一回戦が終了したタイミングで、被身子に支給されたジャミング対策済みの特製通信機に連絡が来た。
「もしもし?」
『あ、被身子ちゃん?』
「Mt.レディさん。どうしたんですか?」
優から?
何かあったか?
『丁度いい時間だから、二人は一度休憩して頂戴。今そっちに交代要員のヒーローを向かわせたから』
「分かりました。クロウちゃんにも伝えます」
『お願いね。私も休憩中だから、後で詰所で会いましょ』
「はーい」
もう休憩か…。
そんなに時間は経ってない…と思ってたけど、スタジアムにある巨大なメインモニターの端の方に表示されている時刻が、もう既に競技が開始してから一時間以上経過していたことを示していた。
障害物競走なんて、すぐに終わると思ってたけど…あんなロボットやら、崖にかかったロープやら、地雷原やらと言った濃密な競争だった上に、走っている人数が尋常じゃない。
なんせ、一年生全員が一斉に走っていたんだ。
渋滞現象が起きて、一部グダグダになって無駄に時間を使ってしまうのは当然か。
「クロウちゃん。今、Mt.レディさんから連絡が来て…」
「休憩に入れってんだろ。聞こえてたよ」
「流石は地獄耳…」
「一言余計だっつーの」
別に私は地獄耳の個性なんて習得してねーよ。
単純に耳がいいだけだ。
「なんて言ってたら来たし」
「おーい!」
こっちに手を挙げながらやって来た交代要員のヒーロー。
流石に目立ったのか、周囲から軽く注目されていた。
「お待たせ。ここからは俺が引き継ぐよ。二人はゆっくりと休憩してくれ」
「分かった。ここは任せるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
ふぅ…気を張ってたせいか、休憩できるって分かった途端に疲れがドッと出た。
喉も乾いたな…どこかに自販機あるかな。
その場を去りながら、首をコキコキと鳴らしながらスタジアムの通路を歩いていく。
「気のせいでしょうか…今年の体育祭、いつにも増して気合が入ってるような気がするんですけど…」
「実際に気合が入ってるんだろ。今回の体育祭は単純に生徒達の成果やら、今の実力やらを内外に見せつけるだけが目的じゃないからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。この間の敵連合の襲撃…アレによって雄英のセキュリティ問題や、ヒーロー達の実力が問題視された。もし襲撃が原因で体育祭が中止になれば、その時点で雄英はヴィランに屈したことになっちまう。だから、多少のリスクは承知の上で、雄英側は敢えて体育祭を開始したんだ。『雄英はヴィランに屈していない』『雄英の警備体制は未だに盤石である』と世間に見せつけるためにな」
「ほぇ~…」
…被身子の顔がFXで有り金溶かした奴の顔になってる。
これ…絶対に理解してないな。
「…要するに、ヴィランに舐められないように体育祭をやってるんだよ」
「成る程!」
ここまで簡略化して、やっと理解してくれたか…。
被身子ってあれだよな。
計算じゃなくて、直感で動くタイプだよな。
(なーんて…その襲撃犯の一人である私が言っても説得力皆無だけどな)
いつの間にか、世間的な意味では私は完全にヒーロー側に属してるし…。
これから私…どうなるんだ?
『予選通過者は上位42名!!! 残念ながら予選落ちしちゃった子達も安心なさい! まだまだ見せ場はちゃんと残されてるわ!!』
あれだけいて、二回戦に進めるのはたったの42人だけかよ…。
雄英の受験倍率よりも厳しいじゃねぇか。
『そして! 次からいよいよ本選よ!! ここからは取材陣も白熱してくるから、気張っていきなさい!!!』
取材陣って…一瞬で世知辛くなってるし。
「取材陣とかって体育祭で言っちゃっていいんでしょうか…?」
「いいんじゃ…ないか? 一応、発言してるのはここの教師だし…」
「最近の教師ってフリーダムなんですね…」
「フリーダムなのは、ここの教師だけだ。そういう校風らしいぞ」
「校風がフリーダムって…」
そりゃ被身子も呆れて、どんな顔をしたらいいのか分からなくなるわ。
こいつが昔通ってた学校なんて、校則でガッチガチだった上に、世間体と上辺だけの常識に縛られた糞共しかいなかったしな。
あ、あそこに自販機発見伝。
いいのがあればいいなー。
「ついでだ。奢ってやるよ。何がいい?」
「いいんですか? それじゃあ…」
被身子が飲み物を選んでいると、スタジアムの巨大モニターの映像が回転する。
無駄にドゥルルルルーとか言ってるし。
『さーて!! 第二種目の発表よ!! 私はもう知ってるけど~…』
分かってても言うなよ…。
『何かしら!!? 何が来るのかしら!!? な~んて言ってる傍から~…』
お…モニターの映像が止まる。
『コレよ!!!!』
「これにします!」
…ミッドナイトと被身子の声が思い切り被ったし…。
すげータイミング…。
「どうかしました?」
「いや…なんでもない。で、どれだ?」
「このアイスミルクティーにします」
「分かった。んじゃ、私はー…」
被身子に小銭を渡しながら、自分が飲む分を決めようとしつつ、横目でさっきの結果を見てみることに。
モニターには、典型的なゴシック体で『騎馬戦』と表示されていた。
(騎馬戦…これまた体育祭では普通の競技…だが…)
これは競技中の個性の使用を良しとする雄英体育祭。
色々な特殊ルールを設けた上での
「…これにするか」
「烏龍茶…」
「困った時、喉が渇いた時はこれが正義」
「クロウちゃんって、パンクな格好をしてる割には和風な趣味がありますよね~」
「そりゃ日本人だしな」
「いや…そうじゃなくて…」
ん? どういう意味よ?
時々、被身子は意味不明なことを言うなぁ…。
因みに、スタジアム内では騎馬戦のルール説明をしてるっぽい。
なんか、一位の奴は1000万ポイントとか、ツッコミどころ満載な言葉が聞こえた気がしたんだが…深く考えない方がいいな…うん。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
詰所に戻ると、もう既に優とシンリンカムイ、他にも色んなヒーロー達が休憩をしていた。
「おっす」
「あ、クロウちゃんに被身子ちゃん!」
「お疲れ様でーす」
あ…タバコ吸ってる奴がいる。
そういや、この詰所も警備員限定で喫煙OKになってたっけ。
んじゃ、私も遠慮なく吸わせて貰おーっと。
「ぷは~…生き返るわ~…」
「そういや、クロウちゃんもバリバリの喫煙者だったっけ…」
「そうだけど…あれ? 優って煙草苦手だったっけ?」
「ちょっとね。でも、クロウちゃんの煙なら大歓迎。寧ろ、どんどん頂戴。クロウちゃんの煙で副流煙になりたい」
「おい…ここにヒーロー云々以前の問題発言をしてる奴がいるぞ」
今度から、優の近くでタバコを吸うのはやめよう…。
今はもう火を付けてしまっているから吸うけど。
「ん? 皆も二回戦の騎馬戦を見てんのか?」
「まぁな。それで色々と話してた」
モニターの中では、生徒たちが話をしながらチームを組んでいた。
あら…さっきの緑谷くんが完全に孤立しちゃってるし。
もしかして、さっきの1000万ポイントって…彼の事だった?
「そうだ。いい機会だし、クロウの意見も聞いてみたいな」
「私の? 何の?」
「この雄英体育祭についてだ。どう思う?」
「どう思うって…」
また唐突だな…うーん…。
「あれだろ? 生徒たちの実力を見せつけるー…ってよりは、卒業後の事を考えての実戦形式の訓練に近いんじゃねーの?」
「ほぉ?」
なんかシンリンカムイが食いついてきたんだが…。
心なしか、周囲のヒーローたちの視線もこっちに向いてる気がする。
んで、いつの間にか被身子もしれっと聞く側に回りながらミルクティーを飲んでやがるし。
「一部のヒーローを除き、殆どの連中が確実に一回は経験する状況を想定して競技を選んでるような気がするんだよな…私は」
「と言うと?」
「一回戦の障害物競走は『どんな状況下でも絶対に目的地に辿り着く』のを想定してる。それと同時に、世間に出てヒーローとして活躍していく為には、時には見知った相手であっても無情にも蹴落としていかないといけない時がある…ってのを身を以て教えてるんだと思う」
「「「「おぉ~…」」」」
自分の意見を言っただけなのに、なぜか周囲から拍手をされた件。
「成る程な…我々も『世間に出てからの云々』と言うのは共通していたが…そうか。確かに、どんな状況下においても、まずは目的の場所に辿り着くのが最優先か。そうしなくては人命救助も敵退治も何も出来ない。目の前にどんな障害があろうとも、助けを求めている人々がいる限りは止まることを許されない…それがヒーローだからな」
シンリンカムイが締めてくれた。
こーゆー所は素直に尊敬できるよ。
「んで、今から始まる二回戦の騎馬戦は『即席での連携力』を試されてんだろ。一度でもプロの世界に身を投じれば、常に自分と相性がいい、自分が見知った相手と一緒にチームが組めるとは限らない。時には、その場に偶然居合わせた相手と一緒に動かないといけない場合だって確実にある。というか、そんな場面が大半だ。個性や性格の相性がどんなに悪くても、目的達成の為なら我慢して組まないといけない。その中でどんな活躍をし、どんな形でチームの勝利に貢献できるか…それを見てるんだろうな」
自分の活躍がチームの勝利に直結し、逆に自分の失敗がチームの敗北に直結する。
この限られた状況下で、自分の個性や実力を活かせる相手を見つけられるか…その眼力も試されている…気がする。
「流石はクロウだな。伊達に何でも屋をやってはいない…か」
「雑用的な仕事ならばいざ知らず、ヒーローや警察が絡んだ瞬間、クロウちゃんはその場に居合わせた相手と即席でチームを組まないといけませんからね」
「そして、クロウの個性は非常に汎用性が高い。その気になれば、誰とでも最低限以上の連携が出来てしまうという強みがある」
「ある意味、俺たち以上に厳しい業界に身を投じているだけあって、説得力が半端じゃないぜ…」
何でも屋ってのは、文字通り『なんでも』やる仕事。
だから、基本的に私たちは初対面の人間ばかりを相手にしている。
嫌でも、即席での連携ってのが得意になってくるもんだ。
それは私と一緒にいる被身子も同様で、最初こそは動きがおぼつかなかったが、今となっては『変身』の個性を使って器用に立ち回れるようになった。
二人揃って汎用性の塊みたいな個性だからか、ヒーロー達からの依頼も割と多かったりする。
その忙しさと引き換えに、私たちの生活は潤ってるんだけど。
「卒業してプロになれば、誰もが嫌でも経験することになる業界内の『生存術』ってのを、今の段階からガキ共にやらせてるんだから…恐ろしい所だよ…雄英って学校は…」
ホント…マジであの時、ネズミ校長の誘いを受けなくて良かったと心から思ってるわ…。
仕事としてなら幾らでも割り切れるけど、こうして大衆の面前で誰かにやらされる形で実践訓練をするのは…普通に無理。
私…そーゆーのにマジになれるキャラじゃないし。
それを考えるとさ…普通に尊敬できるわ…雄英にいる全ての人間を。