固定術師 作:初心者 一作目
帳が閉じた。
その瞬間、
街が“呪い”へ変わる。
悲鳴。
怒号。
泣き声。
渋谷駅地下は、
一瞬で地獄になっていた。
「押すな!!」
「子供がいるんです!!」
「なんで出られない!?」
人々は混乱し、
逃げ場を求めて押し合う。
だが無駄だ。
帳は閉じている。
そして。
その上で動き始める呪霊たち。
低級。
準一級。
普段なら術師が即座に祓う程度の存在。
だが一般人にとっては、
十分すぎる死だ。
血が飛ぶ。
首が裂ける。
逃げ遅れたサラリーマンが、
呪霊に噛み砕かれた。
「……ひどいな」
俺は小さく呟く。
昔からそうだ。
弱者は、
いつだって災厄に蹂躙される。
平安も。
現代も。
何も変わっていない。
その時。
呪霊が一体、
こちらへ飛びかかってきた。
四足。
犬型。
口から無数の人間の指が生えている。
「ギャアアアッ!!」
俺は片手を上げた。
「固定」
ガギン。
呪霊が空中停止する。
時間停止したみたいに、
一切動かない。
そのまま指を鳴らす。
ボンッ。
呪霊が内部から崩壊した。
状態固定の応用。
“崩壊後の状態”を強制する。
昔ならできなかった。
だが千年研鑽した今の俺には、
低級呪霊程度は呼吸と変わらない。
周囲の人間が呆然と俺を見る。
「え……?」
「今、何……」
説明する気はない。
俺はそのまま歩き出す。
すると。
遠方から、
凄まじい呪力がぶつかり合う気配。
「……始まったか」
あれは。
五条悟。
現代最強。
そしてその相手は――
特級呪霊たち。
漏瑚。
花御。
脹相。
さらに、
羂索。
とんでもない戦場だ。
普通の術師なら、
近づくだけで死ぬ。
だが。
俺は少し興味があった。
千年前、
宿儺が唯一楽しそうに語った存在。
“六眼の術師”。
「どんな化物かね」
俺は加速呪術を起動。
ドクン。
世界が遅くなる。
人々の動きが鈍化し、
音が引き伸ばされる。
次の瞬間。
俺の姿が消えた。
地下通路を、
白銀の残光だけが走り抜ける。
そして辿り着いた先。
そこには――
圧倒があった。
人が宙に浮いている。
青い呪力。
歪む空間。
呪霊たちが、
一方的に蹂躙されていた。
「はは……」
思わず笑う。
強い。
間違いなく。
五条悟は、
現代最強の名に恥じない。
無下限呪術。
あらゆる攻撃を届かせない絶対防御。
空間操作。
圧倒的呪力量。
異常な演算能力。
千年前の宿儺と、
同じ領域に立っている。
だが。
俺は気づく。
「……危ういな」
強すぎる。
強すぎるが故に、
守るものが多すぎる。
一般人を巻き込まないよう、
出力を制限している。
だから呪霊側が成立している。
そして。
俺は見てしまった。
人混みの奥。
額に縫い目を持つ男。
羂索。
あいつ、
笑ってやがる。
「……最悪だな」
理解した。
羂索の狙いは、
五条悟そのもの。
封印。
あいつは最初から、
正面戦闘で勝つ気なんてない。
俺はため息を吐く。
「ほんと陰湿だな、あいつ」
助けるか?
少しだけ考える。
別に義理はない。
呪術界にも興味はない。
だが。
このまま五条悟が消えると、
世界のバランスが崩れる。
宿儺。
羂索。
あの辺が好き放題し始める。
「……面倒だ」
口ではそう言いながら。
俺は一歩、
戦場へ踏み出していた。