闇なる鴉はかく語りき   作:とんこつラーメン

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おっさん二人で何をやってるねん

 休憩がてら、皆で詰所のモニターで一年生の部の第二種目の騎馬戦。

 これまた、とんでもなく白熱&激戦を繰り広げていて、見ているだけでも痛くなってくる。

 

「うっひゃ~…テレビ越しとモニター越しでは、こんなにも迫力が違うんですね~…」

「テレビに映ってるのはテレビ局の連中が注目選手にばかりフォーカスした映像が放送されてるけど、こっちのは同じリアルタイムでも雄英側が用意したカメラで撮影されてるから、そういった贔屓が一切無い映像だしな。スカウト目的のヒーロー達にもよく見えるように、可能な限り全員が最低一度は映し出されるようになっている」

「成る程…だからテレビよりも迫力が凄いんですねー…」

 

 私の説明に満足したのか、被身子は再びモニターに目を向ける。

 もう完全に、この場にいる連中は会話をすることすらも忘れてモニターの中で繰り広げられている騎馬戦に夢中だ。

 警備が始まる前にシンリンカムイが言っていたが、皆だって本当は将来有望なヒーローの卵を一人でも多く発掘する為に、試合を見て可能性を感じた生徒をピックアップしておきたい。

 けど、だからと言って任された仕事を適当にするのは、ヒーローとして以前に大人として駄目なことなので、こうして休憩時間を利用して少しでも情報収集しようと躍起になっている。

 

 ま、何でも屋枠で来ている私たちには関係ないことだけどな。

 

「もうすぐ終わるな…」

 

 誰かがそう呟いた途端、プレゼント・マイクのカウントダウンが始まった。

 

『10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! 0! タイムアップ!!!』

 

 最後の最後まで少しでも抗おうと全員が必死に動き続けた。

 その結果、意外な順位変動があったようだ。

 

『早速、上位4チームを見ていきますか!! まずは1位…轟チーム!!』

 

 あいつのチームが一位…か。

 私はこの結果にどう反応すればいいんだ?

 

『そして第2位は爆豪チーム!!』

 

 あの爆発くんのチームか。

 あんな状況でよくここまで上り詰めたな。

 まさに人の執念ってやつか。

 

『第3位は鉄t…って、あれぇっ!? し…心操チームゥッ!? 一体いつの間に順位が逆転してたんだよオイッ!?』

「あの子…普通科の子じゃなかったっけ? 凄いわね…」

「どの時代にも一人ぐらいはいるもんだ。隠れた逸材って奴がな」

 

 普通科で3位か…やるじゃねぇか。

 一体何が、あの心操ってやつを突き動かしてんのかね。

 

『最後の第4位は…緑谷チーム!! どうやら、しれっと轟チームからポイントをもぎ取ってたみたいだな!!』

 

 ほぉ…6位から一気に4位になったか。

 これまた見事な逆転劇じゃないか。

 

「これで、決勝進出のメンバーが決まったわけか」

「ある意味、ここからが本番ですけどね」

 

 例年通りなら、決勝戦は文字通りのタイマンバトル。

 ここからはストレートに互いの実力がハッキリとなる。

 今までのような小細工による誤魔化しは通用しない。

 

『今から一時間ほどの昼休憩を挟んでから午後の部が開催だぜ! それじゃあ、また午後に会おうぜ! オイ、イレイザー! 昼飯行こうぜ!』

『だが断る。俺は寝る』

 

 おーい…最後のが聞こえてるぞー。

 それでいいのか実況者ー。

 

「昼休憩…ね。じゃあ、私たちも今から交代でお昼ってことになりますかね?」

「そうだな。まずは、ここにいるメンバーで昼を食べよう。クロウ達もそれでいいか?」

「あぁ。私たちは構わないよ。な、被身子」

「はい。屋台が沢山あるから、何を食べようか迷いますけどねー」

 

 この雄英体育祭は屋台の連中も滅多に無い稼ぎ時だからな。

 どいつもこいつも気合入りまくってやがる。

 

「けど、その前に少し『3番』行ってくるわ。ちょっと待っててくれ」

「分かりましたー」

 

 ちょっと茶を飲みすぎたかもしれん。

 とっとと済ませてこよう。

 

「三番?」

「バイト用語ですよ。意味はー…『お花摘みに行く』…って言えば分かります?」

「あぁ…そう言うことか」

「そう言うことです。クロウちゃん、ああ見えて意外と乙女なんですよ。ねー? 被身子ちゃん?」

「そうですねー。おうちだと、ちゃんと肌パックしたり、きちんとパジャマを着て寝てたりしますし」

「パジャマ姿のクロウちゃん…その写真とかあるッ!?」

「ありますよー」

 

 おいこらそこ。

 しれっと私のプライベートを暴露すんな。

 後で被身子には説教だな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ふぅ~…スッキリした。

 流石に腹も減ってきたし、とっとと詰所に戻って…ん?

 

「つれないこと言うなよー!!」

「ぐっ…!」

 

 …なんだ? この超むさ苦しい光景は…。

 階段の踊り場でオッサンが二人並んでる。

 心なしか、ここだけ気温が上がっている気がする。

 いや…実際に上がってるんだろうな。

 オールマイトはともかく、もう片方のおっさんは物理的な意味で燃えてるから。

 

(あれが…そうなのか…)

 

 写真やテレビでは何度も見たことはあるが、こうして直に見たのは『私』は初めてだな。

 変に絡まれると面倒そうだし、ここは気配を消してそーっと…。

 

「おや! そこにいるのは…もしかしなくてもクロウ君かい!?」

「げ…バレたし」

 

 流石はオールマイト…誤魔化せなかったか。無念。

 

「相澤君から聞いてはいたけど、本当に来てくれていたんだね!」

「お…おう…まぁな…」

 

 相変わらず、グイグイ来るな~…。

 私、こいつのこーゆーとこ苦手ー…。

 

「君が来てくれたのなら、この雄英体育祭も安心だね!」

 

 どうしてそう思えるのかね…。

 個性の汎用性が高いってだけで、別に私は完璧超人じゃないっつーの。

 

「クロウ…?」

「そうさ! 君も聞いてるだろ? USJ襲撃事件の際、私と共に不気味な謎のヴィランと戦ってくれた女の子さ!」

「そうか…こいつが…」

 

 なんかジロジロと見られてるんだけど…。

 私じゃなかったら確実にセクハラ案件だぞ。

 あと、私の事を女の子って言うな。

 

「非常に汎用性の高い個性を持っていてね、実際問題、彼女がいてくれたお陰で被害を最小限に出来たと言っても過言じゃないんだぜ!?」

「結果論だけどな」

「例え、そうだとしても、君のお陰ってことには違いないんだ。もっと誇ってくれていいと思うよ!」

「…そっか」

 

 誇ってもいい…ね。

 そんなの…今まで一度も考えたことが無かったな。

 

「こいつはヒーローなのか?」

「残念だが違うんだ。彼女は俗に言う『何でも屋』ってやつでね。今回も、彼女は何でも屋としての仕事で雄英からの依頼で警備をしてくれているんだ」

「何でも屋…そんな連中まで連れて来ているのか」

「雄英側も、四の五の言ってる場合じゃないって判断したんだろ。知らんけど」

 

 実際には別の思惑があるような気がするけど、それはそれ。

 ちゃんと言われた仕事はキチンとこなすさ。

 私だって立派な大人だしな。

 

「ああ…そうだ。クロウ君。彼は…」

「知ってるよ。エンデヴァーだろ? ビルボード・チャート2位の」

「知ってるのか」

「そりゃな。有名人だし」

 

 私にとっては、また別の意味も含まれてるけどな。

 

「…………」

「な…なんだよ…」

「エンデヴァー…?」

 

 また私の事をジロジロと見やがって…。

 言いたいことが有るならハッキリと言えっつーの。

 

「クロウ…と言ったか」

「あぁ…」

「お前…」

 

 なんか冷や汗出てきた…。

 マジで早く、この場から去りたい…。

 

「前に俺と何処かで会ったことがないか?」

「「は?」」

 

 い…いきなり何を言い出すんだ、この親父は…。

 いや…どう答えるべきなんだ…?

 ぶっちゃけ、『私』個人としては、マジで会うのは初めてなんだよな。

 だから、ここは…。

 

「…気のせいじゃないか? 私みたいな殆ど裏家業に属している人間と、アンタみたいな有名人に接点なんてあるわけがないだろ」

「でも、クロウ君。何でも屋の仕事として、よく色んなヒーローたちの活動を手伝ってるんじゃなかったっけ?」

「なに?」

 

 おいこらオールマイト!

 なんで、ここでそれを言うんだよ!

 話がややこしくなっちまうだろうが!!

 

「だとしても、アンタに会ったことはマジで一度もない。今日が初対面だよ」

「そうか…」

 

 観念してくれたか…?

 んじゃ、私はこの辺で…。

 

「お前の個性はなんだ? 教えろ」

「え?」

 

 また唐突に聞きやがるな、こいつは!

 会話のキャッチボールってのを知らないのか!

 オールマイトでも、もっとちゃんと会話するぞ!

 

「なんだろう…誰かに馬鹿にされた気がする…」

 

 それは気のせいだから気にするな。

 

「…ラーニング」

「ラーニング?」

「相手の個性を覚える個性…って言えば分かるか?」

「相手の個性を…覚える…だと…!?」

 

 うを…すっごい驚いて目を見開いてる…!

 それに伴って、エンデヴァーを覆っている炎が強くなってる気がする。

 

「成る程な…確かに、汎用性が非常に高いな…」

「だろう? 彼女の戦略には限界がない。覚えた個性を上手に組み合わせて無限の戦術を生み出せるんだ」

「それ程の逸材が、まだ世の中に埋もれていたのか…」

 

 逸材って…そんな大袈裟なことかね?

 被身子の『変身』だって汎用性の塊だぞ?

 場合によっちゃ、私よりも遥かに大活躍出来る可能性を秘めてやがる。

 

「…依頼を出せば、誰の仕事も引き受けてくれるのか?」

「犯罪関係以外はな。実際、警察からの依頼も引き受けてる」

「警察からもか…」

 

 お陰で、かなりのパイプを作り出すことに成功した。

 これが何でも屋の最大のメリットだな。

 顔の広さだけなら『先生』にだって負けてないんじゃないか?

 

「なぁ…マジでそろそろ行っていいか? 人を待たせてるんだけど…」

「おっと! そうだったのか! 引き留めて済まなかったね!」

「いや…別にいいよ」

 

 もう諦めた…色んな意味で。

 

「可能であれば、また会って色々と話がしたいな」

「機会があったらな。お仕事の依頼は『鴉の何でも屋』にお願いしまーす」

「うん。そうだね。もしかしたら、私からも何か依頼をするかもしれないね。その時は、またよろしく頼むよ」

「天下のナンバー1ヒーローがお得意様になったら、私達も安泰だな」

 

 一気に表にも裏にも名が知れ渡る。

 滅茶苦茶忙しくなるかもなー。

 

「んじゃ、そーゆーことで…」

「待て。最後に一つだけ聞かせてほしい」

「なんだよ?」

「…歳は幾つだ」

 

 え? 女性に年齢の話題を振る?

 この親父にはデリカシーっつーのが…ないか。

 もしあったら、今みたいなこと(・・・・・・・)になってないだろうし。

 

「21歳だよ。これで満足か?」

「…そうか。引き留めて悪かったな」

「気にしてねぇよ。そんじゃ」

 

 あの見た目で、ちゃんと謝れるんかい。

 その素直さをもっと…いや、『私』が言っても意味ないか。

 それよりも、とっとと詰所に戻って被身子と一緒に飯を食いに行こう。

 昼からまた忙しくなりそうだし。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 クロウが去っていった方をジッと見つめたまま立ち止まるエンデヴァー。

 先程までオールマイトに敵意を剝き出しにしていたとは思えない程に静かな目をしていた。

 

「21…か。もし『アイツ』がいれば…丁度それぐらいになるのか…」

「エンデヴァー…?」

 

 何かに黄昏ているかのようにポツリと呟く。

 オールマイトも見たことがない表情に、流石に動揺している。

 

「あれからもう10年になるのか…時が過ぎるの早いな…」

「え…えっと…?」

 

 そのまま、静かにトイレへと向かっていったエンデヴァー。

 この場に残されたオールマイトは、何が何やらサッパリ分からないまま首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

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