なんとか、オールマイト&エンデヴァーと言うヒーロー界有数のおっさんコンビから逃げられた私は、急いで詰所まで戻って来た。
そこでまた、意外過ぎる見知った顔が私を出迎えた。
「戻って来たか」
「相澤さん?」
ついさっきマイク越しに『寝る』と豪語していた相澤さんがそこにいた。
これまたどうして…?
「あ…クロウちゃん。おかえりなさいです」
「ん…ただいま。で、これはどーゆー状況?」
事情を説明して欲しくて周囲を見渡すと、優が代表して教えてくれた。
しれっと、いつの間にかまた、たこ焼きを買ってやがる…。
「イレイザーが来たのはついさっきよ。なんでも、クロウちゃんに用があるんですって」
「私に?」
思い当たる節があるような、無いような…?
またぞろ敵連合関連か?
「こんな時間に悪いな。だが、今じゃないとクロウと話す時間もなさそうなんでな」
「それはいいけど…昼飯…」
「心配するな。俺が奢るよ」
「じゃあ、遠慮なくゴチになります」
アングラとはいえ、相澤さんも立派なプロヒーロー。
私よりは確実に稼いでるだろうし、奢って貰うことに罪悪感はない。
「被身子ちゃんの事なら私たちに任せて。気兼ねなく行って来て」
「お仕事の事なら仕方ありませんもんね。私の事は気にしないでください。その代わり…」
「分かってる。この埋め合わせはちゃんとするよ」
こうでもしないと、被身子はすーぐに拗ねちまうからな。
でも、そんなところもコイツの可愛い部分だったりして。
「そんなわけだから、クロウを借りていく。ちゃんと午後の競技までには返すから安心してくれ」
「私はレンタルDVDかっつーの」
ちゃんと返却期限は守れよー。
じゃないと、延滞料金取るからなー。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
屋台が立ち並んでいる並んで歩きながら、私たちはぽつぽつと話していた。
「随分と遅かったが、何があった?」
「別に何も。ただ、帰る途中でむさ苦しいオッサン二人組に捕まっただけだよ」
「オッサン二人組?」
「ナンバー1とナンバー2…って言えば分かるか?」
「あの二人か…はぁ…」
流石はイレイザーヘッド。
名前を言わなくても分かってくれたか。
「すまんな。あの人には後で俺から言っておく」
「気にしないでいいよ。寧ろ、私に積極的に絡んできたのはナンバー2の方だから」
「エンデヴァーが…お前に…?」
「あぁ。どうやら知り合いと顔が似てるっぽかったみたいでね。個性の事や年齢の事とかを聞かれたよ」
「…そうか」
あの様子からして、私の『正体』には気が付いてないみたいだな。
まぁ…無理もないか。
あれからもう10年以上経ってるし、露出多めのパンクな格好している上に、入れ墨まで彫ってるんだからな。
普通に考えて別人だと思って当然だ。
「…で? あそこまで堂々と私を連れだして…一体何を話すつもりだ?」
「そうだな。そろそろ話す…前に、少し腹ごしらえでもするか」
「ん?」
そう言って立ち止まったのは、たこ焼き屋の屋台。
もしかして、優の奴はここで買ったのか?
「おやっさん。二人分頼む」
「あいよ! お二人さん、揃って黒ずくめたぁ…もしかしてペアルックって奴かい?」
「いや…ちが…」
「いいよいいよ! 今回は特別にカップル割にしてやるよ!」
話聞いてねぇし…。
なんか勝手にカップルにされてしまった…。
同じ色の服を着ているってだけでペアルック判定になってたし…。
「ほれ! 二人分お待ち! カップル割に加えて、お互いに一つずつおまけしといたぜ!」
「…感謝する」
「いいってことよ! はっはっはっ!」
まぁ…いいか。
なんかもう何言っても手遅れな気がするし。
「…行くか」
「ん」
「毎度あり~!」
私はともかく、これで相澤さんに変な噂とか流れないだろうな…?
地味にそれが心配だぞ。
「で、どこで食うんだ?」
「こっちだ。教職員専用の控室がある」
「私も一緒に行っていいのか?」
「構わんさ。今日限定でお前も雄英の教師みたいなもんだ」
「私みたいな教師は絶対に教育に悪いだろ」
「ここは見た目よりも中身で見てるから平気だ」
「なんつー説得力のある言葉…」
流石は雄英…自由な校風は伊達じゃないってことか…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そんなわけで到着しました、教職員用控室。
会場の警備は私たちがやっているせいか、ここには殆どの教師が集結しているようだ。
「連れてきたぞ」
「おぉ! って、俺の分は?」
「知らん。食いたかったら自分で買ってこい」
「こいつはシヴィー!」
プレゼント・マイク…哀れな。
「よっ! さっき振りだな」
「あぁ。アンタの実況、聞いてたよ。流石に盛り上げ上手だな」
「いや~…それ程でも~♪」
ちょろいな…おい。
それでいいのかプロヒーロー。
「へぇ~…この子が…」
「な…なんだよ…」
私の事をジロジロと見てくるのは…ミッドナイトだったか。
18禁ヒーローって呼ばれてるんだっけか。
確かに、見た目だけなら立派な18禁ではあるな。
「前にもチラッと見たけど、パンクな格好の割には悪い子じゃなさそうね」
「そいつはどーも」
なんだろう…さっきの『教育の悪い云々』って話…こいつを見てたら私なんて随分とましなんじゃないかって思えてきたんだが…。
「…オールマイトはいないんだな」
「あら? あの人に用でもあったの?」
「いや…そうじゃなくて、ついさっき捕まって話をしたからな…」
「そゆこと」
こんな所で再会したら、また小五月蠅そうな気がしてたんだが…杞憂だったか。
「んで、そろそろ本題に入ってもいいのか?」
「そうだな」
椅子に座ってから、ミッドナイトから飲み物を貰った。
コーラか…分かってるな。
たこ焼きにはコーラが一番相性抜群だしな。
「敵連合や死柄木とやらの、お前個人の印象や見解なんかを聞いてみたくてな」
「印象や見解…ねぇ…」
成る程…情報ではなく、そっち方面の事を知りたいと。
そうだな…どこから話すか…。
「私が、連合のボスが『先生』だって言った話は聞いてるか?」
「あぁ。塚内さんから教えて貰った」
「こいつはあくまで個人的意見なんだが…」
「言ってみろ」
「敵連合は、殆ど先生のワンマン営業なんだよ」
「…どういうことだ?」
言い方が悪かったかな…。
もうちょい嚙み砕くか。
「要するに、敵連合っていう船の、船長と操舵手とか、その他諸々の事を全て先生が一手に担ってるってことだ」
「死柄木や黒霧とかいう奴らは?」
「弔は単なる従業員と言う名の先生の傀儡。黒霧は、そんな弔の補佐兼世話係。そんなところだ。私に至っては籍置いてるだけの幽霊部員だしな」
「そして、他の連中が臨時の雇われバイト…って感じか」
「ご明察。この間の襲撃事件だって、一見すると弔が全て考えた風に見えるけど、実際には先生がそんな風に誘導してる。あいつはそれを子犬みたいに尻尾振って従っただけだ」
「幹部のように見えて、実際には違うってことか…」
「違う違う。そもそも『幹部』なんて大層な物がいる程にデカくないし。『敵連合』って御大層な名前だって、弔が即席で考えた名前だしな」
「なんというか…聞けば聞くほど…」
「子供だろ?」
あむ…お? これ美味い。
ちょっち熱いけど、でも普通に絶品。
「クロウちゃんよ。どうして、その死柄木って奴は、そんな風に…中身が全く成長しないままデカくなっちまったんだ?」
「それもまた先生のせいだよ」
「そうなのか?」
「あぁ。先生が弔を拾って来た時から外界との接点を極力減らして、あいつの耳元でずっと呟き続けてるんだ。『君をそんな風にしたのはヒーローだ』とか『ヒーローのせいで君はこうなっている』とか。とにかく、ヒーローに対するアンチ精神のみを徹底的に育てまくって、あいつのオリジンを歪ませた」
「死柄木のオリジン…?」
「私も詳しいことは知らない。けど、あいつが本来憎んでいるのはヒーローじゃなくて、今の世の中…そんな気がするんだ」
恐らく、あいつ自身は今の世に溢れている、典型的な犠牲者だったのだろう。
それを先生が言葉巧みに誘導、歪曲させて自分だけの人形に仕立て上げた。
少なくとも、私はそう思っている。
「世の中への不平不満は誰もが必ず持ち得ているもの。それを個性を使ってじゃなくて、幼い頃からの刷り込みに近い形でグチャグチャに歪ませたのね…」
「なんだよそれ…個性のせいで変な風になったって言われた方がまだマシじゃねぇか…」
プレゼント・マイクの言う通り。
ある意味、人として最も残酷で惨いことを先生は平気でやる。
だから私はあの人が嫌いだ。
「この場だから断言するけどさ…」
「なんだ」
「私はいつか必ず敵連合を抜ける。これは確定事項だ」
「それは喜ばしいが…理由を聞いても?」
「あぁ。さっき言ったとおり、連合は先生一人で支えていると言っても過言じゃない。逆を言うと、先生がどうにかなった瞬間、敵連合は勝手に自然消滅する。それ程までに脆い組織なんだよ」
「だから抜ける?」
「うん。そもそも、私が連合に籍を置いてるのだって、一つは先生には簡単に逆らえないってことにある」
「他にも理由が?」
「借りがあるんだよ。まだガキだった頃、私は図らずも先生からの援助を受けていた。あの人がいなかったら、私はとっくの昔に裏神野で野垂れ死んでたよ」
「成る程な…その時の恩義を盾にされて…ってことか」
「一応な。でも、だからと言っていつまでもいいようにされるつもりはない。頃合いだと判断したら、例えどんな手段を用いても絶対に抜けてやると決めてる。私は弔とは違う。弔のようにはならない」
「クロウ…」
それに、弔を真の意味で救うには、あそこにいたままじゃダメだ。
内側からじゃ何も変えられない。
外側からの強い衝撃が必要になる。
「その時が来たら、俺も協力してやる」
「相澤さん…?」
この人…こんな顔が出来たんだ…。
いつもの気怠そうな顔とは大違いだな…。
「お前には何度も助けられた。いい加減に借りを返させろ」
「律義なことで」
「お前にだけは言われたくない」
「かもな」
協力してやる…か。
今までにも何度も言われたことがある言葉だけど…悪くないな。
「あらあらあら~? この二人…もしかしなくても~?」
「いい雰囲気出しやがって…遂にイレイザーにも春が来たってか~?」
「「何言ってやがる…」」
何がいい雰囲気だよ、コノヤロー。
私と相澤さんは、そんなんじゃねーっつーの。
「んん…次は黒霧とかいう奴の事を教えてくれ。概要じゃなくて、お前の印象とかをな」
「黒霧はー…オカンだな」
「「「オカン?」」」
「そ」
だって、そうとしか表現のしようがないんだもん。
「あの見た目に反して、家事全般とか完璧にこなすんだよ。料理はめっちゃ得意だし、カクテルも作れる。裏神野でバーやってるぐらいだしな。ぶっちゃけ、黒霧がいなかったら、弔は確実に全ての食事がコンビニ弁当になって、碌に外に出ようともせずに自室でずっとゲーム三昧。部屋の中はゴミだらけになってただろうな…」
「「「うぐ…!」」」
どうしてそこで三人が胸を押さえて苦しそう顔になる?
「私…今度ちゃんと部屋の掃除するわ…」
「俺も…ちゃんと自炊しよう…」
「…少しは自重するか」
なんか知らんが三人が急に反省しだした。
私としては別にいいんだけど。
「実際、私も黒霧から料理を教えて貰ったことあるし」
「え? クロウちゃんってお料理できるの?」
「そりゃ出来るよ。被身子と会うまでは一人暮らしだったし。節約の為にも自炊してた」
「ま…負けた…女として…」
「何が?」
なんか知らんけど勝ったどー?
喜んでいいのか?
「なんつーか…聞けば聞くほどに分からなくなってくるな…」
「それだけ即席過ぎる組織ってことさ。先生なしの状態じゃ絶対にヒーロー達との全面対決とか出来ない。さっき言ったみたいに、その前に消滅するか、どれだけ頑張っても小規模な勢力しか集まらないよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「…先生は弔を自分の後継者にと考えている節があるが…あいつには無理だ。個性は強力だが、本当にそれだけ。余りにも精神が未成熟すぎる。先生程のカリスマ性もない。もし仮に弔が先生の跡を継いで連合のボスになったとしても、着いてくる奴は殆どいないだろうな」
「カリスマ性…か」
自分で話ながら思ったが、どうして先生は弔を選んだんだ?
世の中やヒーローを憎んでいる奴なら他にも山のようにいるだろうに…。
弔でなければならない理由とかがあるのか…?
もしそうだとしたら、その理由とは一体…。
「死柄木とクロウはどれぐらいからの付き合いなんだ?」
「子供の頃から…かな。多分、私とアイツは俗に言う『幼馴染』って奴なんだと思う」
「幼馴染…か」
「正確には、先生の手によって幼馴染にされたって言った方が正しいかもだけどな」
私と弔を接触させたことにはどんな意味があるのだろう。
未だにそれだけは本気で分からない。
あの人の頭の中は誰にも覗けない。
「本当は、ああなる前に止められたら良かったんだろうけどな…」
「それこそ仕方ないだろう。その頃のお前はまだ子供…しかも、生きていくだけで精いっぱいの状況だったんだ。他人の事なんて気にしている余裕なんてある筈もない」
「そうだぜクロウちゃん! あんまし自分の事を責めない方がいいぜ」
「あなたは何も悪くない。寧ろ、大人になったことで彼を止められるようになった…そう思えばいいじゃない」
「…だな。そうでもしないとやってられない…か」
流石は現役のプロヒーロー…いいことを言ってくれるよ。
でも、お陰で少し気が楽になった。
弔…いざと言う時は、私がお前をぶん殴ってでも絶対に止めてやる。
それが、お前の幼馴染としてしてやれる唯一にして最後の事だ。
そして必ず…先生の呪縛から解放してやる…!