「………………」
「………………」
とある喫茶店の4人席の一角。4人の人間が席に腰を掛けていた。
流石に大通りであの時間にあのまま殺り合うわけにもいかず、さらに相手が知り合いのため喫茶店で話し合いをする事にしたわけだ。
男女比1:3だが、まるで通夜のような空気である。
私の知り合い…アイリスフィール・フォン・アインツベルンは顔を下げ、何か言いたげな顔をするだけだ。
その
私は味のしない紅茶を飲みながら因果応報について噛み締めていた。
ちなみに因果応報とは元は仏教語だ。"因"は因縁の意で、原因のこと。"果"は果報の意で、原因によって生じた結果や報いのこと。
その意味は行為の善悪に応じて、その報いがあることという意味である。
まあ、現在では悪い方に用いられることが多いがな。
今回は無論、悪い方である。
そうだな…聖杯戦争だものな…いるに決まっているよな…。まさか、いきなり鉢 合わせるのは想定外だったが。
「……ウィィ……」
フランちゃん痛い、凄く痛い。戦槌の石突きの部分で脇腹をゴリゴリしないでくれ。
「いいか?」
私は意を決してアイリスフィール・フォン・アインツベルンに声を掛けた。
「は、はい」
「衛宮切嗣は元気か?」
「ええ…とっても元気よ」
「そうか…」
そうしてまた沈黙の時間が始まる。さっきからその繰り返しだ。
「……ウィィ……!」
フランちゃんだからマジで折れる。折れるって…。
『あ・な・た』
すると後ろの方から聞き覚えのある声と、心臓を鷲掴みにして刺し貫くような殺気が私を射ぬいた。
冷や汗を流しながらぎこちない動きで後ろを振り返ると、席から少し離れたところで彼女が笑顔で立ちながらこちらに小さく手を振っていた。
その容姿はプラチナのような銀髪の長髪に、右目は淡いエメラルドの瞳、左目は紅蓮のような紅い瞳、そして陶器のように白い肌をし、袴を身に纏った女性だった。
彼女に4人の視線が向く中、それを全く意に返さずに彼女は私の隣まで来ると笑顔のまま、また声を発した。
『どうしたんですか? あなたの可愛い妻、"ジェノバ"ですよ?うふふふふ……』
「お、おう…」
この女性はジェノバが人の姿をとっている形態。通称、ジェノバお出掛けモードである。
ジェノバは人前に出る時は基本的に周囲に自身の認識を変える幻術を使い、そのまま出歩くが、旅行や夜の営みなどの時は希にこの姿になるのだ。
今日はどういうわけかこの姿である。
「あ、貴女は…」
『黙れ』
凄まじい気迫と微妙に漏れている濃厚な蒼い魔力ジェノバに対し、スーツ姿の金髪から出た恐る恐るといった様子の言葉を、顔すら向けずに一喝するとまた私に言葉を吐いた。
『これはどういうことでしょうか? 私にもわかるように説明して貰えると嬉しいです』
「いや……確かに黙ってたのは悪」
『これはどういうことでしょうか? 私にもわかるように説明して貰えると嬉しいです』
「……言っていなくてご」
『これはどういうことでしょうか? 私にもわかるように説明して貰えると嬉しいです』
「話を聞い」
『これはどういうことでしょうか? 私にもわかるように説明して貰えると嬉しいです』
「………………」
ダメだ…ジェノバが完全にMA5(マジでアルテマる5秒前)だ……マズイ…このままでは聖杯戦争の前に
ジェノバは基本的にかなり寛容だが、隠し事には異常に厳しい。兎に角なにか隠されるのが大嫌なようだ。
私はアイリスフィールにチラリと視線を向けると、彼女は了解の意を示したのかコクりと頷いた。
それにより、腹を括った私は立ち上がり、ジェノバを私が使っていた椅子に座らせると他から椅子を引っ張り、それに座った。
「どこから話そうか……」
事の発端は数年前か十年程前。
私がまだ執行者をしており、"時計塔で執行者候補生の教官をする傍らで、相変わらず封印指定魔術師を人間的に殺す仕事をしていた頃の話だ。
ある日、時計塔の私の部屋にアインツベルン製のホムンクルスが訪ねてきたのがそもそも始まりである。
そのホムンクルスが言うにはアインツベルン家当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが私に頼みがるとの事だった。
まあ、工房を終の住処にすることも珍しくはない魔術師にとって、頼み事で人を呼びつけるなど普通の事なので、そのままアインツベルン城まで足を運んだ。
そして、アインツベルン城で、当主のユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンから直接説明を受けた。
まあ、それはそれは長ったらしい話だったのでアハト翁の言いたいことを簡潔に纏めると…。
"最強の魔術師殺しとアーサー王で聖杯戦争優勝待ったなし!"
である。
あまりに戦いというモノを何一つ理解していない言葉に、開いた口の塞がらない私だった。
強いマスターと強いサーヴァントを組み合わせればすごく強いはず、という至極単純な発想しかできない且つ、強者と勝者は
頭のいい馬鹿。私がアハト翁に付けた称号はそれである。
まあ、サーヴァントのキャスターがサーヴァント中最弱と言われている辺りからわかるとは思うが、本来は魔術師は戦闘には向いていない。というか向いている方がおかしい。
そもそも魔術師とは魔術という神秘を道具立てとして、根源に到達しようと試みる人々の総称だ。科学で言うところの研究者なのである。
強力な銃や、爆弾は持っているかも知れないが、人を物理的に殴り殺したり、斬り殺したりする研究者などそうはいないだろう。つまりそういうことだ。
魔術師の中では私のように殺る気100%の呪術を持っている上に、そもそも根源に興味がない等という、なんちゃって魔術師や呪術師の類いの方こそ少数派なのだ。
まあ、そんな魔術師の貴族様のボンボンが、他の才能のある連中を押し退け、特権で執行者になぞなれるから直ぐに死ぬのだ。一体いつになれば上層の連中は人材を溝に棄てていることに気づくのであろうか? 死地から魔術刻印を回収する仕事が増える身にもなって欲しいものだよ……おっと話が脱線したな。
そして、私はアハト翁の申し出を快諾した。
理由単純。私には聖杯に掛けるような願いがあり、始めから聖杯を持ち逃げする気満々だったからだ。 アハト翁程度の相手なら城が直接動いてでも来ない限り、脅威ではない。
後、アーサー王はどう考えてもいらないので、私の魔術礼装のひとつに良い英霊が喚べそうなのがあったため、それを使うか、ロビンフッドを喚ばせろと、戦場の基本、暗殺の重要性を説きながら渋々認めさせたりもした。
それから私は暫くアインツベルン城に滞在しているとある日、アハト翁が一体の虚ろな目のホムンクルスを私の前に連れてきたのだった。
そしてこう言った。"お前の妻だ"とな。
「それが……まさか…」
サーヴァントである金髪さんがそう呟いく。
「お察しの通り、そこにいるアイリスフィール・フォン・アインツベルンがその時のホムンクルスだ」
金髪さんは隣で顔を伏せている彼女に目を移した。
「ええ、そうよ…でも私が蘆屋さんと過ごしたのは合わせて3日間だけ。それからあなたの代わりに切嗣が来たのよ」
「ああ、私がこの計画から降りるのと同時にアハト翁に紹介したからな。魔術師に対する切嗣の起源弾の有効性と、それを100%命中させる彼の手腕を前面に話を進めたらアハト翁は簡単にそちらを取ったぞ。実力的に自身を殺し兼ねない私を、聖杯戦争まで何年も側に置くよりは遥かに扱いやすいと踏んだのだろう。そこだけは聡明な判断だ。あのクソジシイとは話も、馬も合わな無かったからな」
『シンラさん、執行者時代は使えない部下は次々と戦場で捨て駒にする安心と信頼の実績をお持ちでしたものね』
使えない駒を最も有効に使っているんだ。寧ろ感謝されたいぐらいだ。
話を途中まで終えるとジェノバはいつも通りに戻ってくれたようである。尊い平和は守られた……。
ジェノバの言葉を聞いた金髪さんはそっぽを向きながら"魔術師とはどいつもこいつも……"と呟いていた。
「諦めなさい、魔術師という人種は一様にどこか壊れているモノだよ。それは君もよく知っているようだ。そして魔術師は死ぬまで魔術師だ。いや、魔術刻印を受け継がせる辺り、死んでも魔術師と言えなくもないな。その根本的な思想を変えることは神さえも出来はしない。それでも理想の魔術師が見たいと言うのなら、君の思想に見合う壊れ方をした魔術師を見つける事だ。途方もない時間と数を当たる必要があるため、聖杯戦争期間中に見つけようとするのはお奨めしないがね」
「ッ!?……そうですか…」
聞かれていたのが意外だったのか、驚いた表情をした後に怪訝な表情になり、口を紡いでしまった。
どうやら金髪さんは魔術師が嫌いな口のようだ。
「あの! ずっと聞きたかった事があるんです」
アイリスフィールは確かな眼力で私を見つめながらそう言う。
「なんだ?」
「なぜ、蘆屋さんはアインツベルンから去ったの? それだけはお爺様も教えてはくれませんでした」
彼女の瞳は真っ直ぐに私を射ぬいていた。
しかし……目の前の本人には口が裂けても言えないが…あの全自動ダッチワイフみたいなホムンクルスだった彼女をよくもまあ、ここまでの感情を持たせたものだ。
やはり
「君の夫が持つのと同じぐらい途方もない"願い"を叶えることが出来たから、と言ったところか」
そう言うと彼女は驚いたような表情になり、直ぐに納得した様子を示していた。
「そう、聖杯に掛ける願いが無くなったから……蘆屋さんは"あなただけの永遠"を見つけたのね?」
「切嗣から聞いたのか」
「ええ、切嗣の昔の話しにはよく蘆屋さんの話をするわ。執行者の中で一番交友があったとか、金払いがとても良かったとか、僕のことを理解してくれた相手だったとか、魔術師なのに魔術師らしくない奴だったとか、僕と同じぐらいバカな理想を抱いた奴に始めて会ったとか、兎に角、色々ね。でも……」
するとそれまでの彼女の視線には含まれていない、少しだけ威圧を込めたような視線を彼女から感じた。
「もし、聖杯戦争でマスターとして出ていたのなら、紛れも無くこの時代最強のマスターであり、自身では勝ち目が殆どないとも言っていたわ」
その顔は夫を慕い、寄り添う女の顔に私には映った。
私は少し笑いを漏らすと彼女が何か言う前に言葉を掛けた。
「言わずともいい。もう理由もなく、聖杯戦争に参加しているのなら…聖杯を夫に譲って欲しい。君の目はそう言っている」
「………………」
それに対し、彼女は答えなかった。だが、そう思う気持ちが少なからず彼女の中にはあるのだろう。
私は微笑みを強め、言葉を吐いた。
「確かに私は彼の願いを理解はしている。が、賛同しているわけではない。生憎だが、アイツの願いを叶えさせるわけにはいかないな。あの願いが叶ったとして、そんな世界で私は生きていたくは無い。不完全で完全だからこその世界だ。それ以上は望まないが、それ以下も望まない。私はこのままの世界をそれなりに気に入っている」
「そうですか…」
何と無くそう言われることも感じていたのか彼女に落胆の色は欠片もない。始めから切嗣の手で掴み取らせる気なのだろう。
「それに私にも新しい願いはある」
そう言うと私は手の甲にある令呪を彼女らに見せる。ついでに何気無く、隣のフランちゃんに視線を向けてから彼女らに視線を戻した。
「私のサーヴァントは私に不釣り合いな程、根は純粋で可憐だ。そして、彼女は受肉を望んでいる。それを叶えてやりたいと思うのはいけないことかね?」
「そう……わかったわ」
そう言うと彼女は立ち上がり、それに続いて金髪さんも立ち上がった。
どうやら話し合いはこれでお開きのようだ。まあ、そうだ。これ以上は幾らやっても平行線にしかならないだろう。私にも譲れないモノがあり、彼女にも私以上に譲れないモノがある。それがわかっただけでも十分だ。
小さく礼を言ってから立ち去る彼女らに私は一度だけ声をかけた。
「ああ、そうだ。同盟と言うのも視野に入れておいて欲しい。まだ、七騎も残っている間に無理に潰し合う事も無いだろう。私はいつでも歓迎するぞ」
その言葉にアイリスフィールが足を止める。悪い話では無いだろう。私のメリットは多少だが彼女らのメリットは多大だ。
「ええ、考えておくわ」
そう言うと彼女らはまた歩き出し、この喫茶店を後にした。
私は冷めた紅茶に口をつけながらも、どこか満ち足りた気分でポツリと呟いた。
「あの2人、支払いを私たちに押し付けて行ったな」
『シンラさん、台無しなこと言わないでください』
「……ウィィ……」
2人のジト目がかなり痛かった。
『ちょっと、どこにいるのよ!? 答えなさいダメマスター!』
どうやら根は純粋で可憐なサーヴァントもやっとお目覚めらしい。
嫁の暇潰しで始めたこの聖杯戦争という命とそれぞれの願いを掛けたゲーム……中々クセになりそうだ。
私は今宵から本格的に始まるであろう物語に心を踊らせた。
今さらですが神羅さんは暗黒イケモンです。中身は真っ黒です。
というかアハト翁がその時代最強の魔術師殺しを呼んだなら間違いなく、神羅さんなどが呼ばれますよね。その道のプロですし。
というかエリザちゃんが出たの(しかも念話だけ)3話ぶり……。
現在の神羅陣営の戦力
蘆屋 神羅
エリザベート=バートリー【キャスター(ランサー/バーサーカー)】←相変わらずの扱い
メルトリリス【バーサーカー】←フィギュア買いに行ってる
フランケンシュタインの怪物【魔術礼装みたいなもの】←可愛い、まるでサーヴァント
ちなみに
姫子さん←これと
ジェノバ←これはノーカンです。基本聖杯戦争にはもう直接的に手は出さないので安心してください。