マグ姉からの超衝撃的な報告の直後に来た先生からの着信。
タイミング的にほぼ確実、ステイン関連だろうな。
「…もしもし」
『あぁ…クロウかい? 仕事中に済まないね』
「そう思ってるのなら、出来るだけ手短に頼むよ」
『了解だ。では、単刀直入に言おうか』
さて…私の予想は当たってるかな…。
『ついさっき、黒霧が弔の命を受けて例のステインを迎えに行った』
「はぁ…?」
弔が…なんでステインを?
『どうやら、独断で彼を敵連合に迎え入れようと考えたみたいだ』
「馬鹿か…! あのサイコパス野郎が、どこぞの組織に大人しく属するようなタマかよ…!」
『それは僕も完全に同意だ』
珍しいな…この人が私の意見に同調するなんて。
明日は雪でも降るか?
『ステインは、お世辞にも弔に制御出来るような男じゃない。あれは余りにも危険すぎる。僕は弔の成長の為ならば多少の毒は受け入れるつもりだが、あの男は別だ。毒なんて可愛らしい代物じゃない。あれは猛毒だ。敵も味方も汚染する最低最悪の猛毒だ』
「…確かにな。下手したら、弔が激高したステインに殺される危険性がある」
『しかも、あの男はオールマイトの信奉者だ。その一点だけでも僕としては非常に受け入れ難い』
「アンタならそうだろうな」
目の前で宿敵の誉め言葉ばかり聞かされ続けたら、幾ら先生と言えども簡単に堪忍袋の緒が切れちまいそうだ。
流石にそれだけはこっちとしても勘弁願いたい。
『だから、クロウの口から弔を説得してくれないかな? ステインを連合に入れるのは止めておけと』
「先生からは言わないのか?」
『一応、僕からも苦言は呈するさ。でも、一番効果的なのは君の言葉だろうからね』
「…分かった。でも、その前に私には行く場所がある。ステインの情報を仕入れているなら…知ってるんだろう?」
『インゲニウムの事だろう? 知っているよ。彼が運び込まれた病院に行った後で構わないから、いつものバーに寄ってくれると助かるよ。それまでは僕が弔を押さえておこう』
「頼んだ。じゃ、また後で」
通話を切って…っと。
はぁ…あの大馬鹿野郎が…!
「あのステインを仲間に引き込もうとか…頭狂ってんのか…! どう考えたって無謀極まりないだろうがよ…」
あいつだって知ってる筈だろ…。
ステインが逮捕された直接的な原因…私との因縁をよ…。
とにかく、まずは被身子と関係各者への事情説明からだな。
色んな意味で気が重いぜ…全く…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
女子トイレから出た私は、廊下を歩きながらテレパシーを使って、まずは優に連絡をして事情を伝えた。
(な…なんですって!? あのインゲニウムさんがヒーロー殺しに!?)
(マグ姉からの情報だ。間違いない)
(た…確かに…あの人からの情報なら間違いないわね…)
(それでだ。突然で悪いんだけど、今から私は被身子と一緒にインゲニウムさんが緊急搬送された保須総合病院に行ってくる。後の事…任せていいか?)
(勿論よ! こっちの事は気にしないで、クロウちゃんは急いで病院に行ってあげて! 他のヒーロー達やシンリンカムイ先輩、イレイザーにはこっちから伝えておくから!)
(…頼んだ。いきなりでマジで済まない…)
(大丈夫。それよりも、余り自分一人だけで抱え込まないでね。いざって時は、私たちが幾らでも力になってあげるから)
(うん…ありがと…)
本当に…私はいい友人を持ったよ…。
こんな私には勿体ないぐらいに…。
(悪いな…焦凍…。お前の決勝戦…見られそうにないわ…)
まぁ…これに関しては、私が後で好きなだけ罵倒されればいいだけだしな…。
まずは被身子の所まで急ぐか。
余り待たせちゃ心配させちまうしな。
というわけで、観客席で待ってる被身子の所まで到着。
「待たせた」
「こっちなら大丈夫です。ところで、マグ姉から何の話だったんですか? 私も聞いていい話ですか?」
「それなんだがな…ちょっとこっちに来てくれ」
「え? え?」
困惑する被身子の手を取って、少しは慣れた物陰に移動。
そこで、出来るだけ小さな声で被身子にさっきの電話の内容を伝える。
といっても、伝えるのはマグ姉からの話だけだけどな。
「えっ!? あ…あのインゲn…」
「しー! もうちょい声のボリューム下げれ!」
「あ…ごめんなさい…」
驚く気持ちは分かるが、あの人ほどのヒーローが倒されたって話は、今はまだ一般人には聞かせない方が良い。
どうせ、後で嫌でもニュースで流れるだろうしな。
知るのはその時になってからでも遅くはない。
「どうしてインゲニウムさんが…? 犯人は割れてるんですか…?」
「あぁ…。やったのは…ステインらしい」
「ス…ステインって…! どうして、あの人が娑婆にいるんですか…!? だって、あの人は前にクロウちゃんがやっつけて、その後に塚内さんから手錠を掛けられてましたよね…!?」
「そうだ。だが、どうやら脱走をしたらしい。追跡してきた看守共を皆殺しにしてな…」
「う…噓でしょ…!?」
被身子がドン引きになるのも無理はない。
私とステインとの戦闘を最も近くで見ていたのが、他でもない被身子自身だったんだからな。
「マジで危機一髪だったところを偶然にも、あの『クソ兄貴』が見つけて、救急車を呼んでくれたんだとさ」
「荼毘さんが…。顔は怖いけど、割といい人ですもんね…」
「まぁ…確かに顔は怖いわな…」
それに関して否定しない。
例え記憶が無くても兄貴は兄貴なんだ。
妹として、これぐらいの冗談を言う権利はあるだろう。
「で、今から急いでインゲニウムさんが運ばれたって言う保須総合病院へと向かう。ここに来る途中でちゃんと優にはテレパシーで事情は伝えておいて、許可は貰ってある」
「分かりました。急ぎましょう」
よし。これで…って、また電話かよ!?
今度は誰だ…相澤さんか…。
「もしもし?」
『クロウか。
「…悪いな。もしまた仕事の依頼があったら、その時は今回の詫び代わりに格安で引き受けるよ」
『いいことを聞いた。なら、それでチャラにしてやる。それとな…』
「なんだ?」
『多分、途中でウチの生徒の飯田と会うことになると思う。あいつの事も頼む』
「ってことは、やっぱり…?」
『あぁ。飯田は、インゲニウムの実の弟だ』
「…そっか。分かった。もし会ったら、出来る限りのフォローはするよ」
『…任せた。それと、ステインとの因縁も聞いた。まさか、お前が奴の逮捕に貢献していたとはな』
「色々あったんだよ…色々とね」
『…そうか。詳しく聞くつもりはない。だが、今回の事はお前は何も悪くない。悪いのは全てステインだ。それだけは忘れるな』
「あぁ…そうだな。覚えておくよ」
『じゃあ…気を付けてな』
「ん…ありがと」
通話を切りつつ、自分がどれだけの人達に迷惑を掛けているのかを思い知る。
こりゃ…今後は少し大変な日々になりそうかもな…。
「さて…これで正式に雄英側からの許可も下りた。急ぐぞ」
「はい!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
雄英高校の校門に向かって走っていると、その途中でものすご~く見覚えのある『燃えるオッサン』が立ち塞がっていた。
「どこに行く? もうすぐ決勝戦が始まるぞ」
「エンデヴァー…」
「え? えぇ!? な…なんでエンデヴァーさんが!?」
あぁー…もう!
どうして、このタイミングで現れるかなぁ~!?
少しは空気を呼んでくれよマジで!
「どうしても外せない用事が急に出来たんだ」
「それは、焦凍の決勝戦よりも大事なことか?」
「そう言われると返答に困るけど…こっちの場合は恩人の命が掛かってる。流石に天秤には掛けられない」
「恩人だと…?」
多分、事情を話すまで絶対にどいてくれないだろうから、仕方なく手短に事情説明をしようとした…その時だった。
「なっ!? なんでここにお二人が!? あと、エンデヴァーも!?」
「君は…飯田君か」
相澤さんの言った通りになったけど、まさかこんな形で出会うとは思わなかった。
けど、これはある意味では重畳かもしれない。
「飯田君。君も今から保須総合病院に向かうんだろ?」
「は…はい! そうですが…どうして、貴女がそれを…?」
「私も今から行くつもりだったからさ。インゲニウムさんの様子を見にな」
「ど…どうして、クロウさんが兄さんの名を…?」
「あの人は、私が何でも屋として駆け出しの頃から世話になりまくってるお得意様の一人だからさ。仕事でも、プライベートでもめちゃくちゃ助けられた。私の大事な恩人の一人なんだ」
「そう…だったんですか…。そう言えば、前に兄さんの口から『若くして頑張っている何でも屋の女の子がいる』と聞いたことがあったような…。まさか、それがクロウさんの事を指していたとは…」
あの人、そんなことを弟に話してたのかよ。
きっと、酔った勢いとかで言ったに違いないな。
インゲニウム…天晴さんって、酔うと一気に饒舌になる癖があるから。
「待て。あのインゲニウムがどうした? 一体何があった?」
「クロウさん…」
「心配すんな。ここは私に任せろ」
さっきしようとした『手短な事情説明』をエンデヴァーことクソ親父にすることに。
こいつもヒーローならすぐに察してくれるはずだ。
「なに!? あのインゲニウムが倒されて病院に運ばれただと!?」
「そうだ。そして、さっき言った通り、彼は私の恩人だ。だから、急いで様子を見に行きたいんだよ」
「…そうか。それは分かった。そういう事情ならば、お前たちを引き留める理由は無い。だが、最後にこれだけは聞かせろ」
「なんだ?」
「インゲニウムをやった犯人は分かっているのか? 場合によっては、俺も出ることになるだろうからな」
「確かにな。アンタにも知る権利はあるか」
こんな所は立派にヒーローやってんだな。
はぁ…私はこれに対してどうリアクションすればいいのやら…。
「ステインだ」
「なに…?」
「少し前に巷を騒がせたヒーロー殺し…ステイン。奴が犯人だ」
「馬鹿な…!? あの男は警察に捕まり実刑判決を受けたはずだ…!」
「知ってるよ。だって、ステインを捕まえたのは私だもん」
「なんだと!?」
「そ…そうなのですか!?」
今まで黙ってた飯田君も急に割り込んできた。
で、被身子はエンデヴァーにビビってずっと涙目状態で私の背中に隠れてる。
流石に少し可哀そう。
「奴は脱走して再び暴れ始めた。今どこにいるかは分からない」
「そうか…分かった。ヒーローとして、その情報をいち早く聞けただけでも上等だ。戻ったらすぐに対策をせねば」
是非ともそうしてくれよ。
父親としては最低でも、一人のヒーローとしては普通に頼りにしてるんだからさ。
「時間を取らせて悪かったな。焦凍には俺から言っておく。お前たちは急いで病院へと向かえ」
「言われなくても。被身子。飯田君。待たせちまって悪かった」
「いえ…私は大丈夫ですから…」
「僕もです。気にしないでください」
被身子はともかく、飯田君は言動とは裏腹にめっちゃ焦っているのが顔から分かるな。
それは私も同様だけどさ。
「仕方ない…エンデヴァー」
「なんだ」
「今から個性を使って一気に病院まで向かう。プロとして個性の使用許可が欲しい」
「いいだろう。ヒーロー『エンデヴァー』の名に於いて、クロウが個性を使うことを許可する。遠慮なく行ってこい」
「了解だ。じゃあ…あれを使うか」
あれってのは勿論、黒霧が使ってる転移の個性。
これなら文字通り、一瞬で辿り着ける。
「こ…これは、あの時の黒い男が使ってた…!?」
「そ。ここを通ればすぐに着く。これで時間のロスは取り戻せるだろ。急ぐぞ、二人とも」
「「はい!」」
こうして、私たちはやっと保須総合病院へと向かうことが出来たのだった。
頼むから…変なフラグだけは立ってくれるなよ…!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
クロウ達が病院に向かって転移した後、少しの間だけエンデヴァーはその場に佇んでいた。
「まさか…あの火奈が、ヒーロー殺しの逮捕に貢献していたとはな…」
遠い昔、自分が勝手に『無個性』と判断して養子に出してしまった実の娘。
十数年振りに会ったと思ったら、想像以上に強く、逞しく成長をしていた。
かつての己の愚かな選択を全否定したくなるほどに。
「ステイン…奴は間違いなく火奈の事を狙ってくるだろう。だが…そう簡単には襲わせん…!」
彼の怒りを表現するかのように、全身から炎が噴き出す。
「もう二度と…火奈を…娘を…失ってたまるものか…!!」
それはヒーローとしての言葉なのか。
それとも父親としての言葉なのか。
ただ一つだけ分かっていることは、エンデヴァーはまだ見ぬステインに対して強い怒りを抱いていると言うことだけだった。