ではなく、小説更新が進みます。
「神羅。私を使役したいなら幾つか条件を上げるわ。まずはブラッドバスを…」
それにしてもエリザベート=バートリーねぇ……サド伯爵も歓喜するお方だ。
史実に存在し、実在が確認されている人物。1560年生、1614年没。ハンガリー家の名家、ドラゴンの歯を紋章とするバートリ家に生まれる。
「生け贄を毎日捧げることね。もちろん、若い少女の…」
美しい吸血鬼カーミラのモデルのひとりであり、600人以上の娘の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした悪女とされている。
バートリ家は東欧圏のほとんどに勢力を持つ名家であり、彼女はさらにハプスブルグの血をも引く貴族のサラブレッドと言える血筋を持つが、近親婚や鬱蒼とした生活環境等の要因で狂気と残忍さに彩られた者が多いバートリ家の宿命から逃れることはできず、彼女自身もまた狂気を孕んでいた。
「私はアイドルなのよ。当たり前だけど最高の待遇で…」
むしろバートリ家の中でもその狂気的行動が著名な人物であり、現在のスロバキアにあった自城のチェイテ城にて、600人以上の少女を拷問の末に殺し、その生き血を使用したブラッドバスを好んだとされている。
というのが伝承上の彼女である。
一体それをどうしたらこうなるんだろうか?
聖杯がニッチな趣味でこうなのか、それとも伝承なんて全体的に美化だの狂化だのされて伝えられ、こうなのかは永遠の謎だろう。ジェノバにでも聞けば直ぐにわかりそうだがな。
まあ、私が昔やって来たことなら彼女と大差無い辺りが寂しい。客観的に見れば選んで殺すも、無差別に殺すも数さえ同じならば同じ悪と言ったところか。
「ちょっと!? 聞いているの!?」
暫くエリザちゃんを放置していたら流石に痺れを切らしたらしく槍(?)を突き付けてきた。
「まあ、なんだ。ひとつだけ言っておこう」
「なによ?」
私はエリザちゃんの後ろを指差す。
それに釣られ、エリザちゃんは後ろを振り向いた。
『どうも』
エリザちゃんの背後には割烹着を着た宇宙人こと、ジェノバが何食わぬ顔で立っていた。
ついさっき、エリザちゃんの背後に突然として現れたのだ。気配は無いが、何となくいるような気がしたので大方、圏境でも使えるのだろう。
「な…」
それを見たエリザちゃんはたじろぎながらポカンと口を開き、暫く止まった。
「ば、ば、ば、ば……」
馬鈴薯?
「化け物ぉぉぉぉぉ!!!?」
私は鏡を見ろという言葉を冷たい冬の夜風に流した。
◆◇◆◇◆◇
『ダメです』
「な、なんでよ!?」
『ダメなものはダメです』
居間にてジェノバにブラットバスや、少女監禁+α等の提案をしたエリザちゃんは見事に突っぱねられていた。
自信満々に言ったことをはね退けられたのがそこまで驚いたのか、エリザちゃんはジェノバに気圧されているようだ。
そんなことして大丈夫なのかと思うが、人の感情や記憶を一瞬で読み取り、手玉に取るのが趣味なジェノバがやっているのだから大丈夫なのだろう。
「うー…なんなのよ!? そもそも蒼いのはマスターでもなんでもないし……ああもう! なんで私の思い通りにならないの!? あぁ…頭が…」
エリザちゃんは槍を振り回しながら怒鳴り散らすと急に頭を抱え始めた。
するとそれまで正座の体勢を崩さなかったジェノバが立ち上がり、人差し指を一本エリザちゃんへと向けると、腕を伸ばし、エリザちゃんに触れようとした。
『ッ…!!』
エリザちゃんは反射的に槍でジェノバの人差し指を薙ごうと振ったのだろう。人差し指と槍が衝突し、爆音が響き渡る。
結果はまあ、予想通りだが…ジェノバの人差し指は傷ひとつ付かずに槍を受け止めていた。
「な……なんなのよ…一体なんな」
『黙りなさい』
そうジェノバが呟き、エリザちゃんの額に人差し指を置いた。
『あなたの回りの大人がなんと言ったかは知りませんが、大人として私は言います。それはもうやってはいけません』
「………………」
『わかりましたね? その代わり他はあなたの望み通り、最高の待遇で迎えましょう』
「………」
シュンとして座布団に腰を落としたエリザちゃんは何かブツブツ言っているが、それ以上ジェノバには何も言わなかった。
『まあ、それだけではあなたも不満でしょう。私が予め製作しておいたコレをあげます』
「そ、それは…」
どこからともなくジェノバは可愛らしいステージ衣装のようなセットコスチュームを掲げた。
『じゃん、"ゴールド"な"ヒロイン"の衣装です』
「ゴールドなヒロインの衣装……」
何故か4月1日というワードが頭に浮かんだがきっと気のせいだろう。
『この星で取れる最高の素材で私が作りました。世界に一つしかないコスチュームですよ』
エリザちゃんの目が輝き、生唾を飲み込んだ。
尻尾がパタパタと揺れており中々に微笑ましい光景である。
…………そう言えばいつかジェノバが言っていたが…格下の相手に何か条件を呑ませたい時は、条件提示→威圧→モノで釣る、が一番効果的らしい。
「し、仕方無いわね! のむわ! それで貰えるのね?」
『はい、どうぞ』
「か、可愛いわ…まさにスーパーアイドルの私に相応しい衣装ね!」
この娘……頭弱い娘か…。
まあ、エリザちゃんが問題起こして、6 VS 1のリンチとかに発展しないとも限らない状態は困るので、最悪令呪使おうかと考え始めるところだったからコレでいいか。
ジェノバ曰く、サーヴァントは召喚されたが、まだ冬木に到着していないサーヴァントがいるらしいので今日動く必要も無かろう。
序でに今日は夜も遅いのでお開きにしようとしたのだが、ジェノバがエリザちゃんに日本料理を知って貰おうと蕎麦と天ぷらをエリザちゃんに振る舞っていた。
え? 姫子さん? ずっと、人も原初の一もダメにするソファーでダメになっているぞ?
「ところで神羅は魔術師の中ではどの辺りなのかしら?」
ふと、エリザちゃんが箸で私を指しながらそんなことを聞いてくた。
そんなの普通の魔術師に聞けば、師には及ばないか、自分が最強かの2択ぐらいになる質問だが……まあ、いいか。
私としては昔からいざ知らず、アレを辞めて結構経つからなぁ…。
「精々、高くとも中のじょ『上の上です』……はい?」
ジェノバに言葉を遮られた。
「やっぱり私ほどのサーヴァントのマスターなんだから、魔術師としても超一流なのね!」
『ええ、それはもう。"昔は"戦闘部門の魔術師としては超一流と言ってもいいぐらいでしたよ』
「へー、そんなに武闘派には見えないけど……どっちかと言えば神主とか、陰陽師って感じよねー」
『そう見えますけど封印指定執行者時代は本当に凄かったんです…"昔は"ね』
皮肉ですかジェノバさん……そりゃ今は堕落した人生送ってますけどさ…。
「執行者? なによそれ?」
『おや? 聖杯は神主とか陰陽師は教えるクセに封印指定執行者は教えてくれないんですね』
「なら私が話そう。まず、封印指定執行者と執行者はイコールと考えていい」
ちなみに魔術教会には時計塔という、特に執行者が集まる場所があるのだが。
私がいた頃は大英博物館の地下に築かれたダンジョンだったが、最近はロンドン郊外に位置する中世と近代の入り混じった街、四十を超える
と、言うことはあの栄養価だけを考えたゴミを料理と言い張る食堂も改善したのだろうか?
……なんか改善したのだったら腹立って来たぞ。私が執行者を辞めた理由のひとつが飯の不味さだったからな…あれを越えた私はどんな食べモノでも食べれる自信がある。
「そもそも封印指定とは魔術協会が判断した、希少能力を持つ魔術師に与えられるものだ。その奇跡とも言える希少能力を永遠に保存するために、対象の魔術師を貴重品として優遇し保護するための栄誉ある称号兼措置と言ったところだ」
「えーと…」
どうやらキャスターだが、魔術師ではないエリザちゃんでは理解が難しいようだ。仕方ない、要約しよう。
「要するにだな。"オメーの魔術すっげーレアでお前しか使えないからホルマリン漬けにするわ。拒否? はぁ? 魔術師にとって栄誉なんだから皆のためになれよザマァ"という人権のへったくれもないエリザちゃんの生前の趣味すら健全に思えるモノだ」
「そ、そうなの…?」
急に私が妙に砕けた発言をしたことに驚いたのか、エリザちゃんは少し顔を引き吊らせ、海老天を落とした。
「そして、封印指定に応じない魔術師に対し、強制的に封印指定を執行する際に派遣される魔術師のことを封印指定執行者、あるいは執行者と言うのだ。要するに謂れの無い借金を取り立てて、借金のカタにソイツの臓器を全て持って行く借金取りだな」
「へ、へー…」
エリザちゃんはピーマンの天ぷら端に寄せながらポツリと"極悪人じゃない…"などと呟いていた。
君に言われる筋合いはない。声など震えていない。
「まあ、代行者の介入以前に力ずくで封印指定を実行する他、神秘の秘匿の為に、魔術師が起こした事件の証拠隠滅も行う事もあり、場合によっては封印指定対象の魔術師と代行者の両名を相手どる可能性もあるため、魔術師の中でも特に戦闘に特化した魔術師しか執行者になれないのだ」
「えと……しんぴ………代行…?」
「つまりは"目撃者含め、対象の魔術師以外の全てを
「成る程、随分楽しそうな仕事ね!」
エリザちゃんは目を輝かせた。
実際、今ほどではないが充実はしていたから困る。
『そんな執行者の中でも昔のシンラさんは執行者を育てる教官もやっていたほどの呪術師だったんですよ』
心なしかジェノバが誇らしげにそう言ったように見えた。
「ちなみにだが、代行者と違い、執行者はそこまでの実力者が揃えられていないため、フリーの魔術師に執行者の仕事を依頼をすることもある。今風に言えばバイトOKという事だ」
「へー、受肉したらアイドル業の傍らでやっても良いわね」
そんなアイドルは嫌だ。
でもまあ、本物の英霊の執行者なんて近年の執行者の実力低下を嘆いていている魔術教会の連中は大歓迎するだろうな。
「んー…」
そんな話をしていると居間の襖がひとりでに開き、姫子さんが入ってきた。
相変わらず3cm畳から浮いている。
「だ、誰!?」
「家政婦の姫子さんだ」
「変節したようだな。おお、それは…」
姫子さんはエリザちゃんに一度、視線を向けてから机にあるマンガに目を移し、朱い目を輝かせた。
「"突撃!パッパラ隊"の単行本。もう出ていたのか」
私はマンガを片手に取り、座ったまま姫子さんへ掲げた。
「ああ、読んでたから買っといたぞ」
「良きに計らったな、褒めてやろうぞ」
そう言って私が手にしていたマンガと、お茶請け代わりのポテチの袋が宙に浮くと吸い寄せられるように姫子さんの目の前に移動した。
それを確認した姫子さんはマンガとポテチを連れながら元いた部屋に入った。
「ん?」
ふと、姫子さんが振り向き、エリザちゃんを見る。そして、暫くしてからポンと柏手を打った。
「あまりに眇々たる力故、見過ごしてしまったが……なるほどどうして低級だが竜の末裔か。竜など久方ぶりに見たが……やはり可愛らしいモノよな」
そう言うと襖はピシャリと音を立て、ひとりでに閉まった。
どうやらエリザちゃんは姫子さんに犬や猫のような愛玩動物程度の認識をされたようだ。基本的に姫子さんにとって英霊を含めた有象無象の人間程度はミドリムシ並みの認識のであるため、大出世と言えるだろう。
「あ、明らかに人間じゃないんだけど……か、家政婦って…」
「安心しろ。姫子さんに危害を加えたとしても歯牙にも掛けない…と、言うよりもじゃれているぐらいに認識される」
というか、あの人にダメージを与えるのは突き詰めれば人間でしかない、英霊程度では身が重過ぎる。私? 無茶言うな。
そんなこんなでとりあえず私の聖杯戦争は始まったのだった。
ただ、気掛かりな事と言えば寝る前にポツリとジェノバが。
『私もルールに則り、正々堂々と参加しましょうかね』
などと呟いていた事である。
人物紹介
姫子さん
神羅宅の家政婦。天真爛漫で自由奔放な性格をしており、面白い事に目がない。時々、子供たちに混じって公園で遊んでいたりする困ったさんである。ちなみにとある方法を使えば家政婦の仕事は1秒と掛からないらしいが、労働が楽しいため、基本的に自らの手でやっている。最近、ムダの中に興味を見付けれたのが最大の発見だとかなんとか。どういうわけか、ジェノバのことをマスターと呼んでいる。吸血鬼っぽい存在であり、本名は朱なんとかかんとからしい。