異世界戦闘摂理解析システム 作:久々にきれてつちまつたよ
コンパスにわかなので「ここ違う!」って所があれば、優しく丁寧に教えてくださると光栄です。暴力的に文句みたいな感じで言われると拗ねるのでよろしくお願いします。
その日、日常が壊れた。
見たことのない怪物が学校に押し寄せ……いや、違う。怪物の住処に、学校が転移したのだ。窓から外を見渡しても、そこにあるのはさっきまであったはずの青空ではなく、ただ広がる闇だけ。
怪物たちは〝魔法〟を使い、巧みに〝剣〟を操り、あっという間に、生徒や教職員を殺していった。ドッキリなんかじゃない。本物だった。火の玉を生み出し、生徒を火だるまにしていた。力が強いのだろうか、それとも技術が優れているのだろうか……剣で四肢を分かたれた生徒がいた。
「……はぁっ、はぁっ、くそっ…!!」
俺はそれを、呆然と眺めていた。目の前で友が殺されるところを見た。こちらを庇う先生が殺されていった。俺には、見ていることしか、できなかった。
「……なにを、すればいい?なにができる?」
できることなんて、何もないじゃないか。あの怪物たちは、炎の玉を飛ばしてくるんだぞ?太刀打ちなんてできるわけがない。剣技も明らかに殺して慣れていた。終いには、あの表情だ。楽しんでいた。抵抗できない俺たちを見て、楽しんでいたのだ。
無理だ。足が竦んで、立ち上がれない。
「イヤァァァァ!!!」
「やめろぉぉぉぉ!!」
響くのは女子生徒の絶望に染まった金切り声か、体を震わすほど大きく響く男子生徒の声のみ。後は、水音だ。それが血なのか、想像するのも気持ちが悪い行為の副産物なのか……それが聞きたくないから、ずっと耳に手を当てていた。
〝からん〟
音がした。何かを蹴ったような音。続くのは足音。音は次第に大きくなっていく。
「…やめろ」
あぁ、駄目だ。近づいてきている。このままでは……くそ、どうすれば。
「……やめてくれ」
隠れる場所なんてない。一方通行なのだ。見つからったら、終わり。
「……頼むから」
足音が大きくなる。
段々と。
「……ぁ、っ」
笑い声が大きくなる。
鼓動が激しくなる。
「……ギ、ヒッ」
人間では発することのできない、気持ちの悪い声。吐き気を催すくらい強い鉄の匂いが、追従してやってくる。
目を開けると、怪物がニチャアと汚い笑みを浮かべ、血脂で汚れた剣を振り上げていた。
もう終わりだ。身体は恐怖で硬直し、指先一つ動かせない。このまま、頭をスイカみたいに割られて………嫌だ、死にたく、ない。死にたくない!
その時、ポケットの中でスマホが異常な熱を持った。
『──未定義の環境を検知。戦闘摂理解析システム、強制起動』
耳慣れた、けれど今の状況にはあまりに場違いな合成音声。
視界の端に、ノイズと共にゲームで何度も見た【ヒーローを選択してください】のウィンドウが、非現実的な輝きを放って浮かび上がる。
「…たすけて、くれ…!!」
震える指が、無意識にひとつのアイコンを叩いた。
その瞬間、振り下ろされた剣が、俺の頭に届くより早く──ピコーン!
場違いな電子音が響き、俺と怪物の間に、色鮮やかなドット絵のパーティクルが弾けた。
「おっ、こりゃ随分とできたゲームだな……やりがいがあるぜ!」
声がした方向に目を向ければ、映るのはコントローラーを首に下げた、場違いなほどに明るい少年の背中。
怪物の剣を、自慢のグローブで真っ向から受け止め──彼は不敵に笑った。
「派手にぶっ飛ばす!」
その瞬間、周囲の空気が一変した。
血生臭い廊下に、場違いな電子音がビートを刻む。
彼の足元から、まるで古いゲーム画面から漏れ出したような極彩色のドット絵のパーティクルが噴き上がり、少年のシルエットを鮮やかに縁取った。首から下げたコントローラーのコードが、彼の動きに合わせてデジタルな光の尾を引く。
『バトルが始まりました』
少年が拳を突き出す。
怪物の頭上に、不気味なほどはっきりと『HP』がポップアップした。怪物の真上には赤色のゲージが、少年の真上には青色のゲージが現れたのだ。
少年の繰り出す一撃は、怪物の赤色のゲージを削っていく。それは、俺が見慣れていたゲームの仕様であった。
「はっ!デカいだけで、大したことねぇな!」
少年の一撃は重くはなかった。赤色のゲージが大して削れていくなかったからだ。だが、彼の顔から笑みは消えない。
「なら、こーゆーのはどうだ?」
少年は軽やかなバックステップで距離を取ると、首から下げたコントローラーをノールックで操作した。指の動きは残像すら見えるほど速い。
これにも、見覚えがある。まさか、これは、ヒーロースキルか?
「8bitの底力ー!見せてやる!ドットモンスター軍団、参上!」
叫びと共に、少年の背後にある空間が歪みを起こし、巨大なゲートが口を開く。
そこから飛び出したのは、カクカクとしたフォルムながらも、凶悪なまでの破壊のエネルギーを纏ったドットの軍勢だった。
劣っているわけでもなく、優れているわけでもない。誰にも縛られず、自由な少年。俺が呼び出したのは、そんな少年であった。
「…ガ、ガァ!?」
怪物の腹を、青白いドットの角が容易く貫通した。傷口からは、赤ではなく緑色の血が流れている。
膝をつき、大きく仰け反った怪物の顔面へ、少年──アタリの加速を乗せたグローブがめり込んだ。
〝ドゴォォォォンッ!!〟
重低音と共に、怪物の頭上に浮かんでいた赤いゲージが粉々に砕け散る。
『バトルに勝利しました』
その知らせは紛れもない、ハドル終了の合図であり、アタリが勝ったという事実でもあった。
「おいおい、お前の難易度イージーにもならないぜ」
アタリは鼻先を指で弾き、満足げに笑う。
その背中越しに見える光景は、もはや地獄の学校ではない。彼が立っている場所だけが、この世界で唯一の安全地帯のように見えた。
静寂が戻った廊下には、アタリに叩き伏せられ、ドットモンスターに腹を貫かれた怪物の死骸が転がっている。
傷口から流れる緑色の体液が、コンクリートの床にじわりと広がっていく。鉄の匂いと、内臓を焼いたような異臭。
……これは、現実だ。
「ふぅ、ステージクリア! ……って、あんた大丈夫か?」
少年──アタリが、俺の方を振り返った。
首から下げたコントローラー、ビビッドな配色の衣装。彼の周囲だけ、空間の解像度が異様に高いような、不思議な感覚に陥る。
「……あ、あぁ……」
差し出された手を取る余裕もなかった。俺は震える手で、まだ熱を持っているスマホの画面を見つめる。そこには、確かに『十文字アタリ』のステータスが表示されていた。
「……十文字、アタリ。ウソだろ、まじ、か……」
「おっ、オレの名前を知ってるのか? 有名税ってやつかな、えへへ!」
アタリは屈託なく笑い、死体のすぐそばで無造作にしゃがみ込んだ。
彼は怪物の死骸を興味深そうに指でつんつんと突き、顔をしかめる。
「うっわ、エグい。このゲーム、物理エンジンだけじゃなくてテクスチャの書き込みもヤバすぎだろ……死体が消えないなんて、ハードのスペック相当高いな?」
「……ゲームじゃ、ないんだ」
俺はようやく、掠れた声で言葉を絞り出した。
「ここは俺の学校で……怪物が攻めてきて、みんな死んで……アタリ、君は……君は今、多分だけど、俺がこっち側に呼び寄せたんだ」
「こっち側?」
アタリは不思議そうに首を傾げたが、すぐに「あぁ!」と合点がいったように拳を叩いた。
「なるほど! VRの逆、ARの超すごいやつってことか! あんたがオレを実体化させた『プレイヤー』なんだな?」
話が通じているのか不安になる明るさだが、彼がこの地獄において唯一の『希望』であることは間違いない。
「……俺は、
「ヨクリか! オッケー、よろしくな相棒! オレは十文字アタリ。見ての通りのゲーマーだ!」
アタリは親指を立てて、自信満々に笑ってみせた。
その背後、廊下の奥からは、まだ他の生徒たちの悲鳴と、怪物の咆哮が聞こえてくる。
「さて……挨拶も済んだことだし、次のステージへ進もうぜ。このゲーム、エンディングまで付き合ってやるよ!」
オマケ
周囲にはクラスメイトの死体が転がり、怪物の咆哮が響き渡る。
だが、目の前の少年──十文字アタリは、そんな地獄を眺めて「うひょ〜、最高にスリルあるわ」と目を輝かせた。
彼にとって、この惨劇は悲劇ではなく、ただの『最高にエキサイティングなステージ』に過ぎないのだ。
「……アタリ。いちいち立ち止まらないでくれ。早く移動したいんだ」
「でもよー、ヨクリ。こんなにリアルでスリリングなゲーム、そう簡単に出会えないんだぜ?なら、楽しめるときに楽しんでおかなくちゃだよな!」
「……ゲームじゃなくて現実だよ。ほら、さっさと行こ。ここには、さっき戦った奴以上の大きさの怪物もいるみたいだし、見つかって死んじゃったなんてなれば、阿呆すぎる」
「え、マジ!?いやー、さっきの奴全然手応えなくて楽しめなかったんだよな!よし!そうと決まれば、その怪物に会うために、いっちょ頑張りますか!」
……アタリを呼び出したのは、間違いだったのかもしれない。