闇なる鴉はかく語りき   作:とんこつラーメン

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超絶久し振りな投稿な上に、まだまだヒロアカ知識は薄いので、拙い部分が多々あるとは思いますが、そこは適当に笑ってやってください。







始まりの出会い

 神奈川県横浜市神野区。

 その日、俺は『仕事』でそこを訪れていた。

 仕事の内容は『人探し』。

 勿論、唯の『人探し』ではないが。

 

(ここに来てからもう既に二日…手掛かりは皆無に等しい…か)

 

 そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、ここまで何の進展もないと流石に溜息の一つも吐きたくなる。

 

「…少し気分転換でもするか」

 

 急がなくてはいけない事案ではあるが、かといって無駄に焦っても意味は無い。

 こんな時こそ適度な休息をとって、頭をクリアにしておく必要がある。

 というわけで、近くにあった自販機にて適当に飲み物でも買おうと思った…その時だった。

 俺が『彼女』と出会ったのは。

 

「おや、そこのお兄さん。この辺じゃ見かけない顔だな。他所から来たのか?」

「ん?」

 

 ワザとらしく俺に話しかけてきたのは、10代中頃と思わしき一人の少女。

 それだけ聞けば、別になんてことないように思えるが、その恰好が明らかに普通じゃなかった。

 

 だらしなく着崩している黒いジャケットを羽織り、革製と思われる黒いミニスカートとビキニで胸を隠し、その足にはズタボロな状態のニーソックス。

 破けた部分からは網タイツのようなものが見え隠れしている。

 首と腰と太ももには黒いベルトを巻き付け、口には煙草を咥えていた。

 赤いメッシュの入った黒いショートヘアが印象的だった。

 そして何より目立つのが、露出している肩や胸、腹などに描かれている幾つもの入れ墨。

 アルファベットのようなものから髑髏まで、色んなのが彫られている。

 どう考えても普通の奴じゃない。

 というか、雰囲気からして絶対に堅気の奴じゃない。

 

「どうした? 人の体をジロジロと見て」

「いや…何でもない」

 

 少なくとも、こんな真昼間の街のど真ん中にいていいような女じゃないことだけは確かだ。

 『夜の世界』…もしくは『裏側』の人間なのは確実だろう。

 じゃなきゃ、こんな男を誘うような恰好をしていない。

 明らかに周囲の風景から浮いていた。。

 通行人も、彼女のことをチラチラと遠目に見ながら、そそくさと通過している。

 

「それで? いきなり話しかけて何の用だ。こんな明るい内から『客引き』でもしているのか?」

「いやいやまさか。単に目立つ格好をしていたから気になって話しかけてみただけさ」

「……そうか」

 

 ここまで露骨だと、別の意味で怪しくなってくる。

 それこそ、現在進行形で俺が関わっていることに関係しているでも言わんばかりに。

 

 ヒーローとしては二の句も告げずに補導とかするべきなんだろうが、残念ながら今は急ぎの別件の真っ最中。

 取り敢えず、後で神野区担当のヒーローにでも連絡をしておこうかと考えていると、彼女の口から予想外の言葉が放たれた。

 

「誰か人探しでもしているのかい? 抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』さん」

「お前…俺のヒーローネームを…」

 

 矢張り、俺のことを知ったうえで声をかけてきたのか…。

 ならばもう、やることは一つだけだ。

 財布を出す振りをしながら、密かに捕縛布を繰り出せるように手を動かす。

 

 だが、彼女はまたもやこっちの予想外の行動をとった。

 

「こっちに来な」

「何?」

「ここじゃ人目に付きすぎる。アンタだって目立つのは本意じゃないだろう?」

 

 そう言って、彼女は真っ暗な路地裏へと向かって歩き出す。

 怪しいと分かってはいたが、それでも現状では彼女についていく以外の選択肢はない。 

 その背中が見えなくなる前に、俺も早歩きでその後を追うことにした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 狭くて暗い路地裏を進みながら、俺は前を歩く彼女へと素直な疑問を投げかけた。

 

「どうして俺のヒーローネームを知っていた?」

「そっちは知らないかもだけど、アングラで活動しているアンタは『こっち側』じゃ割と有名人なんだよ。『向こう側』じゃ余り知られてないみたいだけど」

 

 知らなかった。

 マスコミとの接触を可能な限り回避するためにアングラの道へ進むことを決めたが、まさかこんな弊害があったとは。

 今度はもっと気を付けなくてはいけないな。

 

「この『神野』って場所は、日本でも数少ない『表』と『裏』がハッキリと区切られている場所なんだ。他の場所はカフェオレみたいに混ざり合っているけど、ここは完全に分かれちまってる。だから、一度でも『こんな場所』に入り込むと、簡単に『こっち側』へと来ることになっちまう」

「…成程な」

 

 道理で、ここはさっきまでいた場所とは雰囲気が全く違うわけだ。

 ここも立派な街中だってのに、まるで下水溝にも入り込んだような空気になっている。

 

「因みに、さっきまでアンタがいた場所を『表神野』、いま私たちがいる場所を『裏神野』って呼んでる。あくまで俗称だけどな」

「表と裏…か」

 

 この現代日本に、まだこんな場所があったとはな…。

 いや…違うな。

 俺が知らないだけで、似たような場所は世界中に溢れかえっているんだろう。

 『個性』の発現によって発生した『超人社会』になった今は特に。

 

「…なんで、そんなことを俺に話す? そもそも、お前は一体何者だ」

「話す理由は、単純に何も知らないままウロウロされても迷惑なだけだから。たとえ現役のヒーローだとしても、ここじゃそんな肩書には一円の価値もない。誰もビビりやしない。寧ろ、相手の逆鱗に触れるだけだ。ここは、色んな理由で表側じゃ生きられなくなった連中が最後に行き着く、日本の『ごみ溜め』みたいな場所だから。勿論、ヒーローが原因でここに来ざる負えなかった奴らも山ほどいる。そんな連中に見つかったら最後、確実に明日にはアンタの死体がそこらのゴミ捨て場に放置されてただろうよ」

「俺は、そんな軟な鍛え方をしていない」

 

 例え襲われたとしても、大半の連中は返り討ちに出来るぐらいの実力は兼ね備えているつもりだ。

 相手がどんな個性を持っていたとしても…な。

 

「実力云々の話じゃない。あんたは人が持つ『恨み』の力ってのを甘く見てる。あーゆーのは長続きこそしないが、その爆発力は決して侮れない。油断すると呆気なく死ぬぞ」

「…肝に銘じておくよ」

 

 恨みの力は侮れない…か。

 確かにそうかもしれないな。

 一時期は俺も『恨み』に囚われそうになってた。

 そう…『アイツ』が死んだ時に…。

 

「こんな辛気臭い場所に住んでてもさ、私たちは争いは好まないんだ。できる限り静かに暮らしたい。表側からの余計なトラブルは御免被るんだよ」

「道理だな。誰だって、そんなのは嫌だろう」

「御理解頂けて何より」

 

 背中越しに肩を竦めて微笑を浮かべる彼女。

 そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。

 

「…名前」

「ん?」

「お前の名前はなんだ。こっちだけ名前が知られているのは不公平だろう」

「…それもそうか」

 

 急に立ち止まり、少しだけ考えたのちに静かにポツリと呟いた。

 

「クロウ。周りからはそう呼ばれてる。勿論、本名じゃない」

「本名は?」

「言わない。私もそっちの本名は教えて貰ってない。だから、言わない」

「…そうか」

 

 別にここで無理して本名を聞き出す必要はない。

 呼び名さえ分かっていれば、それだけで会話はし易くなる。

 

「ところでクロウ。俺を今からどこに連れて行く気だ? まさか、こんな話をするためだけにこんな場所に来たじゃないんだろう?」

「まぁな。アンタ…イレイザーが神野に来た理由なら、大体の見当がついてる。大方、ついこの間、ここに逃げてきたっていうヴィランを捕まえに来たんだろ?」

「…その通りだ。居場所を知っているのか?」

「居場所は知らない。けど、知っているかもしれない人物になら心当たりがある。今からそこに連れていく。そんで、それで解決したら、とっとと神野から出て行ってくれ。お互いの為にもな」

「言われなくても、最初からそのつもりだ。俺にだって他にやるべきことが沢山ある」

「それは重畳。それじゃあ、行くとするか」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 クロウに連れてこられたのは、一見すると店のような建物。

 いや…ここは本当に店なんだろうか?

 周囲の空気のせいなのか、あまりにも暗すぎる…色んな意味で。

 

「ここは?」

「ゴミ処理屋。文字通り、色んな『ゴミ』を『処理』してくれる店だ」

「…そういうことか」

 

 つまり、俺の追ってきたヴィランはもう死んでいる可能性があるってことか。

 それはそれで、なんとも後味の悪い結末だが。

 

「本当に…ここが日本なのか疑わしくなってくるような場所だな」

「そりゃそうだろうさ。なんせ、ここは日本で唯一、あらゆる法も秩序も存在しない場所だからな。表向きは、ここにいる住人の殆どが戸籍上は死亡扱いになっていたり、行方不明扱いになってるような奴ばかりだ。ここじゃ何が起きても行政は一切関わらない。警察もヒーローも見て見ぬふり。あの『公安』ですら、ここのことは完全放置状態になってるぐらいだしな」

「公安が…?」

「あぁ。下手に干渉して火種を撒き散らすぐらいだったら、裏の住人同士で潰し合ってくれたほうが色々と楽なんだろうさ。知らんけど」

「あいつらの考えそうなことだな…」

 

 俺も公安の連中は余り気に食わない。

 奴らは目的の為なら手段を問わないところがあるからな。

 

 ここに来る途中、今の日本じゃ考えられないような光景を幾つも見た。

 住人は普通に殴り合いの喧嘩をして、誰もそれを止めようとしない。

 それどころか、その喧嘩で賭けをしている始末。

 かと思ったら、露出の多い格好で男を誘ってくる女たち。

 壁や道には普通に血痕が付いているし、更なる路地裏には人骨のような物まで見えた。

 うちの生徒達には絶対に見せられないな…。

 

「お前も…そうなのか?」

「何が?」

「表向きは死亡扱いになっているのかと聞いている」

「さぁな。なんせ、私には過去の記憶がない」

「なんだと…?」

 

 おい…割とシャレにならないことをサラッと言いやがったぞ…。

 

「気が付いた時にはここにいて、そのままここで暮らしてる。ただ、それだけだ」

「…辛くはないのか」

「別に。自分の過去になんて興味はないし、そんなことを考えている暇があったら、今日の飯のことでも考えていたほうがマシだ」

 

 割り切っているのか、それとも本当に興味がないのか…。

 いや、俺が考えても仕方がないことか。

 

「なんか長々と話してしまったな。早く入るか」

「あぁ…」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 店の中はシンプルで、カウンターとレジがあるだけの簡素なものだった。

 その代わり、昼間であるにも関わらず明かり無しには何も見えないほどに薄暗くなっているが。

 

「おやっさーん。いるかー」

 

 クロウが店の奥に声をかけると、中から見事な髭を生やした、禿げ頭で腹の出ている親父がやってきた。

 見た目は普通の人間だが…雰囲気が違うな。

 腕周りには相当な筋肉がついているし…只者じゃない。

 

「おう! クロウじゃねぇか! こんな時間にどうした? またぞろどっかで誰かが馬鹿でもやったか?」

「残念ながら違うよ。用事があるのはこっち」

「ん? お前さん…」

 

 値踏みでもされるかのような視線…さすがに誤魔化せんか?

 

「成程な。そういうことか。クロウに連れられて表の奴が来たってことは、碌な案件じゃねぇな」

「用事が終われば、さっさと出ていくってよ」

「どうだかな。まぁいい…で、何が聞きたいんだ?」

「この男を知らないか? 数日前に神野に来たという情報を聞いたんだが」

「ん? こいつは…」

 

 俺は懐から、追っているヴィランの手配書を店主に見せる。

 すると、なにやら知っているような反応を見せた。

 

「…お前さんは、こいつを捕まえに来たのか?」

「そうだ。何か知っていることがあるなら教えてほしい」

「…残念だが、こいつを捕まえることは出来ねぇよ」

「ということは、矢張り…」

「あぁ…とっくに死んでる。というか、俺が死体を処理した。つい昨日のことだ」

「昨日か…」

 

 俺が表側でもたもたしている間に、裏側で野垂れ死んだってことなのか…。

 クロウに話を聞いた時点で何となくの予想はしていたが…やりきれんな…。

 

「どうやら奴さん、裏神野のことは何も知らなかったようでな。なんでも、ヒーローどもの目から逃れるために裏に来たら、あっと言う間にリンチされてあの世行き…ってな」

「そう簡単に殺されるもんなのか? こう言ってはなんだが、奴もそこそこの実力を持つヴィランだった筈だが…」

「ここには元ヒーロー崩れや余裕で死刑判決食らってもおかしくないような連中がゴロゴロといるからな。表側で粋がってるヴィランなんぞ、ここじゃ子供も同然よ」

 

 元ヒーローまでいるのかよ…。

 話を聞けば聞くほど、衝撃の事実が明らかになってくるんだが。

 

「で、どうする? お前さんの探し人はもうどこにもいないぞ?」

「はぁ…どうするも何もないだろう。いくらヒーローでも死人は捕まえられん。このまま帰るよ」

「賢明だ」

 

 今回は完全に俺のミスだな…。

 さて…どう報告したもんか…。

 

「分かってるとは思うが、ここのことは…」

「言わないよ。俺だってまだ自分の命は惜しい」

「結構だ。今度はちゃんと客として来てくれよな。別に死体だけじゃなくて、粗大ごみの類も格安で処理してやるからよ」

「…その時が来たらお願いするよ」

 

 こうして、俺は何とも言えない気持ちのまま店を後にした。

 これからのことに頭を抱えながら。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 店を出てから、再びクロウに道案内されて、元居た場所に戻ってきた。

 この街の風景も、さっきの場所を知った今では違って見えるな。

 

「それじゃあ、これでお別れだな」

「あぁ。短い間だったが世話になった」

 

 一緒にいた時間は数時間程度だが、不思議と記憶に残る女だった。

 もう会うことはないだろうが、それでも今回のことは俺の脳内に深く刻み込まれることになるだろう。

 それ程までに濃密な数時間だった。

 

「なぁ…クロウ。最後に一つだけいいか」

「なんだ?」

「お前は…ヴィランなのか?」

「…さぁな。私自身はそんなつもりはないが、世間一般がそうだと言えば、そうなるんだろうな」

「世間一般が…か」

 

 歯痒いもんだ…。

 どれだけ本人が無実を訴えても、民意の力によって簡単に真実が捻じ曲げられてしまう。

 ある意味、ヒーローをやっていて最も虚しくなる瞬間だ。

 これもまた、現代社会の闇だな…。

 

「んじゃ…さよなら」

 

 それだけを言って、クロウは再び闇の中へと消えていった。

 その背中を最後まで見届けたのち、俺も駅に向かって歩き出した。

 

 しかし、この時の俺はまだ知らなかった。

 まさか、意外過ぎる形で俺とクロウが再び出会うことになろうとは。

 想像すら…していなかった。

 

 

 

 




相澤先生視点ではありましたが、今作の主役はクロウです。

性格がなんか変なのは中身が違うから。

だから『オリ主』タグが付いているわけでして。

恋愛云々には…流石になりません。

だってクロウですから。
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