵の目を引き付ける。レイチェルとショウはアステロイドの陰から、クレアの目の前の敵を狙撃するんだ。なんとしてもザクヘッドとザクⅡF型はエースにするんだぞ!』

 

 ニュータイプ能力を極度に昂揚させたクレアは体の周囲にオーラを発生させていた。

「見えるぞ……私にも敵が見える!!」

 もともと戦闘用ではないザクヘッドだが、SFSのおかげで快適に進むことができる。いざとなったらザクの射程範囲から一気に逃れることもできるだろう。レイチェルのザクとショウのガンダムも同じくSFSを使用しているので、連携に困ることもなかった。

「なんだこりゃ?偵察ポッドか?」

 ジオンのパイロットが、よく分からない物体を見つけて怪しがる。その油断した隙に、レイチェルの放ったザクマシンガンと戦艦からの援護射撃を受けて先陣のザクは大破した。

「れっ……連邦はアステロイドの陰に隠れているぞ!」

 別の一人がそう言った矢先に、ザクヘッドの体当たりが襲う。それを回避しようとしたところにガンダムのビームライフルが直撃した。

「ええい……黄色は囮だ!隠れている敵をあぶり出せ!」

 シャアは奇襲を奇襲されるという予想もしなかった事態の収拾を図るべく、小うるさいザクヘッドにバズーカの狙いを定める。

「つけあがるな!秘技!十二王方牌ーっ!!」

 ザクヘッドから、多数の小さなザクヘッドが発射される。それは風船のように膨らむと、レーダー上では本物のザクヘッドと見分けがつかなくなった。

「な……なに!?」

 シャアは虚を突かれて狼狽した。ダミーバルーンが登場するのは一年戦争の終盤になってからだ。この時まだシャアはその存在を知らない。すぐに彼はその本質を見抜いたが、一瞬のうちにクレアはシャアの射程外に逃れていた。そこでまた、味方のザクが倒されていく。ジオンのモビルスーツ隊は完全に混乱してしまった。

「……そこにいたか、ガンダム!」

 アステロイドの陰から正確にザクを狙撃する白い機体を発見し、シャアはバーニアを吹かせて突撃した。

「モビルスーツの性能が絶対的戦力の差でないことを、教えてやる!」

 キックを食らい、ガンダムは吹き飛ばされる。ヒートホークを使わなかったのは狙撃していた位置からどかせるためだ。

 姿を現したガンダムは、妙な板に乗っていた。ガンダムを載せた板が推進力を見せて、高い機動力で後ろに回り込もうとする。このSFSも、いまだジオンの宇宙軍では開発されていなかった。

「これは……ガデムを倒したガンダムとは違うというのか?」

 シャアはヒートホークを抜き、接近戦に持ち込もうとした。

「冗談ではないッ!」

 ヒートホークとビームサーベルが激突する。

 ショウは初めての強敵に押されていた。恐怖だと言ってもいい。助けを求めて周りを見てみると、クレアは無事エースになったのか帰艦するところで、一人になってしまったレイチェルは複数のザクを相手にしているところだった。モビルスーツは同じザクである。戦況の不利は明らかだった。

「逃げちゃ駄目だ……僕の戦いにみんなの命がかかってるんだ!」

 早くシャアを倒して援護に行かなければ。あせればあせるほど、シャアは軽々と攻撃をかわしてその都度一撃を加えてきた。

『ショウ!』

「マークさん?」

『時間稼ぎはできた!そのままシャアを素通りさせろ!ムサイを叩く!』

 すでにアムロたちの乗るホワイトベースは大気圏の摩擦熱であぶられている。これで今回の任務自体は成功なのだ。

 マークのホワイトベースから発射されたミサイルが次々にムサイに命中していく。近距離制圧用の機関砲がないのをいいことに、クレアが景気よく体当たりをかます。

「私にまかせて!敵の注意を引き付けるからその隙に……!」

「は、はいっ!」

 レイチェルが正面に回ってバズーカを撃ち込む。ムサイの主砲が目の前のザクに向けられる。

「みんなも頑張ってるんだ!僕だってやってみせる!」

 勢いをつけてハイパーハンマーを振り回し、ムサイめがけて投げつけた。それがとどめの一撃となり、ファルメルは大爆発を起こしたのだった。

 しかし、勝利の喜びも無事生還できた安堵感も、ショウの頭にはなかった。赤い彗星の見事な動きと、それに何もできなかった自分……その悔しさだけが重くのしかかっていた。

 

「みんな、よく頑張ってくれたな」

「死ぬ~、こんなことしてたら絶対死ぬ~」

 クレアがぐったりと肩を落とす。

「しかし、見事エースになれたじゃないか。地球に降りてからはまともな機体に乗ってもらうことになるよ」

「シャアは……」

「コムサイで地球に降下していくのが確認された。いずれまた戦うことになるが……」

 ショウの問いかけにマークは複雑な表情を見せた。

「たぶん、君とはもうすぐお別れだ。ここまで戦争に参加させてしまって申し訳なく思っている」

「そんな……僕、途中で逃げるみたいで……」

「地球まで、ゆっくり考えればいい。家族のことも思い出してな」

 そう言われてみても、あれほど思っていた家族のところに帰りたいという気持ちは薄れてしまっていた。むしろこれから起こることや、これからしなければならないことに意識が移りつつあった。

 そして、二隻のホワイトベースは、ゆっくりと地球の重力に引かれていった。

 

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