機動探訪記ガンダム・ジェネレーション   作:キャノン娘

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第7話 再会、出会い

 オデッサやジャブローの戦いに勝利した地球連邦軍は、確実にジオン軍を圧倒し始めていた。

 宇宙での再攻勢も計画され、これに成功すれば地球上にいまだ健在のジオン軍も追い詰められることになる。ジオンの本拠はあくまでサイド3であり、補給や脱出経路が途絶えた軍隊に勝利は無いからだ。

 マークたちはマッドアングラーからホワイトベースに母艦を戻し、宇宙へと駒を進めていた。そこには第三のホワイトベースが彼らを待っていた。

「お久しぶりです、少将」

「ああ。活躍ぶりは聞いているよ。よく一人の戦死者も出さずに……」

 宇宙に待機していたほうのホワイトベースから、ゼノン・ティーゲル少将をはじめとする面々が敬礼した。マークたちも敬礼を返すが、儀礼的な事はそれでおしまいだった。かつて彼らはひとつの艦で戦っていた。誰よりもよく知る戦友であり、仲間だったのである。

「ニュータイプばかりをいただいてしまって……。彼らに頼りきりです」

「ニュータイプと言っても子供たちばかりだ。同じところに集めておいた方がいいだろうし、私はニュータイプではない。適任だったと言うことだよ」

 元は最強のパイロットであったマークは、戦場で得た啓示に近い事実を確信していた。戦術や物量は、奇跡には絶対に勝てないということを。人はその兵器をガンダムと呼び、彼らをニュータイプと呼んだ。士官学校の教師ならば伝説だと一笑に付すだろう。だが戦場に出た兵士たちは、百機のザクよりもただひとつのガンダムに奇跡を見るのである。マークが鍛えようとしていた部隊は、まさにそんな者たちの集団だった。

 だから弊害も出ていた。五分と五分の条件ならば100%確実に味方が勝利するという前提で作戦を立てられては、さすがのニュータイプたちもたびたび危機に陥ることになった。それを補ってきたのは彼らの高いニュータイプ能力と言ういわば奇跡の力であり、時代の制約を超えたモビルスーツの性能だった。

「それで、そちらはどうなのです?」

「エルンストは相変わらず頼りになるよ」

「あいつが指揮しているのですか?」

「お前がいなくなってはあいつしかおらんだろう」

 そのエルンスト・イェーガー少佐が、後ろからマークの肩を叩いた。

「そうそう、やっぱり先陣はあんたが切ってくれないとな」

 突然近くに顔を寄せられて、マークは2、3歩距離を離した。

「まだ煙草を吸ってるのか?」

「やめろって言う人間がいなくなったからな」

「ここは俺の艦だ。ここでは吸うな」

「言ってくれるぜ!」

 三人は笑いながら歩いていった。普段子供たちに囲まれて保護者の身分だったマークは、久しぶりに同年代の話し相手を得ていた。

 

「先生!」

 ユリウスは珍しく、子供らしい表情でその女性に駆け寄った。

「ユーリィ、戦場はどう?」

「大丈夫ですよ。不安なんかありません」

 抱きしめて頭を撫でるニキ・テイラー中佐は、教え子のはしゃぎようから不安を少しだけ解消した。

「モビルスーツ隊の隊長がクレアなんですって?いじめられたりしてない?」

 ニュータイプの額に閃光が走り、ダッシュで逃げようとする。しかしそれよりも早くスカーフを掴まれ、クレアは窒息して悶絶した。

「こら、クレア。どうして逃げようとするの?」

「中尉は僕の顔を掴んで引きずりまわしたりするんですよ」

「ふうん……。本当なの、クレア?」

「あ、あははははは……。私としては、愛情あふれるスキンシップだと思うんですが……」

「スキンシップ、ねえ……」

 冷や汗を滝のように流すクレアの額を指でつついたニキは、極めて冷静に言った。

「ユーリィはあなたと違って繊細な子なんですからね」

「わ、分かってます分かってます。どうかここはひらにご容赦を」

「まあ、今日は時間があるわけでもないしね……」

 クレアをいいようにいたぶるニキを、ユリウスは尊敬の眼差しで見上げていた。

 

 ラナロウ・シェイドはレイチェルの陰から、シスの姿を見つけ出した。

「……あいつか?」

「うん……。それより、モビルスーツに乗ってるって本当なの?」

「大丈夫だ、今は頭も痛くならないしな……」

 シスはシェイドの敵意に近い視線を、表情を変えずに受け止めていた。表面に現れるものは違っても、奥にあるものは艦の仲間たちと同じだということを悟ったからだ。

 この人が怒りを向けているのは私自身じゃない。私をこうした人たちに怒っているんだ。

 だが、レイチェルはシェイドのもうひとつの面を見逃さなかった。

「自分がまだ戦えるって証明しなくてもいいのよ。前に、あなたの強さはみんな分かったじゃない……」

「違う!」

 シスはその叫びに、温かみを感じ取ることはできなかった。

「奴らが本当に俺たちの腕を信用してるなら、こんなガキどもを連れてくることはなかった。だろう?」

 レイチェルはそれに答えを返すことはできなかった。

「誰が一番強いのかすぐに分からせてやるさ……!」

 シスの幼い心に、それは良くない感情なのだという思いが浮かんできた。そして、そんな感情を抱くことができたことに驚いていた。

 

 その姿を見たとき、エリスは悲鳴に近い声をあげた。

「ジュナス!歩いても大丈夫なの!?」

「……もう、これくらいはできるようになったよ……。みんなが支えてくれたから……」

 深い瞳をした少年は、力のこもっていない声で答えた。

「君やマーク隊長だって艦に乗っている。シェイドなんか、立派に戦ってるんだ。僕だけ病院にいられないよ……」

「あなたがどれだけ傷ついたのか、みんな知らないはずがないでしょう?」

「僕にも少しはまた刻が見えるようになってきたんだ……だから、オペレーターの役をさせてもらっているよ。迷惑はかけたくないからね……」

 ショウとカチュアは、艦内にいるどのニュータイプにもないものをジュナス・リアムから感じていた。それは魂に刻まれた傷の深さと、そこから立ち上がろうとする強い意思だった。

「……君たちが新しいニュータイプなのかい?」

 呼びかけられた二人は、不用意にジュナスの瞳を正面から覗いてしまった。果てしなく深い虚無の中に浮かぶかすかな光。それが、この少年の瞳を形成している宇宙なのだと悟った。

 呆然と立ちすくむ子供たちに、ジュナスは優しく微笑んだ。

「どんな戦いも辛いんだ……。がんばるんだよ。僕のようにならないで……」

 短い言葉にどれだけの意味が込められているのか、二人が知るのはまだ先のことだった。

 

「……でさあ、今日はなにしに来たわけ?」

 ニキの恐怖から復活したクレアは、ゼノン少将に問い掛けた。一同はモビルスーツデッキにたどり着いている。

「そう、それだ。

 現在、我々は地上で08MS小隊の支援を行い、戦いは佳境に入っている。そのため戦力補充として、こちらで完成した機体を受領しに来たのだ」

「モビルスーツ持ってっちゃうの?」

「うむ。アプサラスⅢ、パーフェクトガンダム、それから……」

「おお!意外と早い再会だったな、俺のシャイニングガンダムよ!!」

 力強い声が会話をさえぎった。

 情熱の赤い髪を彩る「根性」の鉢巻、精神力で全てを超越する魂の持ち主。アキラ・ホンゴウは格納庫に収められたかつての愛機を見上げ、感無量の表情であった。

 その前にクレアが立ちはだかった。

「ちょっと待て馬鹿アキラ!おまえにシャイニングガンダムは渡さないぞ!」

「なんだと!?前からシャイニングガンダムは俺が使うと決まってるじゃないか!」

「それはこっちにナイチンゲールやクィン・マンサがあったからじゃないの!

 どーしてアプサラスⅢ一機落とすのにおんなじのを用意して、パーフェクトガンダムまで付けて、なおかつシャイニングガンダムまで持ってくのよ!?」

「アプサラスⅢは機動力や飛行機能のためで、パーフェクトガンダムとシャイニングガンダムはもともとエルンストとアキラが使っていたじゃないか」

 ゼノンはあるべき所に収まるだけだというように言ったが、まだクレアは納得しなかった。

「もう!それならそれで、ソロモンやア・バオア・クーにはちゃんと来てくれるんでしょうね!ジオンの本隊と戦ってるのは私たちなんだよ!ジャブローにだって来てくれなかったじゃないの!」

「そう、それだ」

 思い出したように、ゼノンはマークに告げた。

「この後オーストラリアで、ホワイト・ディンゴという部隊に加勢することになっている。どれだけ急いでも、ソロモン攻略戦には間に合いそうにないのだよ」

「だああああっ!!」

 クレアは髪をかきむしってじたばたと暴れた。

「主力を全部持ってかれて、どーやってビグ・ザムと戦うのぉ!?残ったモビルスーツだけじゃとても対抗できないってばぁ!」

「そうだな……」

 ゼノンは少し考えて、結論を出した。

「シャイニングガンダムを残そう」

「なっ、なにいぃぃぃっ!?」

 今度叫ぶのはアキラの番だった。

「アプサラスⅢはどうしても必要だ。パーフェクトガンダムのハンドビームガンは十分有効打になる。……だが、シャイニングガンダムは空を飛べないだろう」

「うっ!?」

「宇宙でなら飛行能力がなくてもかまわない。ビグ・ザムの懐に飛び込んで格闘戦をするのにも適しているからな」

「うぐぐぐぐっ!?」

「や~い馬鹿アキラぁ、ざまぁみろ~」

「うぅぅぅぅるさぁぁぁぁいっっ!!クレア、ソロモン攻略戦の後には絶対に返してもらうからな!!壊すんじゃないぞ!!」

 二人の騒がしいやり取りを見ながら、両方の部隊のメンバーは昔を思い出していた。

 中央を切り開くマークのクィン・マンサ。その後ろにはエルンストのパーフェクトガンダム。右翼はジュナス、シェイド、アキラが務め、左はエリス、クレア、レイチェルのサイコミュ兵器が超遠距離から敵陣を打ち砕いていった。

 負けるとは誰もが思ってもみなかった、あの瞬間までは。

 思い出がそこにたどり着くと、誰もが無言で搬入作業を始めていった。

 

 戦艦に乗せられるモビルスーツの数には限りがある。

 アプサラスⅢとパーフェクトガンダムを積み込む代わりに、ゼノン少将の艦から様々なモビルスーツが運び出された。

「まあ、我々もただもらっていくばかりではないさ。いろいろ面白いものができたから、使ってみるといい」

 マークたちが宇宙に、地上にと駆け回っていくのとは対照的に、少将の率いる第一部隊はほとんど地上戦だけを任務としてきた。だから陸戦型ガンダムなど、地上用に特化したモビルスーツを扱っていたのだが、ドムからリック・ドムができるように、宇宙戦用の機体も一部所持していた。それを代わりに置いていくのである。

 その中に、予想もしていなかった機体があった。頭はザクのようだが、無骨な胴体に有線ハンドビーム砲を備えた、ニュータイプ用の実験機である。

「サイコミュ試験用ザク?なぜそんなものが?」

「君たちが高機動型ザクを作って行ったからな。幸運にもニュータイプが来てくれたので、機会があるたびに使っていたのさ」

「ニュータイプ……。誰がやっているのですか?」

「新しい志願兵だ。君たちとは初対面になる」

 ザクのコックピットが開き、マークたちの前にニュータイプが姿をあらわす。赤毛の少年は目を輝かせて、両手を広げて快哉を叫んだ。

「おお~う、まさにパラダイス!天国だなここは!」

 華麗な動作でコックピットから飛び降り、ラナロウ・シェイドの肩を叩く。

「あの娘がレイチェルちゃんかい?よさそうな娘じゃないか!」

「……間違っても声をかけるなよ」

「分かってる分かってる!他にもよりどりみどりじゃないか!」

 クレアは後ずさりして、側にいたアキラに耳打ちした。

「馬鹿アキラぁ、あれアンタの同類?」

「……他のどんな罵倒にも耐えるからあいつと一緒にはしないでくれ」

 認識力が拡大されたニュータイプであるはずなのだが、彼には都合の悪い事は耳に入らなかった。

「俺はサエン・コジマ。お嬢さん方、よろしくな!」

 軽くウインクして、マリア、ネリィ、エリスにターゲットを定めた。

「どうだい?こっちは女の子ばかりで、寂しくなったことなんてないか?なんならこっちの艦に来なよ!俺がいくらでもなぐさめて……ぐふっ!?」

 軽快な口調はみぞおちへの掌底一発で止まった。

 ニュータイプと言っても生身の人間である。くずれおちたサエンを拾いつつ、ラナロウ・シェイドはぼそっとつぶやいた。

「あんたの事を説明しとくのを忘れてたぜ」

「わたくしの事などよりも、少しは礼儀をわきまえていらっしゃいな」

 お嬢様然とした表情に戻ったネリィはにっこりと笑ったが、彼女に笑い返せる者はさすがにいなかった。

「ネリィのシャイニングフィンガー、痛そうだなぁ~」

「クレアさん、何か言いまして?」

「い、いえその、なんでもございません」

 クレアは焦った顔で横を向く。

 サエンと同じく紹介を受けていなかったショウたちは、これまでネリィに変な冗談を言わなかった幸運に感謝していた。

 

 第一部隊と分かれたマークたちは、ブライト・ノア率いる第十三独立部隊と合流するべくサイド6の宙域に到着した。ここは中立のコロニーであり、条約で戦闘行為は禁止されていた。しかし、そのサイド6でもジオン軍は強引に攻撃をかけてきたのである。

「リック・ドムが十二機か……」

「ねえねえ、これってアレ?これってアレ?」

 今後の展開に期待しているのか、クレアはレイチェルに抱きついて大はしゃぎしていた。

「そういえば、クレアは初めてなんだよね」

「私やる、私!艦長、クレア中尉吶喊します!!」

「クレア……大丈夫だとは思うけど、一応戦争なのよ……」

 なだめるエリスも本気で心配はしていない。シャイニングガンダムというモビルファイターがどれほどの戦闘能力を持っているか知っていれば、自然とそうなるのだ。マークたちは初めてそれを見た時に驚愕を通り越して敵軍が全滅するまで呆然と見続けたことを思い出していた。

「友軍は修繕を終えたばかりだ。こちらは新兵器をいろいろ積んで、テストするにはちょうどいいだろうな。レイチェル、サイコミュ試験用ザクで指揮をとってくれ。ショウはトルネードガンダムで援護。

 ……ギュンター技術大佐、準備は出来ていますね?」

「もちろんですよ」

 珍しく、マークとユリウスが同じ笑いを浮かべた。エリスはマークの、今この場にはいないニキ・テイラー中佐はユリウスの笑いの意味を知っている。強烈な新兵器の破壊力を試すときの笑いである。

「……バーサーカーシステムの調整は完璧ですよ」

 

 まだモビルスーツの展開もしていないジオン艦隊に、ホワイトベースは急襲をかけた。どちらが先制攻撃をかけたのか分からない勢いである。

 モビルスーツデッキでは、クレアが不満そうに待機していた。

「なぁ~んでせっかくのシャイニングが見物かなぁ、も~」

『今回はシスの実戦テストで、サイコミュ試験用ザクは早めに成長させたい。援護はショウがいれば十分だろう』

「だったらショウじゃなくって私が援護すればいいじゃないのぉ!」

『だめだ。お前がシャイニングガンダムに乗ったらテストの前に敵を全滅させる恐れがある』

「ちっ、鋭い……」

 クレアの視線の先に新しいモビルファイターが踊り出ていた。戦場で極めて目立つ、セーラー服を着たガンダム。とても殺し合いをする機械の容姿や動作には見えなかったが、その中には驚異の兵器が内蔵されているのである。

 まだ年端もいかぬ少女の小さな体がファイティングスーツに包まれ、痛々しさすら感じさせる情景を醸し出していた。しかし頭部に植え付けられたチップがモビルトレースシステムに連動し、身体的な不足を完璧に補っていた。

「だ……大丈夫なの?」

「大丈夫……ショウが見ていてくれるから……」

 シスは冷静に答えると、敵モビルスーツ隊の展開を待った。チベの艦砲射撃がホワイトベースを襲うが、逆に反撃のミサイルを受ける。早々と旗艦に大打撃を受け、リック・ドム隊は一瞬ひるんだ。

 その瞬間にシスは絶妙の間合いに踊りこんでいた。バズーカを撃つには近すぎ、ヒートサーベルは届かない。その距離から、ノーベルガンダムの手に持つ武器から一条の閃光が走る。トルネードガンダムの支援攻撃がリック・ドムの動きを止め、ビームサーベルには不可能な奇妙な動きをするビームがとどめをさした。ビームリボンという独特の武装である。踊るような動作で死角から攻撃され、リック・ドムは次々と閃光と化していった。

「シスは絶好調だな」

「そろそろですね……」

「ああ……バーサーカーシステム、最大出力!」

 マークの号令を合図に、ホワイトベースからビームの奔流が放たれる。ノーベルガンダムを包んだ不気味な光は、その中に眠る怪物の冬眠を覚めさせるに十分なエネルギーを供給していった。趣味でやっているとしか思えない凶悪な外見の起動方法だが、それが終わったあとのノーベルガンダムの変貌ぶりはまさに覚醒した悪魔そのものであった。

「しっ、シスちゃん!本当に大丈夫なの!?」

「苦しい……けど……戦える!」

 シスはそのとき視界に入っていた不幸なリック・ドムに、瞬時に四発のビームフラフープを投げつける。あまりの速さに、ニュータイプでさえもどう投げたのか識別できなかった。避けようというアクションを起こすより早く直撃していく光のリング、爆発する黒い機体……。もはや援護さえ必要なかった。それはまさしく、かつてのシャイニングガンダムの再現だった。

(あの白いのが勝つわ……)

 ショウはとてつもない勢いでリック・ドムを撃破していくシスを見ながら、ふとそんな声を聞いていた。

「誰?カチュアちゃん……エリスさんじゃない……?」

(誰?大佐でも、あの少年でもない……)

「僕は、ショウ……」

 ショウの脳裏に響いたのは、耳鳴りとも歌声ともつかない不思議な音色だった。

(ラ…ラァ…… ラ…ラァ……)

 どこからか聞こえるその響きに心を奪われ、ショウは陶酔したように宇宙に浮いていた。かつてマーク・ギルダーが見せた奇跡と同じ光景である。サイド6の中から淡い黄色の光が押し寄せ、母の胸に抱かれるようにショウはその光に心を預けた。

「ショウ君?なにやってるの、まだ戦闘は終わってないのよ!」

 レイチェルの叱責も、ショウの耳には届かなかった。もともとレイチェルも強く言ったわけではなかった。シスが一人で敵を全滅させるのは時間の問題だったからだ。レイチェルはショウを起こす間シスを一人で戦わせるよりも、シスと二人で戦闘を早く終わらせるという解決法を選んだ。レイチェル自身にも久しぶりのサイコミュの制御に感覚を研ぎ澄ませる。サイコミュ試験用ザクの有線ハンドビーム砲、ホワイトベースからの援護射撃、そしてビームフラフープの乱打を浴び、二隻のムサイは次々と炎上する。気がつくと、ジオン軍は最初に傷ついたチベ一隻だけになっていた。

「ぜ……全滅?十二機のドムが全滅?

 3ターンもたたずにかぁ?ば……化け物なのか?」

 回復する時間さえ与えられなかった最後のチベに、四方八方からビームフラフープが迫る。さらにビームリボンが時間差を付けて襲い掛かり、ノーベルガンダム自身の凄まじい打撃が宇宙戦艦をぶち抜いて行った。それはもはや格闘ではない。「必殺技」の名が与えられるべき特攻だった。

「も……木馬一隻に、こ……こんなに……。

 シャアが見ているのだぞ……シャアが……!」

 それが、コンスコン少将の最後の言葉となった。

 

 戦いが終わり、ショウをゆりかごのように包んでいた光も消えた。我にかえって帰艦したショウの服を、疲れ切った顔のシスがぎゅっと握りしめた。

「誰と話してたの……?」

「えっ?」

「戦ってるとき……ショウの声が聞こえなくて……。

 私……怖かった……」

 迷子になった子供が母親にすがりつくように、シスはショウの服を握る手に力を込めた。だが、ショウはそのとき別のことを考えていた。

 やっぱり、誰かがいたんだ。サイド6の中から僕を抱いてくれた人が……。

「戦いも、死ぬのも怖くない……。ショウが見てくれないのが……」

 涙が溢れるのと同時に、ファイティングスーツの脚の間から金色の液体が流れていた。

「シスちゃん、だめじゃない。ほら、お風呂に入って着替えようね」

 エリスがぐずるシスを連れて行くのを浮ついた目で見送っていたショウの耳には、シスの声は聞こえていなかった。耳の奥にかすかに残る、ソロモンの亡霊の歌声を探していた。

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