それは、私がオールマイトたちの元から去って、急いで廊下を歩いていた時だった。
「げ」
「お前は…」
「アンタは…」
なんか知らんけど、廊下のど真ん中でエンデヴァーと例の紅白坊やが睨み合っていた。
ものすっごい険悪な空気…なんだよこれ…。
「クロウ…どうして貴様がここに?」
「ちょっと医務室に用があってね。そっちこそ、こんな場所でどうしたんだい?」
「別になんてことはない。ただ、息子と話をしていただけだ」
「息子…」
無意識のうちに紅白坊やの方を見ると、彼もまた私がここにいることに若干の驚きを感じていたようだった。
「なんで…アンタがここに…」
「お仕事でね」
「仕事…?」
「そ。私、本業は何でも屋だから。雄英から警備のお仕事を頼まれてるんだよ。だから、安心しな」
「別に心配なんかしてない。アンタからは…嫌な感じがしない」
「…そっか」
何も知らない…いや、分からないのだとしても、何となく何かを感じているのかもしれないな。
はぁ…この身に流れる血ってのは、私の想像以上に業が深いもんらしいな。
我ながら本当に嫌になってくる。
「そう言えば、さっき聞き忘れていたことがあったのを思い出した」
「なんだよ」
「クロウ…お前は『炎』は使えるのか?」
「使えるけど?」
「では『氷』は?」
「使える」
「それらを同時に扱うことは?」
「やろうと思えば。それがどうかしたのかい?」
「いや…ただ、聞いてみただけだ」
「…あっそ」
なんつー露骨な質問をするんだ…このクソ親父様は。
見てみろよ…テメェの自慢の息子君がドン引きしてるじゃねぇか。
「おい…今の質問はなんだ。どういう意味だ」
「この女…クロウは『相手の個性を覚える個性』というのを有している」
「なっ…!? 相手の個性を…覚える…!?」
おいこら…何勝手に人の個性を暴露しとんのじゃい。
ま、こいつになら別に構わないけどさ。
だって…部外者じゃないし。
「それで、お前と同じように炎と氷が使えるのか気になった…ただそれだけだ」
「本当にそれだけかよ…」
「他意はない」
「信じられるか…!」
おーおー…これまた、なんて露骨な嫌悪感。
どうやら、この10年間でこの親子関係は最低最悪になっているみたいだな。
いや…親子関係ってよりは、この家庭環境はって言うべきか。
ここまで冷え切ってると、逆に感心するわ。
私にとっては決して他人事じゃないんだけどさ。
「おい…アンタ…クロウっつったか」
「どした?」
「こいつにはあんまし近寄らない方が良いぞ。何されるか分かったもんじゃねぇ」
「焦凍!」
こいつ…まさか、私の事を心配してる…?
もしかして…薄々ではあるが
「…もう行く」
「おい! まだ話は!」
…行っちまった。
確かに、一見するとぶっきらぼうで何考えてるのか分からないって面してるが…。
(だからこそ分かりやすいんだよ…バカ弟が…)
父親を完全否定し、母の力だけで上に行くつもり…ってか?
特にそんな話をしたわけじゃないが、そんな気なのは目を、顔を見ただけで分かっちまう。
例え、過去の記憶が無かったとしても…それだけは不思議と理解できる。
これは…私たちが『家族』だから…なのかもしれない。
「…私も、もう行くよ。相棒を待たせてるから」
「…そうか」
この重苦しい空気の中にはいられない。
つーか、普通に耐えられない。
「…クロウ」
「…なんだ?」
「これから先、何か困ったことがあれば俺の事を頼れ」
「…は?」
この親父…いきなり何を言って…。
「場合によっては、俺の名を使っても構わない」
「…もし、その時が来たら、そうさせて貰うよ」
「あぁ。遠慮する必要はない」
「…さよか」
やっぱ、こいつも気が付いてるんじゃあるまいな…?
そうとしか思えないような言動なんだけど…。
ほんと…マジで何を考えてるのか分かんない…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「お待たせ」
「あ…クロウちゃん」
元居た場所に戻ってくると、被身子が二人分の缶ジュースを持って待っていた。
いつの間にこんなの買ってた?
「はい、どうぞ」
「サンキュ」
「で、何の用事だったんですか?」
「ちょっと、知り合いと話をしにな。その帰りに予想外の遭遇があったけど」
「予想外の遭遇?」
「そ。お陰で精神がゴリゴリ削られたわ…」
「はぁ…。何か知らないけど、大変だったんですねぇ~」
もしこれが我が家だったら、迷わず被身子を抱いてストレス発散してたんだけど。
流石に日との目がある中で、それは出来んわな。
「私がいない間、何か変わったことは?」
「特に何も。他の所も問題は無いみたいです」
「そっか。じゃあ、こいつを飲みながら見回りを再開するか」
「ですね。ん?」
私たちが缶ジュースのプルタブを開けて、歩き出そうとした時…次の試合の始まりを告げるアナウンスが流れてきた。
『お待たせしました!! 続きましては~…こいつらだ!!』
…成る程。
さっき、あそこにいたのはこういうわけだったのか。
『優秀!! 優秀ではあるが、その拭いきれない地味さは一体なんだ! ヒーロー科…瀬呂範太!!』
ひでぇ…彼、何かやった?
優秀なら、それだけでいいじゃん。
『相対するのは! 2位に1位と強すぎるよ君ぃ! 同じくヒーロー科! 轟焦凍!!』
正直…あんまりいい予感はしないな。
今のアイツは精神が不安定だ。
こんな時に個性を使っても碌なことにならない。
『START!!』
さて…あのセロハン少年は一体どう出る?
こう言っちゃなんだが…相手はかなりの強敵だぞ?
「む?」
「これは…」
肘から出したテープを焦凍の体に巻き付けて、そのまま場外に出そうって魂胆か。
確かに、その選択は正しい。
焦凍相手に正攻法は余りにも分が悪い。
それなら、ルールを使った勝利を狙うのが最善と言えるだろう。
『場外狙いの
ほらな? プロだってこう言ってる。
それはそれとして、一選手を贔屓するような発言はどうなんだ?
「これ…決まりましたかね?」
「どうかな」
勝負は時の運。
そして、勝敗と言うのは一瞬で決まる。
その言葉の意味を、この会場にいる全員が次の瞬間に理解することになった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「うわぁ…」」
私たちの目の前にあるのは、会場すらも超える程の超巨大な氷塊。
ステージの半分近くが、文字通り一瞬で凍り付いてしまった。
「これまた…なんとも…ド派手ですねぇ…」
「あのバカ…!」
幾ら何でもやりすぎだ…!
加減ってのを知らないのか…!
仮にも相手は自分のクラスメイトだろうが…。
「せ…瀬呂くん…行動不能…轟君…二回戦進出…くしゅん!」
あーあ…ミッドナイトまで巻き添え食らって、体の半分ぐらいが凍り付いてるし…。
なんか二人揃って可哀そうになって来たわ…。
後でまた暇があったら、ミッドナイトにホットドリンクでも差し入れてあげよう。
「ど…どんまい…」
「どーんまーい…」
「どーんまい! どーんまい!」
あぁ…なんか知らんけど、会場全体から謎の『ドンマイコール』が。
これは完全に黒歴史確定だな…哀れな。
「あの瀬呂って人の個性…決して弱くはありませんでしたよね…?」
「そうだな。相手の拘束、更には移動の補助、汎用性は中々に高い個性だと思う。でも…」
「相手が悪かった…ですか?」
「…だな。こればっかりはどうしようもねぇよ」
「ですよねぇ…」
けど、あの先制攻撃は決して悪くなかった。
あの一瞬で、あの判断が出来たことは十分に評価に値する。
少なくとも、私は彼を部下に欲しいって思った。
「って言うか、これ…次の試合はどうする気なんでしょうか?」
「氷を溶かして、更には乾かすまで一時休憩って感じだろうな」
「ひぇ~…」
今日一日で雄英教師が過労で倒れたりしないだろうな…。
場合によっては、私たちも駆り出されたりして。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
『ステージを乾かしてから次の試合!!』
思ったよりも時間掛からなかったな。
ってのも、実はさっきの私の発言が見事にフラグになってました。
「まさか、マジでステージの乾燥を手伝わされるとは…」
「クロウちゃんもどんまいですね」
「うっさい」
ちくせう…変にエンデヴァーに炎が使えるとかいうんじゃなかった…。
あの瞬間にもう既にフラグが立ってしまっていたのか…。
「あ…相澤さんからメール」
えーと…なになに?
『手伝ってくれて助かった。後で何か奢る』…ねぇ。
「どうしました?」
「相澤さんからお礼のメール。後で何か奢ってくれるってさ」
「よかったですね~! なんでも覚えておくもんですね!」
「だな。さて…」
周囲の警備をしながら、横目で試合会場を見てみることに。
もう完全にこのスタイルになってるな。
『B組からの刺客! 綺麗なアレには棘がある!? 塩崎茨!』
アレってなんやねん。アレって。
『スパーキングキリングボーイ! 上鳴電気!!』
彼はー…アレか。
USJの時に活躍してるかどうか微妙だった子。
最初はよかったけど、最終的に普通に人質になってたよな。
「あれ? あの二人…何か話してますよ?」
「どれどれ?」
今回はちょっと耳を澄ましてみよう。
一体何を言ってるのかな?
「体育祭終わったら飯とかどうよ? 俺でよかったら慰めてあげるよ? 多分、この勝負…一瞬で終わるからさ」
こ…これはまぁ…何と見事な…。
「フラグだな」
「完全完璧な負けフラグですね。お疲れさまでした」
次の瞬間、上鳴君とやらの立てたフラグは見事に回収された。
『瞬・殺!! 重要だから敢えてもう一度言おう!! 瞬・殺!!』
二回も言ってやるなよ。流石に可哀そうだから。
「塩崎さん! 二回戦進出!!」
あの頭の茨を操る個性…私は覚えられないけど、シンリンカムイとは相性がよさそうだな。
多分、これを見てサイドキック候補に入れてるに違いない。
「どんな個性にも相性ってのは存在している。それをちゃんと把握した上で立ち回っていれば、もう少し違う結末になってたかもしれないけど…」
「何も考えずに開幕電撃をブッパしてましたからね~。そのお陰で、密かにステージの下に潜ませていた茨の蔓に全く気が付いてませんでしたし…」
「あぁ。さっきの瀬呂君とは全く違う。彼は彼なりに健闘したが、これはダメダメだな。要反省だ。私が教師なら補習させてるレベルで」
「補習ヤだな~」
私の補修は厳しいぞ~。
ちゃんと理解するまで止めてやらないからな。
(ま、私がしなくても、ちゃんと相澤さんが何か言ってくれるだろ)
あの人は、その辺はちゃんとしてそうなイメージあるし。
まだまだ、一年生たちの決勝戦は加速し、加熱していく。