「ただいま、デンテおじさん。」
「おお、おかえりディル!」
俺は帰るなりデンテおじさんに挨拶を告げる。
現在俺たちは森奥の小さな洞窟を拠点にして生活している。
少々生活しにくいが、人目に付くところでは生活できないので仕方ない。
「ふぅ...」
俺はミミックキーを外し、本来の姿をあらわにする。
擬態中は作業着を着ているような感覚で、前世で慣れ親しんだはずの肉体はどこか違和感を覚えてしまう。
もうとっくにこの身体はグラニュートに適応してしまっていた。
「ベルトの調子はどうじゃった?」
「今日も絶好調だよ。現にバイトをちゃんと倒してきたし。」
「それはよかった!」
あの象のようなグラニュートを倒したときに使ったベルト...『ヴァルプニルギア』。
俺とニエルブ兄さんで研究していたシステムの設計図をもとに、俺とデンテおじさんで仕上げたものだ。
プロトタイプということで随時調整をしながら使っているが、今のところこれといって不便はない。
ストマック社のバイトを倒すために大いに役立っている。
バイトたちが対峙するたびにグラニュートハンターだのなんだの言っていたので、いっそのことそう名乗ることにした。
こうしてグラニュートハンターとして活動しているのも、すべては人間が闇菓子の素材にされるのを防ぐため。
闇菓子を作ったことに負い目を感じているのか、デンテおじさんも協力してくれている。
俺はこんな方法でしか今のストマック社を否定できない。
この選択に悔いはない...と思う。
だが一つだけ心配なことがあるとすれば...
「ショウマ、大丈夫かな...」
ショウマ。俺の腹違いの弟だ。
父さんが誘拐した人間...みちるさんとの間の作った子供。
「私の新しい妻・みちると、お前達の弟・ショウマだ。2人に手を出したら...私が許さない。以上だ。」
突然人間を紹介したと思えば、父さんは俺たち兄妹に冷たくそう言い放ち、兄さんたちの言い分を聞く間もなくその場を去っていった。
その時、少なくとも俺は何となく理解した。
この人はもう、俺たちに家族の情など持っていないのだと。
あの人にとっての愛すべき家族はもう、みちるさんとショウマになったのだと。
「確かにみちるやショウマは気がかりじゃが、ここからでは何をすることもできんしのぉ...」
「できれば連れてきたかったけど、あの警備の中二人を連れだすのは無理だったしね...」
「まあブーシュの後ろ盾がある以上、下手に手出しはできんはずじゃ。じゃからきっと大丈夫じゃ。」
「うん、そうだね。そう思うことにしよう。」
研究の弟子である俺が気にかけていたからか、デンテおじさんもショウマのことをちょくちょく心配してくれている。
だが、今どうしようもできないことを嘆いても仕方ない。
俺は話題を変え、デンテおじさんに話を切り出す。
「そうだ、デンテおじさん。明日は街に降りてバイトの面接に行ってくるから。」
「バイトの面接?人間界で働く気か?」
「そうだよ。このまま自給自足じゃ、何かと不便でしょ?曲がりなりにも働いて資金を稼いだ方がいいと思うんだよね。デンテおじさんは俺と違ってミミックキーがないから擬態できないし...」
「なるほどのぉ。分かった。ディルに任せたわい。」
「ありがとう、デンテおじさん。それじゃあお休み。」
俺はその会話を終え、眠りにつくのだった...
ーディルとデンテがストマック社を抜けた少し後ー
「何ぃ!?何者かにバイトが倒されただと?」
エージェントの報告を受け、ランゴ兄さんはそう言い放った。
どうやら予定時間になっても現れないバイトを探そうと周囲を探索した所、何者かにバイトが撃破されたらしい。
エージェントは記録したわずかな時間の視覚情報を投影する。
「なるほどねぇ、こいつがバイトを...さしずめ、グラニュートハンターってとこかな?」
「ふーん、少しはやりがいがありそうじゃない。」
「どうした、お前たち。」
「親父。いや、ちょっとばかし闇菓子の製造ラインに影響が出そうな問題があってな。」
「そうか、早急に対策を立てるように。私は用事がある。このまま仕事に励め。」
父さんはそう言って会議室を離れた。
用事なんて、どうせ赤ガヴを鍛えるとかなんだろうけど...
「ふん、偉そうにしていられるのも今の内だ。もうじき...」
ランゴ兄さんは小さくそう呟く。
なにやら画策しているみたいだけど、まあなんとなく察しはつく。
そんなことよりも、このグラニュートハンターがつけているベルト。
僕とディルで研究していたものによく似ている。
(なるほど、ディルの仕業か。多分、一緒に逃げたデンテおじさんも一枚嚙んでるね。)
ストマック社を離反した挙句、僕たちの事業を妨害してきたか...ここでランゴ兄さんたちに言ってもいいけど、それじゃあつまらないよね。
(君のこと、黙っててあげるよ、ディル。その代わり、ベルトの性能、じっくり見せてもらおうかな。)
朝を迎え、俺は街に降りてきていた。
バイト先を探すと言っても、履歴書はおろか、戸籍すらないため、働ける場所なんて限られる。
そんな状態でも働けるバイト先、それは...
「着いた。」
【なんでも屋 はぴぱれ】
その看板が目に入る。あまりにも奇跡的な待遇に思わず目ん玉が飛び出そうになった。
俺は意を決してその扉をたたく。
「どうぞー。」
中から女性の声が聞こえる。
俺はその声に従って扉を開けた。
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ!ご依頼ですか?」
女性はこちらに駆け寄って質問をする。
「えっと、昨日電話した者なのですが...」
「あー!バイトの応募ね!ちょっと待ってて!あっ、その椅子に座ってて!」
「失礼します...」
女性はそう言うとPCのある所に行き、色々と探している。
めっちゃ明るい人だな...
「ここの社長の甘根幸果です!」
「
麻田守...前世の俺の名前だ。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったが。
「それじゃあ早速だけど、面接しようか。あっ、そんなに身構えなくてもいいよ?一個質問するだけだから。」
「はい、よろしくお願いします。」
「じゃあ聞くけど、なんでうちでバイトしようと思ったの?」
志望動機か。本当なら事業内容に関して「こういうところに惹かれました」とか言うべきなんだろうが、この人の前では正直に話した方がいい気がする。不思議とそう思った。
「...簡潔に言うと、履歴書が不要だったからです。私の家庭事情は少々複雑でして、こんな環境でも働けるここを見つけた時はまさに奇跡だと思いました。一通りは何でもできるつもりです。」
「なるほどー、いろいろ事情がある感じかー...分かった!いいよ、ここで働きな。」
「いいんですかっ!?」
「訳アリならここ以外だと不便だと思うし...それに、いい人そうって思ったし!」
「...!ありがとうございます、幸果さん!」
「うん、これからよろしくね、マモルン!」
「マモルン...?」
「ニックネーム!その方が距離感近いっしょ?」
「は、はあ...別に構いませんけど...」
凄い、完全に陽の世界に生きる人だ...
そんな常に明るい幸果さんのもとで無事、働けることになりましたとさ。
麻田の由来は味覚の一つである「麻味」から来ています。中華料理とかで感じる辛味の一種らしいです。