ショウマを逃がすためのシータとジープとの戦いは、日が沈むまで続いていた。
「こいつ、やっぱり強い……!」
「俺たちの攻撃が通用しねぇ……」
「確かにお前たちの連携力は目を見張るものがある。だが、いくら双子といえど必ず僅かな綻びが生じるものだ」
その隙をつけば、こちらが崩されることはない。このままショウマたちが逃げ切れるまで、のらりくらりと時間を稼ぐ。
「しかも、さっきから受け流すばかりで全然自分から攻撃してこねえ!」
「私たちを舐めやがって!!」
シータが射撃し、ジープが向かってくるが、俺は銃弾をヴァルプスラッシャーで的確に弾き、ジープの剣戟を最低限の動きで避ける。
(最初は右振り、そこから斜めに突き上げて、視線を誘導した隙に足払い、だろ?)
「!?全部避けて…!」
「はっ!」
俺は足払いを避けるためにジャンプし、そのままジープに蹴りを食らわせる。ジープはシータの元まで後退し、体勢を立て直した。
「お前たちの連携は強力だ。だが個人技はまだ甘い。連携を見極めれば受け流すことなんて造作もないことだ」
「…えっ?」
「……そのアドバイス…!」
(っ、しまった!ついアドバイスみたいなことを…!しかもこれは…!)
シータの声からは、先ほどまでの怒りは消えていた。
「忘れるはずがない。だってそのアドバイスは……」
それは、俺がまだストマック社にいた頃、シータとジープが幼い頃はよく戦闘の練習の面倒を見ていた。
『どう?ディル兄さん!』
『前よりもっと強くなったよ!』
『ははっ、そうだな。でも、連携は強力だけど、個人技はまだ甘い』
『じゃあ、どうしたらいいの?』
訪ねてきたシータに対して、俺はしばし考え込んだ後、答えた。
『2人の連携は掛け算だ。個々の力を磨けば磨くほど、もっとすごくなる』
『掛け算…?』
『ごめんごめん、2人にはまだ難しいか。そのうち分かるさ』
「「……ディル兄さん、なの?」」
「っ!!」
2人の声が重なる。もう、言い逃れはできないか。そう思っていると、ゴチゾウが一匹、俺の元に来た。どうやらショウマたちは無事みたいだ。
「……ごめん」
<ワッフル・バレット!>
「「兄さんっ!」」
俺は地面に向かって弾丸を放ち、それによって生じた煙に紛れてその場から離脱した。そう、俺はまた、逃げたんだ。
「待って!」
ジープの呼びかけも虚しく、その煙が晴れた頃には、そこには誰もいなかった。
「やっぱり兄さんなんだ。ヴァルプがまさか、ディル兄さんだったなんて……」
シータは信じられないといった様子で呟く。それもそうだろう。長らく自分たちと敵対していたグラニュートハンターが、ずっと探し求めていた実の兄だったのだから。
「何で兄さんは私たちの邪魔を…?何で人間の味方を?」
「ストマック社から居なくなったのと、関係があるのか?」
次々に疑問が湧いてくる。そしてその疑問はやがて、特定の個人に対する怒りへと変わっていく。
『兄さん、姉さん、誕生日おめでとう!』
『『……いらない!』』
ショウマが誕生日プレゼントとして差し出した黒い花を、2人は払い除け、踏みつける。そんな様子を見て、先ほどまで共に食事をしていたディルは2人を叱った。
『おい、ショウマをいじめたらだめだろ。ごめんなショウマ。俺がみちるさんのところまで連れて行くよ』
『うん……』
『『……何で?何でそいつなんかに構うの?』』
ショウマを連れて行くディルを見た時にふと2人の口から零れたのは、そんな疑問だった。あの日の光景を思い出したシータは、唇を噛みしめる。
「…赤ガヴだ。あいつが生まれてから、兄さんはおかしくなった」
「あいつがいるから、ディル兄さんは人間なんかの味方をしているんだ」
「「赤ガヴが、兄さんを唆したんだ」」
あんなにも優しかった兄が、自分らを見捨てるはずがない。だとすれば、それはショウマ、もとい赤ガヴのせいだと、その思考へと変わっていく。
それからの2人の行動は早かった。先ほどまでのヴァルプとの戦闘の疲労など無かったかのように、人間の街で騒ぎを起こした。
『赤ガヴ、溝口倉庫で待つ。来なければ、被害は広がる』
大きくグラニュート語で文字を綴り、場所を指定し、ショウマが一人で来るように指示した。
(人間を傷つけてまで俺を誘い出そうとするなんて……。罠だってことは分かってる。それでも、行かなきゃ!)
ショウマはそれを見るなり、すぐにその場所へと向かった。
「よかった。グラニュートの文字、まだ覚えてたのね」
「もう人間の文字しか読めないと思ったぜ」
「俺を誘い出すために、人間を傷つけるなんて…」
「「お前が逃げたからだろ!!」」
ショウマの言葉に対し、2人は口をそろえて反論する。
「人間が傷つくのも!」
「お前が狙われるのも!」
「私たちが見限られたのも!」
「離れ離れに引き裂かれるのも!」
「「ディル兄さんが人間なんかに味方するのも、全部全部赤ガヴのせい!!!」」
「俺が…奪った?」
シータとジープの慟哭を聞いたショウマは、拳を握りしめる。
「母さんの人生を奪って、たくさんの人間の命を奪い続けたのはお前たちだろ!ディル兄さんは、ただ人間もグラニュートも、平等に接してくれただけじゃないか!!」
「お前たちと私たちが…ディル兄さんが同列だっていうの?」
「思い上がるな!」
「「お前も人間も、全部この世から消してやる!!」」
「シータ、ジープ…ここで決着をつける!変身!!」
シータとジープはグラニュート体へ、ショウマは仮面ライダーガヴへと変身し、戦闘を開始した。
「結局、何も言わずに逃げてきちゃったな…俺、逃げてばっかりだ」
俺の存在がストマック家に伝わるのも時間の問題だ。ランゴ兄さんたちは裏切り者の俺を血眼になって探し始めるだろう。そうなったら、きっと……。
「潮時……なのかもな」
そもそも、人間の中にグラニュートである俺が溶け込めるはずなんて……。そう思ったタイミングで、絆斗から電話がかかってきた。
『守!ショウマが今やべぇグラニュートと戦ってる!お前はショウマのとこ行ってくれ!』
「えっ?ちょっ……!」
急いでいたのか、それだけ言って絆斗は電話を切った。絆斗からはグラニュートの被害と思われるSNSの投稿が送られてきていた。だが、その中に妙な画像が混じっていた。
「これって、グラニュートの文字か…?『赤ガヴ、溝口倉庫にて待つ』!?」
(このままじゃ、ショウマが危ない!)
俺は急いで溝口倉庫へと向かうのだった。
シータとジープとの戦闘中、ショウマは幸果と食べたショートケーキのゴチゾウを使い、ケーキングフォームへと変身を遂げた。
その力は凄まじく、ガヴホイッピアから生み出されたホイップ兵と共に、シータとジープをエージェント共々圧倒していた。
「ぐっ!?」
「私たちが、赤ガヴなんかに…!」
倒れ伏すシータとジープを前に、ガヴはケーキングゴチゾウをガヴホイッピアにセットし、袋状の装置を操作する。
<ホールケーキ! ホイップチャージ!>
ガヴがガヴホイッピアを2人に向けて構える。その瞬間、ショウマの脳裏に存在しない記憶がよぎった。
『誕生日おめでとう!』
『『…!ありがとう!』』
「あんたたちとも一緒に、ディル兄さんと一緒に……ケーキ食べられればよかったのかもな」
そんな光景を幻視しつつ、決着をつけるため、ガヴは剣のトリガーを引いた。
「はあぁぁ……ハアーッ!」
剣先からクリームのようなエネルギービームが照射され、シータとジープへと向かっていく。ジープが攻撃を食らうことを覚悟して身構えていると、シータがジープを突き飛ばした。
「はっ!」
「……良かった」
<ケーキング・ブレイキング!>
シータは必殺技を受け、爆散した。……
「シータ…?シータァァ!!」
「おかえり、ウマショー!」
「ただいま、幸果さん……わあっ!料理とお菓子がこんなに!!」
「ウマショー絶対お腹空かせて帰ってくると思ってさー。てか、マモルンは?」
そんな幸果の疑問に、ショウマと絆斗も首を傾げる。
「そういえば、あいつどこいった?ここにも来てないのか?」
「今日一日は来てないよ。既読もつかないし……もしかしてウマショーみたいになんかあった!?」
幸果がそんな予想を口にしていると、幸果の携帯に電話がかかってきた。
「電話?ってマモルンじゃん! もしもしマモルン?今どこに……」
『ごめんなさい、幸果さん』
「…えっ?」
『俺、もうはぴぱれには居られません。今まで、お世話になりました』
「はっ?ちょっと……!マモルン!?」
俺は伝えるべきことだけを伝えて、電話を切った。これ以上幸果さんと話していたらきっと、決意が鈍ってしまうから。
「これで、よかったんだよな」
俺はそう呟きながら、傍で眠っている妹に……シータに視線を落とした。
「お兄ちゃんが守ってやるからな…シータ」
ずっと書きたかった展開その1。人の心?ない
よ
誤字ばっかですんません。最後のとこ妹と弟間違えてたんで直しました。