なんだろうか…この状況は…。
脳無の野郎に蹴り飛ばされたかと思ったら、今度は遂にやって来たオールマイトに体を支えられている。
遠くじゃ相澤さんが心配そうにこっちを見ているし、子供たちが涙を浮かべながらオールマイトの方を見ている。
で、13号に至っては私と同じ心境なのか、顔の見えないスーツ越しにも『なんじゃこりゃ』的な雰囲気を出していた。
「凄く嫌な予感がしてね…校長先生の長話を振り切って、全速力でやって来たよ」
なにその『校長先生の長話』って。
まさかとは思うが、このナンバー1ヒーローは遅刻の説教でもされてたのか?
一気に世紀の最強ヒーローが庶民染みてきたな。
「ここに来る途中で飯田少年とすれ違い、彼の口から、この場で一体何が起きたのかのあらましを聞いてきた」
そうか…あの眼鏡君…ちゃんと校舎まで行けたんだな。
やるじゃないか…委員長。
「全く…今日ほど己の不甲斐無さに腹が立ったことはない…!!」
オールマイト…?
周りには聞こえないようになんか言ってやがる。
私には丸聞こえだけど。
「子供たちがどれだけ恐怖していたか…! 後輩たちがどれだけ頑張ってくれたか…!!」
まぁ…教師とヒーローの狭間で頑張ってたとは思うよ。
特に相澤さんは頑張ってたと思う。
「しかし…!! だからこそ…私は胸を張って、こう言わなくてはいけないのだ!!」
おい…まさか…冗談だろ…?
「もう大丈夫…私が来た!!!」
「「「「「オールマイトォォォォォォォッ!!!!!」」」」」
ウルセー!!
こんな至近距離で大声を出すんじゃねぇよ!!
鼓膜に響くだろうが!!
「おい…ナンバー1ヒーロー…」
「ん? そういえば、君は一体…? 吹き飛んできたので、思わずキャッチしてしまったが…」
「私のことはどうでもいい。それよりも、とっとと放せ。体がミシミシして痛いんだよ。セクハラで訴えるぞ」
「おっと! 済まない!」
やっと離れられた…。
事故だったとはいえ、異性からあんな風に後ろから抱き留められたの初めてだぞ…。
「って、よく見たら血だらけじゃないか!? いや、そもそも君は誰だっ!? 雄英の生徒…じゃないか。では、私の知らない教師?」
「どっちも見当違いだよ、この筋肉達磨。こんな入れ墨を入れた教師がいてたまるか」
「き…筋肉達磨っ!?」
別に間違えてはいないだろ。
全身筋肉の塊みたいな図体をしてるんだから。
「えっと…彼女は…その…何と言いますか…。今回侵入をしてきた『
「敵連合…? では、彼女はヴィランなのか…?」
「一概にはそうと言い難く…少なくとも、彼女自身は僕たちに一切危害を加えてませんし、それどころか何度も助けられたと言った方が正しくて…。少なくとも、先輩…イレイザーヘッドは彼女のことをヴィランではなく味方としてカウントしているみたいなんです」
「あの相澤君が…」
もしかして…相澤さんって雄英の中じゃ割と人望がある方だったりする?
人は見た目じゃ分からないとは、よく言ったもんだ。
「状況としては、敵連合の主犯格と思われる二人は既に退却済み。彼らが引き連れてきたチンピラ紛いのヴィラン達はまだ健在ですが、この広場にいる者たちに限って言えば、完全に戦意喪失しているみたいなので捕縛は容易かと。問題があるとすれば、それは…」
「アイツか」
「はい」
脳無の奴がジッとこっちを見て固まっている。
そういや、本来はこいつの役目はオールマイトを倒すことだったか。
よくよく考えたら、こいつも哀れなもんだ。
絶対に勝ち目がない相手と戦えって言われてるんだからな。
「敵連合の切り札のようでしたけど、理由は不明ですが暴走をしてしまったようで、本来は味方であるはずの彼女を攻撃し、そのまま…って感じですよね?」
「いや、どうしてそこで私に聞く?」
「え? あ…ははは…」
しっかりしてそうで、意外と抜けてるやつだな?
「まぁ…間違っちゃいないかな。実際に野郎はこっち側にも被害を出してる。もう敵味方の区別が出来てない可能性すらある。闘争本能に身を任せ、自分に向かってくる相手を反射的に攻撃する…そんな感じだろうな」
「なんと厄介な…!」
半分ぐらい、原因は私にもあるんだけど。
元を辿れば、死柄木のガキの我儘を聞いた先生に責任があるんだけど。
こんなことを言っても、あの男は笑って論点をズラしてくるんだろうな。
「では、彼女のその傷は、奴と戦って出来たものなのか」
「そうなります。彼女が戦ってくれてなかったら、どれだけ被害が拡大していたか…想像もできません。下手したら、このUSJも壊滅し、子供たちも無事では済まなかったかもしれません」
「そうか…」
なんか…妙に私を擁護してないか?
そこまで言われるようなことをした覚えはないんだが。
「子供たちと後輩らを守ってくれてありがとう。だが、もう大丈夫だ。ここからは私がやろう」
「あ?」
オールマイトが私のことをそっと下がらせて、自分が前に出た。
ここからは役者交代…ってか?
でも残念。
そうは問屋が卸さないんだよ。
「そっちこそ引っ込んでろ。あいつは私の獲物だ」
「何を言ってるんだ! 君は傷だらけじゃないか!」
「それがどうした。こんな傷や痛みなんてのはな…」
今度は私がオールマイトを押しのけて前に出る。
人の仕事を邪魔するんじゃないよ。
「歯ぁ食い縛って、気合を入れてれば幾らでも我慢できるもんなんだよ」
「君は…!」
本当はオールマイトが来る前に決着をつけて、とっととトンズラしておきたかったんだが…こうして来てしまった以上は仕方がない。
もうこれ以上はマジで時間を掛けるわけにはいかない。
脳無の戦闘力が予想以上だったとか、そんな言い訳はもう通用しないな…。
だからこそ…。
(こっちも『切り札』を使わざる負えない)
本当は、こいつはいつの日か必ず来るであろう『決戦』に向けて秘匿しておきたかったんだけどな。
何となくだが、私には『予感』がある。
近い将来、必ず私は先生と対決する日がやってくると。
その時に使う予定だったんだけど…それに備えた予行演習だと思うか。
本番で使えなかったら話にならないしな。
「見せてやるよ…私の奥の手ってやつをよ…!」
軋む体に鞭を入れ、両拳を体の真ん中で合わせてから精神を集中させる。
発動するのは、偶然にも誕生してしまった未来への大いなる遺産。
「ワン・フォー・オール…120%!!!!!」
瞬間、私の全身から凄まじい量のエネルギーが放出される。
それは緑色の電となって周囲に迸った。
「そ…それはっ!!!! どうして君がそれをっ!!!???」
「アンタが聞きたがる気持ちは分るよ。けど…そんな暇はなさそうだぞ」
「なにっ!?」
噴水近くにいる脳無は、傍にいる相澤さんには目もくれず、こっちを見つめながらその巨大な体躯を曲げた。
あれは…来るな。うん。
しかも、多分…。
「成程な…そういうことか」
「どうしたんだい?」
「あいつの…脳無の本来のターゲットはアンタだ。オールマイト」
「あれが…私をっ!?」
「そうだ。どうやら暴走しても、その身に刻まれた本来の相手だけは忘れなかったみたいだな。ってことは、つまり…」
「奴のターゲットは今、私と君の二人になっているということかっ!?」
「多分な。ほら…来るぞっ!!」
「むっ!!」
全身のバネを使って、脳無は一筋の流星のように脚力全開で突っ込んできた!
しかも、ちゃんと私とオールマイトの両方を攻撃できるように、両腕を突き出した体勢で!!
「ガキどもは下がってろっ!!! 巻き込まれても知らねぇぞっ!!!!」
「彼女の言うとおりだ!! 13号!! 子供たちを頼む!!」
「わ…分かりましたっ!!」
来るなら来やがれクソ脳無!!
姉の偉大さを、その身に刻み込んでやるよっ!!!
「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」」
脳無の両拳と、私とオールマイトの拳がぶつかり合い、その衝撃波で周囲の手すりや床が粉微塵に砕け散った。
「向こうに…!」
「行きやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
なんか右腕から絶対に鳴っちゃいけない音が聞こえてくるが、気にせずにオールマイトと一緒に脳無を噴水のある場所までぶっ飛ばす!!
脳無はそのまま噴水に激突、ド派手な水飛沫と共に瓦礫に埋もれた。
「「まだだ!!」」
これ以上、この入り口付近を戦場にするわけにはいかない。
下手したら、外で戦う羽目になるかもしれない。
そうなったら色んな意味で始末に負えなくなる!
だから、そうなる前に再び私も噴水の所まで戻る!
当然、オールマイトも一緒に来たけど。
「ただいま」
「…おかえり」
おぉ…相澤さんが律義にボケてくれた。
意外とユーモアのセンスがあるな。
ちょっとだけ見直したぞ。
「な…なんなんだよこれ…なんなんだよこれぇっ!?」
「どうして、あのオールマイトとクロウがコンビを組んでんだよっ!?」
「およそ考えうる最悪のパターンじゃねぇか!!」
「あ…オワタ」
おや、どうやらチンピラ共の精神にトドメを刺してしまったみたい。
流石に少し可哀そうだったか…。
「相澤君! 君も無事かっ!?」
「えぇ…御覧の通り。クロウのお陰で殆ど無傷ですよ」
「クロウ…それが君の名前か」
「ん? あぁ…まぁな」
「改めて、子供たちと相澤君たちを守ってくれて感謝する! ありがとう! クロウ少女!」
「いや…別に守ってないけど。あと、私は少女じゃない。ちゃんと成人済みだ」
「えっ!? そうなのっ!? なんかゴメンねっ!?」
謝られた。
オールマイトから謝罪されるって、何気に貴重じゃない?
「オ…オールマイト!!」
「緑谷少年! 遅れて済まなかった!!」
「い…いえ! それよりも、その人…」
「大丈夫! 彼女は味方だ!!」
遂には断言しやがったよ。
マジで竹を割ったような性格してんのな。
「君たちは早く、相澤君と一緒に入口にいる皆の所まで非難するんだ! ここは私に…いや!」
なんだろう…イヤーな予感。
「私たちに任せておきなさい!!!」
完全に私も数に入れられてる…。
ほぼ確実に、この場限りの即席タッグなのに。
「はぁ…ったく…そういうことだから、今度こそ子供らを下がらせてくれ。相澤さん」
「…そうだな。おい、お前ら。早く水から上がって来い。風邪ひくぞ。そんで、13号達の所まで戻ってろ」
「え? 先生は…?」
「俺は、他の奴らの所に行ってくる。恐らくは、各エリアにバラバラに飛ばされてるんだろう。違うか? クロウ」
「多分な。早く行ってやりな、先生」
「あぁ。分かってる」
こんな時もちゃんと他の生徒のことも考えてる…か。
なんだ、ちゃんと先生やれてるんだ。
「い…いいんですか? あの人は…」
「構わん。さっきオールマイトも言ってただろ。あいつは味方だ。それに…」
「「「それに?」」」
「あの二人…この状況においては間違いなく最強のコンビだろ」
ハッキリと言ってくれちゃって。
それに対して、私はどう反応すればいいんだ?
「コンビだとよ、ナンバー1ヒーロー様」
「HAHAHA! 君みたいな可愛らしいお嬢さんの
「そーかよ」
こんな時に冗談を言う余裕までかましてくれちゃって。
けど…だからこその不動のナンバー1なんかもしれないな。
「なんて言ってる場合じゃないみたいだな」
「そのようだね。流石は私を狙うだけはある。もう復活してくるか」
全身に水を浴びながら、何にもなかったかのように瓦礫をどかしながら起き上がってくる脳無。
けど、ショック吸収も限界が近いようで、ところどころにダメージの跡が散見される。
超再生の方も遅くなっているし、さっきまでの戦いは決して無駄じゃなかったな。
「おい、お前ら」
「ク…クロウ…」
「こっからはマジの死闘になる。お前らに配慮して戦うなんて器用な真似は出来ねぇぞ。巻き込まれて死にたくなかったら、もうすぐやって来るだろうヒーロー達に大人しく捕まっとけ。そうすりゃ、少なくとも死ぬことだけはないだろうよ」
「も…もし死柄木達の所に戻ったら…?」
「あの中身クソガキな弔が、肉壁にすらなれないお前らを大人しく生かしておくと思うか?」
その一言で全てを察したのか、顔を青くした息のあるチンピラヴィラン共は一斉に入り口目掛けて走り始めた。
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」」」
これでよし…っと。
あいつらのことは雄英の連中に任せよう。
「よかったのかい?」
「いいんだよ。所詮、あいつらは今回の為に集められた日雇いのバイトみたいなもんだ。完全に心も折れたみたいだし、生徒たちに手を出すこともしないだろうよ」
「そうだったのか。なら、彼らのことは他のヒーロー達に任せて問題ないな」
「そーゆーこと。んじゃ、もうそろそろ…」
「決着をつけるとしようか。頼んだよ、クロウ君」
「そっちこそな、オールマイト」
まさか、あのオールマイトと一緒に戦うことになるとはな…。
世の中、何があるか分からないもんだ…。
けど…悪くない。
偶にはこういうのも…な。
弔が見てたら癇癪起こして首を搔きまくってただろうけど。
(いい加減…終わらせてやるよ。お前の無意味な戦いをな)