相澤さん達との話を終え、私は昼休みが終わる前に詰所へと帰って来ていた。
「おーっす。ただいまー」
「「クロウちゃん!」」
おっと。
優と被身子が揃って出迎えか。
「おかえりです。何の話をしてたんですか?」
「仕事の話だよ。今後とも御贔屓に…ってな」
「遂に雄英高校すらもお得意様にする気なんですか…?」
「別にいいだろ。常連は幾らいてもいいんだから。特に、金を持ってる客はな」
「わー…大人な考えだー」
「大人だからな」
なんて話してたら、昼前に私たちと交代した見回りのヒーローが戻って来た。
「お疲れー。どうだった?」
「異常なーし。問題なく交代出来るぜ」
「そっか。んじゃ、ちょっと早いけど、そろそろ行くか」
「ですね。それじゃあ、お先に失礼しまーす」
「頼んだぞ」
さて…と。
確か、午後からは別方向のエリアを担当するんだったな。
まずはー…ん?
『最終種目発表の前に、まずは予選落ちした皆へ朗報だ!』
観客席に行く途中に設置してあるモニターから、プレゼント・マイクの声が聞こえた。
あっちも、もう実況席に戻って来てたのか…。
顔に似合わず仕事熱心だな。
「朗報ってなんでしょうね?」
「さぁな。流石に敗者復活戦とかじゃないだろうし…」
それは行きながら聞くとしますか。
この先にも外部モニターは沢山あるし、スピーカーだって大量に設置してある。
『どれだけ白熱していても、これはあくまで体育祭! ちゃーんと全員参加型のレクリエーション種目も用意してあんのさ!』
「「成る程」」
言われてれば確かにそうだ。
ちょっち殺伐をしまくってたせいで地味に忘れてた。
そういや、これはあくまで『高校の体育祭』だったっけ。
『本場アメリカからチアリーダーも呼んで、体育祭をより一層盛り上げて…ん?』
「「ん~?」」
あ…あれはー…マジで何?
『アリャー…なんだ?』
『なーにやってんだ…あいつらは…?』
流石は噂になってるA組さん。
こんな所でも注目を搔っ攫っていくってわけですか。
『ど…どーしたA組ぃぃっ!?』
本場の連中がいるにも拘らず、自分たちもチアリーディングをするとはね~。
いいじゃん。気合が入っててさ。
そーゆーの…嫌いじゃないよ。
「あの子達…どうしてチアの格好をしてるんですか…?」
「さぁ? 内外へのパフォーマンスじゃね? 知らんけど」
「ヒーロー科の子達も大変なんですね~」
高校一年の段階から将来を見据えてアピールしなくちゃいけないとは…。
私なら絶対にサボってるな。うん。
『な…なんか予想外の事はあったが、気にせず皆で楽しく競えよ! レクリエーション!』
「流したな」
「流しましたね」
詳しく解説するのが面倒になったな…あれは。
気持ちは分かるけど。
『そいつが終われば、遂に待ちに待った最終種目!!』
来たか…本題。
ある意味、ここからが本番だと言える。
『決勝進出4チーム! 総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一の…ガチバトルだ!!!』
これに関してはもう隠す必要はないよな。
去年もこれだったし、一昨年もそうだった。
っていうか、毎年最後はいつもコレじゃねぇか。
「流石に、一気に盛り上がりますね…」
「正真正銘のラストバトルだしな。今回やって来てるヒーローの大半が、この決勝を見に来たようなもんだし」
対戦形式こそが、最も個性の有用性が分かりやすく出る。
だからこそ、将来を見据えて見所があると思った生徒達をここで選出している。
(特に今年は去年よりも粒揃いだからな…。これは…面白いことになりそうだ)
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私たちが観客席に到着した頃、もう既にレクリエーションは始まっていた。
これもこれで中々に盛り上がってはいるが、それでも矢張り、午前中までの熱狂には程遠い。
「あ。大玉転がしなんてやってる」
「あれ、上手くしないと見当違いの方向に行っちゃうんですよねー」
「意外と普通だな…やってること。てっきり雄英の事だから『大玉スプーン運び』ぐらいするかと思ってた」
「大玉スプーン運びッ!?」
いや、そんなに驚くようなことか?
別に普通だろ? これぐらい。
「こう…いつも使ってるスプーンの上に、あいつらが転がしてる大玉を乗せて、バランスを取りながらゴールを目指して…」
「そんな神業競技が出来るのは、クロウちゃんかオールマイトぐらいですよぉ~」
「そーか?」
その気になれば先生とかも出来そうだけど。
もし本当にやったら、確実に超シュールな絵面になるだろうな。
弔辺りは腹を抱えて大爆笑しそうだ。
「お? 今度は借り物競争っぽいぞ」
「これはあれですねー。借り物次第じゃ普通に逆転が有り得るから面白いんですよねー」
雄英の事だから、絶対に普通じゃない借り物を書いてそうだな。
ちょっとだけ楽しみだ。
「よっしゃー!! 借り物競争なら、足の短い俺にも十分にも勝ち目があるぜー!! てなわけで…とりゃぁぁ!!!」
おぉー?
なんか一人だけ妙に気合の入ってる奴がいるな。
あれって…USJ襲撃の時に緑谷って子と一緒にいたチビ助じゃないか?
「って…おっぱいー!? 普段なら嬉しいけど、今だけは微塵も嬉しくねー!! こんなもん借りれるかー!! せめて取り外しの出来るもんを書きやがれー!!」
マジかよ…これは女として普通にドン引きなんだが…。
隣で被身子も引いてるし、観客の女性陣もめっちゃ引いてる。
「ドラゴンボール7個全部ー!? レーダーも無いのにー!?」
「真実の愛ってなんだー!? そんなもん、高校生に借りれるものなのかー!?」
「なんで俺だけグルメスパイザーなんだよ!? んなもんどこにもねーよ!!」
「黄金聖衣12個全部!? 今からギリシャまで行って来いってかっ!?」
「東城会の消えた100億!? んなもん俺が欲しいわ!!!」
「サイコフレームって…せめて現実にある物を書けー!!」
「フリーレンの持ってる魔法の杖!? 無茶言うなー!! んなもん持って来ようとしたら確実に返り討ちに遭うわー!!」
なんちゅーカオスっぷり…。
もうこれ完全に盛り上がることを最優先にしてネタしか書いてないだろ…。
あのお題を考えたの、絶対にプレゼント・マイクだな…。
『ぎゃははははははははは!!!! ヤベー!! めっちゃくちゃおもれー!!!』
『隣で馬鹿笑いすんな。五月蠅くてかなわん』
ほらな。
思ったとおりだ。
「これ…ちゃんとゴール出来る人…いるんですかね…?」
「流石に一人ぐらいはいるんじゃないか? 多分」
因みに、一着でゴールしたのは『完全変形合体のファイナル・ガオガイガー(ゴルディオン・アーマー&フィンガー装備)』と書かれた紙を持った女子生徒だった。
なんか知らんけど、観客の中に持っていた奴がいるっぽい。
いや…確かに危険物じゃないけどさ…何故に持ってきたし…。
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午後ともなると、腹も膨れて人は自然と気が抜ける。
なので、誰も暴れようとはしないし、割と大人しくしていた。
私たちはのんびりとレクリエーション観戦をしながら見回りをしていく。
そうして、レクリエーションが終わったタイミングで、決勝で使う予定の舞台が完成した。
『サンキューセメントス!! いつものようにかっぴょいーリングが出来上がったぜ!!』
あいつは…あの時、私とオールマイトの体を隠してくれた奴か。
成る程…当時は少し意識が朦朧としていたから覚えられなかったが、セメントを操る個性なのか。
現代社会じゃ滅茶苦茶強いじゃないか。
なんか普通に今、覚えてしまった。
暇を見つけて練習してみよう。
「あの人の個性…こんな時には便利ですね~」
「だな。なんせ、セメントさえあれば工事費殆どタダみたいなもんだし。財布に優しすぎる個性だな」
もし仮にヒーローじゃなくても、建設会社とか立ち上げれば、それだけで大金持ちになれそうだ。
それ程までに、あの個性は強すぎる。
『ヘイガイズ!! アァユゥレディ!?』
にしても、プレゼント・マイクって英語好きだなー。
もしかして、あいつって雄英じゃ英語教師だったりする?
『色々とやってきましたが!! 結局最後はこれだぜ!! タイマンのガチンコ勝負!!』
ほんと…分かりやすくていいよなー。
これ、下手に戦闘向きじゃない個性の奴が決勝とかに出たら、それはそれで悲惨な目に遭いそう…だけど、決勝に出た時点で十分に評価の対象にはなってるから問題は無かったり。
『ここまで来たら、頼れるのは己のみ!! 例えヒーローでなくても、人生はそんな場面ばっかりだ! それぐらいは分るよな!?』
分かる…凄ーくよく分かる。
私の人生がまさにそうだったからな。
現在進行形でって言葉が前に付くけど。
『心・技・体に知恵知識!! 自分が持つ全てを総動員して、勝利に向かって駆け上がれ!!』
さて…遂に始まるな。
…あれ?
「どうしました? クロウちゃん」
「あのトーナメント表…変じゃね? 二回戦で負けた連中が入ってて、さっき勝った連中が何人かいなくなってる」
私たちが移動している間に何があったんだ?
「そいつはアレだよ。何人かの生徒が自主的に辞退して、繰り上げで別の連中が決勝に進出したのさ」
「マジかよ、おじさん」
「おう。マジのマジだ。いや~…青春だね~」
自分から決勝の舞台を…たった三回しかない晴れの舞台を降りたってのか?
一体何がどうなれば、そんな考えに至るんだ…?
「プライドの問題…ってヤツなのかねぇ…」
「プライド…」
けどまぁ、そこにどんな事情があれ、己の心に従うのは悪くない。
自分に嘘をついても、後で後悔するのは自分自身だからな。
人間って奴は、どんな時も『納得』を優先しちまうもんだからな。
自分を『納得』させなきゃ、どれだけ合理的でも意味が無い。
『決勝戦第一試合!! 成績の割になんじゃその顔は! ヒーロー科…緑谷出久!!』
その顔はって…確かに締まりのない顔をしてるけどさ。
言ってやるなよ…大衆の面前で…。
『
普通科って…さっきの騎馬戦で三位に滑り込んでた奴か。
この決勝で唯一の普通科…これだけでも周囲の評価が非常に高いだろうな。
『ルールは至ってシンプル! 対戦相手を場外に落とすか、もしくは行動不能に陥らせるか! 後は『参った』と言わせても大丈夫!』
成る程…どこまでが『行動不能』の範囲かは分からないが、恐らくは気絶や倒れたまま立ち上がれない状態になる…とかだろうな。
そして、ちゃんとギブアップも許していると。
そこら辺はしっかりしてんだな。
『怪我上等!! こちとら我らがリカバリーガールが常時待機してっから!! 道徳倫理は一旦横に置いておけ!!』
「「いやいやいや」」
置くな置くな置くな。
どんな時もちゃんと道徳倫理だけはしっかりと持っとけ。
『だがまぁ…勿論、命に関わるようなのはソッコーアウトだ! ヒーローはあくまでヴィランを捕まえる為に、その拳を振るうのだ!!』
その通りだ。
最近は、その辺を分かってないバカもいるみたいだけど。
そんな連中は、あの『
『そんじゃ早速始めようか!! レディィィィィィィィィ…』
なんかリングの上にいる二人…ブツブツと喋ってないか?
何を話してるんだろう?
『START!!!』
え? 走り出した緑谷君の動きが…急に止まった?
これは一体…?