闇なる鴉はかく語りき   作:とんこつラーメン

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今回、ちょっとだけ今作オリジナル設定が出てきます。

気に入らないって方は素直にブラウザバック推奨。








前に進むために

 試合が終わり、ロボットの運んできた担架で倒れたお茶子ちゃんが運ばれていく。

 その様子を被身子が凄く心配そうに見つめていた。

 

「…被身子ってさ…あのお茶子ちゃんと知り合いなのか?」

「はい…小さな頃に近所に住んでた子で…よく一緒に遊んでました」

「幼馴染ってことか」

「そうなります…かね…」

 

 なんか疑問形だけど、それはもう立派な幼馴染だろ。

 私だって、弔の事を幼馴染だって思ってるし。

 

「私の方が少し年上なんですけど、そんなの関係なしに良く近所の空き地や公園とかで遊びまわってました。けど、私が中学に上がる頃に家の事情で引っ越してしまって…」

「それっきり…ってわけか。その後、被身子は被身子で色々とあったしな…会いに行く暇も余裕も無かった…か」

 

 それに関しては完全に私のミスだな…。

 もうちょっと被身子の交友関係を調べておくんだった…。

 

「あ…あの…クロウちゃん…」

「言わなくても分かってる。行ってやりな。行って…久し振りに色々と話してこい。さっきは私が席を外してたからな。今度はお前の番だ」

「あ…ありがとうございます! じゃあ…行ってきます!」

「おう。多分、あの子はリカバリーガールの所に行ってる。場所はー…分かるか?」

「一応。仕事をする前に教えて貰いましたから」

「そっか。リカバリーガールや雄英の教師に何か聞かれたら私の名前を出しな。あと…ほれ」

「わっと…え?」

 

 スカートのポケットの中から被身子に手土産を投げ渡してやる。

 

「これ…目薬?」

「そ。今のあの子には一番必要なもんだろ? 持って行ってやりな」

「はい!」

 

 目尻に涙を貯めながら、被身子は通用口へと走っていった。

 偶には私も粋な計らいってのをしないとな。

 

(ってなわけだから、少しの間だけ私が一人で警備するわ)

(全っ然大丈夫! 女の子同士の友情と青春を邪魔する程、私たちは無粋じゃないもの!)

(…サンキューな。恩に着るよ…優)

(それならー…今度のお休みの日にデートとかしてほしいなー…なんて)

(…一回だけな)

(ま…まさかのОK!? これは今日の仕事が終わったらエステの予約をしてかないと…!)

 

 ったく…今から張り切りすぎだっつーの。

 ま…別にいいけどさ。

 

『ああー…うん。爆豪一回戦突破ー…』

『やるならちゃんとやれよ…。私情駄々洩れかよ』

 

 だな。

 仮にも実況者なんだから、どんな試合もちゃんと盛り上げてくれよ。

 

『ま…まぁ…気を取り直して! これで一回戦が一通り終了! 小休止を挟んだ後に二回戦…イクゾー!』

 

 地味に少し昔のネットミームを使ってきたな…。

 プレゼント・マイクって、そーゆーの好きそうな顔してたなー。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 さっき引き分けで終わった防御特化型のカチコチコンビがステージの上で腕相撲をしている。

 確かに非常に分かりやすいが…同時にものすごーく地味でもある。

 これでいいのか雄英高校体育祭…。

 

「あ」

 

 決着ついた。

 私が前にラーニングをした子が二回戦に進出したわ。

 実力はほぼ互角っぽかったし、雌雄を決したのは単純に根性の差だろうな。

 やっぱ、男の子は試練を乗り越えて強くなるもんなのか。

 

『引き分けの末、二回戦進出の切符を勝ち取ったのは…切島ぁー!! これで二回戦の進出者が全て出揃った!!』

 

 一回戦の最後が腕相撲って…何とも言えないなー。

 

「クロウちゃん!」

「お。帰って来たか」

 

 目薬片手に戻って来た被身子は、とても清々しい顔になっていた。

 どうやら、幼馴染との数年振りの再会は上手くいったようだな。

 

「おかえり。どうだった? ちゃんと話せたか?」

「はい! 最初こそ驚いてましたけど、そこからはもう色々と…」

『今回の体育祭! 両者共にトップクラスの成績!! まさしく両雄並び立ち…今!!』

 

 チッ…いい所で実況しやがって…良い雰囲気が台無しじゃ…。

 

『緑谷VS轟!!』

「マジか…」

 

 そっか…トーナメント的に二回戦で真っ先にぶつかるのは、この二人になるのか…!

 よりにもよって、どっちも私とは色んな意味で関係が深い少年同士とは…。

 

「こーゆー時…私としては、どっちを応援すりゃいいんだろうな…」

「クロウちゃん…?」

 

 『家族』として焦凍を応援すべきか、それとも…同じ個性を持つ者として緑谷君を応援すべきか…。

 

『START!!』

 

 あのクソ親父じゃないけどな…片方の力だけじゃ、いつか必ずどこかで限界が来ちまうぞ…!

 この世界は、いつまでもお前の都合に合わせてはくれないんだ。

 現実ってのは…お前が想像しているよりも遥かに残酷で…無常で非情なんだよ。

 

「後悔してからじゃ遅いんだぞ…それを分かれよ…バカ弟…!」

「え…?」

 

 じゃないといつか…お前は必ず取り返しのつかないミスを犯すことになっちまう…。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 試合開始早々に氷の塊をぶっ放した焦凍だが、それを緑谷君はワン・フォー・オールを込めたデコピンで破壊をし、相殺した。

 その一撃で彼の指が大きく傷ついてるが…ある意味でこれは仕方がない損傷。

 

「一回戦…そして、騎馬戦や障害物競走でも、焦凍はいつも氷の一撃で決めてた。余りにも一瞬過ぎて情報が少なすぎる。故に、今の緑谷君に出来るのは、とにかく採算度外視の一撃による迎撃行動のみだ」

「で…でも、それじゃあ…」

「あぁ…いつまでも持たない。緑谷君は云わば、回数制限付きの一撃を放ってるわけだしな」

 

 しかも、打てば打つほどに自分は不利になっていくおまけ付きだ。

 恐らく、彼は戦いながら少しでも焦凍の情報を得て、ほんの僅かでもいいから隙を…勝機を見出そうとしている。

 

「でも、ある意味では緑谷君の戦法は正しいとも言える」

「どうしてですか?」

「焦凍の背中をよく見てみろ。あいつ…デカい氷を背負ってるだろ」

「そう言えば…あれは一体?」

「アンカーだよ。緑谷君の攻撃で下手にぶっ飛ばされないように支えにしてるんだ。恐らく、一回戦の瀬呂って子との戦いで学んだんだろう。場外での敗北も有り得るってことに」

 

 それだけ、焦凍が緑谷君のパワーを恐れているって証拠でもあるが…。

 

「もし安易に拳を使って迎撃をして、それすらも対応されたら…その時点で緑谷君の勝ち目が薄くなる」

「だから…指を一本一本使いながら様子見をしている…?」

「多分な。それも、長くは続かないだろうが」

 

 また焦凍が氷を放ち、それを緑谷君が同じように迎撃する。

 これで右手の指二本が使い物にならなくなった。

 残りの指は…あと6本。

 それまでにどうにかしないと…負ける一方だぞ…緑谷出久!

 

「あの紅白頭の子…ああもポンポンと氷を撃ち続けて大丈夫なんでしょうか…?」

「大丈夫じゃないだろうな。どんなに優れた個性にも『限界』ってのは絶対に存在している。私の『ラーニング』も、被身子の『変身』も例外じゃない」

「確かに…私もそこまで自由自在に変身出来るわけじゃないですしね…」

 

 確かにラーニングは一見すると非常に強力な個性だが、この個性は同時に他の個性の弱点をも習得してしまうことになる。

 長所と短所は表裏一体…とはよく言ったもんだ。

 実際、今の私は弱点だらけだ。

 

「氷の個性で自分の体温が下がりきるのが先か、それとも…」

「緑谷君の指が全滅するのが先か…ですね」

「耐久戦…どっちが先に音を上げるか…」

 

 こうして話をしている間も、緑谷君と焦凍との攻防戦は続いている。

 その度に砕かれた氷の欠片が宙に舞い、まるでダイヤモンドダストみたいな光景を作り出していた。

 

「ク…クロウちゃん…! 緑谷君の右手が…!」

「全滅か…!」

 

 これでもう右手は使えない…。

 利き手が封じられるってことは、それだけで攻撃力半減以上の戦力低下だ。

 

『轟! 緑谷のパワーに怯むことなく接近戦へと持ち込む!!』

「アイツ…! 彼の右手が潰れたのを見て、一気に勝負を決めに来たか!」

 

 氷のジャンプ台を作って、そこを駆け上がってからの拳の振り下ろし!

 だが、緑谷君もギリギリの所で回避した!

 

「あ…危なかったー…」

「いや…まだ終わりじゃない」

「え?」

 

 振り下ろした拳がステージの床に接触してる。

 私が焦凍の立場なら、ここから…。

 

「間髪入れずに氷の追撃だな」

「凄い…まるで流れるような動き…」

 

 焦凍の奴…二手三手ぐらい先を読んで動いてやがるな。

 お前はどこの赤い彗星だっつーの。

 

「あ…でも、緑谷君も!」

「む…?」

 

 避けながらも左拳を振り被って…氷を破壊する気か!?

 

「きゃっ!?」

「おぉ…!」

 

 さっきよりも威力の高い一撃…。

 あくまで焦凍を近づかせない気か…!

 衝撃波と氷の粒がこっちまで飛んできたぞ…!

 

「クロウちゃん…緑谷君の左腕が…」

「咄嗟の事だったから指だけってのが出来なかったのか…」

 

 流石に完全に使用不能ってわけじゃないが、それでも彼の左腕はズタボロだ。

 一撃二撃ぐらいが撃てて限界か…。

 

「完全に端に追い詰められて…もう流石に緑谷君も限界ですね…」

「いや…限界なのは別に緑谷君だけじゃないだろ?」

「え? それってどういう…?」

「焦凍の体をよーく見てみな」

「体…?」

 

 パッと見じゃ分かりにくいかもしれないが、ちゃんと目を凝らして見れば分かる。

 焦凍の体も確実に限界に近付きつつあるってことが。

 

「あ…あれ? 今…轟君の体が震えてたような気が…?」

「気のせいじゃなくて、実際に寒さに震えてるんだよ」

「そうなんですか?」

「あぁ。焦凍の個性は、氷と炎…その両方を使いこなして初めて真価を発揮する。氷を使えば体は冷えていく一方だが、それを炎の個性で温める。逆に炎を使えば体温が際限なく上がっていくが…」

「氷の個性で体を冷やす…。つまり、それぞれの個性が冷房と暖房の役割をしてるってことなんですか?」

「その通り。けど、あいつは頑なに炎を使おうとしない。そうすりゃ必然、あいつの体温は下がっていく一方。今は強がって平気な振りをしているが…実際にはかなり辛い筈だ。無意識の内に体が震えてしまうほどにな」

 

 確かに、このままいけば今回の試合は勝てるだろう。

 だが…次はどうなる? その次は?

 言っておくが…爆豪君を始めとした面々は、緑谷君みたいに甘くは無いぞ。

 この試合でお前の拘りと弱点は全員に知れ渡った。

 これを的確に突かない連中だと本気で思っているのか?

 それでもまだ、自分は氷の個性だけで上に行くなんて抜かすつもりなら…。

 

「…この辺りで負けた方が焦凍の為だな」

 

 この世界は…現実は…ヒーロー社会は…お前の事情なんて微塵も考慮しないぞ。

 特にヴィランは…狡猾にお前の弱点を狙ってくる。

 そうなった時…お前は確実に死ぬ。

 それだけじゃない…多くの人々すらも道連れにする危険性だって孕んでる。

 腹立たしいが…あのクソみたいなオールマイトへの拘りさえ抜けば、あのクソ親父の言ってることは全部正しいよ。

 

「もしかしたら、ここが…焦凍にとっての運命の分かれ道…かもな」

 

 ここら辺で本気の意識改革をしないと…もう二度とお前は前へは進めない。

 さぁ…どうする…焦凍…!

 

 

 

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