あれは嘘だ。
冬木のとある場所にある、世界最大の組織こと聖堂教会へ資金提供をしている企業ビルが襲われていた。
とは言っても資金提供をしている事実を知っているのは上層のほんの一部だ。現在は夜も深いため、冬木で聖杯戦争が行われる事を知っているような一般人だけが残っている。
そのため、ビル内に残っているのは数名程だろう。
ビルの出入り口はひとつを除いて蓋をしたのかコンクリートの壁が立っており、逃げることはまず不可能だろう。さらに全ての窓は縁が溶接されたように付いた上で強化されており、ただの一般人の手で破壊するのは無理に等しい。
このビルと言う名の棺桶の唯一の出口に繋がるロビーには、アルティメル・ブリュンスタッドと言う名の巨大な十字架を背負う修道女のような女性と、ボディコンスーツを纏ったメデューサと呼ばれる女性がいた。
「いつ見ても素晴らしい錬金術ですアルティメル。一行程の錬金術一度でこの建物を完全封鎖するとは」
「父様の戦闘判断の速度に並ぶための思考分割と、高速思考欲しさの副産物ですわ。元から空想具現化は使えますし、その応用で人工物を加工出来る程度ですのよ。褒めることでもありませんわ」
「そうですか」
「まあ、結果は思考分割はアトラスの錬金術師の最低にも及ばない2つ。高速思考は1.1倍速という無くてもいいレベルのド三流でしたがね……」
そう言ったアルティメルの顔には影が射しているように見え、メデューサは地雷を踏んだ事に気が付き狼狽していた。
「それに代行者になって良かった事と言えば……」
アルティメルは服の裏から黒鍵の柄を四つ片手の指の間に挟みながら取り出すと、靴の踵で地面を二度ほどステップを確認するかのように踏んだ。
その次の瞬間、柄から90cm程の剣身が伸び、見事な黒鍵が出来上がる。
そして、十数m離れた場所にある扉が開き始めたエレベーターへ向けて黒鍵が投擲され、大きな破裂音がロビーに響き渡った。
エレベーターの扉が開き切り、中がよく見えるようになると、そこには壁、床、天井の空間全てが赤く染まった赤い箱が完成していた。
よく見れば黒鍵が四本壁に刺さっており、数人分の人の骨や臓物の欠片が辺り一面に飛び散り、張り付いている。
自身が起こした結果をちらりと見て、特に気にした様子もなく、溜め息を吐いてから呟いた。
「……この鉄甲作用ぐらいですわ。ライダーさんも使えますから特にレアでもありませんし…」
「いえ、あそこまで人体の原型留めずに爆散させられるのは流石だと思いますが」
「ただ力があり過ぎるだけだというのにライダーさんは優しいですわね…」
そう言いながらアルティメルは肉片まみれのエレベーターに乗り込み、黒鍵を拾い上げると剣身が砂のように崩れ去り、柄だけを回収し、エレベーターから降りた。
「どうやら今のでこの中にいる人間は全て殺し切ったようですね」
「そうですわね」
そう言ってアルティメルらは出口に向かい、ロビーへ振り向くとパニッシャーを上へ向けて構えた。
そして、天井に乱射を開始する。
3秒も経たずに建物の一階から屋上までの吹き抜けの空間が出来上がり、それに満足したのかパニッシャーを背負うと外に出た。
「そう言えばアンフィスバエナさんはどこへ?」
「アルティメルが実家に帰らないそうなので、夜明け前までに塒を探していると思います」
「ああ、アンフィスバエナさんはあの図体で神秘性の秘匿はキッチリ守りますものね」
アルティメルはそう言って肩を竦めた。
「さて、ライダーさん。余興はこの辺りで終わりにしましょう」
「はい」
「そろそろ冬木の聖堂協会の本部に行きますわ。ゴーゴー」
アルティメルとメデューサは夜の闇へと消えて行った。
◇◆◇◆◇◆
本来ならケイネス・エルメロイ・アーチボルトが魔術工房を構える冬木ハイアットホテルを爆破する予定だったが、衛宮切嗣はそれを急遽取り止めた。
理由は単純。蘆屋神羅が明日の標的をアーチボルトに定めたからである。
どうせアイツの事だ。一日に一体、サーヴァントを仕留めて行くのだろうと切嗣は確信にした感情を持っていた。伊達に長い付き合いではない。
魔術工房襲撃が今頃の時間帯に行われて無いとなれば今日の深夜に襲撃を掛けるのだろう、これで彼の拠点を探し出せる時間が稼げると言うことだ。
どいうわけか、彼の拠点自体がこの冬木のどこにも見当たらない上に、使い魔を総動員した追跡すら当たり前のように巻かれるため、挙動を探る為にもそれは必須だろう。
それと今日の闇討ちから察するに彼は相当、冬木の地理に強いということも判明した。彼はその上で切嗣のように個人規模の手段を選ばない行動ではなく、その斜め上を行く、都市規模で手段を選ばない行動を取るだ。
まあ、それも当たり前である。何せ魔術師や良識ある者から外道だなんだと蔑まれる切嗣の破壊工作の数々は彼が封印指定の魔術師や、その魔術工房に仕掛けてきた事を真似たモノが多い。
それでも彼の魔術師の生け捕りや、魔術工房破壊のレパートリーの前には切嗣は足元にも及ばないだろう。それほどまでに彼の行動は予測が付かなく、外道極まりない。
例えば縦穴の洞穴に魔術工房を構えていた魔術師に対しては無臭で空気より比重の重く、発火性のある毒ガスを流し込んだ。
断崖に聳え立つ城に魔術工房を構える魔術師に対しては断崖を爆弾で吹き飛ばし、城を海に落とした。
等など彼のやったことを上げればキリがないだろう。
そんなことを考えていると携帯電話に着信が入る。番号を確認するとアイリスフィールに持たせた携帯のようだ。
切嗣は気づかぬうちに顔を少しだけ綻ばせながら電話に出た。
『切嗣……落ち着いて聞いて…』
「どうした……?」
電話越しのアイリスフィールの言葉には妙に息が荒い。と、言うよりもこれは電話越しでも伝わる程にアイリスフィールの気分が高揚しているように感じた。
『あのね。アインツベルン城の中庭に"____"がいるのよ!』
「は……?」
切嗣は呆けた声を上げる。アイリスフィールの話が聞こえないわけではない。理解できなかったのだ。
『だから、アインツベルン城の中庭に"____"がいるの!』
「な…なんて?」
いや、理解できないと言うよりも理解したくないのだろう。この知らせが正しければ切嗣は彼の拠点探索どころではない。
『アインツベルン城の中庭によ!』
切嗣は生唾を呑み込み、次のアイリスフィールの声を待った。
『大きな"ドラゴン"がいるの!』
次の瞬間、切嗣は拠点探索や、聖杯戦争が頭から抜け落ち、舞弥にアインツベルン城への帰還指令を送ると、全力で城へと足を進めた。
◆◇◆◇◆◇
アインツベルン城の中庭にて。
切嗣、アイリスフィール、舞弥、騎士王の目の前。正確には15m程前の場所に30m以上はあろうかという巨大な竜のような何かが丸くなっていた。丁度、中庭の円形の場所に身体がスッポリと収まっているようだ。
岩肌のような表面、一対の翼、そして人のような腕を持つワイバーンのような竜だ。だが、異様なのは巨大な尻尾の先にも首が付いている事である。寝ているのか瞳は閉じており、ゆっくりと身体が上下している。
「ね! ドラゴンでしょ! 切嗣! 初めて見たわ!」
「あ、ああ……」
なんでもアイリスフィールと騎士王が車を取りに帰ってきた時には既にこの状態だったらしい。
下手に刺激して暴れれても困るので切嗣に電話をしたのだろう。まあ、来てもこれを一体どうしろという話なのだが。
竜とは通常の生物体系に属さない幻想種の頂点に君臨する獣だ。幻想種自体の存在そのものが神秘であり、そこにいるだけで魔術を凌駕するようなモノ。そして竜とはその分類の中で最優良種と見なされる。
これを一名英霊が混じっているとは言え、人間がどうこう出来るのかと聞かれれば魔術師なら誰しも首を振るであろう。要するに地震などの大型自然災害の極めてレアな例と言ったところだ。
そんな会話をしていたからだろうか。ドラゴンの四つの目が開き、二つの首だけを起こした。
「お下がりください!」
それにより、騎士王が魔力放出による鎧を展開し、剣を構えながら切嗣らを庇うように前に出る。
ドラゴンの貫き殺すような眼光が騎士王に注がれ、騎士王は眼が合った瞬間、途方もない虚無を感じ、無意識の内に額から汗が流れ、剣を握り直した。
騎士王とドラゴンは暫く、そのまま睨み合うような状態を維持していたがそれは突然に解消される。
『……ふわぁぁぁ……』
ドラゴンの方が人のような声で大欠伸を始めたからである。 それを唖然とした表情で、騎士王らは眺めた。
『五月蝿いなぁ…人が気持ちよく寝てんのに起こすなよ……』
「は、はい…?」
騎士王の素っ頓狂な呟きも仕方ないだろう。目の前の絵に描いた邪竜のような出で立ちのドラゴンが流暢に人語で話し掛けて来ているのだから。
まあ、よく考えれば相手は竜。幻想種トップの生き物だ。人語ぐらい解した上で話せても何も可笑しくは無いが、この不意討ちでは混乱するのも当たり前と言えるだろう。
ドラゴンは身体を起こすまでもなく、手で目を擦るとさっきまでとは180度違う、気だるそうで無気力な表情で呟いた。
『で? なんか用? 人間』
そこにいる人間全員が同じことを思った。
"それはコッチのセリフだ"と。
◇◆◇◆◇◆
「リリカル・トカレフ・キルゼムオール♪」
言峰教会の外の舗装されたコンクリートの道で壮年の神父が倒れていた。
あちこちに怪我を負っているようだが、命に別状が有るほどでもない。しかし、目の前の相手との戦闘続行は不可能だろう。いや、戦闘とも呼べない程、一方的な展開だったが。
神父……言峰璃正は顔だけを上げ、訝しげに二人の女性を眺めた。
「んまー、聖杯戦争の舞台である冬木の教会の神父も大したことありませんのねー。最低でもサーヴァント一騎分程度の力はあるものだと思ってましたわ」
「それは求め過ぎです。シスター・ヘル」
メデューサは他に生かす人がいるので埋葬機関での名で呼んでいるようだ。
「シスター・ヘルだ…と…!?」
聖堂教会の最高位異端審問機関。代行者たちの、その中でもさらにトップエリートが所属する組織、埋葬機関No.4"シスター・ヘル"。その異常な行いから付いた異名は"執行代行者"。
つまり単純に世界最大の組織である聖堂教会で一桁の実力を持っている化け物中の化け物が目の前にいるということだ。それならば璃正を稚児のように扱うあの戦闘力も頷けた。
と言うことは隣にいるのは常にシスター・ヘルと共に行動している埋葬機関No.2"メデューサ"なのだと璃正は思い知る。
だとしたらこの冬木にとんでもない化け物が現れたという事実に璃正は歯を食い縛った。 間違いなく、数時間の間で多発した教会系の施設襲撃はこの二人がやったのだろう。
それというのもシスター・ヘルに付いている"執行代行者"という異名が理由だ。
執行とは文字通り、大概の場合には代行者の仕事上の宿敵である執行者の事だ。そして代行者とは文字通り代行者の事である。この本来、相容れないハズの二つが合わさった異名と言うことはつまりはそう言うことだ。
そもそも埋葬機関が出る時は騎士団でも手に負えない場合に出動し、彼らの行いが事後承諾でないときなどないため、質が悪い。
トドメに埋葬機関の構成員は形式だけでもアデプトで扱いは司祭級、さらに特別権限を持つ異端審問員となっているため、何人有象無象の聖職者を殺ろうとも一言、"あの程度も片付けられないゴミは異端ですわ"等と言えば聖堂教会的にも何も問題がない辺り最悪だ。
要するに……"代行者や騎士団が疲弊仕切っている所に後ろからフラりと現れ、対象共々、騎士団も代行者も修道女も一切合財、皆殺しにしてしまう困ったちゃん"なのである。
それでも聖堂教会が黙って使っている辺り、シスター・ヘルの実力が逸脱していると言うのは事実であろう。単純に彼女と、その従者に等しいNo.2とNo.3を手放したくないと言う事も強い。
無論、こんな奴が態々、聖杯戦争中の冬木にやって来れば何をするのかなど璃正は嫌でもわかった。
そして、何が起ころうと上層の連中は黙認すると言う事も。
「私も参加しますわね。適当にサーヴァントは奪いますからお構い無く」
運営の聖堂教会の神父を散々ボコボコにした挙げ句、預託令呪を三画奪い取り、言った言葉がこれである。
「これはお礼ですわー」
シスター・ヘルは片手の人差し指と親指を立て、教会に向けると指に魔力を集中させた事により、ドス黒い球体が出現した。
次の瞬間、一発のガントが発射される。
一発のガントは一直線に鉛筆の先のような教会の上部の中心に着弾すると、爆弾でも使ったかのように容易くそこを吹き飛ばした。
それにより、教会の屋根の上に乗せられた十字架は支えを失い、真っ逆さまに地面に衝突した。
「では私たちはこの辺りで、さようなら」
シスター・ヘルがお辞儀をしてから指を鳴らすと、二人の足下に魔法陣が出現し、そのまま消えてしまった。
◆◇◆◇◆◇
冬木にある寺の境内。
そこの石畳に魔法陣が刻まれ、二人の女性が現れる。無論、アルティメルとメデューサだ。
「到着ですわ」
「ここは…?」
「"柳洞寺"ですわよ」
「ああ」
柳洞寺。冬木の霊地の中でも最上位の場所だ。ただ、諸事情により、ここに拠点を構えるのは並の魔術師では不可能だろう。並を遥かに超越しているアルティメルには持ってこいとも言えるが。
「では奪うのではなく、八騎目のサーヴァントを喚びましょうか」
「そんなことも出来るんですか?」
「アインツベルンに出来て、この私に出来ない道理は有りませんわ。
ちなみに彼女が全力で否定する明確な不可能と言えば空想具現化で人工物をどうにかする事と、小学校に入ることぐらいである。
「それに接続したところ、冬木の聖杯のサーヴァントが既に一体、居ないようですわね。ですが聖杯に帰っている様子はありません」
「どういうことですか…?」
「サーヴァントのようで冬木のサーヴァントではない何かが吸収でもしたのでしょう。それにより、実質冬木の聖杯に帰れるサーヴァントは六体になってますのよ。これには聖杯も苦笑いですわ」
つまり、聖杯戦争中にサーヴァント一騎が跡形もなく消えたという不測の事態が起きたのだろう。
「よって七騎にするために一騎ぐらい喚び出しても聖杯的には寧ろ、好都合でしょう」
「成る程、それで喚び出すサーヴァントはどうするつもりですか?」
「"バーサーカー"ですわ」
「バーサーカーですか…」
「単純に枠がバーサーカーしかありませんの……ちょっと行ってきますわね」
そう言うとアルティメルはお堂の階段に腰を降ろした。
「行くとは……?」
「"英霊の座"にですわ」
さらりとアルティメルはそんなことを呟いた。
「
「………………相変わらずやることか斜め上と言いますか…最早、真上と言いますか……」
無論、座に直接接続なぞできれば端から聖杯戦争をやる意味などはどこにもない。純粋に聖杯戦争という本来課程であるハズのモノを楽しむ気満々なのだろう。
「じゃ、行ってきますわー。その間に寺の者に暗示を掛けておいて下さいな」
「わかりました」
そう言ってアルティメルは瞳を閉じた。
「戻りましたわ」
約5分後。アルティメルの瞳が開き、そう呟かれた。
「お疲れ様です。アルティメル」
「さて、召喚陣をバリバリと書きますわよ」
アルティメルが立ち上がり、手頃な場所を探してから石を拾い上げると、手の中でそれは瞬く間に水銀のように光沢を帯びた銀色の液体へと変化する。
「ところでライダーさん」
「はい?」
「なんで柳洞寺を拠点に選んだと思います?」
「自然霊以外を排除しようとする法術を以って形成された強力な結界が張られているからですか?」
「そうですわね。それ故に自然から真逆の存在である英霊はこの柳洞寺には山道以外から入ることは出来ません」
これが柳洞寺の最大のアドバンテージと言えるだろう。その筋の魔術師やキャスターが陣地形成を図れば要塞……いや、難攻不落の神殿を造る事が可能なのである。さらに元々柳洞寺は優れた霊地であり、サーヴァントの魔力消費が最小限に抑えられるため、 持久戦にも向いているのだ。
「結界により寺院を密閉させてしまうと地脈自体が止まってしまう。故に、地脈の中心点として機能させるためには最低一本は道を開けておく必要があるのですね」
これが柳洞寺の大きなデメリットだ。どうしても完全に引き籠ることは不可能で、柳洞寺の結界の性質上、退路もその道以外に無いと言える。つまり神殿を落とされればサーヴァントは最期だ。まさに背水の陣。超上級者向けと言える。
だが、最大の問題はこの場所を神殿化出来るのはそれなりのキャスターだけだが、最終的にはタイマンとなるため、キャスターには向いていない事である。キャスターと、家来のサーヴァントの二騎で初めて成立する拠点と言えよう。そのため、この聖杯戦争ではここを拠点にしたマスターは居ないようだ。
「その通り、拠点を構えて守るならこれ以上は無いでしょう。ですが……」
アルティメルは自身の指を噛み、そこから出た血も用いて魔法陣を完成させる中、メデューサに笑い掛けた。
「今の私達……というか私に召喚された英霊からしたらこう考えるでしょう。周囲を進入禁止の結界に囲まれ、出入口は結界によって山道一本。その上、サーヴァント六騎によるリンチがほぼ確定。つまり、"退路の無し、孤立無援、敵は数倍、これ以上無いぐらい絶望的な立地&戦況"ですわー」
「……ひどい…」
メデューサはポツリと呟いた。自分がこんな状況で喚ばれたとなればさっさとペガサスで逃げると彼女は確信する。
「え…?」
そして、彼女はふと思った。アルティメルが座で話を付けてきたと言うことを思い出したのである。
「まさか、その条件を全て呑んで更にバーサーカーでの召喚に同意したサーヴァントを召喚するのですか……?」
「ざっつらいとですわ。寧ろ、アッチが是非にと来ましたわよ? 序でに私がこの柳洞寺を神殿化させない事も条件に加えたらもう、向こうは大満足といった様子でしたわ」
「………………」
メデューサは目を見開き、正気を疑った。何せサーヴァントなら何かしらの聖杯への願いを持つモノが殆どだ。だが、この状況は考えられる限りの最低最悪、その上で本人の理性を失わせるバーサーカーでの召喚。
聖杯から最も遠く、勝利からも最も遠いこの召喚に同意するサーヴァントは正気ではない。いや、更にアルティメルの手により神殿化を拒む辺り、超弩級のドMなのかとメデューサは問いたくなった。
「さて、陣の完成ですわー」
本来より少しだけ大きい魔法陣が完成したようだ。
アルティメルは両手を広げると、全身から並の死徒27祖の全力を軽く越える濃霧のような魔力が放出される。膨大な魔力と能力を利用し、無理矢理に大聖杯から魔法陣への繋がりを造っているのだろう。
そして、その唇から言葉が紡がれる。
"
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が母ブリュンスタッド。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!"
次の瞬間、魔法陣から赤黒い渦が巻き起こり、 暴風が吹き荒れる。
そして、次第に渦が収まり、エーテルの中から巨大な影が現れた。
「な……」
それを見たメデューサは一歩身を退いた。
その英霊は全身傷だらけの灰色の体に金髪、上半身が拘束具で覆われた筋肉の塊のような大男だったからだ。
さらに大男の表情は塗り固められたような笑みで染まっており、不気味さに拍車を掛けている。
大男は一歩踏み出し、アルティメルの目の前に立つと口を開いた。
「"スパルタクス"だ。君がマスターで相違無いかな?」
「勿論ですわ。これは約束通りその証です」
そう言ってアルティメルはスパルタクスに手を差し出す。
それに対し、スパルタクスは彼に比べれば数段小さな手を握り返した。
「令呪を三画持って命じます。"あなたの好きなようにしてください"。私はそれに殉じましょうスパルタクスさん」
その言葉より、握られた手の甲の令呪が光り、全ての令呪が解放された。
なんと、アルティメルは令呪全てを用いてスパルタクスの行動を容認し、尊重し、あろうことか自身が彼を中心に共に行動することを誓ったのだ。
スパルタクスは笑みを強めながら薄気味悪い笑い声を上げ、手を握っていない方の手を顔に被せた。そして、顔にあった手を下ろすと笑いを収め、アルティメルを見据えて一言呟く。
「感謝の極み、我がマスター」
この時、恐らくこの聖杯戦争最凶のペアが完成した。
マスター:アルティメル・ブリュンスタッド
真名:スパルタクス
クラス:バーサーカー
身長:221cm/体重:165kg
属性:中立・中庸
ステータス:
筋力A+ 耐久EX 敏捷D
魔力E 幸運A 宝具C
スキル:
狂化:EX
被虐の誉れ:B
概要:
通称、赤のバーサーカー。筋肉モリモリマッチョマンの変態(ドM)。学校の教科書にもそれなりに大きく載っているため、日本でも中々に名のあるお方。それだけに公式でどうしてこうなった。
大体、アルティメルちゃんのお母さんらのせいにより、バーサーカーが倒され存在が魂ごと消えた(と、聖杯には認識されている)ために無理矢理、召喚出来た八騎目のサーヴァントにして、二騎目のバーサーカー。
ちなみに元のステータスは……。
筋力A 耐久EX 敏捷D
魔力E 幸運C 宝具C
です。アルティメルちゃんの支援で特に運が急上昇しています。