固定術師   作:初心者 一作目

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第11話

渋谷駅地下。

 

 

 

 帳が降りる少し前。

 

 

 

 人の流れから外れた通路を、

 俺は静かに歩いていた。

 

 

 

 ざわつく呪力。

 

 

 

 嫌でも分かる。

 

 

 

 もう始まる。

 

 

 

 羂索が千年かけて積み上げた悪意が、

 今夜、渋谷で爆発する。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 ――ドクン。

 

 

 

 空気が脈打った。

 

 

 

 呪力じゃない。

 

 

 

 もっと原始的な圧。

 

 

 

 千年前、

 嫌というほど浴びた気配。

 

 

 

 俺は足を止め、

 ゆっくり振り返る。

 

 

 

 そこにいたのは、

 一人の少年。

 

 

 

 ピンク色の髪。

 

 制服姿。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 その眼だけが違った。

 

 

 

 四つではない。

 

 

 

 まだ一対。

 

 

 

 それでも、

 俺は即座に理解した。

 

 

 

「……宿儺」

 

 

 

 少年――

 

 

 

 

「久しいな、九条斎」

 

 

 

 背筋が粟立つ。

 

 

 

 声は違う。

 

 姿も違う。

 

 

 

 なのに、

 圧だけで分かる。

 

 

 

 間違いない。

 

 

 

 両面宿儺だ。

 

 

 

「……随分窮屈そうじゃねぇか」

 

 

 

 俺が言うと、

 宿儺は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 

 

「忌々しい小僧だ」

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 顔が戻る。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 虎杖悠仁本人が、

 きょとんとした顔で辺りを見回した。

 

 

 

「今……なんか変な感じ……」

 

 

 

 だが次の瞬間、

 再び口元が歪む。

 

 

 

「黙っていろ小僧」

 

 

 

 宿儺が表に出ていない。

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 まだ完全受肉じゃない。

 

 

 

 主導権は、

 この器側にある。

 

 

 

「面白いな」

 

 

 

 俺は少し笑った。

 

 

 

「お前にも不自由な時代が来るとは」

 

 

 

 宿儺の眼が細まる。

 

 

 

「貴様、

 俺を憐れんでいるのか?」

 

 

 

「まさか」

 

 

 

 俺は肩を竦める。

 

 

 

「ただ意外だっただけだ」

 

 

 

 平安時代。

 

 

 

 宿儺は絶対だった。

 

 

 

 誰にも縛れない。

 

 誰にも止められない。

 

 

 

 災厄そのもの。

 

 

 

 そんな怪物が、

 今は一人の少年に押さえ込まれている。

 

 

 

 滑稽ですらある。

 

 

 

 宿儺は嗤った。

 

 

 

「だが悪くない」

 

 

 

 その笑みは、

 千年前と変わらない。

 

 

 

「この時代、

 面白いものが多い」

 

 

 

 スマホを持った女子高生が横を通る。

 

 

 

 宿儺がちらりと視線を向ける。

 

 

 

「人間は弱くなったが、

 呪いは濃くなった」

 

 

 

「情報社会だからな」

 

 

 

 恐怖が拡散する。

 

 憎悪が増幅する。

 

 

 

 現代は、

 平安とは別ベクトルで呪いに満ちている。

 

 

 

 宿儺が俺を見る。

 

 

 

「貴様は変わらんな」

 

 

 

「そういう術式だ」

 

「違う」

 

 

 

 宿儺が笑う。

 

 

 

「中身の話だ」

 

 

 

 少しだけ、

 言葉に詰まった。

 

 

 

 千年。

 

 

 

 確かに俺は変わっていない。

 

 

 

 世界が変わっても、

 俺だけ取り残されている。

 

 

 

 宿儺はそれを見抜いていた。

 

 

 

「で?」

 

 

 

 俺は話を逸らす。

 

 

 

「今回は何企んでる」

 

 

 

 宿儺が嗤う。

 

 

 

「さてな」

 

 

 

 だがその眼は、

 明確に愉悦を孕んでいた。

 

 

 

 渋谷事変。

 

 

 

 こいつは理解している。

 

 

 

 これから大勢死ぬ。

 

 

 

 街が壊れる。

 

 

 

 そして自分が、

 再び自由へ近づくことを。

 

 

 

「止めるか?」

 

 

 

 宿儺が問う。

 

 

 

 俺は少し考える。

 

 

 

 正義感はない。

 

 

 

 呪術界にも興味はない。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 羂索の好き勝手というのは、

 少し癪だ。

 

 

 

「気分次第だな」

 

 

 

 宿儺が笑った。

 

 

 

「貴様らしい」

 

 

 

 その時。

 

 

 

 地下全体が震えた。

 

 

 

 帳。

 

 

 

 完全展開。

 

 

 

 空気が変わる。

 

 

 

 一般人の悲鳴。

 

 混乱。

 

 呪力の奔流。

 

 

 

 始まった。

 

 

 

 宿儺が口元を吊り上げる。

 

 

 

「祭りだ」

 

 

 

 その瞬間、

 虎杖の顔へ戻る。

 

 

 

「うおっ!?

 なんだこれ!?」

 

 

 

 少年はまだ何も知らない。

 

 

 

 これから自分が、

 地獄の中心へ投げ込まれることを。

 

 

 

 俺は静かに歩き出す。

 

 

 

 千年ぶりの大災厄。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 最強たちが交差する夜が、

 今始まる。

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