準決勝第二試合。
先程とは打って変わって、今回は爆音轟く激しい試合が展開されていた。
対戦しているのは、毎度お馴染みの爆豪くんと、鳥のような頭を持つ常闇君という男子だ。
彼は…影を使う個性の使い手だったか。
『爆豪VS常闇! 先程から爆豪の猛ラッシュが全く止まらねぇ!! 一方の常闇は、ここまでずっと無敵に近い個性で順調に勝ち上がってきたが、今回の試合はずっと防戦一方状態!! 懐に入らせまいと必死に回避&防御!!』
なんと言うか…爆豪君はアレだな。
見事なまでに運にも恵まれてるな。
「これ…どういうことでしょう…? あの常闇って人は、今までずっと無双状態で勝ち続けてたのに…」
「これもまた相性の問題だろうな。しかも、二重の意味で」
「相性はともかく、二重の意味って…?」
これに関しては非常に分かりやすいと思うんだが…まぁいいか。
「常闇君の個性…あれは影を操る個性だろう?」
「みたいですね。しかも、意思もあるみたいですから、実質的に全ての対戦が2対1に近い状態でしたし…」
「成る程な。確かに強力無比だ。常日頃から自分の援護してくれる存在がいるってのは、それだけでデカい」
そう…もし状況と相手にさえ恵まれていれば、常闇君はほぼ無傷に近い状態で優勝出来た可能性すらある。
けど…彼は悲しいまでに『運』にだけ恵まれなかった。
「常闇君の個性の元は、恐らくは『闇』。試合を終える毎に物陰などで休んで個性にとっての体力とも言うべき『闇』を吸収させて回復させていた。そうでもしないと、彼の個性は全力を出せない。特に『この場所』『この時間』ではな」
「『場所』と『時間』…?」
「そ。この決勝戦が行われているステージをよーく見てみな。あんなにも開けた場所じゃあ、物陰が殆ど発生しない。彼にとっての休憩場所とも言うべき物陰がな」
「あ!?」
「そして、彼を更に追い詰めているのは『時間帯』。被身子、今は何時だ?」
「え? えっと…午後2時15分ぐらい…ですかね? …あ」
被身子が自分のスマホを使って時間を確認する。
そこでようやくコイツも気が付いたみたい。
「今日は快晴。思わずピクニックにでも行きたくなるような日本晴れだ。雲一つすら存在してない。日の光が降り注げば降り注ぐほどに常闇君の個性は弱体化していく。恐らくだが、彼は今までの試合の全てを速攻で終わらせてるんじゃないか?」
「は…はい。クロウちゃんの言う通り、常闇君は全ての試合を最低でも10分以内に終わらせてます」
「やっぱりか。それが今の状況で彼が全力を出せる限界時間。それを過ぎた瞬間、1秒毎に徐々に弱体化の一途を辿る」
ここからでも分かるほどに常闇君は物凄く焦っている。
爆豪君の個性だけじゃなく、その発想力と運動力、そして体力。
その全てが自分を大きく上回っている事実に。
「爆豪君の個性は『爆破』。汗を媒介にして個性を発動させている関係上、長期戦になればなる程に彼のエンジンに火がついていく。しかも、爆破を発動させるってことは、同時に超至近距離で『爆破の光』をモロに食らっていることになる。例え直撃を避けられたとしても、その余波である爆破の光で常闇君の『影』が大幅に弱まる。状況的には、さっきの切島君戦と似ているが、実際にはもっとヤバいだろうな。なんせ、今の状況は常闇君にとっては弱点のオンパレード状態だ。寧ろ、これほどまでに周囲が弱点だらけの状態で、ここまで戦えている彼自身に素直に感心するよ」
素のスペックが普通に高くなければ、ここまで戦うことは出来ないだろう。
もしこれが夜だったり、室内とかだったりしたら…常闇君の個性は凄まじく強くなる。
少なくとも、弔辺りぐらいなら簡単に完封出来るぐらいには。
だからこそ惜しい。本当に惜しい。
「あ…爆破の勢いを利用して…」
「常闇君の裏を取ったか」
本来ならば、裏を取った程度じゃ彼の個性は破れない。
その死角を影の個性が完璧に補ってくれるから。
だが、彼の影にとって爆豪くんの爆破は、それ自体が劇薬だ。
「む…これは…!」
おいおい…爆破の個性ってのは、こんなことも出来るのかよ…。
ほんと…『個性はイメージ次第で化ける』とはよく言ったもんだ。
「被身子。これ掛けとけ」
「これって…サングラス?」
「そ。私の『創造』で今、作った。つけとかないと、目がやられるぞ」
「そ…それって…まさか…?」
「お前の予想通りだ」
私がちょ~っと怪しく笑って見せると、急いでサングラスを目に掛けた。
それを見てから、私ももう一つのサングラスを掛けることに。
すると…?
「おわぁ!? い…今のって!?」
「閃光弾…スタングレネードってところか。攻撃能力は皆無に等しいが、常闇君にはこれ以上無い程に強力な一撃になっただろうな」
目暗ましと同時に、相手の個性にトドメの一撃をお見舞いする。
完全に決まったな…こりゃ。
『煙幕ばっかだな…どうだどうだ!?』
これ…実況する側からしたら迷惑極まりないだろうな…。
だって、状況を目で確認しにくいんだもん。
ちょっとだけプレゼント・マイクに同情するぜ。
「あ……爆豪くんが常闇君の顔を掴んで…」
「詰みだな」
脅すように、掴んでない方の手で爆破を臨海寸前で留めている。
この状況で無駄に足掻くような、そんな馬鹿な真似をする男じゃないだろう。
少しだけステージの会話に耳を澄ませてみよう。
「…………
「知ったんじゃねぇ…探ったんだよ。この俺が、何の考えも無しに爆破し続けてたと本気で思ってんのか?」
見事だ…そうとしか言いようがない。
これは完全に爆豪くんの作戦勝ちだ。
「まぁ…これに関しては単純に互いの相性が悪かったな。素直に同情するぜ。で…どうする? まだ続けるか? それとも…」
「…………降参だ」
終わったな。
時には自ら負けを認める勇気も必要なことがある。
常闇君にとっては、今がその時なのだろう。
「常闇君降参! 爆豪君の勝利!!」
『よって…決勝戦は轟VS爆豪に決定だぁ!!!』
こいつはまた…凄いカードが出揃ったもんだ。
ここまで来たら、是非とも決勝戦まで見届けて…。
「「ん?」」
おいおい…こんな時に着信かよ。
一体どこの誰が私に電話なんか…。
「え?」
「どうしたんですか?」
「マグ姉からだ…珍しい…」
普段は、何でも屋の仕事がある時にコッチから電話をするばっかなのに、向こうから電話してくるなんて…。
「悪い。ちょっと外すわ」
「これは仕方がないですね。こっちなら大丈夫ですから、マグ姉の電話に出てあげてください」
「助かる」
念の為に…廊下にあった女子トイレの個室でいいか。
あそこなら大丈夫だろう。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…もしもし?」
『あ! クロウちゃん!?』
電話に出ると、いきなりマグ姉の大きな声が聞こえてきた。
この感じ…なんか焦ってるのか?
「悪い。誰にも邪魔されずに話せる場所を探してたら出るのが遅れた」
『別に気にしなくてもいいわ。それよりも…大変なのよ!』
「何がどう大変なんだ? 順番に説明してくれ」
『あ…ごめんなさいね。本当に緊急事態だったから…』
「緊急事態…?」
マグ姉は、大人特有の余裕ある感じから、私や被身子から絶大な信頼を得ている人物だ。
そんな彼女が『緊急事態』って言うのは滅多に無い。
これは…腹を括って聞かなきゃいけないみたいだな…。
『クロウちゃんって、あのインゲニウムと仲が良かったわよね?』
「まぁな。あの人はウチの一番古いお得意様の一人だし」
お得意さまってだけでなく、他の部分でも頻繁に世話になってた。
インゲニウムさんがいなけりゃ、私が何でも屋として大成することは無かったと言っても過言じゃない。
「そのインゲニウムさんが、どうかしたのかよ?」
『クロウちゃん…驚かないで聞いて頂戴ね?』
「あぁ…努力するよ」
マグ姉がここまで勿体ぶるとは…一体何が起きたって言うんだ…。
『ついさっき…インゲニウムが『とある
「…………は?」
インゲニウムさんが…やられた…?
どこのどいつが…まさか…敵連合の誰かが…?
「誰だ…誰が…あの人をやったんだ…!」
『それが、もう一つの本題よ…。心して聞いてね…』
「あぁ…」
どこの誰だろうが関係ない…。
私の友人に手を出したことを後悔させて…!
『インゲニウムに重傷を負わせた犯人…それは…』
「それは…?」
『ヒーロー殺し…ステインよ』
「ステイン…だと…!?」
んな馬鹿な…! あり得ねぇ…!
だって…だってアイツは…私が…!
「…どういうことだ。あいつは確かにあの時…私の手でぶっ飛ばして、警察に突き出したはずだ…」
『その通りよ。確かに、奴は過去に一度、アナタに倒されて逮捕された。ちゃんと刑務所に収監もされてたわ』
「じゃあ、なんで…!」
『本人曰く『脱走した』らしいわ』
「だ…脱走って…」
ふざけんな…!
あいつがぶち込まれたのは、あの『沖縄第弐刑務所』だぞ…!
いくらステインでも、そう簡単に脱獄なんて出来る筈がねぇ…!
『どうやら、脱走する際に追跡した刑務官を何人も殺害したって言ってたみたい』
「あいつにとっちゃ、あそこの連中も立派な『粛清対象』だろうな…」
それで、また街中で『ヒーロー狩り』を始めたってことか…クソッ!
「ところで、どこでそんな情報を? まさか、マグ姉が実際にステインと対峙したって言うんじゃ…」
『いやいやいや…流石に私とあいつとじゃ勝負にならないわよ。もし本当に出会ってたら、今頃は私もインゲニウムと一緒に仲良く入院してるわよ』
「じゃあ…一体どうやって…」
『アナタの『お兄さん』が教えてくれたのよ』
「アイツが…!?」
マジかよ…俄かには信じられないけど…。
『どうやら、見つけたのは本当に偶然だったみたい。実際に救急車を呼んだのも彼なんですって』
「そっか…どうやら、借りが出来ちまったみたいだな…あいつにも、マグ姉にも」
『彼の方はともかく、私の方はそんなに気にしなくても大丈夫よ。寧ろ、これぐらいじゃ今までのお礼にすらなってないと思ってるし』
「…マグ姉の、そんな律義な所が好きだよ」
『ウフフ…それじゃあ、また今度、私の買い物に付き合って貰おうかしらね?』
「お手柔らかに頼むよ」
この人と買い物に行くと、優と同じ時みたいに着せ替え人形にされるから困るんだよなぁ…。
『彼は少しだけステインと交戦をして、その後に救急車を呼んでから一緒に病院に向かったって』
「その病院の名前は?」
『保須総合病院よ。場所は分かる?』
「大丈夫。前に何回か行ったことがあるから。被身子と一緒に行ってみる」
『いいの? まだ仕事中なんじゃないの?』
「事情を話せば大丈夫だと思う。こんな所に私を呼んでる時点でお察しだし」
『それもそうね。じゃあ…気を付けるのよ。念の為に私達も街中を見回りながら情報収集してみるから』
「ん…分かった。そっちも気を付けてな。それじゃ…また」
『またね。クロウちゃん。余り…気を落とさないでね。アナタは何も悪くは無いんだから』
「うん…あんがと」
はぁ…あのクソサイコパス野郎…!
まさか、あそこから出てくるとは…。
これは流石に想像すらしてなかった事態だ…。
「んあ?」
おいおいおいおい…この期に及んでまた着信かよ…!
今度は一体誰…な…!?
「せ…先生…!?」
冗談だろ…!?
ステインの話を聞いた次の瞬間に先生からって…。
これはもう確実に、先生の話もステイン関係なの確定じゃねぇか…!
もう既にお腹一杯だっつーの…!