リカバリーガールの所から戻って、私は被身子と合流した。
「おっす。待たせたな」
「私なら大丈夫ですよ。それよりも、クロウちゃんの方は大丈夫なんですか?」
「この腕ならもう平気だよ。見回るだけなら問題無いし、いざとなれば左腕だけでも戦えるさ」
「むぅ~…クロウちゃんがそう言うならいいんですけど…無茶だけはしないでくださいね?」
「分かってるって」
心配性なんだから…とは敢えて言わない。
こいつの境遇を考えれば、こうして過度に私の事を心配する気持ちも理解出来るからな。
「んじゃ、とっととお仕事に戻りますか。けど、その前に…」
被身子と一緒に廊下を歩きながら、テレパシーで優に接続する。
ちゃんとアイツにも事情を説明しておかないとな。
(こちらクロウ。今、治療を終えて戻ってる)
(クロウちゃん!? だ…大丈夫だったの!?)
(おう。包帯グルグル巻きではあるけど、もう大丈夫だ)
(そう…それなら良かったわ)
(悪いな…心配かけた)
(ううん…気にしてないわ。これでもプロだし。クロウちゃんが無事なら、それで十分)
(…さよか)
私が無事なら…か。
嬉しいことを言ってくれるじゃんか…。
本人の前じゃ絶対に言わないけど。
(あの後、ちゃんとこっちにも雄英側から連絡が来たのよ。さっきのクロウちゃんの事について)
(そうだったのか)
(確かに、さっきの試合をあれ以上続けさせるのは危険だったわよね。ナイス判断だったと思うわ)
(中々に力技だったけどな)
(それでもよ。私じゃ、あんな真似は出来なかったし。私も、この場での適任者はクロウちゃんだったと思う。シンリンカムイ先輩も同じことを言ってたわ)
(マジか)
どうやら、思ってるよりも多くの連中に心配を掛けちまってたみたいだな…。
私も緑谷君の事を言えないじゃんかよ。
(それじゃ、そろそろ切るわ。また後で休憩所に行くから)
(了解よ。余り無茶しないでね)
(こっちこそりょーかい。んじゃな)
テレパシー終了…っと。
ふぅ…これはアレか?
詫びとして、一回ぐらいは優の我儘を聞いてやるべきか?
「ところで、試合の方はどうなってるんだ?」
「結構進んでますよ。もう既に二試合ぐらい終わってますし」
「もうか…早いな…」
ちょっと見逃したのは地味に痛いな…。
後で動画配信サイトとかで見逃し配信してないか調べてみるか。
「で、今は?」
「御覧の通りです」
「ん?」
廊下を出て観客席に戻ると、ステージでは大きな爆発音が鳴り響いていた。
あれは…まさか…?
「爆豪君と…あの子は…『硬化』の個性を持ってる子か」
「はい。でも、思ったようにダメージが入ってないみたいですね」
「だろうな…」
『硬化』の個性は私もラーニングしてるから、よく分かる。
確かに防御と言う一点に絞れば非常に強力な個性だ。
その硬さを攻撃に使えば、かなりのダメージも期待できる。
だが…。
「硬化の個性は強力であるが故に、持続力に乏しいという弱点がある」
「そうなんですか?」
「あぁ。硬化の個性を使用するには常に精神集中をし続けなければいけない。頭の中でずっと『体が硬くなるイメージ』を続ける…これは思っている以上に難しい。序盤ならばまだ精神力に余裕があるから問題ないが、もしこれが持久戦に持ち込まれたら…」
「あ…そっか…! 対戦相手の爆豪君は逆に試合が長引けば長引くほどに個性が強力になっていくから…」
「そう。ぶっちゃけ、この二人の相性はほぼ最悪に近い。見た感じ、試合が開始してから結構な時間が経過してる。こうなった時点で場の流れは完全に爆豪君が握ってると言っても過言じゃない。多分、もうそろそろ…」
その時だった。
硬化の個性の子…確か切島くん…だったか?
彼の硬化が一部解除され、そこに爆豪君がピンポイントで爆発させた。
『ああー!? 爆豪の攻撃が…通ったー!?』
「ほらな」
一発でもダメージが入れば、もうここからは完全に爆豪君のターンだ。
集中力が途切れると同時に、イメージもし難くなる。
仮にここから硬化を発動させても、最初程の防御力ではなくなってる筈だ。
「す…凄い…チャンスを見つけた瞬間、一気に畳みかけてきた…。もしかして、今までずっと体力を温存してたんですか…?」
「それもあるだろうな。逆に、切島君はこうなる前に爆豪君を倒さなくてはいけなかったから、序盤に攻撃をしまくったに違いない。だから、もう彼には避けるほどの体力は勿論、個性をフル発動する程の精神力も残されていない」
「じゃあ…この試合は…」
被身子が結論を言う前に、爆豪君が最後の一撃をお見舞いし、試合が終了した。
『爆豪エゲつない絨毯爆撃で三回戦進出決定!! これで遂にベスト4が出揃った!!』
成る程…これが二回戦最後の試合だったのね。
それなら増々、試合を見れなかったのが残念だ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
三回戦…準決勝の第1試合は…あの二人か…。
これはー…姉として弟を応援すべきか?
因みに、もうここまでくると誰も彼もが試合に夢中になって、誰も悪さなんてしようとは思わないようで、全員の視線がステージに向かっている。
『準決勝! サックサク行こうか!!』
サクサク行くんかい。
セミファイナルって、かなり盛り上がる場面だと思うんだけど。
『お互い、ヒーロー家出身のエリート対決だ!! 飯田天哉VS轟焦凍!!』
なんだろう…気のせいかな…?
焦凍の奴…凄くスッキリとした顔になってないか?
後…なんか言ってる?
「飯田…悪いが、ここからは本気で勝ちに行く」
「今までは違ったと?」
「違うことは無いが…理由が変わった」
「理由?」
「あぁ。さっきまでは親父を否定する為に戦ってた。けど、ここからは違う。もう会えないと思っていた人が…家族がこの試合を見てるかもしれない」
あいつ…やっぱり私の事に気が付いて…!
「こんな俺を二度も体を張って助けてくれた…。そんな、あの人の…姉さんの優しさに全力で報いるために、俺は必ず勝つ。姉さんが助けてくれた俺は…弟は、こんなにも強いんだって証明するために。何より…次は俺が姉さんを守れるようになるために…!」
「轟君…君は…!」
焦凍の奴…言うようになりやがって…!
ちくせう…ちょっとだけ感動しちゃったじゃねぇか…。
「あれ? クロウちゃん…泣いてます?」
「な…泣いてねぇよ。目から汗が出てるだけだ」
「なんですか…そのジャイアンみたいな言い訳…」
「うっせ」
飯田君よ…君には悪いが、今回は全力で焦凍を応援させて貰うぜ…。
こんな気持ちになる日が来るとはな…やっぱ、記憶が無くても『姉』と『弟』ではあるんだな…私たちは。
『START!!』
始まった…!
試合開始と同時に焦凍が氷を這わせて先制攻撃を仕掛けたか!
ここで敢えて炎を使わないのは、純粋に互いの相性を考えているからか。
「飯田君が飛んで避けました!」
「今のアレに反応出来るのは流石だ。けど、そうして避けられるのは焦凍も分かっていた」
飯田君の個性は『エンジン』。
その出力を利用した蹴りこそが最大の武器。
キックはパンチの数倍の威力があると言われている。
それが個性によってブーストされたとなれば、その威力は推して知るべしだ。
クラスメイトである焦凍は、その事を最もよく知っている筈だ。
「飯田君の空中からのキック! でも!」
「咄嗟にしゃがんで回避したか」
しかも…それだけじゃないな。
焦凍の奴…大人しそうな顔をして、意外と抜け目がない奴だ。
「ほぉ…これは…」
蹴りが回避された瞬間、エンジンを吹かして一回転をし、間髪入れずに二撃目を放つつもりか。
しかも、一撃目とは違って今度は遠心力もプラスされている。
威力はさっきとはかなり違うぞ…!
「あ…入った!?」
「頭に入ったか…」
あれで軽い脳震盪とかしてれば、焦凍はこのまま負ける。
さて…どうなった…?
「反撃の氷…でも…!」
「これも避けられる。そこから考えられるのは…」
そうだよな…。
焦凍を場外に放り投げてからの勝利を企むよな。
けどな…ウチの弟はそう簡単に負けるような奴じゃねぇぞ?
「あ…あれ? 急に飯田君の動きが止まって…?」
「飯田君の足元…よーく注視してみ」
「足元…? あっ!?」
流石は私の被身子。
すぐに気が付いてみせたか。
「飯田君の
「最初の蹴りの時だよ」
「あ…あの時ですか!?」
「そ。どうやら、緑谷君との試合で範囲攻撃を沢山したせいで、自然と飯田君も焦凍の範囲攻撃を警戒して、ああいった『小細工』には注意を向けられなかったんだろう」
そして、一瞬でも動きが止まってしまえば、そこから一気に…。
「決着がつく」
飯田君が狼狽えた隙に腕を掴み、それを起点として一瞬で彼の体が氷で覆われていく。
こうなってしまえば、もう彼は身動きが出来ない。
「恐らく、焦凍も飯田君の蹴りは最大限に警戒していたはずだ。だから、二回目の蹴りを受ける瞬間に自分から頭を下げてダメージを軽減した」
「だから、即座に反撃に転じられた上に、最後の氷も放つことが出来たんですね…」
「そゆこと」
一見すると炎を使わなかったのは迷っている風に思えるけど、実際には違う。
これは単純に相性を考えて、あいつなりに必勝を狙ったが故の作戦だったんだろう。
『エンジン』と『炎』じゃ、余り相性がいいとは言えないからな。
『飯田…戦闘不能! 轟、炎を見せないまま決勝戦進出決定だ!!』
迷いが消えて、相性を考える余裕すら生まれてきたか。
この調子なら、決勝戦も大丈夫かもな…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
『こちら保須警察署! 至急応援頼む! 繰り返す! こちら保須警察所…』
サイレンが鳴り響く。
怒号が聞こえ、悲鳴が聞こえ、大勢の足音が聞こえる。
大量の血が地面に流れ、その中心に一人のヒーローが倒れ伏す。
それを抱きかかえる黒ずくめで、顔に火傷跡がある男が一人。
そんな二人を見下ろす、この惨状を作り出した狂人。
「富…名声…どいつもこいつも…安易に『ヒーロー』を名乗りおって…! ハァ…」
「お前は…いい加減に黙れ…!」
「ハァ…貴様ら如きに『ヒーロー』を名乗る資格は無い…」
「黙れって言ってるのが聞こえねぇのか…サイコパス野郎…!」
「この世でヒーローを名乗っていいのは…この俺を
「テメェ…!」
「貴様もそう思うだろう…? クロウの実兄…『荼毘』…」
「黙れって言ってんだよ! この『ヒーロー殺し』が!! テメェなんかにクロウを…火奈ちゃんを好きにはさせねぇ!! 妹は…兄である俺が絶対に守る!! あの子が大切にしてるもんも全部!!」
「その精神…貴様も生かす価値があるようだな…」
「テメェなんぞに、そんなことを決められて堪るかよ…!」
二人が睨み合っている最中でも、状況は着々と進行していく。
平穏の終焉は…すぐそこまで迫っていた。