ちなみにフランという呼び名はホロウの特典の本のカプセルさーばんとのさーばんとステータスにも書いてあって笑いました。
「ふう……」
私は寒空の下で白い溜め息を吐いた。
そして、ふと見上げれば嫌になるほど快晴の空が広がっており、見慣れた街だというのにどこまでも広い場所のような錯覚に捕らわれた。
そう、まるでどこまでもどこまでも広大な海原が空に映っているようだ。
私はそんなことを思った私自身を自嘲気味に鼻で笑い、目を暫く瞑ってから瞼をあげ、そっと呟いた。
「迷子になった……」
無論、フランちゃんが…。
◇◆◇◆◇◆
「………………?」
寒空の下、何かが入った紙袋を大事そうに抱えながらキョロキョロと辺りを見回す、モデルのような体格で、白いドレスを纏った少女……フランケンシュタインの怪物がいた。
右、左、前、後、上、最後に足元にあったマンホールを持ち上げて下を見回すが、フランのお目当てはどこにも居ないようで、彼女は小さな溜め息をつき唸り声を上げた。
「……ウィィ……」
表情は変わらないが、微妙に眉がへの字に曲がっている様子から…"アイツ迷子になった"とでも言いたげである。
フランは仕方なく、一人で大通りの歩道をスタスタと歩きながら昨日の事を考え、少しだけ頬を綻ばせたように見えた。
◆◇◆◇◆◇
お父さんに捨てられた私はますたーに拾われた。だから私はますたーと一緒にいる。でもこれだけは言っておきたい。
私は居間でじゃんぷを読んでいるますたーに話し掛けた。
『ん? どうした』
ますたーはこんな私を無条件でここに置いてくれている。だから本当の事を話した。
これまでの私の全てを。そして……私が血や臓物が美しいと感じ、悲しみを知らない醜い怪物であることを。
全てを話終えるとますたーはじゃんぷを置き、私と向きあった。
『そうか、君は血や臓物を美しいと感じるのだな』
私はコクりと頷く。
『そうだな、確かに血の赤は美しく迫力がある。さらに臓物の色は悍ましくも繊細だ』
でも、ますたーはそれを見るよりもジェノバと一緒にいることを選んだ。違う?
ならますたーはやっぱり私とは違う。私は……怪物。
『私はジェノバを好いている。それはなぜだと思う?』
それを聞いたますたーは私に質問を投げ掛けた。
それに私は答えれなかった。私に愛はわからない。
『"永遠"だからだよ。彼女は』
永遠……私は思いもしない言葉に少しだけ表情を変えてしまった。
『君が血と臓物が好きなのを異常だと考え、伴侶を取ることで正常になろうとした。実に良いことだ。だからこそ言おう、私は君が血と臓物が好きな10億倍……いや、1兆倍は"永遠"が好きだ』
そんなに……。
『"永遠"…それは不偏、不滅、不動、不朽その先の先にある永久性を超越し、千古不磨さえ飛び越えた永久の久遠そのものだよ』
そう言うとますたーはどこか遠くを見るような目をした。
『昔、今に比べれば小さな首を母に強く強く絞められながらこう思ったことがある。"生きたい"』
え……?
『そして、私の代わりに横たわって物言わぬ姿になっていた母の前で私は立ち尽くした。そして考えたのだ。"永遠"とはなんだろう……とな。小さな私は母との貧しいが幸福な生活に満足していた。そして当たり前のようにこの幸福はいつまでも"永遠"に続くものだと思っていたのだ。まあ、並べてみれば大した話ではない。それを断ち切ろうとしたのは母だった。そして断ち切ったのは私だったということだけの話だ』
ますたーお母さん殺したんだ……。
『小さな私の"永遠"はそこで崩れ去ってしまったのだ』
………………。私はなにも言えなかった。
『そしてなにも無くなった私は決心した。儚い夢のような脆いモノではなく、私だけの"永遠"を探す事を。だが、その旅の道中で幾つもの苦難にあった私は同時にこう思った……いや、今でも思っている。"死ぬのが怖い"……とな』
死ぬのが怖い……?
『そう、私は死が怖い。だから殺すよりも身を守る武術を選んだ、ありとあらゆる状況を認識する能力を身に付けた、即座に戦況を分析して臨機応変に対応出来る経験を得た、深追いをしながらも確実に逃走する速さを追及した。呪術は超遠距離からでも至近距離からでも使え、全てのレンジと状況において腐ることの無いモノにした』
ますたーは死なないために強くなったの……?
『いや、死なずに"永遠"を求めるためだ。その為に殺した。殺して、殺して、殺して、殺して、人間的に抹殺した。その繰り返しだ。フランちゃんが血と臓物が好きなように私は"永遠"が大好きだ。なにせフランちゃんと違い、この感情を異常だと思い諦める事が出来なかったからな』
そう…私はますたーみたいに心が強はなかった……。
『心が強いか……』
ますたーは顔を上げ、天井の染みを暫く見つめてから私に向き直った。
『フランちゃん、問題だ。この世に必要な人間とは誰だと思う?』
必要な人間……? 少なくともますたーは必要な人間だと思う。強く、優しく、顔もかっこいい。
『ははは、そうか。でもハズレだ。正解は……"この世に必要な人間なんて一人もいない"だ』
え……?
『親も魔術師も大統領も子供も大人も私も、必要な人間なんかじゃないんだ。世界にとっては。誰が死のうと世界はひとつも困らない。いつものように夜は来て朝は来る。世界は誰も必要となんかしていない』
何それ……そんなの惨め過ぎる…それなら私はなんのために生まれたの……? 私はなんでまた生きているの……? 私はなんなの……? 私は……。
『それは悲しくてそれはとても寂しい事で、だから人間は人間を求める。それが私の出した人間というモノの結論だ。そして……私は君と違い人間を求めることは決して無かった』
え…? 私と違って…?
ますたーは私の手をその大きな手で握ると、私の胸に置いた。
『君は怪物なんかじゃないさ、己がためだけに生きた怪物の私よりもずっとずっと……人間だ』
「……ア…ァァ…ァァァ……!!?」
ますたーの言葉を聞いて私の目から何かが何かがぽろぽろと零れ落ちる。
これは……涙?
なんで……私は…悲しいわからないのに…。
『嬉し泣きだよそれは、君がなによりも人間の証だ』
そう言って彼は私の頭を優しく撫で、抱き寄せて胸を貸してくれた。
私……泣けるんだ。
◆◇◆◇◆◇
昨日の事を完全に思い出し、フランは足を止めると顔を耳まで赤く染めた。
だが、彼のお陰で随分、心的に楽になったとは言え、まだ、感情を外に出すのは怖い。だからとりあえず彼の前だけで出してみると決めたのだ。
よってブンブンと表情を振り払い、気を紛らすために、さっき購入した紙袋を開け、中身を取り出した。
それをみた瞬間、さっきまでの可愛らしい少女はどこへやら、ニヤリと効果音の出そうな黒い笑みを浮かべた。一般人が見れば恐怖を覚えるような形相である。
恐らく、それを眺めることで自然に表情が出ていることに全く気付いていないのだろう。さらに自分の世界に入っているのか周りも見えなくなっているようだ。
可愛らしい外見に釣られて彼女の表情と持ってるモノを見た通行人が顔を引き吊らせている。
それはキモ…可愛い…いや、キモいと言いたくなるような造形のトラのぬいぐるみだった。
片目にアイパッチ、 顔には切り傷の縫い後、口からは血、そして地味にリアルな腹の裂け目からはみ出る臓物が拍車を掛けている。
少なくとも子供は泣いて逃げることは間違いない。
名札を見れば臓物アニマルシリーズ No.5 "ハラキリトラ"と書いてある。値札にある5980円という数字きっと嘘だろう。誰が買うんだ誰が……あ、コイツか。
もう、察しは付くと思うが、フランは天外のショーウィンドに並ぶコレに目を引かれ、勝手に入店したために彼とはぐれたのである。
フランはふと、思い出した。
彼の胸で泣いてしまった時、彼の背後に一瞬だけ、優しい笑みを浮かべ、大仏をイケメンにしたような緑多めの配色の人が浮いていたような気がした事を。
が、特に深い意味はないだろうとハラキリトラの臓物をニヤリとした笑みで眺めながらまた歩き出し、横断歩道を横断した。
ここでひとつフランについて豆知識だ。
フランはサーヴァントではない。ため、聖杯からの知識等というモノはない。つまり、浦島太郎状態なのだ。
無論、道路交通法も、道路標識も、そして信号機など知るわけもない。
ちなみにフランの時代にも貨幣も商店もあったのでそんなに関係はないが、ハラキリトラを買えたのは彼に渡された、いざという時の一万円札を何の中躊躇もなく、使ったからである。後で彼にちょっと怒られるのは間違いない。
そして、フランが横断歩道を渡った時……。
信号は"赤"を示している。
その結果、次の瞬間にフランは宙をまった。
フランはくるくると回転し、アスファルトの地面に落ちた。
言わずもがな、車に轢かれたのである。
とは言え、流石はジェノバに掘り出し物と言わしめた人造人間フランドール……いや、それではちみっこいふがふが言うモノになってしまうのでフランは、ぶつかる直前に壊れないように抱き締めていたハラキリトラと、ネックレスのような魔術礼装と、指輪のような魔術礼装は無事な事を確認し、安堵していた。無論、自身は無傷に等しい。
うつ伏せのまま、体内の少しの魔力を電気に変換し、それを使うことで汚れた身体と服を修復したところで、フランを轢いた黒い車に頭を向けると、後部座席から2人の人間が降車するのが見えた。
「た、大変よセイバー! こ、これが交通事故ね!? 大迫力だったわ!?」
「アイリスフィール! 気をしっかり持ってください!」
全体的に白い女性と、スーツ姿の金髪の組み合わせだ。フランはその会話の中にセイバーという単語を見付けた事で、全身からジェノバに教えられた通りの量と質の魔力を放出した。
「ッ…!?」
「な!? 貴様…サーヴァントか!」
「………………」
フランは立ち上がると、ハラキリトラを小脇に抱えながら背中に背負っていた戦槌をスーツ姿の金髪へと向けた。
その時である。
「おーい、フランちゃーん」
「……ヤァァ……」
見知った彼の声が聞こえたことにより、フランは戦槌を突き付けたまま、視線をそちらに向けた。
するとバイク程の速度で接近してきた彼がフランの隣で足を止め、フランの肩に手を置いた。
それに対し、フランは声を上げる。
「……ウィィ……」
「やっと見つけ……え? "やーい、迷子ー"…ってなんで私が迷子になるのだ!?」
彼はそれを言ってから白い女性と、スーツ姿の金髪に向くと頭を下げた。
「すいません、間違いなく家のフランが迷惑掛けて……」
とりあえず謝る。日本人の良いところであり、悪いところだ。
すると、白い女性が彼を見て驚愕と言った表情に変わり、ポツリと呟いた。
「……蘆屋 神羅さん…?」
白い女性の口から吐き出されたのは彼のフルネームだった。
「はい? なぜ、名ま…」
そこまで言って彼の動きが止まり、目を見開いた。そして、彼も白い女性と同じように呟く。
「まさか……アイリスフィール・フォン・アインツベルンか…?」
「ッ!? やっぱりそうなのね……」
その間、残りのスーツ姿の金髪とフランの間では動いてはならないような、なんとも言えない空気が流れていたという。
どうやらこの男、あらゆる場所に何かしらのイベントフラグを残しているらしい。
理由はわからないが、モヤっとしたフランは知らない美人と話す彼に対し、手の皮を思いっきりつねる事にした。
"この世に必要な人間なんて一人もいない。親も教師も偉い人も子供も大人もあたしも、必要な人間なんかじゃないんだ。世界にとっては。誰が死のうと世界はひとつも困らない。いつものように夜は きて朝はくる。世界はきっと誰も必要となんかしていない。…だけどそれは悲しくてそれはとても寂しい事で、だから人間は人間を求めるんだ。きっと"
by作者のバイブル"フルーツバスケット"16巻99ページより。
ちなみに神羅さんは諸事情により、スキル"菩提樹の悟り"をAランク相当で保有しています。要するに間接的に人間の心理に辿り着いています。ですが無自覚のため、Dぐらいまでランクダウンしているので精神干渉を完全に無効化する程度にしかなってません。