入学早々に個性把握テストをやったり、色々と問題点が噴出したオールマイトが行った戦闘訓練。
それらを経て今日の午後から行われる予定の『救助訓練』。
懸念点が決してないと言えば噓にはなるが、だからと言って中止にするわけにはいかない。
「急に険しい顔をして、どした?」
「いや…ちょっとな。この間のマスコミ騒動のことを思い出していた」
「あぁー…あの、何者かに雄英バリアーがぶっ壊されてた事件か」
職員室にて授業の準備をしていた俺の隣で、同僚で友人でもあるプレゼントマイクが、珍しく怪訝そうな顔をしてこっちの顔を覗き込んできた。
友人なんて言ったら、確実に茶化してくるから絶対に口には出さないが。
「あれなー…どう考えてもマスコミ連中は囮としていいように利用されただろ。当人たちは全く気が付いてないだろうけど」
「だろうな。問題は、あそこまで大胆なことをして、一体何が目的だったのか…だが…」
「それが分かれば苦労はしねぇだろ。調査が終わるのを待つか、もしくは犯人に直接聞くかでもしない限りはな」
「…確かにな」
犯人の正体も、その目的も全くの不明。
実質的な被害は校門にある雄英バリアーのみ。
確かに困ると言えば困るが、人的被害が出るよりは遥かにマシだ。
(なんだろうな…この妙な胸騒ぎは…)
もし、こんな時…あいつなら…クロウなら…どんなことを言うんだろうか…。
何故か不意にそんなことを考えてしまった。
あれから一度も会っていないというのに、俺の記憶の中に鮮烈に残っている女。
「今度はまたどしたよ? タダでさえ普段から皺が寄ってる眉間が、更に深くなってやがるぜ?」
「うるさい。…少し、昔のことを思い出しただけだ」
「昔って?」
「2年前の神野でのことだ」
「神野って…あぁー! あの、お前に何故か協力してくれたっつーワイルドな女の子のことか!」
「裏社会に身を置いてはいたが…不思議と悪い奴には見えなかった。らしくないと分かっちゃいるがな」
「別にいいんじゃねぇーの? どんな場所にだって、いい奴はいるってことダロ?」
「…かもな」
今回の救助訓練も、何もなければいいんだがな…。
なんて言っていると、必ず何か問題が発生するのがお約束なんだよな…。
このフラグが回収されないことを切に願うよ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
バスに乗って敷地内を移動し、先にUSJに到着していた13号と合流する。
いつ来ても、この場所の名前は色んな意味でギリギリだな。
何がとは、あえて口には出さないが。
「おい13号。オールマイトはどうした? 予定ではここで待ち合わせることになっている筈だが?」
「あ…先輩。それがですね…」
この流れは…嫌な予感しかしない。
「実はあの人、通勤時に
「不合理極まりないなオイ」
それでいいのかナンバー1ヒーロー。
「はぁ…まぁ…仕方がないが、始めるか」
一応、念の為に警戒レベルを上げておくか…。
そうして、13号のお小言と言う名のスピーチが始まった。
気持ちは分かるが、もっとスマートに出来ないのか。
合理的にいけ。合理的に。
「以上! ご清聴ありがとうございました!」
終わったか。
生徒たちは拍手喝采で興奮しているが。
「それじゃあ、まずは…」
俺が最初の指示を出そうとした…その時だった。
(なんだ…?)
背後…より正確に言うと、少し離れたセントラル広場にある噴水付近から妙な気配を感じた。
反射的に背後を振り返ると、そこには…。
「全員!! 一塊になって絶対に動くな!!」
黒い『靄』のような物から這い出るように現れた…。
「13号!! 生徒達を守れ!!」
「な…なんだありゃ? またぞろ入試の時みたいに『もう始まってるぞ』的なパターンか?」
「違う!! あれは…あいつらは……『
人の形をした悪意の塊がいた。
「ふむ…『13号』に『イレイザーヘッド』…ですか。先日
「その物言い…矢張り、この間のは糞共の仕業だったってことか」
ここまで堂々と侵入を許すとは…あの黒い靄みたいな奴の個性の仕業か。
恐らくは
「オイオイ…どこだよ…折角…こんなにも大衆を引き連れてきてやったってのにさ…オールマイト…平和の象徴…肝心要の奴が不在だなんて…」
この感じ…あの上半身に無数の手をくっつけてるやつがリーダー格か…!
アレをどうにか出来れば、あるいは…!
「子供でも殺害すれば…来てくれるのかな?」
何つー殺気だ…!
今まで、どんな人生を歩めば、こんな殺気を出せるんだ…!
「…つーか、おい。『アイツ』はどうした? 姿がねぇぞ」
「彼女なら、確か…」
なんだ…また黒い靄から誰かが出てくる?
あの細い腕は…女…か…?
「悪かった。トイレしてたら少し遅れた」
「…だそうです」
「緊張感皆無かよ。ま、らしいっちゃ、らしいけどな」
ば…馬鹿な…!
あいつは…あの女は…!
「ここが天下の雄英か。凄いなこりゃ。これで単なる一施設なんだろ?」
なんで…なんで…なんで…!
「なんで! お前がそこにいるんだ!! クロウ!!!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
侵入と同時に、なんか大声で名指しされたんだけど。
何事かと思って顔を上げると、階段の上からこっちを見下ろす、凄く見覚えのある黒ずくめの男がいた。
「うわー…マジかー…」
見事にフラグ回収しちまったなー…オイ。
この状況…どーしましょ。
「こんなことなら、ちゃんとカリキュラムを読んでおけばよかった」
「読んでないんですか?」
「大丈夫だと思ったから」
「やる気あんのかよ…」
ちゃんとあるよ、別方向のやる気なら。
それはそれとして…。
「…まさか、こんな形で再会するとはね。イレイザーヘッド。いや…ここじゃ相澤先生って呼ぶべきかな?」
「どっちでもいい……調べたのか」
「少しだけ。気になったから」
「…そうか」
姿も性格も2年前から全く変わっていない…。
いや…ほんの少しだけ老けたかな?
「ヴィランに…堕ちたのか…」
「さぁ…どうだろうね。ご想像にお任せするよ」
ほんと…気まずいったらありゃしないな。
でもまぁ…よくよく考えたら、遅かれ早かれこうなる運命だったのかもな。
彼が表側の住人で、私が裏側の住人である以上は。
「先輩…あの子のこと…知ってるんですか?」
「…前に話しただろう。神野で協力してくれた…」
「現地協力者の女の子っ!? 彼女がっ!?」
「あぁ…!」
あの時のこと、他の同僚にも話したのかよ。
多分、私のことだけだろうな。
それっぽい反応してるし。
「それが、どうしてヴィランと一緒に…?」
「こっちが聞きたい…!」
だろうな。
その気持ちはよく分かるよ。
それから、背後の生徒たちがワーキャーと騒ぎ出したかと思ったら、相澤さんの指示で外への連絡を試そうとしてる。
電話とかとは別に、個性でなんかやろうとしてるな?
通信系か、もしくは電気系か?
「クロウ…」
「イレイザーヘッド…」
首に巻いてる紐っぽいものを解きながら、その顔にゴーグルをつける。
これは…来るな。
後ろの生徒君たちが凄く心配しているが、そんな彼らにズバッと一言。
「一芸だけじゃヒーローは務まらない」
御尤もで。
「13号。ここは任せたぞ」
「…分かりました」
階段の上から思い切り飛び込んできた!
普通に考えたら、このまま狙い撃ちにあう…だろうが…。
「射撃隊!! いくぞぉっ!!」
「いや待て! 情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったのかっ!?」
「ありゃ一体誰だっ!?」
「さぁな! だが、誰だって関係ねぇ! たった一人で正面突破をしようとは…」
「「「大まぬけ!!!」」」
お前たちがな。
「あ…あれ?」
「個性が…」
「出ねぇっ!?」
アホ共が狼狽えてる間に細い布で捕縛されて、そのままお互いの頭がゴッチンコ。
いったそー。
「バァーカ。間抜けはテメェらの方だっつーの」
「「「あぁっ!?」」」
「イレイザーヘッドの個性は『抹消』。視界に入れた相手の個性を問答無用で使用不能にするっていうチート個性だ」
「「「はぁぁっ!?」」」
「正面から来たのは、お前ら全員の個性を封じるため。そうなりゃ、後はもう単純な殴り合いだ。少なくとも、碌な訓練もしてないような素人ヴィランが勝てるような相手じゃねぇよ」
「「「そういうことは先に言っとけ!!」」」
「自分たちのリサーチ不足を人のせいにするんじゃねぇよ」
だから間抜けだって言ったんだよ。
はぁ…馬鹿との会話は疲れる…。
「これはクロウが正解ですね」
「だな。これは…予想以上に予想以下かもな」
黒霧と弔からも言われてやんの。
仕事とはいえ、こんな奴らと一緒にいなきゃいけないとは…ストレス溜まる。
「丁寧な解説ご苦労さん。お前…マジでなんなんだ?」
「さぁ…?」
それに答えられる人間は、この世のどこにもいないだろうよ。
「個性を消ぅ~? へっへっへっ…だったら…俺達みたいな『異形型』の個性も消せるのかぁ?」
あ…なんか腕が四本もあるゴツいのが来た。
だから何だって感じだが。
「残念だが無理だ」
と言いつつ顔面パンチ。
中々にいい音出してるな。
相澤さんは細マッチョなのかな?
「俺が消せるのは基本的に発動系や変形系に限られる。だが…」
後ろから殴ってきた奴の拳を咄嗟に躱して、そのままの流れで布でさっき殴った奴の足を捕まえ、遠心力を使って投げてから同士討ち。
「お前たちのような連中は統計的に近接戦闘を好む傾向にある。故に…その辺の『対策』は万全に整えている…つもりだ」
「お見事」
思わず私だけ拍手。
イレイザーの戦闘を見られただけでも、こっちに来た甲斐はあったかもな。
「クロウ…お前は戦わないのか?」
「私は戦わないよ。少なくともアンタとは…ね」
「俺とは…か。一応言っておくが、例えお前でも、生徒たちに何かをした時は…容赦しない」
「分かってるよ。おー怖」
そんなに睨まなくても、あのガキどもに手を出す気はないよ。
弱い者苛めは趣味じゃないしな。
「本当に厄介だな…肉弾戦でも強くて、更にはゴーグルで目線を隠して『誰をどのタイミングで抹消しているか』が全く分からない。こういった集団戦では、そのせいで連携が疎かになってしまう…成程…」
なんか隣で弔がブツブツと言ってる。
こいつ、こんな分析キャラだったか?
「嫌だよな…プロヒーローってのは…有象無象共じゃ全く歯が立たない」
「それ前提で連れて来ておいて何言ってるのやら」
「五月蠅いぞクロウ…」
「はいはい」
階段の上じゃ、相澤さんの活躍に目を光らせている生徒たちが。
いやいや…何やってんだよガキども。
んなことしてる暇があるなら、とっとと逃げようとせんかい。
「呑気に分析をしている場合じゃない!! 早く避難を!!」
そーそー。
そこの眼鏡君の言う通りだぞー。
「大人しく逃がすとお思いで」
「あ」
相澤さんが一瞬、瞬きをした隙に黒霧が動いて、生徒たちの逃げ道を塞いだ。
顔に似合わず抜け目のない奴。
「取り敢えずは自己紹介を。我々の名は『
え…何それ。
私たち…そんな組織名なの?
もうちょっといいのは無かったのかよ…。
「僭越ながら…こうしてヒーローたちの巣窟である雄英高校に侵入させて頂いたのは…」
あ…言うんだ。
『お前たち』の目的を。
そう…あくまで『お前たち』の…ね。
「平和の象徴『オールマイト』に…今日…息絶えていただきたいと思ってのことでして」
あーあ…言っちゃった。
出来もしないことを恥ずかしげもなく堂々と。
私なら口が裂けても言えないな。
「…………は?」
ほら…生徒の一人のもじゃもじゃ頭くんも『意味不明』って顔してるし。
君の気持は凄くよく分かるよ。うん。
「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃる筈ですが…何故かどこにもいない。何か予定の変更でもあったのでしょうか?」
ま…天下の雄英だしな。
こうなることぐらいは想定してたってことなんじゃないのか?
「まぁ…それはそれとして、私の役目は別にあるのですけどね」
黒霧が個性を発動させようと靄を展開しようとする…が、そこに二人の男子生徒が突っ込んできた。
片方は悪そうな顔してるなー。
もう片方に至っては上半身裸かよ。
今の高校生ってアレが流行りなのか?
「その前に俺たちにやられることは!!」
「考えてなかったかっ!?」
おぉ…爆発とあれは…硬化の個性か?
地味に強い奴じゃん。
…黒霧には意味なかったみたいだけど。
「危ない危ない…そうだった。まだ生徒とはいえ、優秀な金の卵であることには違いない。だからこそ…」
靄が広がって生徒たち全員を覆いつくす。
13号が急いで非難を促すが、時すでに遅し。
「散らして」
一人…また一人と…。
「嬲り」
漆黒の霧に包まれ…。
「確実に殺す」
消えていった。
「お前ら!! おいクロウ!! あいつ等を何処へやった!?」
「悪いけど、それは私にも分からない。飛ばしたアイツが行き先を指定してるから」
「…クソっ!」
けど…流石に全員は無理だったか。
しれっと散らばってたしな。
何人かが、まだ階段の上に残ってるみたいだし。
特に、13号が残ったのはやばいかもな。
災害救助特化型ヒーローとはいえ、プロであることには違いないから。
(ここから私は…どう動くかね…)