『オイオイどうした!? 大事な初戦だぞ!? ちゃんと盛り上げてくれよ!?』
まるで一時停止した映像のように緑谷君の動きがピタリと止まった。
いきなりの事で会場全体からどよめきが走る。
『緑谷出久…試合開始早々に完全停止ー!?』
この感じは…まさか?
「彼…いきなり、どうしちゃったんでしょうね? クロウちゃんは、どうしてああなったのか分かります?」
「なんとなく…だがな。予想は出来る」
「え!?」
私の言葉に、被身子だけじゃなく、周囲にいた観客たちも一斉にこっちを向いた。
いや…別に私は解説役じゃないんだが?
「恐らくだが、あの心操って奴の個性は俗に言う『精神干渉系』に類するもんなんだろう」
「「「「精神干渉系?」」」」
おう…なんて見事なリアクション。
まるで情報番組の司会者みたいだな。
「そうだ。例えば、視線を交えた相手に悪夢を見せたり、攻撃した相手に幻覚を見せたり…とかだな」
「じゃ…じゃあ…あの子も同じように幻覚を…?」
「いや、あの感じは幻覚じゃないな。多分、あれは『洗脳』なんじゃないか?」
「「「「洗脳?」」」」
おい、お前ら。
さっきから似たようなリアクションしかしてないぞ。
一昔前のバラエティ番組か。
「試合開始前にわざとらしく会話してただろ? あれが恐らく『洗脳』を発動させるのに必要なプロセスだったんだよ」
「と言うと…?」
「自分から何かを言う。相手がそれが答える。そうすることで洗脳が発動するんだろう」
「そ…それだけで…?」
「あぁ。ヒーロー科の連中ばかりが勝ち上がってきた中で一人だけの普通科。明らかにおかしいと思ってたが…洗脳の個性を持ってるなら納得だ。何も知らない初見の相手にはほぼ無敵。特に、私が知る限りでは少なくともA組の連中に、あの洗脳を真っ向から破れるような個性を持ってる奴はいない。あいつらは良くも悪くも戦闘向きの個性ばかりが集まってる。あんな搦め手のお手本みたいな個性…何の対策も情報も無しの状態じゃ、まず防ぐのは不可能だろうよ」
このままじゃ何も出来ずに負けるだけだぞ。
どうする…緑谷出久。
「「「「おぉ~…」」」」
なんか被身子を含めた周囲の連中から拍手を貰った。
なんかもう完全に私が解説者ポジになってるんですが。
「流石はクロウちゃん…まるで専門家みたいな分析力ですねぇ~…」
「やるなぁ…嬢ちゃん! すげぇじゃねぇか!」
「お姉ちゃん、まるでヒーローみたい!」
なんか急に恥ずかしくなってきた…。
つーか、どうして私はこんな往来で堂々と個性の解説なんてやってるんだ?
うぅ…相澤さんの『教師に向いてる』って言葉…否定出来なくなってきたじゃねぇか…。
『なんかアホ面でビクともしねぇ!! これが心操の個性なのかー!?』
これだけ会場が騒がしいのに洗脳が解ける気配がない。
ってことは、少なくとも大声を聞かせる程度じゃ洗脳は破れないってことか。
『全っっっっっ然目立ってなかったけど彼って…もしかしなくても、めっちゃヤベェ奴なのかぁぁぁっ!?』
ここまでの競技、そして心操とか言う奴の体格からして、身体能力的に勝っているのは間違いなく緑谷くんだ。
もし真っ向勝負をしたならば、勝つのは間違いなく緑谷君だろう。
心操もそれを分かっているからこそ、初手からいきなり洗脳を発動させたんだろう。
肉弾戦では自分に勝ち目がないと理解しているから。
「ん? あれは…」
心操が何かを呟いた瞬間、緑谷君が回れ右してから歩き出した。
『振り向いて、場外まで歩いて行け』的なことでも命令したのか。
『あぁぁぁー!? 緑谷ジュージュン!!』
徐々に場外エリアに近づいていく。
万事休すか…それとも…。
バキ!!
「「「「「ん!?」」」」」
なんだ…今の…何かが折れるような音は…!
あの…体から出ている煙…そして、あの指の状態は…まさか…!?
「え? ええ!? な…何が起きたんですか!?」
「なんツー無茶をするんだ…あの子は…」
「む…無茶って…?」
「どうやったのかは知らないが…彼は…緑谷君は…自分の個性をワザと暴発させることで洗脳を強制解除したんだ…!」
「こ…個性をワザと暴発!? そんなことが出来るんですか!?」
「だから言ったろ? どうやったのかは分からないって。でも、それしか考えられない」
同じ『ワン・フォー・オール』を持つ私だから分かる。
あの瞬間…場外に出そうになった時に彼の身に『何か』が起きた。
その『何か』が、彼の事をギリギリのところで救ったんだろう。
『み…緑谷!! ギリギリのところでなんとか踏み止まったぁぁぁっ!?』
あの感じ…きっと緑谷君自身も自分に何が起きたのか理解できてない。
本当に突発的に起きた出来事だったんだ。
「もう種は完全に割れた。彼が洗脳に掛かることは二度と無いだろう」
「じゃあ…?」
「ここからは緑谷君のターン。そして、この試合は…」
場外ギリギリの所から振り向き、今度は心操に向かって突き進んでいく。
その間にも心操は色々と言っているが、緑谷君はその全てを無視している。
そして、遂に彼の両手が心操の体を掴んだ。
なんとか放そうと殴るが、その程度じゃもう緑谷君はビクともしない。
そのまま押し出そうとしているのか、今度は心操の方が押され始めた。
「んああぁぁぁぁあああぁっぁあああぁあああっ!!!!!」
気合の叫びと共に放たれる、緑谷君の背負い投げ。
地面に叩きつけられた時、心操の足が完全に場外に出た。
「緑谷君の勝利だ」
『心操君…場外!! 緑谷君…二回戦進出決定!!』
ほらな?
言った通りになった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試合が終わり、起き上がった心操が静かにステージの真ん中に移動する。
勝者である緑谷君も移動するが、彼もまた無言だった。
『IYAHA! 初戦にしちゃ少々地味ではあったが、それでもお互いの健闘を称えてクラップユアハンズ!!』
こうして、心操とやらの体育祭は幕を閉じたわけだが…問題はここからだな。
これで心が折れて終わるのか、それとも…。
「かっこよかったぞ! 心操!!」
「正直マジでビビったよ!!」
「お前は俺達普通科の星だな!!」
「障害物競走1位の奴といい勝負してんじゃねーよ!!」
どうやら…無用の心配だったみたいだな。
あいつは決して一人じゃない。
どんなに辛くても、支えてくれる仲間がいれば何度でも立ち上がれる。
それがヒーローってもんだろ?
「彼の、あの個性…対ヴィランにはかなり有用性高いだろ…! 是非ともウチに欲しいな…」
「雄英も馬鹿なことをしてるよな。あれだけの才能を持ってて普通科とか…」
「まぁ…受験人数も半端じゃないって話だからな。多少の仕方ない部分はあるだろうが…」
「だとしても、戦闘経験の差はなー…否が応でも明確に出ちまうもんなぁ…勿体ないなぁ…」
プロの中にも、心操の事をちゃんと評価してくれている奴はいるようだ。
本気で…真剣に頑張ってる奴の姿ってのは…ちゃんと見られてるもんなんだよ。
「…悪い被身子。ちょっと用事が出来た。少しだけ待っててくれ。すぐに戻る」
「え? クロウちゃん?」
今回の試合…どうしても気になることがあった。
それを確かめるために、私はリカバリーガールがいる救護所へと向かった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
『リカバリーガール出張保健所』と書かれた場所まで行き、軽くノックをした後に扉を開けると、緑谷君が治療を受けていて、その傍には案の定、トゥルーフォームのオールマイトが付き添っていた。
「よ。二回戦進出、おめでとさん」
「え? あ!? あ…あの時の女の人!? なんで!?」
「クロウ君! どうしてここに?」
「なんだい? 怪我でもしたのかい?」
うーん…実に様々なリアクション。
「っていうか、オールマイト! いいんですか!? 思い切り姿を見られちゃってますけどっ!?」
「彼女に関しては大丈夫だよ。もう既に全て知っているからね」
「そ…そうなんですか…?」
まぁ…当然のリアクションだよな。分かる。
「と言うか、実は彼女も決して部外者とは言い難くてね」
「ど…どういうことですか…?」
混乱…するよなぁ~…。
相変わらずオールマイトは会話が下手すぎる。
「別に言っても構わねぇよ。雄英関係者の大半は既に知ってるんだし。今更、隠すようなことでもないだろ」
「それもそうだね」
今までのことがあるから仕方ねぇとしても、どうもオールマイトは隠し事をするのが完全に癖になってる節があるな。
個性が個性だから秘密主義になるのも無理はないけどさ。
というわけで、またもや私の個性&ここにいる説明ターイム。
かくかくしかじか。
かくかくうまうま。
「こ…個性を覚える個性!? コピーとかじゃなくて!?」
「そ。一度覚えた個性は絶対に忘れない。半永久的に使うことが出来る」
「す…凄い…! まさか、そんな個性が存在しているだなんて…! しかも、覚える条件が『見る』か『受ける』だけって…」
「因みに、過去にとある事情で千里眼の個性を覚えちまってるから、そのお陰で最低でも、お前たちA組の個性の大半はもう覚えてるぞ」
「そうなんですか!? そっか…だからあの時…USJでかっちゃんや切島くんの個性を使えてたのか…」
「そゆこと」
オタクっぽいとは思ってたが、想像以上に頭の回転が速いな。
こっちとしては助かるけど。
「ん? 個性を覚える個性…オールマイトの事情を知ってる…ってことは、もしかして…?」
「おう。私も、お前と同じ『ワン・フォー・オール』が使える」
「えええええええええええー!?」
幾ら何でも驚きすぎ。
オールマイトでも、もうちょっと静かに驚いてたぞ。
「どうやら、三年ぐらい前に私がヴィラン退治をする際に個性を使った瞬間を偶然にも目撃していたみたいでね…それで覚えてしまったらしいんだ」
「偶発的だったんですね…。それでもちゃんと覚えられるって…相当に凄いんじゃ…」
「だな。私も自分の個性のヤバさは自覚してる」
マジでその気になれば、世の中の大半の個性は覚えられるからな。
それをちゃんと使いこなせるかどうかは、また別として。
「で、ここからが本題なんだが…」
「な…なんですか?」
「お前…あの時、あいつから洗脳された時に何を見た?」
「そ…それは…」
彼の話では、どうやらあの時、幻覚のようなものが見えたらしい。
中にはオールマイトと同じ髪形の者もいたらしく、恐らくは歴代のワン・フォー・オールの継承者達の意志のようなものなのではないかと言うことだ。
「歴代の意志…ね。個性自体がまだ謎の多い部分があるしな…有り得ない話じゃないか…」
「はい…あ…そう言えば…」
「どうした?」
「あの…ですね…クロウさんを見て思い出したんですけど、さっき見た歴代の幻影の中に、クロウさんそっくりな女の人の姿もあったんです…」
「なんだって…?」
おい…流石にそれは予想してなかったぞ。
「オールマイト…これはどういうことだ…?」
「クロウ君のワン・フォー・オールは、あくまでラーニングの個性で覚えたもの…。だが、それでもワン・フォー・オールであることには違いない…ということなんだろうか…?」
「つまり…あれか? 関係ないと思っていた私も、実は歴代の継承者の一人にカウントされていた…ってことなのか?」
「恐らくは…そうなんだろうね」
「嘘だろ…」
うわぁ…マジかよ…。
これもう完全に先生と敵対するフラグが立ちまくってるじゃねぇか…。
いつか必ず裏切る気ではいるけど、まさか狙われる理由が出来てしまうとは…。
「正直な話、私はクロウ君ならば歴代の一人になっても全く問題ないと思っているよ」
「それ…マジで言ってる?」
「大マジさ。一回だけとはいえ、君とは互いに背中を預け合って一緒に戦った。だからこそよく分かる。緑谷少年と同じように、君にもワン・フォー・オールを扱うに足る資格と素質があると」
「さっき彼が言ったとおり、偶然の産物なんだけどなぁ…」
「それでもさ。もし、もっと早くにクロウ君と出会っていたら、君に託していたかもしれないね」
「冗談でもやめてくれ。私はもう、既に多くの物を背負いまくってるんだよ。これ以上の荷物は勘弁だよ」
「何かを背負っていると言う自覚がある時点で、君には十分すぎる程にヒーローとしての資格がある。私はそう思っているよ」
本当に…どいつもこいつも、私の事をヒーローにしたがりやがる。
私がヒーローになった姿なんて、私自身が一番想像できないっつーの。
「聞きたい話は聞けたし、もう私は行くぞ。二回戦…頑張れよ」
「は…はい! ありがとうございます!」
うっ…なんて真っ直ぐな瞳…。
被身子とかもそうだけど、この目に弱いんだよ…。
私みたいな濁った眼とは大違いだから。
これ以上、眩しさに目が潰される前に、とっとと被身子の所に戻ろう。