引き続き、見回りを繰り返しながら、横目で一年生たちの試合を見学する私達。
今の所は特にこれと言った問題も発生していないから、こっちは割と気楽に試合を見れたりする。
やっぱり、これだけヒーローがいる場所でバカしようって考える奴は流石にいないか。
もし何かやったら、即座にプロヒーローに捕まるんだから当然か。
『さぁーどんどん行くぞ!! 頂点目指して突っ走れ!!』
まだまだテンション高いなー…プレゼント・マイク。
この熱量だけは本気で尊敬に値するわ。
『ザ・中堅って感じ!? ヒーロー科! 飯田天哉!』
中堅って…確か彼だろ?
USJの時に外に救援要求しに行ったのって。
私的には、それ凄い評価してるんだけどなぁ…。
『バーサス! サポートアイテムでフル装備!! サポート科! 発目明!!』
ほー…あの子はサポート科なのか。
これまた珍しい組み合わせだ。
って言うか…。
「あのー…クロウちゃん? あの飯田って人…」
「あー…やっぱ、被身子も同じこと考えた?」
「はい…あれってモロに…」
「うん…あれ…完全にさ…」
「「フルアーマーじゃね?」」
そう…どういうわけなのか、あの飯田君とやらは全身にサポートアイテムをフル装備した状態でステージに上がっているのだ。
これはー…一体全体どういうこと?
「ん? 飯田…?」
「どうかしましたか?」
「いや…そういや、あの子の顔さ…最初見た時から誰かに似てるって思ってたんだけど…ようやく分かったわ」
「誰なんですか?」
「ほら、あの人だよ。インゲニウム」
「あぁ! 言われてみれば確かに!」
「年齢的に多分、弟とかなんだろうな」
「成る程な~…」
インゲニウムは我が何でも屋のお得意様の一人だ。
よく事務所掃除や書類整理の手伝い、ヴィラン捕縛の救援とかを任されることが多い。
お陰で私の懐はホッカホカだ。
(そういや…前に一回だけ酒を奢って貰った時、自慢の弟がいるって話をしてたっけ…。彼がその弟なのか…)
これ完全にお兄さんの後を追って雄英に入って来てるだろ。
確か、あの人も雄英出身だって言ってたし。
「って、今彼…なんつってた?」
「あの対戦相手の子に『対等に戦いたい』って言われて、彼女のアイテムを装着したって言ってました」
「なんじゃそりゃ」
なんとなーくだけど、あの発目って子の魂胆…分かるぞ。
これ完全に利用されてることに気が付けよ…天哉君…。
「そして、なんか知らんけど許可されてるし…」
「お互いに合意の上なら大丈夫ってことなんでしょうかね…?」
「そうじゃね? 知らんけど」
本人達と雄英側がそれでいいなら、私としてはどうでもいい。
これはあくまで本人たちの問題だしね。
「あ…試合が始まりましたよ?」
「だな。ん?」
あのサポート科の子…今なにか装着しなかったか?
あれはー…小型マイク?
『実にすんばらしい加速性能じゃありませんか!! 飯田君!!』
『「は?」』
今、プレゼント・マイクと被身子の言葉が地味に被ったぞ。
『普段よりも足が軽く上がってませんか!? それもその筈!! そのレッグパーツが装着者の動きを適切にフォローしているからです!!』
なんて商魂逞しい子なんだ…ある意味で将来が楽しみだわ…。
「あ…あの…クロウちゃん? これは一体…?」
「宣伝してんだよ。この試合を通じて、会場に来てるサポート会社の連中に」
「宣伝ッ!? これって大事な試合ですよねっ!?」
「あの子にとっちゃ、この場が最大の売り込み場なんだろうさ」
「わ…私と同年代とは思えない程に商売人ですね…」
「ある意味、これもあの子の将来の為には必要な事なんだろうな」
だとしても、これはちょっとやりすぎな気もするけど。
『そして! 私は『油圧式アタッチメントバー』にて回避もラックラク!』
あ、しれッと避けた。
流石にすぐに終わる気は無いんだ。
『飯田君の鮮やかな方向転換!! それは私の『オートバランサー』あっての動きです!!』
もうこれ…試合じゃなくて、完全に深夜の2時~3時ぐらいにある通販番組じゃん…。
前に一回だけ騙されて掃除機買ったけど、一か月ぐらいで普通に壊れた。
そうして、このアイテム解説付きの謎の鬼ごっこは約10分ほど繰り広げられ、そして…。
『ふぅ…全て、余すことなく見て頂けました。なので…』
発目ちゃんは物凄くスッキリした顔をしながら、自らの足で場外に出た。
『もう思い残すことは何もありません!! 降参します!!』
「僕を騙したなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
あぁ…何て哀れな…。
大切な大舞台の前で道化を晒して…。
『あー…スミマセン。アナタのこと…完全に利用させて貰いました』
まだマイク切れてないぞー。
めーっちゃ会場内に聞こえてるからなー。
「僕は君の事が嫌いだー!!」
だろうな。
そりゃそうなるわ。けど…。
「これに関しては…」
「騙される方にも非があるかと…」
真面目過ぎるのも考えようだな…。
もう少し、お兄さんみたいなフランクさを身に着けようぜ…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その後も試合は続いていき、お腹からレーザーを撃つ子と、ピンク色の肌を持つ子がぶつかったり、かと思ったら、黒い鳥っぽい頭の子がお嬢様みたいな子を圧倒したり。
因みに、最初に言った試合はピンクの子が普通に勝った。
それに、あの影を使った個性の鳥っぽい子…あれ普通に強くね?
個性が個性なだけに、私じゃラーニング出来なかったけど。
それと、防御特化の二人がぶつかった試合とかもあったな。
片方は私が前に覚えた『硬化』の個性の子だ。
地味な試合内容ではあったが、だからこそ白熱してたと思う。
試合結果は見事な引き分けで終わったけど。
で、問題は次の試合なわけでして…。
『中学時代から、ちょっとした有名人!! 完全に堅気の顔じゃねぇ!! ヒーロー科! 爆豪勝己!!』
なんつー紹介文だよ…言いたいことは分かるけど。
彼があの『爆破』の個性の子…だよな。
そして、その対戦相手が…。
『個人的には俺っちはこっちを応援したい!! ヒーロー科! 麗日お茶子!』
なんて見事なゆるふわな女の子。
お茶子ってのも面白い名前だな。
「…………」
「ん? どした? 被身子」
「え? いや…何でもないです…」
「…そっか」
あのお茶子って女の子の事…知ってるのか?
もしかして、昔の知り合いとか?
まぁ…深くは聞かない方が良いな。
被身子が話したくなるまで、私はいつまでも待つさ。
過去に関する秘密を持ってるのは私も同じだしな。
私が被身子の方を向いている間に試合は始まっていて、お茶子ちゃんが爆豪君に向かって真っすぐに突撃して行った。
「速攻か」
覚えた私だからこそ分かる。
彼の『爆破』は相当に強力な上に汎用性も非常に高い。
しかし、汗を爆破の媒介にしているが故に序盤が少し弱い。
彼女もそれを理解して、最初から仕掛けていったんだろう。
(あの子の個性は恐らく、自分の手を相手に触れさせることで発動する、弔と同じ『物理接触型』の個性! 触れた瞬間にお茶子ちゃんのペースになると考えると、この場での爆豪君のするべき最適解は…)
回避ではなく…真正面からの迎撃行動!
もし私が彼と同じ立場でも、全く同じことをした!
「むっ…!」
今の右からの一撃…お茶子ちゃんは回避しようとしたが、完全に避けきれなかったか…!
なんとか直撃はしなかったが、爆破の余波でダメージを受けて、更には視界もう奪われた。
だが…なんか変だな…。
「あれは…!」
「上着だけッ!? お茶子ちゃんは…後ろッ!?」
そうか…!
爆破の勢いを利用して、上着を浮かせて這わせたのか!
咄嗟の起点にしては中々やるじゃないか…!
このまま決まる…とは思えない。
今の一連の動きだけで分かる。
爆豪君の戦闘センスは一年生の中でも完全に頭一つ分以上ズバ抜けてる。
「ここでお茶子ちゃんが触れば…」
「いや…まだだな」
「え?」
背後から迫るお茶子ちゃんに対し、爆豪君はなんと地を這う爆撃で反撃。
見事に背後からの奇襲を防いで見せた。
「今の…完全に回避不能のタイミングでしたよね!? どうして…」
「簡単だ。見てから反撃したんだよ」
「み…見てから…!?」
「あぁ。どれだけ背後から奇襲されても、爆豪くんの反応速度なら、相手の動きを見てからでも十分に迎撃可能だ」
あれ程の反応速度…触れることでしか発動できない個性じゃ、かなり分が悪いぞ…。
ある意味、彼もまた弔にとって最大の天敵と言える。
しかも、爆豪君の場合は戦闘センスも凄まじい。
『麗日! 間髪入れずに再突進!!』
同じことの繰り返し…?
いや、恐らくお茶子ちゃんは自分が爆豪君よりも劣っている事、個性同士の相性も全部把握している。
ならば、あの一見すると無意味に見える突貫にも何か意味がある…?
それからも、お茶子ちゃんは何度も何度も同じように突貫を続けていく。
会場の雰囲気も重苦しくなっていき、段々とステージが爆破でボロボロになっていった。
「ん? ボロボロ…?」
いや…ちょっと待て。
あれだけ何度も派手に爆発してるのに…あのステージ上には『
「ま…まさかっ!?」
「クロウちゃん…?」
おいおい…マジかよ…!
今までの突貫…それ全部、計算のうちだったってことか…!
虫も殺せなさそうな顔をしておいて…なんて強かなんだ…!
「見てらんねぇ…!」
「「ん?」」
今…誰が言った?
見てられねぇだと…?
「おい!! それでもヒーロー志望かよ!! そんだけ実力差があるなら、早く場外にでも放り出せばいいじゃないか!」
「女の子をいたぶって遊んでんじゃねぇよ!」
「そうだ! そうだ!」
『い…一部からブーイングが…!』
ふざけんなよ…あの二人の気持ちも…何も理解しようとせずに…表面しか見ねぇ馬鹿どもが…!
「あー…もう…久し振りにマジでキレたわ」
「ク…クロウちゃん…?」
前に見た『創造』の個性でマイクを作ってから…。
『おい…今、遊んでるっつったのは、どこのどいつだ。えぇ!? 手ぇ上げろやゴラァっ!!』
『うをっ!? いきなりの割り込み!? この声は…まさかッ!?』
『フッ…いいじゃないか。言わせてやれ』
『マジでッ!?』
はい。ちゃんと許可も貰いましたよーっと。
んじゃ、遠慮なく言わせて貰うわ。
『なんで爆豪君が、あんなにも攻撃をすんのか…んなの…本気で目の前にいるお茶子ちゃんを強者だと認めて! 全力で倒すべき相手だと思ってるからに決まってるからだろうが!!』
なんか会場全体の視線がこっちに集まってるけど…もう知らん!!
ここまで来たら、私も思う存分言わなきゃ気が済まんわ!!
『全力で迎え撃たなきゃ自分が負ける可能性がある…だから本気で攻撃する!! そんな簡単なことすらも理解できねぇでプロ名乗ってんなら…今すぐにプロなんて辞めて、このままハローワークに行って求職検索でもやってろ!!!』
あー…まだ収まらねぇ…!
もっともっと言ってやりてぇ…!
『俺の言いたいことも大体同じだ』
相澤さん…?
『爆豪は、ここまで勝ち上がってきた麗日の実力を認めている。認めているからこそ本気で警戒している。本気で勝とうと思っているから、手加減も油断も出来ねぇんだよ。クロウの言う通り、そんな簡単なことすらも理解出来ないのなら、今すぐにでもプロなんか辞めちまえ。目障りだ』
はは…まさかの言葉での援護攻撃が来たよ…。
なんとも意外な展開ですこと。
「ク…クロウって…あの何でも屋のクロウかっ!?」
「なんで、あんな有名人がここにいるんだよっ!?」
え? マジで? 私ってば有名人なの?
それは流石に初耳なんですけど。
『俺もクロウの意見に同意する』
う…うそーん…。
向こう側の観客席で、エンデヴァーがいつの間にかマイクを持ってるんですけどー…。
『あの二人がどれだけ本気なのか、それは二人の目を見れば一発で分かる。真剣勝負の場に男も女も関係ない。ステージに立った以上、性別の差など些細な問題に過ぎん』
なんで…あの人が私の言葉を擁護するんだよ…。
これは冗談抜きで予想できなかった…。
『先程の発言は完全に男女差別と受け取られても不思議ではない。プロヒーローともあろう者が性差別をするなど言語道断。少なくとも俺は…貴様らの事をプロとは絶対に認めん』
うっわ…一気に会場が騒然となった…。
なんなの…この空気…。
完全に頭が冷めたわ…。
「エ…エンデヴァーにクロウ…表と裏の超有名人が一堂に会してるだなんて…」
「お…俺は…クソッ…!」
「あ…待って…」
いや、相澤さんの事は無視ですかい。
あの人はアングラだから知られてなくても無理ないのか。
それはそれとして、さっきの馬鹿発言をした二人が気まずそうに会場から出て行った。
うーん…見事な『ざまぁ』ですな。
「クロウちゃん…ありがとうございます…」
「いいってことよ。気にすんな。それに…」
「へ?」
「まだ、お茶子ちゃんは諦めてるわけじゃ…ないみたいだぜ?」
少し呆けている被身子の顔を、少しだけ上に向かせる。
そうして、やっとこいつは気が付いた。
「あ…あれって…!」
「そ。あれがお茶子ちゃんの『奥の手』だ」
どうせだし、ちょっとだけ二人の会話に耳を傾けてみるか。
「そ…ろそろ…かな…!」
「あ?」
「私の事が蛇に見えたかな? 爆豪くん…」
「なんだと…?」
「爆豪君は強い。本当に強い。一瞬の油断もしてくれない。隙も無い。まるで、獲物を飲み込む瞬間まで気を抜かない蛇みたいに」
「何が言いてぇ…!」
「爆豪君…『蛇』でいてくれて…ありがとう」
来るか…最後の奥の手が…!
「対戦相手である爆豪君視点ならばともかく、観客席にいながら気が付かずに間抜けなブーイングをしていたんなら、マジで奴らはプロを辞めた方が良いな」
「ですね…これは確かに…」
「ワザと低姿勢で突貫することで爆豪君の視線と打点を下に集中させ続け、攻撃に耐えながらずっと一発逆転のチャンスとなる『武器』を蓄え続けた」
「そして…絶え間ない突撃と、相手の攻撃で発生する爆煙を利用して彼の視野を狭めて…悟らせなかった」
ステージの上空に無数の瓦礫が宙に浮き、それらが全て一斉に爆豪君目掛けて落下してくる。
個性で生み出された流星群。
彼女の個性は『触れた物を宙に浮かせる』のか。
一見すると攻撃性が無いように思えるが…そんなのは本人の工夫次第で幾らでも化ける。
今ので私も覚えちゃったし、機会があったら真似させて貰おう。
「こ…これなら、お茶子ちゃんも勝て…!」
「だが…それでも爆豪君の方が上だったな」
「え…?」
本当に…勝負の世界ってのは非常なもんだ。
自分に向かって落下してくる無数の瓦礫。
あろうことか彼は、それらを全て大火力の爆発の一撃で全て破壊して見せた。
「い…一発…で…!?」
「勝負あった…か」
見ただけで分かる。
もう、お茶子ちゃんの体は限界だ。
疲労もそうだが、個性の反動がヤバいことになってる。
彼女はもう、立ってることすらもやっとの筈だ。
『会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々と…正面突破ぁ!!』
どれだけ体がボロボロでも、戦意だけは衰えない…か。
その覚悟は本当に見事だ。
だが…そろそろ休め。
君はマジでよく頑張ったよ。
「お茶子ちゃん!?」
次の瞬間、彼女がパタリと倒れた。
何とか動こうとするが、その体はピクリとも動く様子が無い。
そこにミッドナイトが近づいて、彼女の様子を確認する。
「…………麗日さん…戦闘不能。よって…爆豪君…二回戦進出決定!」
こうして、恐ろしく濃密な二人の試合が幕を閉じたのだった。